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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第421話 相応の脆さ

「オユキさん、大丈夫ですか。」


朝、いつもより遅い時間にオユキが目を覚ませば、直ぐに不安げなトモエに声をかけられる。


「正直、無理そうですね。」


先に起きたトモエが、日課を始めてしばらく。オユキは体を起こそうとして失敗した。ここまで全く自覚は無かったのだが、昨夜の事でそれも生まれ、そして無理もあったのだろう。

陸に体に力が入らず、体を起こすにもトモエの補助がいる、そういった有様だ。昨夜から明確なだるさはあった。旅の疲れも相まってと、オユキは考えていたが、それだけではない物、昨夜の事も併せて止めとなったらしい。


「私が後に回せばよかったのですが。」

「あの場でと、トモエさんがそう判断したのでしょうから。」


トモエがアイリスに言葉をかける、それを選んだのだ。オユキにしてみれば、指導という物をトモエに任せている以上、そこに何かを言えるはずもない。

症状、その原因は既に昨夜に伝えられたが、要は風邪、重度の疲労と同じ物であるらしい。未だによくわからぬマナとやら、この世界に満ちるそれを取り込み体に滋養を与えねば治らぬと言われてはいるが。

トモエの不安げな顔に、背中を支えられ、体を起こしてもらいながらオユキは言葉を続ける。


「マナをとのことでしたし、配慮も頂けるようです。恐らく、玄関に置かれたあの箱、あれが止めだったのでしょうね。」

「奇跡の対価、ですか。」

「はい。恐らく、いえ、間違いはないと思いますが、神々が何かを行うときに、私たちにその支払いを求める。実に理にかなっていますからね。私の物を、取って頂けますか。」


何をと言いはしないが、そうトモエに頼めば正しく求めた物をオユキの首からかけられる。王都、その大きな仕事の一つ、それに参加したことで得た、余剰の功績、それを示す器だ。これまでは複数の色が淡く入っていた首飾り、身につければ確かな色を持ったそれが、今は何も示さない。

要は、これまでの余剰では足りない部分を然りと支払ったという事だろう。


「大掛かりな奇跡です、この程度で済んだと、そういうべきなのでしょうね。」

「しかし。そうであるなら、私の方からもと思いますが。」

「恐らく、トモエさんとアイリスさんも。」


オユキがそう言えば、トモエも改めて身に着ける。そしてやはりそこからは色が抜けている。


「何とも。」

「厳しさ、それは何処まで行っても切り離せない、そういう事なのでしょうね。」


そうして話しながらも、オユキは深い疲労と感じる物に耐え切れず、そのまま体を倒す。

種族、未だにわからぬそれも関係があるのだろうが。なんにせよ回復には時間がかかる。マナ、恐らく日常すら補助するそれ。体躯に見合わぬ膂力、剣を振っても傷つかぬ掌。そういった細かいところに作用していたものが不足したのだ。ならば見た目相応、それ以下の物しか今のオユキには残るまい。


「一先ず今日の急ぎ、それを片付ければゆっくりとしましょうか。」

「後でカナリアさんにも。」

「そうですね、知恵を頂きましょう。」


知人の中では、確かにマナの扱いに、癒しの奇跡に造詣の深い人物の名前を出され、オユキも素直に頷く。


「トモエさん。」

「大丈夫、なのですよね。」

「はい。こうして話すのも、少々だるさは覚えますが、その程度と言えば、その程度ですから。」


トモエがオユキの見た目に込めた物。それはオユキとて理解している。だからこそ、今のオユキの状態を不安に思う、それは想像に容易い。ただ、こちらではそこで無理を望む人間もおらず、それをさせないための人員も既に配置されている。どうした所で、教会に運ばなければならないものが有るため、そればかりはこなさなければならないが。寧ろ巫女、それが祭事以外では教会の表に出ていないことを考えれば、確かな理解もある物だろう。


「人を呼んで頂けますか。アイリスさんのこともありますし。」

「分かりました。しかし、くれぐれも。」

「ええ。配慮は頂きますとも。」


寧ろオユキがなにを言わずとも、付けられた近衛は下にも置かぬ、そういった対応を行いそうなものだが。

トモエがやはり暗い表情のまま、部屋の扉を開け、そこで待機していた相手に声をかければ、すわ何事かと、賑やかな事になる。シェリア、彼女にとっては王家からの正式な命令の中に、オユキの事も含まれているに違いなく。それこそ何かあれば、冗談で済まないのだろう。

身体を起こせぬままに、簡単な問診を終えれば、シェリアの手によって、そのまま身形を簡単に整えられ、直ぐに食卓に運ばれる。その間、オユキが己の足で歩くことは無い。それほどの事ではあるのだ。

特に彼女は、彼女に限らず今この屋敷にいる者、その一部は新たに得る大掛かりな奇跡、それを聞いてもいる。そしてそれを果たすのにオユキの存在が必要と、そう認識しているのだろうから。


「オユキ様、お食事は。」

「疲労もあります、食欲があるとは言えませんが。」

「オユキさん、食べなければ治る物でもありませんよ。」

「軽いものであれば、有難いのですが。」


一先ずとばかりに用意された飲み物に手を付けながら、のんびりと話す。オユキは座るにしても、しっかりと背もたれに体重を預けながらとなる。作法として問題はあるが、それを咎められはしない。どうやら、かつての世界よりも、人を重視する文化であるらしいと、トモエとオユキはそれぞれに喜ぶものだが。


「ゲラルドさん、アイリスさんと、リオール様、教会にそれぞれ連絡を。私が運ぶことは出来ませんから。」

「畏まりました。シェリア、この場は任せます。それとラズリア、書状は私が用意するので、アイリス様とリース伯爵子女へ。」


簡単に指針を示せば、直ぐに具体的な行動が返ってくる。旅の間にも色々と予定を詰めただけあって、ゲラルドとの連携はそれなりに形になっている。


「それと、申し訳ありませんが、カナリアさんへも。」


名前の挙がらなかった相手をトモエが告げれば、訝し気な視線がゲラルドから向けられる。あの箱の中身に関係があるのかと、そういう事だろうが。


「いえ、私の体調不良ですが、マナの不足が原因だと彼の神よりお言葉を頂いています。」

「成程、それで魔術師のカナリア様ですか。それは、正式な仕事として望んだ方が。」

「ああ、成程。一先ず、正式な依頼として、オユキさんを診て頂きましょう。生憎私たちはマナの何たるかを未だにつかめておりませんから。」

「畏まりました、ラズリア、カナリア様の元へも向かってくれ。側仕えとしての所感も伝えてくれ。」

「畏まりました。」


その言葉にトモエは改めて気が付き、話を振る。


「侍女としての振る舞いを取って頂いている中、不躾ではありますが。近衛として、オユキさまの現状は。」


近衛、その役を得たのだ。門番でも魔術は必須、騎士にしても。ならばそれが使えない事もないだろうと、トモエが水を向ければ、直ぐに答えが返ってくる。


「多分に感覚的な物ですし、専業の方に比べるとどうしても劣るでしょうが、ほぼ枯渇しているように見受けられます。」

「それは、どのような問題が。」

「マナの枯渇は、最悪命を奪います。軽度な物で意識を失う、そのようにご理解ください。」


断言に、オユキはくらりと、視界が揺れる。トモエにしてもより一層不安を表に出し、ゲラルドも天を仰ぐ。その様子から、ゲラルドも魔術は不得手であるらしい。


「大気から出足りないのであれば、やはり食事も。専門家の手助けも必要となるでしょう。」

「シェリア様。」

「様は不要です。ゲラルド様、差し出口ですが。」

「私も魔術は扱えぬ身です、そちらの方面では、今後も意見を求めましょう。トモエ様、オユキ様、申し訳ございません、先に手配を行ってまいります。この場の事は、シェリア、貴女に任せます。」


そう告げると、トモエの返事を待たずに直ぐにゲラルドがラズリアを連れて、部屋を出ていく。


「お手数を。」

「いいえ、オユキ様。我らに確かな神の恩恵を届けるため、その為に御身に負担がかかったのです。どうか私どもで出来る事は、私どもに。」

「ありがとうございます。暫くは、お休みを頂く事になりそうです。」

「畏まりました。どうぞご自愛くださいませ。」


そうして話していれば、食事も用意され、運ばれてくる。常以上にのろのろと、どうしても体の反応が鈍い為オユキはそうなるが、口に運ぶ。この短い間でも、様子を見た上で考えられたのだろう。肉類は最低限に、オユキが食べやすいと感じている野菜や果物を主体に、用意されている。

始まりの町でも、北側、これまで訪れた事が無い場所にあると、そう聞いた物を直ぐに用意してもらえているのは、実に有難い事だと、そう思いながらも口に運ぶ。


「改めて、今の己が見た目通り、そう感じる物ですね。」

「あの子たちもそうですが、私たちの知る物と比べると幼く感じますが。」

「恐らく、寿命の差なのでしょう。」


シグルド達だけでなく、ティファニア達、ファルコにしても実年齢と比べればそれが目立つ。


「成程。シェリア様。こちらの一般的な人種の年齢と言うのは。」

「加護の度合いにも寄りますが、100年から150年程でしょうか。」


単純に1.5倍程度。それを考えれば納得も行くという物だ。

肉体、物理的なそれだけでなく、魂、マナ、それらの成熟も必要になってくるのだから。そして、そのどちらもきっちりと心の在り様に影響を与えるのだろう。領都、そこで見たああいった手合いの存在が示すように。


「私も、十分なマナが常に確保できれば、体の成長も見込めるのでしょうか。」


オユキがぽつりと、ぼんやりとした思考をそのまま口に出せば、しかし誰からも肯定は無い。

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