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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第428話 それは、始まりの

同じ席の半分で、それぞれに違う話をしている。

それこそ作法、その観点からは大いに減点をされそうだが、口を挟めるような物でもないし、あまり意識を割くような物でもない。

時折、アベルから説得を手伝えと、そういった視線は感じるが。


「えっと、たまに私たちもお使いとか、お手伝いとかしましたけど。」

「うん。こう、柵に勝手に入ったりとか、そういうのは怒られるかも。」

「生き物ですから、そうでしょうとも。そう言えば、どういったものが。」

「始まりの町だと、牛と豚、羊に山羊です。」


ただ、数はまだ少ないらしいですけど、そう付け加えられるものだが。

それにしても、かつての世界でも同様。場を選ばなければそもそも見られるような物でもない。見たいというのも、結局のところは、そうした向こうではなかなか難しい、そういったものをのんびりと楽しみたいというだけなのだから。


「成程。それは是非一度と、そう思うものですね。」

「トモエさん、そういうの好きなんですね。」

「はい。牧歌的な光景と言うのは、以前は日常からは遠いものでしたから。」

「詩、ですか。私は神様の物しか分からないですけど。」


さて、ここでも翻訳の問題が起きている物らしいが、それを如何に説明するか、それにトモエが頭を頭を悩ませる。


「そういえば、オユキちゃんが昼寝してる時とかに、王都で歌ってましたよね。」

「ええと、はい。そうですね。」


王都、トモエの手によるものの影響で、暫くオユキは体調を崩し。それでも日々の業務があるからと。その結果として、昼食を終えて少し休むと、そういった事もあった。

公爵家の別邸、木々の作る影の下でと言うこともあり、そういった光景は少年たちの目にも入っていた。


「目を覚まさない程、疲れていましたか。」

「その、ある程度近づこうとすると、トモエさんが。」


そして、気配を抑えられない相手、若しくは隠そうとしている手合い。それはトモエが近づくことを止めた。


「何かと、お手間を。」

「こちらがかけた、その分ですから。」

「詩の意味は全く分からなかったですけど、変わった歌でしたよね。」

「そういえば、こちらであれば、それこそ色々ありそうなものですが。お祭りの時にも、皆さんで。」


そう、いつものように話題を興味に合わせて移しながら話していれば、ようやく話が纏まったのだろう。メイの方に、光が差したかと思えば、座る席の前に見覚えのない物が置かれる。

結果は他に無いと、オユキはそう判断して放っていたが、存外早く押し込まれたらしい。これで肩書きはともかく、メイが正式な領主になる。

恐らくは始まりの町、そこでは随分と久しぶり、それとも世界が改めて形を持ってから初めての。


「おめでとうございます。そう申し上げても良い物でしょうか、メイ様。」

「ええ、ありがとうございます。実務にはあまりに不足、指示を伺うばかりの形だけではありますが。」


オユキとしては、ミズキリの言葉で疑問に感じていた幾つかも、この流れの中でいくつか解消されている。

資源を得る、それ以上に積極的な様子を見せた、予定に組み込んだミズキリ。その理由がこれなのだろう。拠点の作成の為には、教会でクエストを達成する必要があるそのように言っていたものだが、他にも継承の方法があると、それも同時に示唆していた。

領主として認められるための功績、要はそれが他にもあるという事でしかない。

オユキはその辺り、アベルに改めて視線を投げて意思疎通を行う。ミズキリ、その所在は既に把握している。そして、アベルからは改めて頷きだけで返ってくる。

此処に入る物は、選ばれている。入れるのか、それもあるのだろうが、恐らく迂闊に口にできない、それを主体として。

そもそも、少女たちがこうして司教、彼女たちが敬うべき先達が、神事を行っている。それに意識を割かずに雑談に興じているのだ。恐らく、この子供たちには聞こえていないか、まったく違う事が聞こえているか。

はたまた、オユキがそうなるように、ここを出れば忘れるのか。


「実利、その面で考えても必要な事ですから。」

「ええ。水路を町の中にも、それを叶えるには、やはり細かい権能も必要になりますから。」

「都市の計画は、それこそ私には早すぎるのですが。」

「大枠として、王都、領都をなぞるのがいいだろうな。此処だと、領主館じゃ無く、教会が中央だが。まぁそれこそリース伯とよく諮ってくれ。」

「ミズキリからは、釣り堀等も要望に出そうですね。」


そうなると、嬉しい誤算ともいえる事が一つ。河沿いの街、あちらが別の領となっても、こちらでも水産資源を得られる可能性がある。大本に比べればかなり細い、そういった川ではあるが、ある程度は流れてくるだろう。道すがら、皆もを跳ねるそれを確認する事も出来たのだから。


「それは、どのような。」

「こちらでは元のそれとも変わるでしょうが、釣りを行う場ですね。仕事と言うよりも娯楽として。」

「話が回れば、まぁ、住人も楽しめるか。好き勝手にというよりは、確かに場を用意して許可制、その方が色々と都合もいいな。」

「そうですね、資源の管理は。オユキ。」

「そちらは、ミズキリと話して頂くのが良いのですが。」


オユキはミズキリのように、日がな一日水面に釣り糸を垂らし、波に耳を傾ける様な性質でもない。そこまでの時間があれば、それこそトモエと向き合い刀を振る。


「なんにせよ、まずは溜め池の調査からでしょうが。」

「それもそうですか。それと、ロザリア様この事は、改めてお伝えさせて頂いても。」

「ええ、構いませんよ。資格がある者であれば、伝わるでしょう。」


そういった制限は、こちらの世界、そこで生きる者にも等しくあるらしい。

改めてそれに気が付き、オユキとしては頭が痛い、そのような思いもあるが、らしい厳しさと納得するしかない物でもある。特別な理由はある、実際にそれに由来するものもある。それでも根底部分ではやはり区別が無い。


「オユキも、体調が戻れば。」

「ええ。仕事に不足は無くとも、戦うには、その間は存分に。」


そこまで言ったところで、オユキは改めて司教に視線を向ける。


「そうですね。勿論お手伝いいただきたいことは、こちらにも。」

「お手数をお掛けしますが。」

「巫女アイリスも、場を整える、それについて。」

「ええ。」


しかし、巫女としての仕事もあるのだ。完全にという訳にもいかない。


「そちらは、改めて。ですが今は。」


そうして司教が改めて、見知らぬ印を切れば、周囲がまた一段と変わる。


「さて、かつての世界、そこでは分御霊などという言葉もありましたが。」

「私だけではありませんし、既に別の物ではありますが。」


こちらに来た時見た景色。それと寸分たがわぬ場所で、今はトモエとオユキがロザリアと席を共にする。

眼下に見えていたものは、今は先ほどまで座っていた場所、それに代わっている。そして、この場にいる者達、それも変わらず席に座ったままだ。何某かの動作を行っているわけでは無いが。

多くの制限、その中でもどうにか出来る事、それを探した結果として行った一端。そういう物が方々に隠されている。


「本来であれば、こちらでこうして。」

「はい。ミズキリさんも、今は前倒しになったこと、その大まかな流れは話せますから。それと、オユキさんが聞きたい事、その6個の疑問。今は二つはきちんと答えられますよ。」


そして、同席するのは、本体。それと、見知らぬ相手ではあるが、見覚えのある特徴を持った女性。


「残りも、まぁ、ミズキリですから。ヒントが出せる物は出すでしょう。そこから予測も立つものです。」

「あの、あまり乱暴な思考をすると。」

「どうしても止められないこともあります。そうなったときには。」


作用がある、そうとは分かっていても、オユキは止められない思考がある。そもそも管理職と言うのは何処も同じ。先を考える、起こりうることに対処する方策を見言い出す、それが仕事なのだから。

もはや習い性となったそれは、注意したところで、結局はそちらに思考が向く、そういったものでしかない。


「ミズキリ本人の目的、かつて残した未練。流石にそこには触れませんが。」

「えっと、ミズキリさんが良しとしていても、私たちの都合で変わる予定もありますから。」

「勿論、織り込み済みですとも。」


そうして、話していると、それまで何も口にしなかった女性が、それを止める。


「やめておきなさいな。貴女では、話すたびにぼろを出すだけよ。」

「これでも、気を付けて話しているんですけど。」

「気を付けている、それが解れば、では何に。そこに思考が及ぶもの。だからあなたが話すたびに、この子たちの頭の中で、推測が積まれていくのよ。」


その言葉に、創造神が落ち込んで見せ、その様子を別れた先が微笑んでみている。対人経験、事それに関しては後者の方が圧倒的に多いのだろう。そして完全に同一という訳では無く、やはり別れた、その事実が溝をしっかりと作っているらしい。


「そこから先は、貴女の友人に聞くといいでしょうね。」

「畏まりました。」

「ただ、思考の幅、それは貴女の方が優れているけれど、知識という面ならもう一人の方が多いわね。」

「闘技大会、そこで御身の裔と向かい合った折に、閃くものもありました。」

「まぁ、正解よ。」


オユキは、さてこちらの人物は。そうトモエに視線を向ける。ゲームの題材、その中にもトモエからすれば使われているのではなかろうかと、そのようにも思うものだが。


「異邦、勿論そこからも別けられた神々がいるものですよ。」

「しかし、それは。」

「その示唆は、十分にあったかと。」


トモエからすれば、そもそもこのゲーム、その知識が伝聞しかない。オユキがトモエも興味を持つだろう、そう考えた者しか聞いていないからこそ、先入観が無い。これまで話さなかったのは、結局他に話すべき事柄が多かった、それに尽きる。


「成程、だから祖霊、神々よりも、ですか。」

「はい。それが最たるものですね。」


神々、明確なそれが有り、世界の決まり事を説く。だというのに、アイリスは祭祀、神の威容を讃えるそれを、祖霊を先として参加しなかった。周囲もそれを認めた。オユキは流していたが、トモエからすれば、違和感でしかなかった。そして、恐らくは、そう考えた結果として、今はこうして金の狐、その特徴を持つ人が、席を同じくしているのだから。

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