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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第403話 見学と、祝祷と

「で、ここが王妃様肝いりの庭園だ。」


何とも言えぬままに終わった王城での晩餐会も終わり、案内された客間で一夜を過ごす。そして、まだ日も登らぬ時間から、オユキと持祭として祝祷に参加する少女たちが使用人たちに運び出されて行った。

そして残った者たちは、のんびりと食事をして、アベルと他見知らぬ護衛もついている中、城内でも特に見栄えのするところを案内してもらっている。

もう少し、自身が参加できなかった物を羨むか、心配するかと思えば、そう言ったそぶりは全くなく、それぞれに興味のある場所を楽しんでいる。


「おー。」

「ここだけ、随分と。」


防衛施設、それはわかる。これまで案内された部屋に窓はなく。それがあるのは通路くらい。その為閉塞感を抑える工夫として、色々と飾っていたのだろうが、この庭園は吹き抜けとなっており快晴の元、緑が実に目を楽しませる。


「ま、息が詰まるってのは、どうしようもないからな。」

「花が咲くのは、まだ先ですか。」

「ああ。確かバラ園になっているはずだ。返り咲きにはまだ早いからな。」


だとすれば、ちょうど間に来てしまったらしい。

茨と木立、どちらの品種もあるようで、それらを組み合わせ、実に鮮やかな生垣が出来ている。そして、それが一望できる場所には四阿が設えてあり、業務の合間にここで一息入れるのだろうと。それを確かに感じさせる不思議なぬくもりがある。


「水と癒しの神殿も近いですから、それに係る施設もあるかと思っていたのですが。」


ただ、庭園にはやはりそちらの神の力、それが現れていると見て分かるものが無い。

そして、その答えは直ぐに帰ってくる。


「あるが、今は見学に向いていなくてな。」


どういうことかと思えば、簡単に補足もある。

用は、城で水を使うとなれば堀と町中に伸びる水路。そして今そこは鉄火場だ。とても、ぞろぞろと連れ立って見学ができるような状況ではない。


「水源は流石にな。」

「防衛施設です。部外者を入れていい場所ばかりでは、無いでしょう。それにしても、やはり素晴らしいものですね。」


異邦、そちらの施設に比べても美しく、荘厳な施設だ。トモエはそこまで詳しくもないが、耐荷重それもあるだろうに、そこは魔術がある世界。柱もほぼ見えず、複雑な構造だというのに、実に堅牢な作りに見える。隠し通路の類だろう。部屋同士の感覚に違和感を覚えて、思わず目線を向ければ護衛と監視、その役割を持った相手に気を逸らすように話を振られるが。


「その、なるべく位置関係は頭に残さないようにしていますが。」

「まぁ、気が付くよな。あいつらは一切気にしちゃいないが。」


少年たちは説明役としてついて来ている、年老いた使用人。それからこの場の管理をしているのだろう庭師に連れられて、来歴や品種といった物をあれこれと聞いている。


「流石に、不自然な回り道などは気が付いてしまいますから。一本の通路、そこで先に回られれば。」

「まぁ、あいつは後で説教だろうがな。」


兜を付け、顔が見えぬとは言え。それでも個人の特定ができない事も無いのだ。動作に癖があれば猶の事。


「ここまで、歴代の陛下の肖像などが無かったのは。」

「そっちは広く公開してる場所に飾られてるからな。この機会で無くとも構わないだろう。」

「それもそうですね。また折に触れて伺う事になりそうですし。」

「俺としても、嬉しい事ではあるが、お前らから公爵に感謝しておけよ。」

「まぁ、私からもそうしますが、オユキさんとしてはミズキリさんとの流れもあると、考えているようでしたから。」


そう、オユキの打算にはそちらも確かに含まれているようだ。具体的に何をとは聞いていない。それこそ戻ってから問い詰めて、その結果を見てと考えているのだろう。オユキに対し、あれこれとする、その苦言を呈するが、彼にしても同じ穴の狢だ。自身が直接でなくとも、他人を容赦なく計画に組み込む。そして、相手がそう動くように誘導するといった手合いだ。


「凡庸な男に見えていたんだがな。」

「そうでは無いと、あちらでの一件でお気づきでしょう。」

「まぁ、な。しかし、あいつも一体何を隠しているんだか。」

「恐らく、ですが。神々の言うところの予定、ですね。」


トモエの予想はそれ。神々は隠し事が得意ではない。そして予定が事前にあったと口にしている。ミズキリにしても、今は個人でしかない、ルーリエラとともにいるだけ。だというのにダンジョン、それにまつわる事柄について予定を先に、そう口にした。つまり、あの人物はそこに関わっている。


「戻れば、アベルさんも同席の上で、オユキさんが席を用意するでしょう。私を巻き込んだ、その意趣返しは確かに行われるでしょうから。」

「お前らは、本当に。」


そうして、アベルが深いため息をつけば、少年たちに声をかけて次の場所に移動となる。広大な城だ。まだまだ見どころはあるのだから。


そして、見学に参加していない者達は、祝祷に望んでいる。アイリスについては、巫女として見学、その体を取っている。行われるもの自体は部族の物と違うため不参加ではあるが、顔を出すだけならと、そう落ち着いた。

そして、事前に聞いた物との大きな違いとしては、参加が難しい、そう言われていた王太子妃の存在がある。随分と久しぶりに安心して休めたのだろう。

立場のある人間、それを役職に縛り付けるために神に誓え。そう言いたくとも出来なかった、人の自由を認めるがゆえに。それが解消したのだ。まだ、やつれている、そう感じはするものだが、幾分か纏う空気も落ち着いている。

謁見の間。豪奢なそこには、見覚えのない相手が脇に顔を連ね、今は玉座を背に、水と癒しの神殿の司教と、戦と武技の神、その司祭。加えて巫女や他の神職が祝祷、神に子供の前途を祈るその来歴を朗々と歌い上げている。

そして、その中でオユキは補佐の助祭を引き連れてゆっくりと進む。両手は盆を捧げ持ち視界が相変わらずよくない。先導役のエリーザ助祭、そのローブの裾を見ながらどうにかといったところだ。

盆の上には水が満たされた盃、戦と武技の神から授かった短剣。それからいくつかの装飾にと、なかなか重たい物でもある。朝準備が終わった後に、念のためにと司教から癒しの奇跡を受けなければ、息も上がっていただろう。

そうして祈りが終わるのに合わせて、決められた位置にたどり着けば、それを補佐役のアナ、セシリア、アドリアーナに渡す。

事前の打ち合わせでは、高さを合わせるために踏み台という話もあったが、今は安楽椅子に座る王太子妃がいる。それに腰かけた女性と目線の高さが合わない、むしろ上。それに流石に気になることはある物だが。


「戦と武技の巫女オユキ、その能力は過日の事ですでに存分に示されている。歴史と伝統。開祖よりのそれ。この時に変えるのは何故か、それについてはもはや語る迄もないだろう。我らは今、変わらねばならぬ時を迎えた。世界が変わろうとしているからだ。」


そして、眼前では、王が今回の件についての説明を、この場に参列した物に語る。本来であればその役を得る巫女については、一度言葉を交わす機会もあったが、実にあっさりとしたものであった。水、それ故だろう。器に合わせて変わるのが当たり前、ただしれっとそういっただけであった。それよりも彼女の興味は神のお姿、好んだとされる果実を付けこんだ酒にばかり向いていた。神殿の水を使えば、きっと美味しいものができると。何とも、らしい者ではあった。


「そして、我が子、その時には魔物に立ち向かう、そこから得られる物、与えられる奇跡と恩恵。その価値がより高まっているだろう。だからこそ、我は望むのだ。」


続いて王太子が。それが終われば、終には、王太子妃のすぐ正面にオユキが立つ。そこからがオユキにとっては本番だ。補佐役の少女たちが、順に持ってくる道具を使い作法の通りに。周囲から少々の雑音はあり、それに王太子妃が眉を顰めるが、それにオユキはとり合わない。

昨夜、既に守ると誓った者たちが、静かにさせるだろう。習った作法通りに祈りを捧げ、柔らかく光を放つ盃に満たされた水。それを掌で掬い赤子の額に落とす。それから、神殿で祈りを捧げられ、手入れをされた装飾を改めて赤子の上に決められたとおりに置いていく。

こうしている間にも、ただ茫洋とした瞳しか返さないその子に、オユキとしても思うところはあるが、やむを得ない。いつか見た相手、それと同じにならぬように。同じ境遇であったはずのシグルドが、ああして真っ直ぐに生きているように。ただそれを願うばかりだ。

最期に、今回の発端となった短剣。どうせ使いはしないからと、これはオユキから。祭祀で使うための太刀はある。ならば闘技大会の場、その準備のために使い、既に役割を果たしたそれは、渡してしまって構わない。そして、式典の向上とは別に、オユキから生まれたばかりの子供。それに対して。


「この先。苦難があります。それは既に神々より伝えられた、私たちにとってのただの事実。その最中に生まれた貴方は、確かにそれに向き合わなければなりません。恐れても構いません。人を頼っても構いません。逃げれる時には逃げても良いのです。」


散々に頭を悩ませた言葉ではある。ただ、結局のところは、心構えを。先人としてかけられる言葉は、その程度のものだ。


「ただ、忘れてはいけません。逃げられぬ事、それに立ち向かう意思。貴方を守る確かな鎧と剣、その存在。そして、確かに愛され、望まれて生まれてきたのだと。」


困難に直面し、それでも立ち向かわなければならない。疲れを感じれば、良くない方向に思考も向く。人なのだから、それも当然の心の働きだ。だからこそ、その時には思い出してほしいと、オユキからはそう願うだけだ。今、この時においても疑念を向ける手合い、その雑音がある中。それ以前の暴風のようなそれの中、確かに守り育んだものが二人がいるのだと。


「そして、どうか忘れることなきように。貴方の前途は祝福されています。確かな結実、それを認めた神々に。私たちがこうして事を為すためにと、骨を折ってくださった神々に。祝福を加護に。その為に手をとり合う。手を伸ばす事、伸ばされた手を取る事。それを恥じることなき生であるように。」

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ツギクルバナー アルファポリス
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