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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第416話 ようやく

「なんか、随分久しぶりな気がするな。」


広い草原。目の前には比べてしまえば、やはり低く不足を感じる壁。そして、首を回せば森。全体としては、確かに見慣れた配置ではある物の、やはりどこか懐かしさを感じる風景が目の前に広がっている。河沿いの町からは、のんびりとした歩みで戻ってきた。これまでの道とはまたわずかに異なる、河沿いを魔物の相手をしながら。

今は大きな溜め池、それを超えて見慣れた位置まで移動し、先に門を超えるべき相手の手続きが済むのを、のんびりと待っている。


「都合、二カ月半といったところでしょうか。」

「そう聞くと、短く感じますね。」

「ああ。だが、その間にも大きく変わる物だ。」


パウがそうしみじみと、年に似合わぬ感情を乗せて呟くように、町の外、門の外にはちょっとした駐屯地のような物が出来ている。門にしても手が加えられ、二重構造。しっかりとした石壁に覆われているわけでもなく、縄と盛り土によるものだが。それが別の区画にも伸び、囲いの中に追い込まれた魔物を、どうにかといった様子で狩っている者たちがいる。

後進の育成、得られる加護による、単純な個人の作業能力の増加。そういった物を見込んでとはわかるが、門を守る者達には、負担も大きいだろうに。そして、道中魔物の配置もやはり変わっている。

河沿い、溜め池の周囲、やはりそちらには河沿いの町で散々美味しくいただいた蟹が。森の外、町からは少し離れているが、草原にも鹿の姿があった。

拠点、その強化度合い。実際には何が要因かは分かるものでもないのだろうが、手を入れれば、周囲の厳しさもやはり増す物らしい。


「河からはまだ細い支流があるだけでしたが、町中は用水路が出来ているのでしょうか。」

「あー、水汲みが楽になるから有難いけどな。井戸だと一気にって訳にもいかないし。」

「その辺りも少し楽しみですね。」


そうして、変わる町をどこか惜しみながらも楽しみに、そういった話し合いをする傍らでオユキはオユキで確認すべきことを行う。

公爵とも短い時間、一日に満たない時間でしかなかったが、あれこれと話、預かった書簡も多い。

オユキがしなければならない事、それも相応にありはするが、頼めば待つ、それが主体であるため数日の忙しさで終わる物だが、監督と報告、こればかりは避けようもない。


「一先ず、客間ですね、そちらの用意を。」

「心得ております。客人については、アイリス様、カナリア様、リオール様。こちら三名でお間違いは。」


執事、恐らくそのまま長が後につくのだろうが、その人員としてゲラルドが供出された。公爵、伯爵、どちらからも覚えがめでたく、経験が豊富。彼以外にそういった人員がおらず、メイから取り上げる形になった。それについてはオユキとしても申し訳なく思うが、彼以外に都合のいい人物がいないと言われれば、確かにと納得するものでもある。


「リオール様は、ロザリア様との話によっては、教会に。」

「畏まりました。近衛と第二こちらは。」

「当人に確認を取りましたが、近衛の方は侍女と護衛を、騎士の方も厩舎の管理と護衛、それを行って頂けるとのことです。」

「では、そのように。家宰と近侍は後程との事ですが。」

「そちらは、リース伯爵子女にお願いすることになります。」


ゲラルドが確認の体で聞いては来るが、オユキ等よりも遥かに内情に詳しいでしょうと、そう返す。


「さて、今日と明日は流石に体を休めるとして、翌日以降まずはリオール様と教会へ。」

「調度の類が最低限しか。そちらは。」

「トモエさんに。本来であれば私がと、そう分かってはいるのですが。」


調度、家を整える。それがオユキの仕事になるとそれは分かっているのだが。


「そういった事例が無いわけでもありません。公爵家当主を女性が務められることもありましたから。」

「それで、マリーア、ですか。」

「はい。初代マリーア公爵は女性でした。トモエ様は旦那様と、そのように。」


どうしたところで外とのやり取りが多く、位も分かりやすく高いオユキを主人とする。そういう事であるらしい。対外的には、その方が分かりやすいのだろうが、そうとも行かない事情がある。

ゲラルドが見落としているとも思えない、そう考えながらもオユキとしては訂正する。


「トモエさんはトモエさんで、武門としての物が。」


オユキがそう告げれば、ゲラルドが天を仰ぐ。この人物にしては珍しい仕草だが、要はそこまで明確に失態、そう思うほどという事だ。


「互いに忙しい、それは理解していますから。」

「お心遣いには、感謝を。」

「一応、外向きは私が取りまとめを行いますが、トモエさんの判断を仰ぐべき事柄もあります。手が足りない、その間は無理をお願いもするでしょうが。」

「お嬢様、失礼いたしました、リース伯爵子女には、早めにお願いしなければ。」


流石に、業務過多と言う事らしい。まぁ、それはオユキにしても容易く分かるが。トモエとオユキ、それがこちらの世界に合わせて考えた際、不足が出る。それを補うための、そちらを優先として配置されているのだから。

要はゲラルドに求められるのは、上意下達の仕事ばかりではなく、主人の意向を察するばかりではなく。実に忙しい事だろう。

本来であれば家の長、オユキとトモエがしなければいけない事、それすらも彼の業務になるのだから。

知らないからできない、それ以上に、トモエにしても、オユキにしても、庇護者から求められる別の業務があり、そちらに向くため、手が回らない、それが理由なのだが。それもあって以前アベルが直ぐに必要な身の回りの人員、それを並べたのだろうが。

自分の事が自分で出来ない、そう見る相手もいるだろうが、そもそも任される仕事、それが個人で行う物では無い。


「トモエさんは、暫くの間こちらで新人を見る事になるでしょう。まず家の中を整える、それについてはトモエさんに。」

「畏まりました。」

「それから、そうですね。」


いおうと考え、僅かに逡巡もあるが。直ぐにゲラルドも巻き込むと決める。


「ミズキリとの話し合い、これについては最優先です。」

「概要は聞き及んでいますが。」

「ミズキリの組んだ予定、そこに含まれている人員。その中には、私の補佐に慣れ方もいるでしょうから。」


そう、過去の一団は会社のほぼ初期、メンバーで固まっていたのだ。要はバックオフィス担当もいる。これが前倒しの計画であるなら、やはり個人の負担が過剰であることに変わりはない。

恐らく降臨祭、そこに合わせてとなるだろうが、見知った顔も増えることも予想は出来る。ただ、思い当たる顔は少々癖の強い顔ぶれということもあるが。

トモエも勿論面識があるため、話は早いだろうがゲラルドどころでは無いのだ。今のように、狩猟者ギルドへ収める物品、公爵家との関係性、教会との認識、それから王家。どれもこれも互いに明言していない、今後の変化を考えて避けているというところもあるが、それでも最低限は、予算の区分は、日程の調整、顧客の優先度処理。それこそ徹底的に詰められるだろう。

半数、そのうちの何人かもミズキリに聞かなければ分からないが、オユキとしても来るなら、頼めるなら頼みたい。


「私はどうしても、公に立つと決めた以上忙しい時期に、私も忙しい、そうなりますから。トモエさんにしても。」


そして、最も厄介な事として、為政者として忙しい時期、それは得た役割が忙しい時期でもあるのだ。判断を求められたところで、遅れる事が増える。それどころか、出向して戻れない事も。

そんな人間を支えるには、人手が足りない。

近衛はオユキとアイリスに随伴し、侍女はいなくなる。騎士団にしても、定期的な入れ替えがあるのが前提だ。家の人員ではない。


「では、その人物に執事を。」

「いえ、異邦の者ですから。実務は頼めるでしょうが。」


オユキが即座に断ずれば、再びゲラルドが天を仰ぐ。一先ず、申し訳なくは思うが、そちらは置いておき近衛に話しかける。


「皆様の立場は理解していますが、家中の事についてはトモエさんに。」

「畏まりました。ただ、私どもについても。」

「そちらは間取りを確認し、改めて。」


騎士団は、内外を隔てる護衛。近衛は内側での護衛。その区分があるため、近衛の職務についてはオユキとしてもこの場でという訳にはいかない。

異邦であれば、それこそ間取りなど事前に渡されるが、こちらではそうでは無いのだから。


「大まかな作りは伺っていますが、それこそ確認しなければ分からない事も多いでしょう。そちらについての優先権は家宰を頼むゲラルド様では無く、皆さまに。」

「御心配りを頂、ありがとうございます。その、オユキ様とトモエ様ですが。」


侍女としても働く以上、聞きたいことも分かるのだが。


「正直なところ、未だにはっきりと決まっていません。」


そもそもトモエとオユキの目的がある。そしてそれを果たすには、国外に行くことが必須だ。

ならば、相応の理由付け、肩書きも必要となる。公爵にはすでに話、王太子妃経由で王家に言葉も届けてはいるが、実際の形が分かるのは祭りの後だ。


「口外はやはり禁じます、先に手紙を送ったのを確認して頂いたと思いますが。」

「はい。主の決定が無いうちは、私たちがそれを口に出すことはありません。」


まだそちらについては返答はないが、それこそ距離が近くなればと、求められることもあるだろう。

何とも、決まらぬことが多い事ではあるが。


「こればかりは、私たちが決められる事でもありません。勿論要望は伝えますが、判断を仰ぐ立場ですから。」


そして、あまりに大きく条件が変われば、色々と合わせて変わるという物だ。

公爵に他のみ送られた書簡、恐らくは拠点間の通信を叶えるものとして、すでに届いてはいるだろう。

返答については近々メイから渡されもするのだろうが。その辺りも含めて、話してもいい相手、そうでは無い相手、その区別もオユキには未だに難しい。

分からぬことがやはり多い中、相応の振る舞いが求められる。ならば、今使える時間については、その辺りに使いたいという物だ。


「一先ず、猶予は確保できたわけですから、これを機会に整えましょう。色々と。」


だから、今はそれしかオユキが言えることは無いのだが。

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ツギクルバナー アルファポリス
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