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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第420話 そして夢の中

「流石に疲労もあるだろうからな。」


予想通り、若しくはいつものように。

何時しか意識の意図を手放してしまえば、こうして白い世界で目を覚ます。

言われた言葉に、オユキも改めて自覚がある。体が重い。それもはっきりと分るほどに。


「巫女の回復には、時間がかかる。それだけの代償を求める故な。」


客間とて直ぐに全てを用意できるはずもなく。アイリスにしても、宿を引き払うために荷物を纏める手間もある。今日は別と、そうなっていたが、やはり彼女もこの場にはいる物だ。

そして、こちらでは以前当たり前のように町の外、そこに影を伸ばしたもう一柱がいない事を考えれば、常の時には自覚が無いとしても、限界値が見えているという事なのだと、そう納得する。


「恐れながら、回復の為助言を頂ければと。」


トモエはオユキの様子を一瞥し、戦と武技に直ぐに尋ねる。オユキの方では隠せないほどには酷いものなのだから。


「マナを取り込んで、ゆっくりと体に行き渡らせるしか無いわよ。」

「うむ。」


ただし、答えはアイリスから。


「行き渡らせる、ですか。」

「食事と同じよ。一度にすぐ食べて、それで回復できる程都合がよくないわよ。その様子だと、半月くらいかしら。」

「日々に支障は。」

「向こうだと、無いでしょうね。これを期にあなた達も、少しはマナに馴染みなさい。」


色々と吹っ切れたのか、これまでは問われるまで何も口にしなかったアイリスが、この場で楽な風情で話す。旅の中、馬車に放り込まれている間、色々と思索の時間があった。そこで一つの決着を見たのだろう、彼女の中で。

道中、やはり鍛錬として肩を並べる事はあった。そこでも、トモエから見ても目覚ましい、そう言えるだけの変化があったのだから。生憎と練習用の得物が無い為、刃を交わすことは無かったが。


「生憎と、未だによくわからないのですが。失礼致しました。些事に御身の時間を頂きました。」

「些事などである物か。こうも我らが気軽に愛し子たちと触れ合えるのだ。喜び、その負担を強いている、自覚はあるとも。いや、話が逸れたな。やはりこうしている間も、相応に負荷を与えておる。手早く済まそう。」


そういって戦と武技の神が、改めて居住まいを正す。この柱にしては珍しく、地面に、いつでも武器を抜けるように、そのような姿勢ではない。重厚な椅子、装飾の少ない玉座に座り、手に持つ剣の半ばまでを地に埋め、柄に手を置いたうえで語りだす。


「先の機会では、時間が無かった。あの機会でしか、声を掛けられぬ相手がいたからな。」


こちらの世界、神は確かに近い。寄り添っていると分かる。しかし、それでも遠い。


「いえ。御身らの労を願ったのは。」

「その方の予想通り、そうなると、そのような心算があったのも事実。なんにせよ、よくぞ我の与えた使命、それを果たして見せた。」


改めて称賛を神から頂き、三人そろって頭を下げる。


「困難もあった、その方らにしても、手の抜き用もあっただろう。しかし見事に示した。」

「お褒めの言葉、真に有難く。」

「特にトモエとオユキ、その方らも未だ馴染まず、不測のある中で技、その道の先を確かに示した。改めて、その意味を考えたものが多い。その事実は我が剣の輝き、それをもって事実と知るがよい。」


未だ弱弱しくはあるが、言われて目を向ければ、確かに薄い光を剣が放つ。周囲が白く輝く空間、目を凝らし、言われなければ、気が付けもしない程度でしかないが。それでも確かに光が灯っている。信仰、その果てに生まれ力を得た存在。だからこそ、その変化は確かな成果として分かりやすい。


「ですが、神よ。」

「分かっておる。しかし、それを示すにはその方らでは足りぬ。」


加護も含めた能力、それはこの三人では示すことができない。アベルどころか、団で中ほど、かつてそう語ったイマノルにすら及ばない。その後輩、クララにすら。始まりの町、そこで比べたところで、ルイス、アベル、アーサー。壁はあまりに分厚く高い。外まで見れば、どれほどか。

既に近場では加護が得られぬ、それほどの戦闘を積み上げた人々と言うのは。


「ええ。今は及びません。あくまで加護の無い場であれば、それは重々承知。」

「オユキ。それでも、貴女の耳には届かなったのでしょうけど。」

「何を言ったのか、その程度の予想は付きますとも。」


それは、かつての彼女の嘆き、その言葉の中に。


「以前、オユキさんが話した時には、ルイスさんも居ましたから。良いですか、源流の言葉として、確かにそれが後にも継がれたものとして、その流れをくむ技を修める者としてお聞きなさい。」


そこで言葉を切り、一度トモエがオユキを見る。ただ、それには頷いて返すしかない。皆伝として、本質を語るのであれば、場を選ばねばならない。誰彼となく利かせていい物では無い。ただ、それをアイリスにと言うのは、オユキとしても意外ではあるが。


「武器を扱う、技を修める。どうしたところで、それを扱う体、操る技にばかり目が行くでしょう。」


そうトモエが語る事を許された言葉は、オユキとは違う。

オユキがかつて伝えたのは、同じく迷った折に師からかけられた言葉。未だ目録も得ていない、そんな時に掛けられた言葉でしかない。


「しかし、武の始まり、それは心にあるのです。」


いいながら、変わらず望めば当然とばかりに腰につるされた太刀を座ったまま一息に抜き放ち、掲げてトモエが続ける。


「如何に戦うか、その意思なくば工夫は生じません。如何に動くのか、その問いが無ければ型も、理合いも。足りぬと、先を目指すと、その意思なくば、体を鍛える事も無いのです。現状で十分、その心を持てば、先を求める意味はありませんから。」


そうして歩いた先、惰性になることはあったとしても、はじめの一歩は確かな意思、心があり踏み出すものだ。


「故に心技体、心が先に有り、技、工夫、結果として体が。」


印可、その手前まで来た時に、オユキもそのような話を改めてされた。そして納めた技が足りないこともさる事ながら、その理念を体現するに足りないから、そこから先に進めずにいた。

どうしたところで、オユキのそれはこの世界の前身と、トモエでしかなかったのだから。

形が変わり、今改めて己の在り方に向き合い、トモエに並ぶことを選んだオユキ。だからトモエは改めて印状を目指すのかと聞き、道を選ぶ時と、そうオユキに話すのだ。


「なればこそ、我らはただ示すのです。我らの心、それを何処までも映すこの刃をもって。」

「心が、先。」

「今のアイリスさんは、確かにそれが見えます。しかしくすんだ心は刃を曇らせます。心が折れれば、畏れる必要もない折れた刃となります。」


そして、その結果、果ての一つとして、武器こそ己と。そう思うトモエの集中、その発露の形が生まれている。


「足りぬから、なんだと言うのです。今は敵わぬから、どうしたというのですか。今の貴方は改めてその刃に向き合って、あの少年達ほどの時間すら使っていないというのに。」

「耳が、痛いわね。」

「まず、決める。そして行うのです。途中でやめるのも、他の道を探すのも問題などありません。ただ、確固たる己、それを映す刃が曇る、それがある限り如何なる武器であろうとも、途端に鈍らに成り下がります。」


だから、トモエとオユキはアイリスを恐れない。負けないと、そう言い切ることができる。アベルは確固たる信念がその刃を支えている。イマノルにしても、迷い、ぶれはあるのだろうが、それでも確かな輝きがある。


「そう、ね。今回の事で、私も確かに掴めた気がしたもの。」


相対したアイリスは、トモエにあしらうだけ、それ以上の選択をさせるだけの者であったのだから。


「私の、ハヤト様の源流。オユキが言った言葉。一刀、一振りで全てを。」

「はい。そちらの先を求めるのであれば、どうぞそれを芯に。」


そこまで話して、トモエは改めて太刀を収める。そして心配げな視線をオユキに送って、戦と武技に軽く頭を下げる。


「何、構わぬとも。以前にも語ったが、我が道は多く、深い。そして未だに道なき道も多い。そこを歩くというのであれば、己の道、それを己が心で照らすしかないのだ。我が剣、今はか弱い光が、確かにこうして宿っているようにな。」

「御言葉、確かに。」

「さて、話を突然変える事となるが。」


そういって、戦と武技の神が咳ばらいを一つして、話を続ける。オユキの方でも、いよいよ体の重さどころでは無い、そんな負荷を感じ始めている。


「故に手短に。この度その方らに与えた門、それを如何に扱うかはロザリアが知っておる。」

「はい。」

「まずは、間違いなく運ぶがよい。整うのは先の事だがな。それこそ求めれば、あの者が語るであろう。本題は、そちらではない。改めてこの度の事に対する、我からの褒美だな。」


そこまで聞いた時に、オユキの体が揺れ、トモエが慌ててそれを支える。


「今暫くは、確かに休むがよい。褒美、それはこの度の祭り、それが終わった折に改めて我の神像の前に置こう。門の片側、それだけでもかなりの負担であったのだからな。

 その褒美を手に入れた折には、存分に研鑽を積むがよい。隠さねばならぬ技、知られてはならぬ理、それもまた多い。」


この場でしか、トモエが口に出さない事が有るように。少年達にも、構えの先には伝えなければならない事が有るのだ。理合いを。流派の核となる理、技とその理念を。

改めてそれぞれに礼を述べようかと思えば、それを不要とでもいうよに戦と武技の神が手を振る。そして、それがこの夢の終わりの合図となる。

夢と、そう断ずるには現世利益が有りすぎるのだが。

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