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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第425話 運搬

「パウ、もうちょっと低く持てそう。」

「ああ。」

「アン、もう少し横に、腕伸ばして持てそうか。」

「大丈夫、かな。わっと。」

「悪い。無理ならいい。前が見えないから歩きにくいってだけだ。」


トモエは手伝いを断られ、寧ろ大事な仕事があるからと、アベルと並んで列の先頭を歩くことになった。巫女と一番近しい立場、結果としてそれが並んでとなりますねと、オユキが楽し気に評したものだ。

言われたアベルとしては、保護者と配偶者が並んでも様にならないと返し、実年齢では彼を超えるアイリスの不興を買った物だが。

そして、先導の二人に続いて完全装備の騎士が並び、その後ろにはリオールと顔見知りの助祭、少年たちが互いに声を掛けながら、ゆっくりと大荷物を運んでいる。地につける事は許さぬとばかりに、互いに細かく声をかけ、慎重に進んでいる。大通り、その先に見える教会に向けて。

その背後には、町を治める者達の暮らす区画がある。大きな町と違って、壁で隔てられているようなものでもないが。そちら側も、この町を離れる前、忙しない日々で何度となくいくことになった物だ。

貴族の暮らす区画は、背後に森を、果樹を背負う形となっており、それこそ実に長閑な景観であったが。


「さて。」

「ああ。」


さて、なんだかんだと後続は賑やかだ。そして相応に派手な馬車に、騎士。目立つのが無理と、そういった一行だ。物見高く無くとも、なんだなんだと、道沿いに顔を出す者たちも出てくるという物だ。


「駐屯地からは。」

「メイの嬢ちゃんだ。気が回っていないのか、こっちが連絡すると考えてしまったか。」

「ゲラルドさんを借りてしまっていますからね。」

「公爵も伯爵も、そうしなきゃならんと判断したわけだ。嬢ちゃんには、それこそお前らが手を貸すと、考えているんだろうがな。」

「ゲラルドさんにオユキさんが言伝を頼みましたが。」


そのゲラルドは、結局戻ってきていない。それこそメイの方で、色々な準備と調整に奔走している事だろう。受け入れの準備が整っていない、それはどちらにとっても良い事では無いのだから。

そうして話している間にも、アベルが簡単な身振りを行えば、背後からの気配、その種類ががらりと変わる。勿論、トモエとオユキにしても相応に時間を使っている町だ。少年たちに至っては、言うまでもない。

それが重たいと、そう思える荷物を持って運んでいる、手伝いを申し出る者もいる。

現にトモエがアベルに声をかけた時、そこで近づこうとしていた相手の足が止まっている。要は、手出し無用、そういった意味合いも込めて、威圧が行われている。


「相変わらず、お見事ですね。」

「このあたりは、第三の領分なんだがな。」

「第二が騎兵、第四が魔物とは伺いましたが。」

「第一が防衛、第三が警備、第五が護衛、第六が雑用、と言うか便利屋だな。勿論領によって違いはあるが。」


アベルの簡潔な説明に、トモエは疑問を持ち、それをそのまま口にする。


「近衛と第五で役割が被っているようですが。」

「ああ、それか。近衛は個人が持つものだ。認定は無論国が行うが。第五は国外との交易、外交の随行が主体だ。」

「そうなると。」

「そっちは、まぁ、色々とあったからな。」


アベルが露骨に言葉を濁す。つまりここで話すなとそう言う事だと判断し、トモエも話題を変える。


「新居祝いと合わせて、お土産を振舞いたいものですが。」

「前の宿借りるほうが、早いんじゃねーか。新居って事なら、メイの嬢ちゃんを誘わなきゃならんし、気楽な場には流石にできんぞ。」

「そうなりますか。」

「その辺りは、オユキが考えて決めてそうなもんだがな。と言うか、主役が体調不良じゃ格好もつかんだろ。」


トモエとしても、それは当然懸念ではあるのだが。


「日が伸びると、気落ちしてしまいますから。」


オユキはそういった振る舞いを好んでいる。そして、そういった楽しみがあるからと、日々の面倒を抱える性質だ。暫くは様子を見るために先延ばし、そうしてしまえば理解はするだろうが、落ち込むだろう。

結果として、恐らく治るまでの期間、それも伸びるとトモエは踏んでいる。

マナ、肉体以外の者だ。それこそ過去多くの物語では、精神と結び付けられていた要素でもある。話を聞く限り、こちらでは物質に近い形で存在しているらしいが、物質ではないとも聞いているのだから。


「ま、楽しそうにしちゃいたからな。その辺り、なんか聞いてるか。」

「恐らく、まずは慰労会をと、そういうでしょうね。場を設けるのが難しそうなので、新居祝いとするかもしれませんが。」

「それなら、嬢ちゃんは労う側だ。あの家でやりゃ問題ないな。いや、料理か。」

「ええ。流石に。」


それこそ、本邸で暮らす予定の者達、その程度であれば時間はかかるがトモエでもどうにかなる。しかし道中の護衛を願った相手までとなると、無理だ。


「そういや、昨夜と今朝は。」

「どちらかから、調達していただいた物ですね。」


そもそも今の屋敷は門に近い。駐屯地で炊き出しも行っているのだ、そこから分けてもらう事も容易いだろう。調理場があれば、それこそトモエが作ってしまっても良いが。


「そうか。その辺りも後になってるか。」

「やむを得ないでしょうから。」


そもそも、気軽にという訳にもいかない。信頼のできる人物、他との繋がり、その考慮。そこまで踏まえての人選だ。そうでなければ、邸宅内に余人の耳が無い、そのような場所を設けるはずもない。

それを許さぬための人員として、既に近衛が置かれてはいるのだが。結局そちらは、そういう話だ。


「教会から、あのガキどもって訳にもいかないよな。」

「まぁ、難しいでしょう。」


特に二人については、どちらの道も求めると、そう言い切ったのだから。


「生憎、こっちにはそのあたりの伝手もないからな。」

「レジス候から、数人は先にと言う予想も聞いていますが。」

「ああ。そっちはもう決まってるが、鍛えてない人間を連れて来るには、相応に時間がかかる。」


そう言われてしまえば、トモエもどうしても難しい表情になる。急ぎの道行きと言うのは、身に染みているのだから。

話しながらも歩みを進めていれば、これまである程度滞在した他の二つの街、そことの違いというのも目立ってくる。ここには、やはりいない。明らかな差があると分かっていても、無策に突っ込んでくる、そういった手合いが。

ふらりと興味を惹かれて近づきそうになる、そんなものたちはいるにはいる。現在狩猟者としての訓練を受けている、そんな人間だが。それこそその面倒を見ている相手が、きっちりと止めている。

そちらは上手く回っているのだと安心できるが、同時に他との差がトモエにすら気になるという物だ。怪我人や死者、それはこちらでも過去相応に出ていると聞いているのだから。

つまり、それが許容できる相手には容赦がないのか、それこそ他の理由があるのか。そんな事をトモエがつらつらと考えているうちに、目的地も随分と近づいてくる。後ろからついてくる人数が、道中増え続けているため、振り返ることは出来ないが、すっかりと長い行列ができている事だろう。


「そういえば、到着後はどの様に。」

「流石に、このあたりの経験はないか。俺ら二人は残って馬車から二人が下りれば、左右に分かれて、だな。」

「こう、用件を伝えたりは。」

「それは先導じゃなくて、先触れの役割だな。」


生前では経験のしようのない物が、実に多いものだとトモエは頷く。向かう先では、既にメイがファルコとリヒャルトを伴って司教と並んでいる。そこから少し離れた場所では、一見してゆっくりと動いている、そういった人物ばかりだが。

結局こちらの代官は、メイがその役を得る前の人物とは顔を合せなかったが、この場にもいるのだろうか。そんな事を考えもするが、視線を動かすわけにもいかないトモエは、ただ変わらぬ速度で歩く。


「にしても、流石だな。」

「何がでしょう。」

「ここまで、まったく同じ速度で歩けるってのは、な。」

「ああ。それこそ、鍛錬の成果ですから。」


加護の無い部分で、トモエは早々こちらの人物に身体の制御という部分を譲る気はない。


「そういえば、結局話が纏まりませんでしたが。」

「人員の選別に手間取ってるからな、公爵が。」

「それこそ、イマノルさんとクララさんあたりかとも思ったのですが。」

「生憎、今はまだ家が別の派閥だ。」 

「そちらも、直ぐにとは成りませんか。ああ、だからオユキさんはしばらく休めると、そう考えているわけですね。」

「そのあたり、説明してそうなものと思ったが。」


生憎と、それをする時間があまり取れなかったというのが事実だ。道中は、オユキは周囲の観察や、話の整理、今後についてとどうしても時間を取られた。戻ってきたのは昨夜の事。多くの事が有ったため、細かい所までは話が及んでいない。


「昨夜は、一先ずの予定、それを話して終わりましたから。」

「次は、月と安息か。」

「いえ、知識と魔にしようと、そうなりました。」

「理由は、あるんだろうが。まぁ、喜ぶものは確かに多いな。手間は増えるが。」

「お手数かけます。その、月と安息の神域、そちらに出ると聞いてるものが、得意ではなくてですね。」

「ああ、それで事前に馬車の試しも含めてか。」


そう、もしも十分以上の居住性が確保でき、それこそ外を目にしなくてもと、そうできるのならばという物だ。


「後は、もう少し離れた距離からの手段が欲しいですね。」

「ま、近寄りたいもんじゃないわな。下手にさわりゃ、まずい事になる。」

「何故神のお膝元でそのような。」

「それこそ、目の前の相手に聞いてくれ。」


役目に従って、そこで口を互いに閉じる。教会についた。後は主役に場を譲って、先導は御終いと、そうするだけだ。

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