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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第427話 未知の一端

ロザリアの後を連れ立って歩く中、まずはトモエが違和感を覚える。見知った場所、以前通った道。そうであるはずの通路を、進んでいるはずだというのに。

以前にも数度案内された、礼拝、訪れた人々に向けての場所から、そうでは無い場所へとつながる道、それをロザリアは確かに歩いていたはずだ。


「これは、一体。」


そもそも、こういった違和感には、それこそアベルやアイリスを始め。オユキ、今も疲労から来る体調不良でトモエが運んでいる相手を守る、その役を得ているシェリアが訴えそうだというのに。つまりそういった人物が何も言わない、そこまでを含めての違和感だ。


「トモエさん、どうかしましたか。」

「いえ、ここは、どこでしょう。」


横抱きにしているオユキから、不思議そうな声が聞こえる。ただ、トモエからは感じる違和感をはっきりと説明できない。ただ、気が付いた理由、分かりやすい物をまずは口にする。


「突然、他の方の気配が。いえ、こうして連れ立って歩いている方では無く、こちらで暮らしている、そのはずの相手の物ですが。」


そう、つい先ほどまであったそれが、突然消えた。

以前トモエが聞いた話も含めて考えれば、相手は子供。それも少年達ほどの訓練すら、受けていない相手。気配を完全に隠す、そんな事などできるはずもないだろう。

だというのに、現実にはこうして完全にそれが消えている。外からの騒ぎ、ついてきた列をなした人々の喧騒も、随分と早く、扉もないのに遠くなり、事ここに至っては完全に聞こえなくなっている。


「ああ、トモエもオユキも、知らないわよね。」


そして、トモエが伝えた違和感にオユキも身を固くすれば、アイリスからそのように気楽な言葉が返ってくる。


「教会の中でも、色々あるのよ。」

「それは流石に説明が雑過ぎるだろう。」

「皆さまは、ご存じなのですか。」

「ま、後でそっちの娘っ子どもから聞くといい。」


どうにも、歩きながらする説明の類ではないらしい。そして、アベルとアイリスの言いようを聞いた、持祭三人も身を固くしている。つまり、彼女たち、教会で働くことを考えている者達にとって、何やら大事な事ではあるらしい。


「域が違う、と言う事ですか。王都で神殿を訪った時も、大司教様にお目通りが叶いませんでしたね、確かに。」

「言葉が違いそうだな。だが、後半は正解だ。」


アベルから、推測はおよそ正しいと、そう返ってくる。ただ、そうなるとトモエには不安がある。


「オユキさんは、大丈夫ですか。」


こういった事に対して、支払いを求められる。そして結果としての現状を得ているのが、腕の中にいるオユキだ。


「はい、今の所は。」

「私の方でも、特に何もないわ。司教様が、そういう事なのでしょうね。」


そうして話していれば、その司教も足を止める。そしてトモエの記憶が正しければ、以前は無かった扉、その前で足を止める。


「ええ、今回は私がご案内をしていますから。さ、皆さまもどうぞ。勤めを果たし、疲れた相手、それに鞭を打つような真似は誰も好みませんから。」


そして通された部屋、そこはなんと言えばいいのか。

異邦人二人、それなりにこちらの世界をあちらこちらと動き回ってきた。そしてそこで得た認識、それを塗り替える様な、そんな部屋。いや、そこは屋外だから部屋では無いのだが。

以前、歩いた道から考える位置関係、それを考えたところで、こうはならないだろう。そういった場所に通される。

空は昼と夜。青と黒。あまりに明確な境界線を置いたうえで、二色に塗り分けられ、都合7つの月が青に3、黒に4浮かんでいる。

視線を降ろせば、草原と恐らく始まりの町、それを中央に大地の景色が広がっている。それにしても、トモエから見れば、何やら色分けがなされている、そう見える。

街も、その周囲も、ぼんやりとした境界線が色付きで引かれ、その内側を薄くそれぞれの色が覆っている。以前聞いた説明を、神々の色と照らし合わせて考えれば、要はその色が加護、その色を示しているのかもしれないが、知らぬ色も実に多い。

街の壁、それがどこまで効果のある物か、それにしても要は色の付けられた区画の事であるのだろう。その先、町の外にしても何やらはっきりと線が引かれ、色がついている。そちらに至っては、オユキも、トモエも。全く埒外の理屈ではあるが。

眼下にそのような景色が広がる、まさに大地から離れた場。だというのに、そこには当然のように机や椅子が置かれている。先に歩くロザリアにしても、迷うことなく踏むものなど何もないはずの場所を進んでいく。

少々不安を覚えながらも、その後をついて歩けば、足元からはしっかりとした感触が返ってくるものだが。


「私が確認できるものよりも、多いのですね。」


揃って席につけば、開口一番メイがそうロザリアに尋ねる。

つまりは、この景色、今見えるそれ。恐らく人それぞれにまた異なるのだろうが、これが管理者権限、その一端であるらしい。


「年季が違いますもの。」


そして、ロザリアはただ常と変わらぬ微笑みで、そう返す。


「私が足を踏み入れても。」

「ええ、問題ありませんとも。そのような方は来ることができない、そういった場です。」

「各々制限もある、そうなのでしょうね。」


トモエが改めて確認すれば、尋ねた相手は実に楽し気だ。


「さて、この度の変革、それを成し遂げた皆様にとしたいのですが。」


座った席、そこには瞬きの間に、気が付けば茶会の準備が整う。

トモエも、オユキも。こちらに来る前、実に似た状況を経験したものだ。


「まずは、メイ・グレース・リース。貴女に改めてこの町を始めとした一帯、与えられる領、それを確かな物に。」

「ですが、既に私の屋敷からでも。」

「私がそれを認めているだけです。」


ミズキリが以前語った内容、それが思い起こされるという物だ。彼の語った内容とは、また異なるが。


「しかし、実際はリース伯爵が。」

「彼のお方が神から信任を得る、それに値することを行いましたか。」


メイの戸惑い、実際に彼女の得た役職は代官。彼女はあくまで代理だ。それに対するロザリア、それこそ神から絶大な信を得ている人物からの回答は、にべもない。

この度の一連、確かに神から頼まれた事。それを主体として行ったのは彼女だ。どれほど周囲が場を整えたとして、手を借りたとしても。役割を与えられ、それを果たしたのは誰か。ただその事実で切り返される。


「その、一度相談をしてからというのは。」

「今、その権限をここで認めます。他の方に、そう望まれるのでしたら、今後改めてそうすると良いでしょう。」

「リース伯爵子女。此処で一度受けよ。」


悩むメイに、アベルが後押しをする。


「この町を含む一帯、その完全な移譲はない。故にリース伯爵子女、司教様もそうお呼びだ。マリーア公、リース伯、そちらに伝える時には、私も手を貸す。」

「しかし、家長を差し置いて。」

「司教様の言葉にあったように、家、正しきそれは神の名の下にある。」


さて、こちらの貴族が話し合う一方で、トモエとオユキも全く異なることを話し合う。

そちらに関しては、口出しできるものでもないし、結論は分かり切っている。それよりは緊張に身を固める少女達、そちらの方が気になるものでもあるのだから。


「教会、成程、色々あるものですね。皆さんは、ご存じだったのですか。」

「えっと、はい。お話だけは。」

「入るために前提が、それは想像がつきますが。」

「助祭様からって、そう聞いてたんですけど。」


少女たちの戸惑いは、そういった理由であるらしい。他の物たちは、凡そ理由が思い当たる。それを基にすれば、少年達、実際に神に声を掛けられたシグルドとパウ、あの二人もと、そう思いはするが。

つまりは、そこにも差があるという事なのだろう。

アベルほどではない、その補填がこれまでの神への奉仕、それでなされたかどうか。その差が。


「それにしても、こうして改めて全体を眺めると、行っていない所が実に多いものですね。」

「私たちも、普段必要なところ以外は。」


俯瞰で眺める始まりの町、それは実に広大だ。領都、王都はこれよりもさらに大きいと、そう知っていたところで、その印象は変わらない。

色分けされた区画、それはわかる。ただ、そこで暮らす人々、それは個別であれば見る事も出来ない。教会の前、その群衆、その程度は分かるのだが。それにしても極僅か。覚えのある展望台、そこよりも高い位置から俯瞰していると、それだけでも見て取れる。


「こうしてみると、やはり農地、牧草地は広大ですね。」

「行こうと、そう話しながらも足を運べていませんが、是非伺いたいものです。」


そして、トモエとオユキ、その目を引くのは恐らく町の西側、そこに広がる緑豊かな一角だ。以前、それこそ少女たちに聞いたように、北側には果樹林だろう、こんもりとして緑の一角もある。それと比べるのもおかしい、そう思わざるを得ないほどに、広大な面積をもって広がっている。


「その、あんまり驚かないんですね。」

「驚きはしましたが、慣れもありますから。」


そう、こういった場には、オユキとトモエは、なんだかんだと慣れるだけの回数があった。


「えっと。その。」

「短いとはもう言えませんが、やはり相応にあったものですから。」


今はこうして席に座り、少し楽な体勢を取っているオユキがそう言えば、苦笑いが返ってくるものだ。

少女達から見ても、今のオユキは体調が悪い、そのように見えるのだろう。


「暫く、体調が治る迄は改めてのんびりと、この町を見て回りたいものですね。」

「そうですね。興味本位、それを嫌われなければよいのですが。」

「えっと、オユキちゃん、大丈夫なの。」

「はい。ここまでの無理がたたっての事ですから、しばらく休めば。」


さて、こうして暢気に話しているのだが、勿論相応にやらねばならないこともある。魔石を集める、ダンジョンの調査、ミズキリへの確認。そしてそれらに付随する各種業務。ただ、神々からも、週に二日は自由に、そう言われていることもあるし、オユキに至っては回復するまでは、戦闘に関わることは許されない。

ならば、その間の時間は、それこそ休養にあてようという物だ。


「新しく引いた川、そのほとりで屋外調理なども楽しいでしょうしね。」

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