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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第422話 慌ただしさは朝から

もそもそと、どうした所で体の反応が鈍い為そうせざるを得ないのだが。オユキが食事を進めていれば、相応の時間が経つ。ようやく出された物を全て食べきり、用意されたお茶に口を付けながら、後の予定について話を進める。


「あちらの、この度の褒美として神々より頂いた物については、今日中に教会に。私が持つことは叶いませんので、そちらはお任せしますが。」

「畏まりました。リオール様から改めてお話を伺い、確かに。」


そもそも今のオユキ達の手持ちの馬車、それに載るような物では無い。人が運ばねばならないが、誰彼がという訳でも無いだろう。それこそ御言葉の小箱がそうであったように、オユキとアイリスに、箱自体は軽い為、そうあるべきかもしれない。しかし今のオユキでは叶わない。ともすれば、アイリスにしても。


「お手数かけますが、後で第二の方々と、傭兵ギルドへも。」

「ゲラルド様が、間違いなく行われている事でしょう。確認は、改めてさせて頂きますが。」

「司教様へ挨拶だけは、それもありますので。」


運搬は任せたとして、顔を出さないわけにもいかない。オユキにも相応の準備はいるし、町は広い。今の体調で歩くのは現実的ではない、そうオユキが断言できるほどに。


「準備は、カナリアさんを待ってからでも良いのではないかと。」


オユキとしては、面倒を片付けてから、そうとも考えているが。トモエは先に安全の確保を求める。そして、その辺りの手配は、やはり慣れた相手に任せるしかないと、判断を目線で求めれば、直ぐに帰ってくる。


「オユキ様が直ぐに、その必要も分かりませんから。教会への先触れ、それが戻ってからとするしかありません。」

「成程。彼の神より、如何に扱うか、それは司教様がご存知と伺いました。」

「畏まりました。私共が行えることは、間違いなく。どうかトモエ様もご安心頂けますよう。」

「心強いお言葉、真に有難く。今後も、側にいて頂けるときには、何かとお手を煩わせるでしょうが。」

「それも職務の内です。では、出た者が戻って来る、その間はどうぞこのままお休みを。」


これまでの上位者とは、また異なる判断基準。それに従ってシェリアは動く。聞いたところで答えは無いだろうが、さて王命の内容はと、そんな事をオユキは考える。伯爵家の子女、代官。それに対して王からの勅命を持つ者。なかなかパワーバランスの調整が難しそうだと。最終的な決定権は、近衛たちに有るのは変わりはないが。


「オユキさんは、横になりますか。」

「いえ、このままで。間もなくでしょうから。」

「カナリアさんですね。」


そう、優先順位、それを考えれば容赦はないだろう。ある程度事情をすでに知っている。国王に渡す試作、この度の成果をまず最初に得た人物だ。遠慮もないだろう。

そうして話していれば、食事に時間をかけたこともあり、ノックの音が響くという物だ。


「玄関まで、出迎えるべきでしたね。」

「いいえ、トモエ様。高位の相手であればそうしなければなりませんが。」

「そのあたりの作法も、覚えなければなりませんね。」


そこでシェリアがそのまま扉に近寄り、僅かに開けたそこで僅かにやり取りを行い、そのままオユキの側に控える。


「では、客間でしょうか、応接間でしょうか。向かいましょう。」

「応接間の用意は、申し訳ございませんが未だに。」


シェリアの言葉に、オユキはトモエに視線を向ける。今後も人を招くことは多い。寧ろオユキが療養を余儀なくされれば、招くことの方が増える。


「そちらは、一先ず急ぎで体裁だけ整えましょう。正式にと、そうできるのはそれこそ後から運ばれているものが届かなければ。」

「畏まりました、トモエ様。」

「それと、後程、改めて屋敷の間取りの案内をお願いします。屋敷を得た、それに合わせて招く人々もいますから。こちらでも、新居の挨拶などは。」

「はい、ございます。」

「であれば、用意の算段もあります、改めて。」

「そちらは、ゲラルド様と先に。」


どうやら、その辺りは侍女では無く執事の領分となるらしい。一先ずの予定が立ったこともあり、トモエが席を立ち、オユキを抱き上げる。屋敷の中、その程度なら歩いたところで問題は無いだろうが、オユキはトモエの好意に甘える事にする。周囲には、やはり己よりも強い人間が多い。そんな状況で身体に不調があるのだから、不安も募る。危害を加えない、それが分かっていたところで、安心に繋がるわけもないのだから。

王太子妃が疑った、その事実と何処までも同じだ。

あくまで、王の命令、それに従っているだけの相手が多い。それ以外はやはり別の命令系統で。

オユキにしても、トモエにしても。自宅、そう呼べる場所に迄持ち込みたいものではないが、今暫くは、この場とて政治力学の舞台でしかないのだから。その中でもまだ多少は気ごころの知れたアベルに、さっさと引き取ってもらいたいというのが、オユキの偽らざる本音ではある。

そうしたことを考えていれば、間もなく応接間にたどり着き、そこで何とも言えない表情で座っているカナリアと向かい合う。


「朝から、申し訳ありません。」

「いえ、お呼びとあれば、いつなりとも。」

「どうぞあまりかしこまらず。」


ここに来る、そのこと自体に選択肢は無かっただろう。それもあっての硬さだと、誰にも分かるものだ。


「オユキさんが、マナの枯渇だとか。」

「はい。そこでご縁のあるカナリアさんに、こうして足を運んでいただいたのですが。」


そうして話している間にも、カナリアが改めてオユキをじっくりと見た上で、首を振る。


「重度の物ですね。魔術は未だ扱えぬという事でしたが。」

「はい。どうにも巫女として、その流れの上で。」

「成程。神々の奇跡を願い、その対価としてですね。だからこそ、命に別状は無いようですが。」


どうにも事前の見立て通り、それに間違いはないらしい。


「こちらに入って来る時にも、神々の奇跡、そうとわかるものが有りましたが。」

「流石に、あの大きさの物は、隠せるものではありませんか。」

「魔術も使えない、保有マナを増やすための訓練もできない中、その結果かと。」

「はい、私の方でもそのように。」


他の原因については言及せず、オユキはカナリアに先を促す。


「回復させるには、やはり時間をかけるしかありません。食事から、大気から、己の物に。特にオユキさんは、この季節と言うのもあり、時間がかかるでしょう。」

「そういえば、以前試した折にオユキさんは、冬と眠り、でしたか。」

「はい、間もなく秋に季節が移るとはいえ、最も遠い季節ですから。」


そこからカナリアに簡単に説明を行われる。加工せず、自然状態で現れるマナ、その色が最も体に馴染んでいる状態なのだと。そして、それを己で操作できない、魔術を納めていない物であれば、時間に任せるしかないと。

そして、現状で生命維持に問題が無い以上、無理にマナを使わないのであれば、今後も問題は無いと、そう太鼓判が押される。その診断については、トモエとオユキよりも、周囲の護衛が安心を得る物ではあったが。


「補助的な物ではありますが、以前も行ったマナを探る瞑想ですね、あちらを行って頂くしか。」

「分かりました。ありがとうございます。」


カナリアの説明が終われば、トモエとオユキそろって礼を告げる。


「治療法は分かりました。カナリアさんの見立てでは。」

「半月は、かかるかと。最低限と呼べるところまで。」

「それは、保有量が多いからとか、そういう事でしょうか。」

「いいえ。先にもお話しさせて頂きましたが、冬が遠いので。」


時間に任せるしかない部分、それがどうした所でと言う事であるらしい。


「休む口実、それには良い物でしょう。流石にこの倦怠感が続くというのは、気が重くはありますが。」

「様子を見ながら出なければ断言はできませんが、数日で問題なく歩けるようにはなると思いますよ。」

「おや、そうなのですか。」

「はい。ですがくれぐれも武技の使用を行う事は無いように。」


言われて、そう言えばと。トモエにも、オユキにも、自覚はない物だが、武技でもそれを使うらしいという事を思い出す。


「となると、狩猟はトモエさんにお願いすることになりますか。」

「その、くれぐれもやめてくださいね。意識を失う状況によっては。」

「その先に石でもあれば、魔物との戦いの最中であれば。はい、心得ていますとも。」


近衛の方からも、それは許さぬと視線に圧が乗っているので、オユキは改めて口に出して置く。流石に、医師に止められている状況で、行うほどではない。軽度の怪我でも、少年たちを止めているのだ。それを言う本人が守らなければ、従えというのも難しい。


「改めて、朝からこうして診て頂き、ありがとうございます。」

「外傷ではありませんから、治癒の術はありません。あまりお役に立てず。」

「いえ、明確に回復の目安を教えて頂けた、治りを早くする知恵もお借りできましたから。」


一先ずは十分な成果でもある。そして、こうして話していれば、他に手を借りるべき相手も集まってくる。応接間の扉にノックが響き、カナリアがどうすればと、そのような様子を見せるがそのまま同席してもらう。

今後の予定を話すのに、オユキの体調、その話も必要であるし、あけられた扉から入ってくるアイリス、そちらの診察もあるのだから。


「アイリスさんも、かなり辛そうですね。」

「オユキよりはまし、まぁその程度ね。」


言葉通り、彼女はオユキと違って己の足で歩いている。ただその顔から疲労が簡単に見て取れる。

トモエからも、支払いが行われた。そしてそれが足りなければ、こちらで暮らし、魔術も存分に扱えるアイリス、そちらに対して、足りない物の補填は求められるものだ。本来の巫女、その役割を得る人物に。


「カナリアさん、お手数ですが。」

「枯渇程ではありませんが、過剰な使用で負荷がかかっているようですね。もう少し回復したら、改めて癒しの奇跡を。願う側だけだマナを使う訳ではありませんから。」

「手間をかけるわね、一日休めば、最低限は戻るわ。」

「では、明日改めて。」


そして、そちらが終われば全く違う理由で疲労を見せるアベルに視線を向ける。リオールは、恐らく教会へ先触れとして既に向かっているのだろう。

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