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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第401話 王太子妃

控えの間に通されて、事前に聞いていたよりも時間かかると言われる。改めて整える物もあるのだから、当然ではあるのだが。離れて案内されていた者たちは何が何やら、そう言った風ではあるが、そちらの説明に時間を割くことも出来そうにない為、オユキはトモエと簡単に話す。

また何か起きたのだろうと、周囲の様子はさほど気にせず、少年たちは改めて気楽な風情で案内された部屋の見学に勤しんでいる。護衛まで含めれば、かなりの人数だというのにそれを納めて余裕があるその部屋は、領都その宿の作りと似通ってはいるが、輪をかけて上等なものだ。ちょうどの類も含めて色々飾られており、あれこれと来歴を聞いている。


「一先ず、今回の事その褒賞については。」

「ああ、それもあっての騒ぎですか。良い物かと。あの子たちもその場に居合わせるわけですし。」

「恐らくは、ここまでを含めて連れて来いと、そういう事かとは思いますが。」

「成程。迂遠なとは思いますが、それ故の枷と言う事ですか。」


すっかり習い性という訳でも無く、共通の認識があると信じ、分からないのなら疑問が返ってくるからと。大幅に省いてはいる。それでもトモエから快諾は返ってくるが。

そもそもトモエにしても、このあたりは任せっきり。それがあるため特別何かなければ、そういう物でもある。


「席次にも恐らく変更があります。案内は改めてつくはずですから、そちらに。」

「ええ、分かりました。オユキさんは。」

「中座することになるかは、それこそ事が終わってからですね。司教様にはご迷惑をおかけします。」

「今は返せるものも有りませんし。そうですね、またこちらに訪れるその時に。」

「はい。そうしましょうか。」


ただ、マナが使われるのであれば、恐らく疲労は抜けない。奇跡を受ける側、そちらも支払わなければならないのだから。もしそれをしないようにと、そうするのであれば、過剰な負担を頼むことにはなる。治らぬ怪我を負った相手。どうにか時間を取り、狩猟者ギルドの一角で話を持てば、そう言った事も聞けた。彼らは魔術が使えなかった。だから怪我を直しきれるだけのマナ、それを貯めておくことが出来なかったのだと。

そして、そう言った細かい確認を終えて、公爵夫妻にも改めて説明を行っていれば、やはり聞きつけた相手が部屋を訪ったりと、そういうこともある。

ただ、それらについてはこの後の予定があるため、全て公爵が断ったものだが。その合間にも、変わった席次の説明や、案内の順など。説明のためにと人も訪れ。加えて、一人づつ城勤めの侍女に身だしなみを整えられれば、オユキとアイリスを後に、順次部屋から連れ出されて行き、今は揃って長大な机、そこにつくこととなる。

上座に5席。豪奢な食器、供物台などが置かれ、王ですらその下の席に座っている。結果として、オユキは安楽椅子に座り、己の子を抱え込み、周囲に鋭い気配を放つ女性の隣に座ることになる。対面にはアベルが、その隣に王太子とアイリスを置いている。強い女性、それが想像通り良くない方向に傾いたらしい。彼女の護衛、その人物ですら、近づけば王太子妃の圧が増すのだから。なので、まずはやはりそれからとしなければならないだろう。このような場に連れられて、目を覚ましているのに泣きもしない赤子、そのあまりに茫洋とした瞳。そればかりはどうにもならないが。

王と王太子から、改めて本日の招きに応えた事に対するお礼を述べられ、昨日の物、明日の物についても言葉がかけられる。それに対しては、オユキも一先ず習った通りの所作で、口上を返す。そしてそれに付け加える言葉もある。


「それと、本日は急な願いをお聞き入れ下さり。」

「よい。よもや、とは思うが実例があったと余も聞き及んでおる。」

「ええ、それでは。」


そうして、改めて用意された席を見れば、見覚えのない柱が一つ。そうでない物が四つ。上座、王太子から話があったのだろう。食事の順序など知ったことではないと甘味が並んだそこに、創造。その両脇。大きな酒杯が供えられたそこには戦と武技。色とりどりの果物、それを使った氷菓などが置かれた席には月と安息。そして、それに続く形でそれらを細かく取りそろえる形の席に水と癒し。その向かいには、見覚えだけはある華と恋。てっきり最後の一柱は法と裁きかとオユキは考えていたのだが。


「トモエさんとオユキさんは、人がいいですね。」

「うむ。明確な褒賞を惜しみなく誰かに。なかなか出来る事でもない。」

「こちらにお招き頂けた、それだけでも過分でしょう。加えて既に道行きの助けも頂いております。他のお約束も。」

「まぁ、それでその方らになければ、我こそ吝嗇と笑われるだろう。今は互いに思いつかぬが、また考えておく。折に触れてとなろうがな。さて、今は。」


既に席についた物は、その場から動くことは出来ないが、壁に控えていた者たちは揃って膝を付き頭を下げている。

少年たちにしても、実に驚いたようではあるが、礼を取れないと分かってからは瞬きもせぬ、一言一句たりとも聞き逃さぬ、そう言った熱を感じる。

そして、オユキの思惑、それを正しく理解しているのは、今は3人だけ。それ以外は、何が始まるのかと、実に慌てた様子だ。


「まずはアレハンドロ。この度は大儀であった。我らとて其方らにとっては時が足りぬ、そう分かっての事ではあったが、良く成し遂げた。」

「身に余る御言葉です。やはり多くの物が御身のお言葉それに賛同し、叶えんがために動いた。その一つの結果でしかありません。」

「うむ。我も理解しておる。故に逸れに報いるための物として、この度の競い合い、そこで先駆けて得られたものが有る。」

「御言葉、確かに。」


どうにも、前倒し、それも色々あったらしい。何とも遠大な事だ。オユキの感想としてはそんなものだ。そもそもその全容すら把握できなかった物、それを生み出し、創り、管理できる相手だ。そうなるのもやむを得ない物ではある。


「そして巫女アイリス。改めて其方の研鑽、その程度と向き合えたはずだ。加護が無い、その制限の下であれば、やはり初めからそれが無い世界で極限まで練り上げた、それには届かぬ。才、その差があったとしてもだ。それでも埋まらぬ差、これからの時で埋めて見せよ。」

「必ずや。この名と祖霊、ハヤト様に誓って。」

「残りの物にも言葉を掛けたくはあるが。」

「ええ、やはり私たちまでは負荷が大きいですから。そちらを先にしましょう。オユキさん。」


人の世の事は人が。


「さて、王太子妃様。」

「オユキ。」

「お気持ちは、痛いほどに。全てがわかるとは言えません。ですが、御身を守る鎧、外敵を排する剣。それが無ければ、確かに安息など得られぬでしょう。都市には確かな壁があり、だからこそ、そうなのですから。」


そう、今、王太子妃は己の護衛、それすら信じられない。そして、それがあからさまであり、分かるからこそ思い詰めた者もいる。身の証を、勝者として願うつもりで立、力及ばず敗れた者が。

全ては当然オユキにも無理だ。そもそも祝祷についても、始まりの町に戻る前。教会を借り、纏めて行うのだ。王太子妃に対して行うのは、謝罪と打算も大いにある。ただ、それでも。手の届く範囲、可能な限り誰かの嘆き、そんな物は少ないほうが良いと、そうも思うのだ。


「私の心の弱さなのでしょう。」

「いいえ、強いからこそでしょう。今の彼らは国を守るため、その為にあるのです。」

「しかし、一部の者たちは、確かに保障の無い間も私を、王太子様を守りました。」


王太子妃自身も理解しているのだ。中には信じられるものもいるのだと。王太子が、それこそ血眼になってそれを選別したのだからと。ただ、それでも足りない物はある。

王太子妃も、子供も。今は何処までも無防備だ。そして、まぁ、元凶でもある物たちによって、仕事が増えた。それも良くない。


「しかし国を守る。その前提がある以上。そして過日その言葉がお二人を襲った以上。」


オユキの言葉に一角から、確かな感情をもって身を震わせる音が聞こえる。軽装とはいえ金属の補強がある鎧。武器も下げている。嘆きに、信を得られぬ己の不足を嘆き、体が振るえれば音を生む。


「ですから、私とトモエ、その確かな功績。この度の上位二名、それに対するものとして、この場を願いました。」


そう、いつかメイにも語った。こちらの世界ではその忠誠、行いの正当を示すのに最も手っ取り早い手段がある。破れば問答無用。そして、月と安息、その神像のある場では、その神の目は必ず届く。


「今、この場で労を担ってくださる5柱の神々、その前でどうぞ改めて宣誓を。」

「ええ、私も聞きたいものだわ。ねぇ、7カ月の試練、それを耐え抜き育てた種が開いたんですもの。そこには確かに、この私が認める物があったのよ。今度ばかりは月と安息に任せているけれど、それでも咲き誇る花を意味もなく汚すというのであれば、この私の許しは一切ない、そう心得なさい。」

「戦と武技、その名を冠する我の前で一人づつ確かに述べるがよい。剣を国に捧げるのは良い。だが、確かに我らが認める生命、それを害する剣を持つものがこの場にいるのかどうか。」

「トモエさんとオユキさんのおかげで、私たちも色々と嬉しい事が有りました。その分は確かに。互いに手を伸ばす、それが加護です。ですからこの創造神も確かに聞き届けましょう。そして破ったものには見合った罰を。」


残りの二柱は我関せずと、供え物を楽しんでいるようだが、場は整った。

アイリスからは負担がと言われたが、やはりこういった場でオユキはそれを感じない。つまり現地の巫女と異邦のそれ。そういった違いの一つがこれなのだろう。だから、向こうにとっても都合がいいという事らしい。

ルーシアがまずは王太子妃の前に膝を付き、剣を捧げる誓いを。そしてそれに続くのは、見覚えのある相手。少々、王太子妃ばかりを慮って言葉を飾らなかったため、彼女の心を傷付けてしまったらしい。上げた顔、その口の端からは血が流れている。噛み締め切れた唇から。

声を上げずにただ涙を流して子供を抱える王太子妃の隣では、移動させられた王太子が騎士達の剣を改めて受け取り、その任を告げていく。

子供たちの見たがっていた奉剣の儀式、それが見れたこともある。この場としては、十分すぎる物だろうとオユキは一人納得する。

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