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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第404話 帰る前に

色々と、難しい事。やるべきことが片付けば、次のそれが待っている。

用は王都を離れる、その準備だ。


「お土産って、どれくらい買っても大丈夫ですか。」

「後から来る馬車に乗せても構いませんから。それにしても一つで済む程度には、納めてくださいね。」


ようやく難度の高いあれこれが全て片が付き。少し寝込んだメイも、いまはすっかり元気になって少年たちの面倒を見ている。旅行が難しく、片道にかかる時間も長いのだ。この機会にせっかくだからと、乱獲で得た金銭もある少年たちは、残りの短い時間であれこれと買い込んでいる。

公爵家の別邸、その一つは少年たち、それから領都の教会にと子供たちの買い込んだものが並べられているのだ。

オユキ達にしても、相応に用意をしたくはあるが、今回は色々と手を回してくれる相手がおり、それだけでもかなり過剰な物になっているのだ。そして、手土産としては食料を選ぶことが多い為、流石に一月近く掛る場所までの物として選べていない。それこそ、また領都で買い込んでから戻ることになるだろう。

それよりも、トモエとオユキは公爵と夫人にそれぞれ習いながら、手紙の返事を作らなければならない。


「全く、あの子は。」

「色々と、不安はあるでしょうから。」

「気持ちはわかりますが、既に陛下と話は付いているのです。それを横からというのは窘めなければならないでしょう。」


王妃がオユキに声をかけた。その理由も単純だ。安心のできる、信頼のおける護衛を求めたのだ。そしてそれを解決し、改めて安全を少しばかり提供したオユキに、王太子妃がどうするかなど決まっている。露骨な引き抜き、その文面が端々に並んでいる。それこそ下手に慣れぬ言葉、その流れで返せば言質と取られかねない程に。手紙は物証にもなるため、なおのこと性質が悪い。


「ここですが、少し違和感が。」

「前の文です。神々の奇跡、その感謝を表すための逸話が、神の前で貴族として召し抱える、その宣言をした人物によるものです。」

「ああ、それを受けて神の前で再びの感謝をと。ならば諾と答えれば。」

「そうともとれるという事ですよ。」


公爵夫人の溜息は深い。そして、トモエの方でも、連名で持ち込まれた書状、それに対して難儀しているため、そちらは公爵が見る事になる。


「稽古、それ自体は構いませんが。」

「うむ。時間が足りぬ。」

「第一、第二、それから近衛。総勢で、どの程度が。」

「三千ほどだ。」

「それを一人づつというのは、流石に現実的ではありませんね。第二の方、それから近衛の方については。」


トモエとしては、護衛としてついてくれる相手、そちらが望むのであれば吝かでもない。ただ、公爵としては難しいものでもある。


「それについても、少し待って欲しい。我の領からも、人は出す故な。」


そう、公爵とて、トモエを麾下にする公爵だからこそ。初代の勝者、その教えを受けさせたい相手が多い。そして、縁者から既に色々と話も舞い込んでいる。その選別を待たずに、すでにそばにいるからと優先すれば、やはり不満というのは出る物だ。


「同行される以上、あの子たちに向けた物は目にされますが。」

「そればかりは已むを得まい。直接声を掛けない、今はそうとだけしておいてくれ。」


アベルは護衛の統括として、旅の準備。その現場指揮に忙しく。アイリスにしても故郷へ今回の事、それを手紙に書き預けねばならない。加えて、忙しさの中何かと後回しになっていた傭兵、狩猟者ギルドでの手続きに奔走している。勿論、狩猟、それについては休日扱いになっている。勿論、日々の鍛錬はするものだが。

この場にいないリヒャルトとファルコについても、リヒャルトはそれこそ持っていく資料、この場で纏めておくべきものが多く、執務室にほぼ軟禁され。ファルコに関しては、早速とばかりについてくる二人の少女、その家に改めてあいさつに出向きと、それこそ冗談じみた日程をこなしている。


「私たちも、狩猟者ギルドに一度移動の報告があるのですが。」

「代理を立てるしかないでしょう。幸いあなた達は身の証を立てるのも容易です。」


そして、オユキとトモエは自信の狩猟者としての報告を少年たちに頼むことになる。合わせて、布であったりと、そう言った移動で、影響のあまりない土産の類も。幸い、新しい監督役としてイマノルとクララが既に来ている。

二人とも王都は長く、一度は旅を共にしたこともある相手。マルタとダビにしても、見知った相手であり、実に和気あいあいと準備をしてくれている。

そして、その合間にオユキとアイリスは教会で纏めて子供たちの前途を祈り、神殿と教会で改めて今回の一件、それの終わりを報告したりと短い中で、実に忙しい日々を送ることとなった。

トモエにしても、断れぬ筋から声がかかれば、何度か手合わせをしてとなる。特に王太子妃の近衛、そこが一手指南を、そう望まれれば色々と断っているのだ。それくらいは受けねばならないと、実に苦々し顔で公爵は語ったものだ。


そして、出立の前日。どうにか開けた時間では、オユキとアイリス。色々迷惑をかけたエリーザ助祭の手を借りながら、王都で、この混迷を極める中護衛としての職務を全うしてくれた相手に感謝を告げる。


「我からも、改めてその方らの忠義を称える物である。」


そして、それをどこかから聞きつけた王太子が、公爵家の別邸、その庭にいるのはご愛嬌としか言いようがない。


「まずは、アベル。」

「は。」


以前こういった場で、範を示してくれますよね、そういった事もあり礼装に身を包んだ、その人物がオユキとアイリスの前で膝を着く。人数分の勲章。それについては例によって、枕元に置かれていた。呼ばれなかったのは、流石に疲労を考慮しての事だったのであろうか。それとも、流石に頻度が多すぎたのか。

特に複雑な文様、戦と武技、水と癒し、月と安息の聖印が正三角形の頂点に位置するそれは、統括として、それこそ始まりの町から、事ここに至るまで何かと手を借りる事になった3人に。


「この度は、私どもが得た神託、それを成し遂げるため実に多くの助力を頂きました。」

「何ほどの事でもありません。神々の言葉その為であれば、この程度何度でも。」

「真に心強いお言葉です。ですが、この度の事は、確かにお認め頂いているのです。」


まぁ、アベルについては、既にそれがあることは知っているのだが。


「その証を、有難くも神々よりお預かりしています。」

「真に、有難く。今後も与えられた功績に恥じぬよう努めてまいります。」

「今後も、そう、今後も頼むことはあるでしょう。」


オユキとしては、ほぼ確信だ。

そう言えば、苦く笑うものも多い。


「ですが、今はこの度の事、その区切り。そして確かに成し遂げた。その証を。」


役割として、どうしようもなく。膝を着く相手には勲章を付けられない。それもあって、立っている相手にとなる。だが悲しいかな、オユキでは。

その為オユキが声をかけ、アイリスが勲章を付ける。その分担になっている。功績の証、それについては先の祝祷の経験を持つ少女たちが盆にのせて持って控えている。彼女たちについては、正式な式典でも、教会でもないから神職としての装いではないが。

礼装、アベルのそれに既についている勲章、恐らく国としての物は多い。それこそ時間があれば、それぞれの説明を求めたい気持ちもあるが、まだ空きのある、若しくは新たに付けたのか。そこにアイリスが紐で括れば、一先ずは終わりだ。そして、次はアベルと同じく始まりの町から。その中でも特に手間をかけたダビとマルタに。それが終わればと続いていく。王都からだけの物については、功績から一柱づつ抜けていき、最後は巫女として望んだ結果としての、戦と武技、それを示す聖印だけとなる。

誰にどれを、それについてはそれこそ簡単に決まりはしたのだが。要は、どれだけ長く、手間をかけたか。それに尽きるのだ。


「戻る道、その道中。生憎とこの身は未だに苛酷な旅に耐えきれるものではありません。そして、他にもそのような物は多くいます。」


日程としては、ゆっくりと、いつも通りに戻っても構わない。そのような日程ではある。王都を離れる、その日付に関しては、どうにか当初の予定から1日の遅れ。その程度で済んでいるのだから。

だが、道中を急がない。その理由が無いのだ。為すべきこと、特に公爵にはそれが文字通り山のように積まれている。だから、帰りの道、それは第二騎士団、王家から下賜された馬。それが存分に生かされることになる。馬車の箱。客室についても、新たに色々と用意されているのだ。


「どうか、良しなに。」


一先ずと、それで話を締めてこの場は終わりとする。返答の声は流石の肺活量、そういう物ではあったが。

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