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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第438話 夏の暮

「早かった、それよりも。」

「そうですね、急かした申し訳なさが勝ちますね。」


予定の変更もあり、確かに日程の消費もありはしたのだが。始まりの町に着いてから、僅か数日。後から来る荷物の一部、使用人、加えて護衛の追加人員といった物が用意された。

流石に王都から騎士がという事は無いが、その日程の詳細も、メイに聞いた物を正式な書状として伝えられる。


「トモエ様。」

「そうですね、流石に今夏に合わせるのも。」


運び込まれる荷物を、オユキとトモエは座ったまま確認していく。

今は調度の類が、目の前に置かれている。そして、その中のどれを早速使うのか、それをトモエが主体として選んでいるというところだ。異邦の物とはまた違い、こちらでは季節を司る神の色であったり、意匠であったり、明確な使い分けがある。それに対して、オユキが整える事を預けるとしたため、トモエが采配を振るわなければならない。


「入れ替えでしたら、何ほどのこともありませんが。」

「使ってみて、考える事も多いでしょう。であるなら、ある程度長く使う物を並べて頂くほうが。」

「それも、そうですね。」


借り受けている使用人にしても、一角の者であるらしく。それこそ数人で持たねばと思うようなものも、実に軽々と一人で持ち、運んでいる。


「ただ、そちらの緋色の敷物ですね、それは茶会に。」

「異邦の作法で行うものでしたか。畏まりました。」

「一通りは整いましたし、メイ様へ招待状を出さねばいけませんね。」

「流石に、それは私がやらなければならないでしょう。封を押すための印なども、恐らく届いているかと思いますが。」


オユキがそう考えをそのまま口にすれば、ではそちらを先にと、そう言った空気が流れだすためそれを止める。


「いえ、一先ずは家の内外を先に。客人を既に招いてもいますから。」

「そうですね。まずは。」


使用人たちにしても、まだ昨夜についたばかり。無理な移動の疲労もあって、今朝面通しを終えたばかり。互いに遠慮が存在するという物だ。特に、大枠でしか聞かされていない事も多いのだろうから。


「シェリアさん。客間への物としては。」

「休んで頂くという意味では、確かに使われない物ですが、オユキ様が。」

「それで、ですか。アイリスさんの物も含めて、という訳では無いのですね。」


どうした所で、やたらと戦と武技の神を示す意匠が多い。これまであまり使われている所見なかったそれについて、トモエが意見を求めれば、直ぐに答えが返ってくる。流石に異邦からの身で、求められる物の全てがわかるわけもなく、こうしてシェリアが側に。

本来であればゲラルドの役割でもあるのだが、使用人とのやり取りは彼の方が慣れているため、今は外にいる。次々と運び込まれる荷物、昨夜到着の折に見た愉快な行列。それを考えれば、今頃は辣腕を振るってくれているだろう。実に順調に、次々と荷物が運び込まれているのだから。


「おや。これは。」


次々と運び込まれる物の中で、トモエの眼を引くものが一つ。輸送が難しいだろうに、鏡のはめ込まれた化粧台が用意されていたらしい。


「リース伯の紋章が入っていますね。輸送の都合で少し汚れが有ります、私どもで改めて手入れを行わせて頂きます。」

「割らずに運ぶ、それだけでも難しかったでしょうから。このあたりのお礼については。」

「リース伯子女に、手紙を預けるしかありませんね。」

「直接のお礼は、領都をまた訪れるので、その時とするしかありませんか。」


そうしてあれこれと調度の検分が終われば、次は木箱が次々に運ばれてくる。それこそ小物であったり、衣装であったりと。勿論、シェリアと頼んだ衣装も含まれている。流石に一着だけではあるが。


「巫女としての装束は、どうした物でしょうか。」

「本来であれば、教会に預けるのですが。」

「移動が多いですし、その先で求められますからね。」


そして、箱から持ち上げられた衣装の一つ。それを前にして揃って頭を抱えてしまう。

戦と武技の神から与えられた衣装。それがしっかりと運ばれ来た。太刀は神殿にとなったため、衣装くらいは任せようと、教会で用意された衣装だけ持ち歩ていたのだが。


「必要になるかと言われれば、どうなのでしょうか。それこそ降臨祭の装いとしては、司教様にお尋ねしなければなりませんが。」

「公務としての物は、すでにありますからね。衣桁はこちらに使いましょうか。オユキさんの執務室に。」

「そう言えば、以前見た物も広げて飾ってありましたね。身分を示す物としては、間違いありませんし、良い案かと。」

「広げておくのは、障りもあるかと思いますが。」

「その辺りは、私どもが間違いなく。」


シェリアから、はっきりと問題ないから任せろと、そう言われたのであればオユキからはそれ以上があるわけもない。


「では、お願いします。しかし、そうなるとアイリスさんの物もあるでしょうが。」


ただ、オユキの物、その扱いが決まったのはいいが。そう考えてオユキがシェリアに意見を求めれば。


「客間に、ですか。いえ、やむを得ないと、そう言えますが。」


流石に、始まりの町にアイリス用の屋敷、その用意までは無い。そもそも人が足りていないのだ。アベルの家が預かると、そうなっているため、メイではどうにもできないというのもあるのだが。

そして当の本人はアベルに連れられ、傭兵ギルドで手続きを行っている。移動の疲れもあるからと、後に回していたが、今日は屋敷がどうしても騒々しくなり、部屋に手も入れるからちょうどいい機会ではある。


「アイリスさんとアベルさんにも、確認するしかありませんか。シェリアさん。」

「畏まりました、直ぐに。」


そうして側から離れ、広間の先、トモエとオユキでは聞こえない声量で少しのやり取りを行えば、直ぐに側にと戻って来る。使える相手が多いというのは、実に有難い事だと、その様子を見てオユキは改めて考える。

近衛、今はすっかり侍女として働いてもらっている残りの二人は、ラズリアがアイリスに同行し、タルヤは置くと決めた調度、それを使いそれぞれの部屋を整えてくれている。

また、カナリアにしても以前聞いた短杖で部屋を整え、追加で持ち込まれた魔道具の調整など、大いに手を借りている。半ば使用人のような扱いに、申し訳なさを覚えるものだが、本人からは実に快い返事が返ってきているため、すっかり甘えてしまっているのだが。


そうして、とにかくバタバタと荷物の確認を続けていけば、どうにか日が沈むころには片が付く。


「カナリアさんも、お手間をかけました。」

「いえいえ。対価も頂いてます。常の仕事、それと変わりませんから。」

「そう言って頂けると。」


食事の席、客人扱いの相手と揃って食事の席に着く。


「私の部屋は、客間とういうよりも、私の部屋、そのような感じだったけれど。」

「ええ、そればかりは。」


他国の人物であり、オユキと同じくらいを持った相手だ。本来であれば、それこそオユキとトモエが与えられた屋敷と同等の物が、アイリスにも用意されなければいけない。いや、それ以上の物が。

ただ、それをするには人が足りない、それに尽きる。


「うちの領地じゃないからな、流石に勝手が違う。補填は、こっちでしておくが。」

「まぁ、理屈は分かるし、構わないわよ。部族に戻っても、どうかしら、様式が違うから比べてどうというのも、難しいけれど。」

「そっちも石造りが多いんじゃなかったか。」

「一番大きな、というか集まると決めている地はここと似ているけれど。」


どうにも、国と言わず部族と枕を置くほどに、色々と同じ国と認識されている中でも差が大きいらしい。


「こちらで一先ずとはしていますが、何かあれば。」

「なら、気になったらまた言うわ。」

「カナリアさんも、あまり遠慮は無いようお願いしますね。」

「私は、どうしましょうか。魔術師ギルドの部屋からも、それなりに荷物が。」

「そちらについては、また日程の相談をお願いします。それと今回こちらに荷を運んだ馬車の籠ですね、そちらをまずは試しに使っても良いと。」


空になった物をどうするのかと思えば、公爵からの手紙には、そのように記載がされていた。当然すべてという訳にもいかず、いくつかは空で戻し、またいくつかは川沿いの町へ向ける事となっているが。


「では、早速とも思いますけど。」

「おや、小箱での実験は。」

「はい、今日少し試しましたが、問題なさそうです。」


先に小さなもので、試す。そう言っていたがと思えば、それもどうやら順調に終わったらしい。


「どの程度の損傷で、そちらはまだ試せていませんが。」

「ま、小箱をわざわざ壊すのもな。しかし、そうか。箱にも使えるか。」

「馬車に積むには、どうでしょうか。内部に作用するので、干渉が有りそうなんですよね。」

「なら、そっちも併せて試すのがいいな。場所は、どうするか。」


入れ子構造のように、際限なく、それは難しい物になりそうだという事らしい。ただ、それすらも実験が必要な物なのだろうが。


「庭は、お茶会の用意が。」

「まぁ、流石にそっちが優先だな。」

「傭兵ギルドの訓練所は、如何でしょうか。」

「いや、流石に此処にメイの嬢ちゃん招くなら、カナリアも参加しなきゃならんしな。」

「え。私もですか。」

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