第430話 少し先
「えっと、とにかくそう言ったわけです。」
どうにも散らかった会話、それを創造神が無理やりにまとめる。
「その、ゆっくり休んでは頂けますが、あの。」
「理解はできるものですから。」
つまるところ、望んだ休日、ゆっくりと出来る時間。それが次の、それもすでに近づいたそれの準備期間。それに対する配慮という事であるらしい。説明、その過程でヒントも多く得る事が出来たし、人以外の種族、それに対する理解も深まったという物だ。
ならば、総合としてこの配慮は有難く、有用である。そのようにオユキとしては評するしかない。
「元の予定、それを大いに変えて頂いている、その自覚もありますし。」
「だいたい正解ですけど、そんなに分かりやすかったですか。」
オユキからは、年季の違いとしか言えない。それには特に意味を持たない愛想笑いで返しておく。ミズキリにとっても意外だったこと、それは実にわかりやすい。そのせいもあり、当初の予定が半分に、そうなっているのだから。
「トモエさんも、オユキさんも。決めるまでの時間が短くなったのは、私としても残念ですけど。」
「そればかりは。それに、期限が伸びたところで、変わる物ではありません。」
「結果は、変わりそうですよ。」
「どう、でしょうか。」
そう言われたところで、オユキからは疑問で返すしかない。
旅の終わり、そこにあるものはトモエとオユキ、その間ですでに決まっている。では時間があれば変わるのか、そう聞かれれば、オユキは首をかしげるしかない。恐らく変わらないだろう。それこそ以前を考えれば、その程度、そう言い切れる期間でしかない。特に、お互いに何かと忙しない、そう言ったものが与えられるのだから。
「ところで、二つとのことですが。」
オユキが理解し流したそこ、それにトモエから疑問が上がる。
「トモエさん、領都の物はありません。」
「王都と、魔国ですか。そう言えば、魔国に神殿は一つでしたか。」
そう、領都、そこにも転移を可能とする門、それが置けるのであれば色々と楽にはなるのだが。
「特別では無い教会は、当分先ですね。」
「ええ、それこそ他の巫女、司教が助けを得てと、そうすべきものですから。」
「改めてこちらの神職の方々、その仕事の多さには気が付くものですから。」
そう、司教は権限を認めていると、そう言った。つまりは正しく権利を持っていない領主、その仕事を教会の責任者の内、誰かが判断し実行しているとそうなるのだ。
この国の王家は、神の血を引く、そう言われており、事実神に求愛をした人物の話も残っている。
そして、トモエとオユキが見える事も叶わなかった大司教。要は、そう言う事でもある。
「都市計画、その基底には組み込まれていそうなのですが。」
「ええ。私たちもそれが有るとして、拠点の作成を指示していましたから。」
場所は、そうであるという事なのだが、問題は周辺の整備だ。
ただ、そこはかなり強固な封建制。土地にしても余りに余っている。それこそどうにでもという事だろう。メイは大いに頭を抱えるだろうが。
いや、ともすれば、そこまで考えて、オユキはそちらは後で確認すれば良しと、そう割り切る。
「どうにか成し遂げよ、そう言う事ですね。恐らく、誰もがという訳には行かない物でしょう、そちらについては。」
「はい。」
「オユキさん、こちらを。」
この場だからこそ、という物だろう。オユキの前に、随分と見慣れたフォントを使った情報が表示される。
「ミズキリが確認した名簿、それがこれですか。」
流石に残りの人員、その日付まで記載はされていない。ただ既にいるものと、そうでないものの違いは分かりやすい。オユキ、書かれている名前はトモエだが、そちらを基準にすればよいのだから。
そして、いつぞや半分と、そう言っていたようにも記憶しているが、それにしても未だに来ていない者が少ない。此処とは違う場所となったのか、それとも離れている間にそう言う事が有ったのか。
なんにせよ、予想通りの名前、それが残っており、黄色で表示されているのを確認する。
トモエは白。他の多くも。まだ来ていないであろう相手は、灰色。そして、黄色は間もなくと、そう言う事なのだろう。
親会社、そう言えばいいのか、グループ企業と言えばいいのか。重工業そちらで存分に名を馳せたエンジニア。その名前がしっかりと。
「架橋ですね。リース伯子女が、また頭を抱えそうですが。」
こちらの生産力で、果たしてどの程度かかるのかは分からない。
ただ、改めての国交、その樹立と友好の宣言には、分かりやすい象徴にもなるという物だ。
河沿いの街、そこから見えない対岸、そこにあるだろう拠点に向けて伸ばすことになる、そんな橋は。魔物避け、その技術は確かに存在し、今は壁としか利用されていないが、それ以外を模索するにもいい機会なのだろう。
「相変わらず、話が早いですよね。」
「そう言った流れ、それが有るとは分かりますから。」
だから、創造神に釘を刺されたこともあり、オユキからミズキリに尋ねる事は二つだけになるだろう。
アベル、近衛。その際監視として同席するであろう相手にしても、恐らく聞けば他に気を回す事も出来なくなる。そういった事を、間違いなくあの古い友人は隠している。
そして、現状の予定、恐らくオユキが組み込まれている物については、それで十分なのだろう。
「降臨祭、そこに合わせてこちらに来るのは3人ですか。」
「はい。二人はトモエさんも面識が有りますよ。私の後を引き取ったあの子、その教育をお願いした方と、昔から面倒をかけた事務方の。」
流石に、別会社でもあり、エンジニアとの面識はトモエもない。
だが、秘書業務を数十年頼んだ相手と、創業時からの会計担当、その二人はトモエも面識がある。ミズキリも彼らに頼みたいことはあるのだろうが、それこそこちらの人々と変わらない。見知った相手の間で話し合い、何なら他との話し合いも含めて、取り合いをするだけだ。
「ああ、あの。またお願いできればいいのですけど。」
「そこは、まぁ。」
「現状もありますから、話し合いも要りますか。それとも、オユキさん。愛想を尽かされるような真似を。」
そう、トモエに悪戯気に聞かれるが、箕島、こちらではアマギ、秘書業務を頼んだ相手はともかく。葉月、こちらではケレス、会計を頼んだ相手は、いよいよ断るかもしれない。ミズキリ以上に散々に振り回した女性なのだ。それはミズキリも。
そもそもゲームなど興味なかったというのに、創業時のメンバー、彼女以外のほとんどが同じゲームを大いに遊び、製品の基幹技術でもあると言い訳を作った上で、その中で進む話などもあった。
そして、そんな猪たちの手綱を取らなければならない彼女が、放っては置けぬと参加し。ならばこれ幸いとばかりに、一団の会計、資材の管理も押し付けたのだから。
そういった事を思い返して、言葉をすぐに返さずにいると、トモエからも苦笑いが返ってくる。
「想定の内ではありますが、こうして手は打っていただいているのです。出来る事は、可能な限り。」
「はい、ありがとうございます。」
こうして、確かに助けは得られている。厄介な部分、手が足りていない部分の補填もこうして考えて、出来る事をしてくれているのだ。ならばオユキとしても、出来る事はと、そう言うものだ。
「次は知識と魔、そちらで問題は無いのでしょうか。」
「えっと、あの子は拗ねているけれど。」
「その事ですが、何故と、お伺いしても。」
後回し、そうするだけの動機の理由、それをトモエが尋ねる。
「あの子の持っている権能にも関わってきますが、その、月が出る時間であったり、逸話であったり。」
「ホラーと言えば、確かに夜ですか。魔性、それと結び付けられることも多いわけですし。月であれば、確かにと思い当たる先もありますね。」
「死者となると、別枠とも思いますが。私の知る物では、寧ろ狩猟と繋がりが深いかと。」
トモエの納得に、オユキがそう尋ねれば、トモエからは苦笑いが返ってくる。そして、口を開こうとしたところを止められる。
「あ、トモエさん、ダメです。此処ではそちらの言及は。水のあちらは別物ですし、私たちは違いますからね。」
「確かに、モチーフとしてそれを明言して喜ばれる方々ではありませんか。ええとですね、月を司る神々、その中には所謂黄泉も司る神がおられるんですよ。」
「ああ、そう言えば、そのような話もありましたね。」
用はギリシャ神話、そこからもという事であるらしい。生憎と残されていた手記、設定の断片、それは既にうろ覚えとはなっているが、どちらかと言えば技術資料の方が多かったのだ。そう言ったことも走り書きとして残されていたが、やはりオユキはそこまで興味を向けなかったというのもある。
目を通しはしたが、記憶にそこまで残ってはいない。寧ろ、相談したミズキリの方が良く覚えているだろう。だからこそ、フレーバーテキスト、両親の残した資料、その片鱗が除くそれに目を向けよと、そうオユキは注意もされているのだから。
「さて、そろそろ時間ですね。」
「あ、そうですね。えっと、必要な事は、話したはずですけど。」
「まぁ、そうね。本当はもっとあれこれ細かく説明がいると思ったのだけれど。」
「話が早い相手、言葉が間違いなく伝えられる相手は、私たちも楽ですからね。その、降臨祭に合わせて色々と負荷をかけるので、それまでの間、ちゃんと休んでくださいね。足りなければ、やはり先に延ばさないといけませんから。」
こと時間感覚、それについては人と比べるべくもないほどの相手なのだ。差し迫ったことが無ければ、それこそ伸びたところで気にもしないだろう。
だが、それを、早める事を望んでいる。それを考えれば、その動機もまた別に何かありそうだと。オユキがそんな事を考えているうちに、周囲の風景が元に戻る。
相応の時間話していたはず、だというのに、この場は話し合いの直前、その空気を未だに持っている。それを器用に切り替えられるわけもなく、違和感を与え。
まずはトモエと司教から、アイリスに向けて説明が行われるという物だ。