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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第439話 緋色の映える

仮置き、侍女たちの言を信じればそうなるが。荷物の確認がある程度終われば、残りをトモエに任せてオユキは執務室に。出さなければならない手紙は実に多く、整ったなら、そちらを行わなければならない。

メイへの招待はゲラルドに日程の調整までを含めて任せ、王太子妃、公爵、伯爵を始め、縁を得た相手に四苦八苦しながらも書き終えれば、一日が終わるという物だ。

生前、気が付けばそれなりの立場という物も得ていたため慣れはあるものだが、風習の差異があるため大いに侍女に助けられることにはなった。

それが前日。


「本日は、突然のお誘いにもかかわらず、こうして足をお運び頂き誠に有難く。」

「戦と武技の神、彼の神より直々に巫女と任じられた方のお誘いです。それが無くとも、得難い縁を頂いた方からです。友人、その誘いを無碍には致しませんとも。」

「リース伯爵子女から、そのように呼んで頂ける。それに恥じないよう、今後も気を引き締めなければなりませんね。」


翌日、昼を少し回った時間。早速とばかりに訪れたメイをオユキが迎える。

家、その長としてはオユキとなっているため、やむを得ない事ではあるのだが。

そして、迎えるべき相手も、メイ一人。他の参加者はそもそも同居人であるため、既に席についている。


「話には聞いていましたが、華やかさと落ち着きとを兼ねた、良い衣装ですね。」


そして、席のテーマに合わせた装い。完成したばかりの紬と羽織。それを朝から、侍女たちにトモエと揃って整備をされたうえで、着込んでいる。相も変わらず、荷物のように揃って携行される間は、言葉にするのも難しい感情に襲われはするのだが。主賓が終わればとばかりに、アイリスとカナリアも襲撃されていたのだから、仕方が無いとそう思うしかない。

そう言った手を煩わせることなく、自身で万全と出来るアベル。その人物の出自も、いつか聞いておかなければならないと、そう思いはするが。


「お褒め頂き、ありがとうございます。拙い物ですが、席を整えております。この度のご厚情、それに報いるにはあまりに不足もあるでしょうが。」

「整える、それに要する時間の理解はあります。だからこそ、異邦の趣向という事でしょう。」

「ご慧眼、恐れ入ります。それでは、どうぞこちらに。」


型通りというには、オユキもこちらに合わせた物を習ったわけでは無いが。定型としての振る舞いを終えれば、屋敷を経由せずに、そのまま庭先へと案内する。庭と言っても、今はただ野ざらしの場でしかない。昨夜眠りにつく前に、オユキとしても生垣程度は欲しいとトモエと話したりもした場へと、メイがついてくるのを意識しながら案内する。

それこそ以前であれば、歩く速度を考えてとなったが、今はどうあがいたところでオユキの方が遅い。そう言った意味では実に楽な物だ。


「確かに、面白い物ですね。」


正門からは、影になる場所。未だに寂しい物ではあるが、そこには木で簡単に組んだ台を置き。その上に長椅子を並べ、こちらでは見ない背の低い机を中央に。そして影を作るためにと、よくぞ間に合ったとしか言いようのない緋傘が立てられている。


「慣れぬ趣向でしょうが。」

「いえ、庭園であれば、実に鮮やかに映える物でしょう。」

「不備については、申し訳なく。」


色合いとして退避すべきものが茶色、周囲にある屋敷の白、その程度しかないため浮いている。そう言った印象はぬぐえない。

ただ見ようによっては。その場だけぽっかりと切り取られたような。そう言った独特の味わいがある、面白い場となっている。アイリスにしても恐らく近しい文化圏なのだろう。用意された場を、おられた布で飾る、そう言った事に馴染みがあるようで嬉しそうな様子を見せていた。

案内が終われば、席に着くための補助はそれこそゲラルドが行う。そうして全員が揃えば、改めてオユキが口上を。


「この度はご足労を頂いた事に、改めて感謝を。得難き縁を結び、こうして今は、リース伯爵のご厚意により過分な場をご用意いただけました。本日はリース伯爵の縁者、メイ・グレース・リース様にこうして足をお運び頂き、お礼と、今後も変わらぬお引き立てのほどを。」


この場には、見知った顔しかいないため少しは気を抜いて、そう言った話も出てはいたのだが。アベルからクララも参加するならと、こうして少しお堅い場としてオユキが言葉を連ねる。こちらの世界、この国で相応しい物かと聞かれれば、少々メイの視線を気にせざるを得ない物だが。

そう言った理由もあって、別の作法に逃げてもいる。


「ええ、神々のお結びくださった新たな縁、それに私からも感謝を。」


そう挨拶を受けて、メイからはそう返ってくる。


「仰りたいことも、分かりはするのですが。まずは私からご紹介を。」

「よしなに。」


そうして、改めてオユキからイマノルとカナリアを紹介する。イマノルは戻る道中面識はあるだろうが、正式な物は後に回されていたこともある。そして、いよいよ初対面となるカナリアも。

それが終われば、話すべきことの多いものたちの集まりだ。近衛とゲラルドがお茶の用意を終えれば、早速とばかりに話が弾む。


「本来であれば、装いや小物についてとなりますが。」

「ま、そうだな。ただ、それよりも先にやらなきゃならん。イマノル、レジス候からは、どう聞いている。」

「父からは、教会のある領となるため、相応の準備がいると。いっそラスト子爵家と共同でと、そのようにマリーア公爵と話を進めているとか。」

「侯爵が主体であればともかく、水源、そちらに子爵がとなると当家としても。」


少し離れた場所では、護衛が立ち周囲に近寄る者がいないようにと警戒がなされている。そして、この場にしても、メイの連れてきた使用人が持ち込んだ魔道具がしっかりと置かれている。外に話が漏れる心配は無いという物だ。


「共同、その割合、割り振りには配慮がいるな。しかし、レジス侯爵家はどうした所で武門だからな。」

「ええ。兄も武門としての物を継ぐ腹積もりでしたから。」

「急ぎ学んでもらうしかない。」

「そうですね。恐らく隣国への橋、それも作る事となります。そうすれば、そちらとの窓口です。」

「オユキ、私は聞いていませんが。」


メイからすぐに視線と口調、どちらも鋭さを持ったそれで直ぐに止められる。

その様子に、そう言えば話していなかったかとオユキは少し考え、ミズキリの予定の確認を先に置いていたことを思い出す。次に来る予定の顔を思えば、確定ではあろうと今口に出したが。


「またぞろ話してない事か。」

「いえ、ミズキリに確認してからと、そう考えていただけです。今はせっかくの機会なので。」

「他国との窓口に迄なるのであれば。」

「王領にするしかないだろ。いや、場の用意と必要な人員を置いて、普段はレジス候の補佐に回すのがいいか。流石に王都から遠すぎる。オユキ、移動については。」

「基本は神殿経由かと。」

「となると、やはりそうだな。王領とまでするには難しいか。」


そこまで言って、アベルが大きくため息をつく。


「となると、月と安息にも置かれるわけだ。」

「はい、それは間違いなく。そう言えば、そちらも公爵様の領ですか。」

「ああ。水と癒しに比べれば、不便な場所ではあるが、流石に考えなければならんか。それ以前に、この町にも置かれるわけだが。」

「父、リース伯が今大慌てで準備しています。管理を任せるために、先代様に話をするとか。」

「まぁ、リース伯爵子女だけじゃ、流石にそこまでは手が回らんだろう。」


そうして話が進めば、トモエにも疑問という物が浮かぶ。


「教会の方に任せないのですか。魔術師ギルドの方々も、それこそ興味を持ちそうなものですが。」

「教会も人手が十分という訳でも無いからな。魔術師ギルドは。」


そうしてアベルがカナリアに視線を向ける。彼女にしても、こういった席に対する慣れはあるらしい。普段のローブでは無く、独特な装いではあるが。

民族衣装、そう評するのが良いのだろう。腰より少し高い位置に生える翼、それが自然に出るようにとその周囲が露出している。特にこちらに来てからは、肌を出さぬのが当たり前、そう言った服装ばかりだったので、実に華美に映る。


「調べる事が出来るのなら、いえ、調べさせろとそれこそ大挙するでしょうね。無体はしませんが。」

「起動に魔石は使うでしょうから、その流れで折衝は必要でしょうね。」

「魔石、また魔石ですか。」


次の大きなため息はメイから。


「ここはまだましだろ。トモエとオユキが切欠で動きだしたものが、順調に運用できている。」

「門前に追い込んで、それも上手く機能しているとは聞いています。しかし、必要な量を考えると。」

「流石に、初回や試しについては、陛下からもあるとは思うが。」

「そもそも片側だけでどうなるという物でもありませんから、まずは王都からこちら、その形で試すのでは。」

「二つ得る自信がある、そう言う事か。」


アベルの質問は、オユキでは無くカナリアに向かう。


「氷菓を食べる、四方に氷柱を置いて休む。それらが良い方向に向かっています。勿論断言はできませんし、直前の様子を考えれば、それでも。」

「保有量の上限ばかりはな。確かに、顔色も良くなってきてはいるか。」

「改めて、この度の事は本当によくぞ成し遂げてくれましたね、オユキ。」

「こうして頂いたご厚意、それに報いているだけですから。ただ、未だに万全という訳では無く、狩猟の許可は頂けていませんが。」


お礼を言いながらも、オユキからはカナリアの見立てに少しやり返すが、それについては単純な知識の差で覆される。


「常の加護もまだ弱いですし、今も、疲労を感じられているはずです。」

「そうなのですか、オユキ。」


メイに聞かれれば、隠すべきことでもないため、把握できている所を応えるしかない。


「はい。常の加護については分かりませんが、氷柱の置かれていない場ですと、どうしても疲れを感じやすいですね。」


当初の予定に比べれば回復は早い、それに間違いはないとして。それでも、万全には程遠い。

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