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第41話 治療

あまりの手際の良さに、オユキとトモエは言葉がすぐに出てこない。

フラウは、そんな二人、ずっと握っていたオユキの手を振り回しながら、マルコさんすごいでしょ、そういってはしゃぐ。


「ええ。本当に。確認もせずに、見ただけでわかる物なんですね。」


オユキが、驚きながらもそう告げると、フラウが胸を張るようにしながら、自慢げに応える。


「うん、なんだっけ、眼がいいとか、そんなことを言っていたけど、なんかね、見たらその人の悪いところが分かるんだって。

 この町一番のお医者様なんだから。」

「それは、素晴らしい方ですね。

 ありがとうございます。こんな素晴らしいところへ、案内していただいて。」


トモエが、フラウの頭をなでながら、そういうと、フラウはますます嬉しそうにする。

そんな事をしている間に、裏に一度引っ込んでいたマルコが、手にいくつかの物を持って出てくる。


「えーと、それでは、そちらの。」

「オユキです。」

「はい、オユキさん、こちらへ。」


言われるままに、オユキは示された一角へ移動し、そこに置かれた椅子に腰かける。


「ブーツを外していただけますか?

 もう、放っておいても問題はありませんが、捻挫用の軟膏を塗って、固定だけはしておきますので。

 無理をしなければ、後数時間もすれば、問題なく動き回れますよ。」


掛けられる言葉に、オユキはブーツを脱ぎ、言われた言葉にいくつか確認を行う。


「昨日、痛みを覚える程度には捻ったのですが。」

「ああ、こちらに渡ってこられた方ですか。

 捻挫くらいであれば、よほど無茶をしない限り、放っておいても完治します。

 癖になることもありませんよ。治るまでは、ひどければ一週間ほどはかかりますが、軽度のものならそれこそ半日で問題なく完治します。

 ただ、一日たってこれという事は、強めに行ったのでしょうね。」

「筋や、骨に問題は無いとは思いますが。」

「問題ないですね。もうほとんど回復しています。

 骨折といっても、完全に折れたわけではなく、軽いヒビくらいでしたら、狩猟者の方であれば、一日もすれば治りますし。ただ、それを過信して重症化しないと来ないと、そういう方もおられますので、困るのですが。」


そういいながらも、マルコはブーツを脱いだオユキの足を取り、改めてしばらく見た後に、軟膏を塗った布を巻き付けていく。


「重症と、そうなった場合は、私が何かするよりも、治癒の奇跡を願ったほうが早いですし、そうしなければ間に合わないこともありますからね。

 ここまで、軽度と言いますか、ちゃんと不調を感じた時点で来ていただけるのは、本当にありがたいことです。」


そんなことを言いながら、マルコはため息をつく。


「その、他の狩猟者の方は?」

「はい。それこそ重症で来られる方のほうが、圧倒的に多いですね。

 私の用意している薬でも、効果はもちろんありますが、治るまでには相応の時間がかかります。

 それでも間に合わない、そう判断する場合もありますから、そういった方は、教会や魔術師のほうへ。」

「マルコさんは、そういった術に心得は?」

「私は、ありません。それにそれらの術は患者に負担をかけますので。

 術者が払う対価だけでは、やはり足りませんから。」


そういって、オユキの足を固定し終えたマルコは苦笑いをしながら、続ける。


「結局、治すための力を、患者に求めるのが術ですからね。

 こうして、薬で補助をするほうが、私としても気が楽です。」


はい。少し歩いてみてください。

そうマルコに促され、オユキは少し歩き、強めに踏み込みなども行ってみるが、まったく問題なく動ける。

その様子を見ていたフラウとトモエが、うれしそうにしているのを見ながら、オユキは再びブーツをはく。

元々、ぴったりとは如何なサイズだったこともあって、包帯のまかれた今でも、すんなりとはくことができた。


「成程。ありがとうございます。それで、お代はどの程度でしょうか。」

「合計で60ペセですね。内訳も必要ですか?」


トモエがそう尋ねれば、マルコからすぐに応えが帰ってくる。

その金額の安さに、オユキもトモエも、驚きを顔に浮かべてしまう。

その表情に察しがついたのか、マルコは二人に説明を行う。


「ああ。渡ってこられた方でしたね。こちらの世界で、高額な医療は先ほども述べた、術によるものと、それこそ入手困難な素材を利用した薬を処方した時くらいですよ。

 今回ですと、診察料で15ペセ、包帯と薬剤で45ペセです。

 ああ、包帯と薬に関しては、予備も出しますので。」


宿の一泊、それと比べれば、確かにその程度と納得できるものではある。

トモエは、言われた額をマルコに渡しながら、声をかける。


「それでは、こちらを。あと、切り傷や擦り傷、手荒れに効くようなものがあれば、お願いできますか?」

「いい心がけだと思います。そうですね、森に生えている野草にはかぶれる物や、毒を持つ虫もいますので、そちらも用意しましょうか?」


マルコの言葉にトモエはオユキを見るが、オユキはそれに頷いて答える。


「はい。お願いします。その、お手数おかけしますが、それぞれ説明をお願いしても?」

「ええ、少し待ってください。お持ちします。」


そういってマルコはまた、裏に一度引っ込むと、前の世界でよく見たような、プラスチックの容器ではなく、何か木でできた小さなコップのようなものに、コルクで蓋をしたものをいくつか持ってくる。


「こちらです、書かれている文字はお読みになれますか?」


そういってマルコが指さすところに、切り傷、かぶれ、などといったように、症状が簡単に書かれている。

それに対応する水薬が中に入っているのだろう。

指さされたものを、順に読み上げると、マルコはそれに頷き、それぞれどのくらいの期間、この状態で保管ができるのかを説明していく。


「あとは、そうですね。先ほど使用した軟膏とは違って、水薬ですので、もし利用ができるようでしたら、清潔な布に含ませて、巻き付けて利用してください。無理でしたら、無駄はありますが、患部にかけて使ってください。」


そのあたりも、どうやら現実より便利なものであるらしい。

薬の代金は、一通り購入しても、100ペセほどで、こんな場所で布が高価なものなのだと、そう思い知らされて、診療所を後にする。

マルコの、お大事に、そのお決まりの言葉を背に、また来ますね、そういうのも難しいだろう、また何かあればと、そう口にして、三人でその場を後にする。


そうして、宿に戻る最中、フラウがここのパンはおいしいんだよ、そういっていた店で、干した果物が使われたビスケットのようなものをいくつか買い、それをフラウにトモエが渡す。

それをとても喜んだフラウが、その場で早速食べようとするのを、オユキとトモエは、歩きながら食べるのはおやめなさい、そう声をかけながら、宿へと戻った。

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