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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
12章 大仕事の後には
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第414話 実装までに

トモエとオユキとしては初めて目にする様子ではある。ただ、周囲から動揺が見られないという事は、良く知られているのだろう。そう納得する。

眼前では、カナリアが椅子に座ったままでよかった、そう言わんばかりに大きく姿勢を崩し、護衛が当然のようにそれを支えている。関連知識が合わせてとなれば、確かに情報量は多いだろう。そうなるのも、理解の及ばない事ではない。ただ、予測がつかない、それほどの物であった。それがむしろ気がかりではあるのだが。


「無理をお願いしてしまいましたか。」

「いいえ、そのような事は。」


補助を受けて、改めて椅子に座りなおすカナリアに、オユキから声をかける。


「お恥ずかしい所をお見せしました。」

「生憎と物を知らぬ身の上です。寧ろ、無理なお願いをしたものかと。」

「お心遣いは有難いのですが、私の研鑽が十分であれば、このような事にはなりませんでしたから。」


魔術を得る、その負荷についてはどうやらそのような物であるらしい。


「身の回りで試した方が得られなかった、それがカナリアさんには出来たわけですから。」


そうして話している間にも、カナリアは数度頭を振る。離れた席にいるイリアにしても、少々不安げな面持ちではある。気が付いたカナリアの方でも、軽く身振りでそちらに問題が無い、そう示したうえで改めて居住まいを正す。


「先にもお話ししましたが、私どもの旅の一助として授かりました。勿論、それは広くこの世界で共有されていくべきものでしょうが。」

「はい。未だに一部については扱えませんが、大枠としては実に多くの人々が喜ぶものでしょう。」


カナリアの言葉に、オユキとしては引っかかりを覚える。一部は分からない。文章がいくつかに別れていることに起因するのだろうが。それでもカナリアは明言したのだ。ならば。


「そういうこともあるのでしょう。神々はただ人を助ける事は無く、試練を伴う。私はそう理解していますから。」

「はい。与えられた新たな文字、魔術の仕組み。必ずや使えるように、一層の研鑽を。」


巫女の作法、その一環として習った知識と魔、その神の聖印をカナリアが切るのを見て、オユキは続ける。


「しかしながら、既に判明している箇所、それだけでも助けになるとのことですが。」

「はい。」


カナリアが自信をもって頷き、続けようとするのをオユキはただ掌を相手に立てて見せ、それを止める。


「申し訳ございませんが、今はお伺いできません。」

「それは。」

「私どもは、現在公爵様の庇護下にあります。」


オユキの言葉に、しかし理解は得られない物であるらしい。非常に不思議そうな表情が返ってくる。それこそ、この場で理由を説明するべきことでもないため、オユキとしては、護衛を見るしかない。


「カナリア様、失礼を。」


護衛という名の近衛が、手首につける装飾を示し、カナリアの側に寄れば、彼女の方でもようやくわかったらしく。途端に緊張していると分かる様子で、何度も頷く。そしてオユキ達にも聞こえぬように、近衛から説明が行われる。最も、それは公爵に配慮した物では無く、王家に配慮した物だろうが。

こればかりは、オユキに不足があった故の事であるため、致し方ない。

試作、最初の完成品。それは王家に納めると決めていることもある。その辺りの流れ、優先されるべきところが何処か。その情報を迂闊に漏らせばどうなるか、その辺りの説明が行われているだろう。

徐々に青みを帯びるカナリアの表情を見ながら、オユキは当たりを付ける。


「出会ったときは、そこらの狩猟者って感じだったんだけどねぇ。」

「ええ、私もそう思っていたわよ。」

「いや、アイリス、あんたもさね。祭りの手配をっていう事は、祖霊役の巫女だろう。」

「そう、らしいのよね。」

「狐で金だし、あんたの方は知識はありそうなもんだけど。」

「まぁ、随分と時間はかかったけれど、部族の物は修めてるわよ。ただ。」

「他の部族までは、そりゃ無理だろうさ。」


カナリアへの説明が終わり、何やらいくつかの受け答えを行っている間。用意された飲み物に口を付けながら、聞こえる会話にただ耳を傾ける。アイリスの方でも、色々と手がいる事になりそうだ。祖霊を敬う祭り、それこそ神社の物、自然信仰に近い物だろうが。


「困りましたね。降臨祭にも興味がありますし、アイリスさんが用意するものも見てみたいのですが。」


そして、トモエが思わずといった調子で零す。


「残念ではありますが。」


流石に同じ場所でと言うのは難しいだろう。そう考えているという事を、オユキはやんわりとトモエに伝える。


「理解は出来ます。ただ、場所の都合もあり、別日になればよいなと。そんな事を考えてしまいまして。」

「どうなのでしょうか。言われてみれば確かにとは思いますが、日付に意味があるのであれば。」


良く知る祭りにしても、日程に幅がある物、特定の日付に重きを置くもの、色々ある。それにしても、元の暦が違ってと、そういった理屈はわかるのだが、こちらは暦が変わるような出来事もない。

そもそも季節が神の名を冠しているのだ、変えようもないだろう。そもそも天動説が正しい世界であり、地域によって気候や日照時間も当たり前のように変わるのだ。太陽、恒星を主体とするどちらも意味のある物では無い。


「となると、難しそうですね。」


トモエが残念そうにするため、オユキとしてもどうにかと、そんな事を考えてしまうが。ではそんな異邦人の為に。それこそ強権を振りかざせば押し通せそうなものではあるが、それはオユキの望む振る舞いではない。なので今回はトモエに諦めて貰う他ないと、そうオユキは振舞う。


「そもそも始まりの町では、執り行われなかったものです。ご縁が無かった、そう言うしかない物でしょう。木々と狩猟の神、彼の神の神殿はあちらにありますので、日程を合わせて、そうするしかないでしょう。」

「そうですね。それにしても、以前は距離を聞いただけで、どの国か、そこまで話を求めませんでしたね。」


言われてオユキもそういえば説明していなかったと思い当たる。だが、それを説明するよりも先に、今は侍女として振舞っているタルヤから話しかけられる。


「巫女様、降臨祭については、主祭がありその前後も同じく祭りの期間となります。」

「おや、そのような。」

「初めて使徒様がこちらの世界に足をお運び頂いた五日間、それを祝う祭りですから。」


そうであるなら、恐らく始まりと、終わり。お盆と同じようにそれぞれにあり、中日で一度、そのような物なのだろう。


「説明を頂き有難う御座います。では、アイリスさんの。」

「あちらの降臨祭も同じ日程ですね。祖霊を降ろす、そちらについては調整が行われるものかと。」

「成程。だそうです、トモエさん。」


どうやら、無理筋な話という訳では無く、実現可能な範囲の事であるらしい。ならば、その偶然は、配慮は喜ぶべきものでしかない。


「しかし。」


さて、喜んでばかりもいられない事柄として。


「降臨祭、異邦よりの使徒様の来訪を喜ぶ祭りですから。」


都合よくあの町にいる異邦人。それには当然役割の打診が行われるという物だ。言われてトモエとしてもそれに思い当たり、喜んだからこそ落ち込んでいるが。


「そちらについては、一度保留として頂きましょう。」


オユキとしては、そちらについては考えることもある。

こちらに来たばかりの時、ミズキリの言葉。残りの期間。それを考えれば、後で纏めて一度に、そうでないのなら。いや、寧ろ下地がある程度整ったこの場で、ということもありそうなものだ。

これまで割と聞き分けよく、巫女としての公務という面で、言われるがままであったオユキが止めた事に、タルヤを始め護衛が揃って首をかしげているが。


「予定、それもあります。私としての予想も。そちらを確認してから、その方が良いでしょう。」

「翻すに足る何かがおありと。」

「はい。降臨祭、過去のものは分かりませんが、使徒の降臨それを祝う祭りなのでしょう。ならば、それに合わせて異邦から、そういうこともあるでしょうから。」


オユキとしては、改めてミズキリに誰が来る予定なのか、既に来たのは誰か。それを聞かなかったことが悔やまれるという物だ。そういった確認をオユキが後回しにする、そういった事を見透かしての事だろうが。

顔なじみのミズキリが結成していた一団、そちらからなのか、はたまた。

禁止されている思考、言葉としては窘められた程度だが。そちらに走りそうになる物を、オユキは止める。こちらでも話している間に、カナリアへの説明が終わったらしい。

ならば、持ち込んだ身として、話すべきこともあるのだから。


「実際の説明、それは私も聞くことは叶いませんでしたが、大筋は伝わっているものかと。斯様な理由、所以の物ですから、今はまだ。」

「は。畏まりました、巫女様。」


どうにも、改めてしっかりと釘も刺されているらしい。そうする理由も理解は及ぶが。


「ですので、改めて公爵様も交えて場を整えましょう。諸々の用意もいるでしょうから。」

「そちらについては、そこまででも。」


カナリアがうっかりと口を滑らせば、未だに隣に立つ護衛がそっとその肩に手を置く。

そうすれば、ただ顔色を直ぐに青く変え、何度も首を振ることになるという物だ。

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