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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第426話 納品

オユキの体調は、流石にここまでの移動で回復する物では無い。

しかしながら、人目は多い。馬車の中、外が見えぬとはいっても、何やら後からついてくる人々、それが増えるのは分かるものだ。如何に大声を上げていなかろうと。

シェリアに補助をされながら馬車から降りれば、後は嫌でも慣れた振る舞いを取る。

生前、疲労を隠して行わなければならない事など、いくらでもあったのだから。夜、あまり休めぬ移動時間。それが終わればそのまま、等と言う事は往々にしてあったのだから。


「くれぐれも。」

「ええ。」


シェリアに釘を刺されはするが、それには軽く答えておく。何やら、背後から、後をついて来ていたのだろう群衆から、ざわめきが。始まりの町、通った道もあるがオユキの姿を見た物も多かろう。話した相手もいる事だろう。それが最後に見た時、それとは全く違う振る舞いをするのだ。然も有りなん。

そして、オユキが馬車を降りれば、続けてアイリスが下りて来る。そちらには、オユキに対するものと、また違うざわめきが上がる。良く知る者達にしても、気持ちは分かるものだが。

金の毛並み、成人とわかる容貌、それに赤が映える衣装は、実によく似合う。並んで歩けば、まさに大人と子供。そして子供の方は、やはり背伸びをしている、その印象をぬぐえないのだから。


「ご無沙汰しております、司教様。」


さざ波の様な、所々聞き覚えのある声、戸惑いの言葉は聞こえるが、全体としては意味のある音には聞こえない。


「新たな戦と武技の巫女達、その位を得た事、祝着至極に存じます。それと、そちらの巫女アイリスは、初めてお会いさせて頂きますね。始まりの町、最古の教会を預かる司教、ロザリア。どうぞ今後ともお見知りおきを。」


運んだものが物であるだけに、ロザリアも殊更丁寧に。公としての態度でオユキ達を遇する。ロザリアの少し後方、そちらではメイが何やら味わい深い顔をしている。ファルコとリヒャルト他、見慣れた顔もまぁ、表情は様々だ。

そちらも確かに気にしながらも、改めてロザリアの振る舞いを見れば、確かに違う。

数度、数えるほどでしかないが、月と安息、そのれに仕える司祭とも、アナの振る舞いとも、身に着けている意匠にしても。得た功績と、奉る神、それが違うという事なのだろうが、やはり見覚えが無い。

位が違うから、それ以上に差があるそれも、後で聞けばいいだろうと、オユキはアイリスを促す。実際のやり取りはオユキが、主体として得た者が行うため、そういった分担になっている。

アイリスにしても、降臨祭に向けてある程度顔を売らなければならないのだから。


「既にご存知の事とお見受けいたします。改めてこの身はアイリス。有難くも、戦と武技の神より新たに位を頂し、金色の狐、秋と豊饒の神の使いたる獣に連なる者。未だ学び始めて日は浅く、頂いた位に恥じぬよう、そう務めるだけの至らぬ身。連なる神への敬意は有難く。しかしこの身にはどうぞお構いなきよう。」

「畏まりました。しかしながら、常の事を認めてこそ神々は位を下さるという物。さらには、こうして確かな証をこうしてお持ちいただいておりますれば。」

「受け取り、運ばせては頂いておりますが、此度はこちらの教会へ。そうかの神より確かに承っております。なればこそ、この確かな奇跡をもって認められているのは。」


そうして、アイリスが脇にずれるのに合わせて、オユキも道を空ける。示されたものが、改めて邪魔なく目に入るようにと。

そして、そちらは運んでいる者達も、当然心得ているとばかりに、前に進み出て来る。


「神々から下賜されし品は、確かに此処に。しかしながら私共は先にも申し上げたように、未だに不足が多く。如何にするのか、そちらについてはお任せすることに。故に、どうぞ、確かにお納め下さい。」

「勿論ですとも。しかしながら此度の事は、色々と準備が必要になります。今は、どうぞ神々のお姿、その前に。」

「承りました。」


直ぐにでも、その大方の予想とは裏腹に暫くかかるものであるらしい。であれば、それこそ祭りに合わせて、そうなるのだろう。


「巫女様方もお疲れのご様子。どうぞ頂いた物を正しく納めた後には、少し休まれるとよいでしょう。」


オユキとアイリスが、先を行くロザリアについて歩けば、そのような言葉がかけられる。勿論、後ろからはついて来ているものもいるが。群衆の整理については、すっかりと騎士と傭兵に任せきり。町には似合わぬ大きさの教会ではあるが、それでも今ついて来ている者達、その全てが入れるわけもない。座席については、それこそ貴族とその従者たちが順次埋めていくのだから。

以前は説教台のあった位置、そこが既にあけられ、代わりとばかりに運んできたものを据えるのだと分かる台が四方に置かれている。


「では、一先ずこちらに。」


そして、言われるがままに少年達、リオールを中心としてそれを運んでいた者たちが、そっと荷物を降ろす。それに合わせて大きく息をついているのは、やはり緊張も相応の物だったからであろう。

しかし、今はそちらに声を掛けず、視線と簡単な会釈でこちらで待っていた者達が労っている。

そして、その場から運んだものたちが離れれば、ロザリアが朗々と神々への感謝を謳いあげる。それに合わせて、オユキとアイリスもその前で巫女としての礼を取る。


「我らの知る歴史、それは長い物です。しかし確かに我らが歩んだ足跡、それは未だに短い物です。歩みを進め、それが定められた道、それを踏破する度に神々は確かな恩寵を。」


司教が語る言葉、その中にはオユキとしては聞き逃せない物が混じっている。

つまり、この世界にはその事実を知っている人間は確かにいるという事。以前異邦での事、それがこの世界の前進として存在している、それについて触れた時。

その場にいた物は、それを当然として流しているようではあったが、言葉が伝わっていないだけかと、オユキに確証は無かった。

しかし、この司教の言葉は、違う。それを明確に肯定している。


「この度、この最古の教会。そこを始めにと頂いた奇跡、それを伝えるのはやはり祭りの場。広く神々のお姿を、お言葉を、その機会が相応しいでしょう。」


ロザリア、この人物はこれがなにかも分かっていると、そうして言葉を紡いでいる。

ただ、それを語るのは、どうやら降臨祭の場で、と言う事らしい。つまり、しっかりと巫女としての仕事があるという訳だ。こちらの街、月と安息の巫女が、祭りの時には戻って来るらしいが。


「今は、皆も感謝を神々へ。」


言われた言葉に、改めてそれぞれが主として祀る神への印を切り、少しの間沈黙が場を支配する。

そして、司教が門の外、そちらへ向けて言葉を並べる。


「本日はこうして奇跡を授かった巫女達、場を整えるために労を担った者たちが、こうして確かな恩寵、その御前を。しかし、当教会はあらゆる教会と同じ。神々をに感謝を捧げる良き人々へ閉ざす門はありません。新たにこの恩寵を置く場、それが完成するまで、降臨祭の日まではこちらに置かせて頂く事となります。どうぞ、望まれるのでしたら、折に触れて。」


そこで一度言葉を切ってから、司教は続ける。


「ただ、当教会は明日からいきなり広がったりは致しませんから。」


そうして、茶目っ気を見せて、譲り合いの心を持ったうえでと、話を締める。

口上、こういった状況における振る舞い。それについてはオユキとアイリスと比べるべくもない。経験、それを存分に感じられるものである。

ただ、オユキは、勿論オユキ以外も。司教の言葉の節々、それが気になるものではあるのだが。


「では、巫女様がた、メイ様、トモエさんどうぞこちらへ。持祭、アナ、セシリア、アドリアーナ。あなた達も。他の方々は、申し訳ありませんが、別の部屋と、そうなりますが。」

「畏まりました。司教様、シェリアとアベル、リヒャルトについても。生憎と体調がすぐれず、身の回りを頼んでいることもあります。」

「リヒャルト様は、残念ながら。」


どうやら、明確な基準があるらしい。簡単に目配せを行おうとすれば、司教から簡単に手を振って止められる。


「町を守る壁と同じこと、それがあの門にも。」


つまり、知るべきではない情報があるという事らしいが、それこそリヒャルト、公爵の後を継ぐ者であれば。オユキがそう考えてリヒャルトの方を見るが、緩く首を振られる。

どうやら、後回しになっているらしい。いや、ダンジョン、その騒動。その時にメイの語った言葉を思い返せば、マリーア公爵領、そこも恐らく正式な引継ぎに失敗している。リース伯爵にしても。

身内であり、オユキ達も知己を得ている相手であれば、かつての時5公の内と言ういい方はしなかったのだろうから。

どうやら王都でオユキとトモエ、そのトロフィーをことのほか喜び、多いと感じるほどを確保したのは、ミズキリの語った内容。一定の金銭と魔石、その用意も考えての事であるらしい。メイについては、それこそ一連の騒動でしっかりとその権利を得ているのだろう。

上位者の判断として、シェリアとアベルに視線を向ければ、頷かれたためそれではとオユキも頷く。

先ほどから、巫女としての礼拝の姿勢、膝立ちで、腕を少し前に出し頭を下げる。そういった姿勢を相応の時間取っていたため、座って休めるのなら是非もない。

未だに開けられた門の外、群衆の目があるため運ばれるわけにもいかないのだから。

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