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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第400話 招かれた席

闘技大会の翌日。オユキとアイリスは教会へと顔を出すため、同行は出来なかったが、トモエとアベル、慣れた傭兵二人を主体として変わらず狩猟者として、町の外に。日々の糧を得る、それも不足を知っているからこそ、少年たちはそれに熱心に励む。ただし、そこは公爵夫人から今日の夜の件があるからと、しっかりとくぎを刺された。昼食の前には戻らなければいけないため、あまり時間が無い中、採取者の護衛の真似事をする。

いつもは連れてきている子供たちは、祭りの後片付けもあるため、不参加となり。成果もそれなりではあった。そこで改めて採取者と、数というのは大きな要因だと、そんな事を話したらしい。


「ええ。物量、こればかりは何においても無視はできません。」

「オユキちゃん、まだ、体調悪そうだね。」

「相応に血を流したでしょうし、流石に連日の事で疲労もありますから。」


そして戻ってきた少年たちは、公爵夫人の号令の下。使用人たちに荷物のように扱われて、少し遅めの昼食。加えて作法の最終確認となっている。それに正式に王城に招かれていることもあり、食事が終わり、一息つけばもう移動をしなければならない。


「明日の事ですが。」

「何事もなければ、問題ないでしょう。」


王太子妃、何となく手紙のやり取りが始まってしまっているが、随分と気を張っているのが文面からも分かる。

それこそ、王と王太子の手によって、明日の場は徹底的に消毒されているだろうが、それでも。そういった心配についてはオユキも分かる。だからこそ、今日は私的な場であるらしいからと、王太子妃も食事の席に誘ったのだから。

離れる前に、そちらも出来る事はしておかなければいけないだろう。今面倒を見ている子供たち、その先がそれで少し楽になる可能性もあるのだから。


「何事も、ですか。」

「不安の種、抱えた方はまだおられるでしょうから。」

「保証は頂けたというのに。」

「それにしても、不安は残す形です。」


そう、状況次第では、受け取り方次第では。今生まれた子、それは王族として不適格。そう見る者も出るだろう。間違ってもいない。正しい不安の形として。

これから忙しくなる中で、どうしても手のいる子供なのだ。魂が薄い。茫洋とした子供。明確な遅れが出る理由が存在する。そして、それを許容できる社会状況ではない。それだけだ。


「えっと。」

「ああ、皆さんは大丈夫ですよ。以前の様になるものではありませんから。」

「そう、なんですか。」

「はい。あったとして、祝祷の前に問答がある、その程度です。」

「なら、良いけど。オユキちゃんは。」

「体調が良くないのは事実ですし、それが終われば一日お休みをいただきますから。御城には水と癒しの司教様もおられますし。」


その辺りの日程、その調整には水と癒しの奇跡も組み込んでいる。なんというのか、異邦の悪い癖、それだとはわかっているのだが。降臨祭、それに間に合わせるためには、どうにもならない。

この日程で戻ったところで、3週あるかないか、その程度しかゆとりが無いのだから。

そして、そんな話をしていれば、食事も終わり、何とか、本当にどうにかと。夫人にしては珍しく、非常に苦い顔と共に、一応全員が及第点を貰い、それぞれに最後の仕上げとばかりに化粧を直され、装飾で飾られ、馬車に積み込まれる。アベルについては別枠となるため、既に移動をした後だが。今回のホストとゲスト、その両者に近い人物が彼であるため案内役として駆り出されている。なんだかんだと機会を逸していた城の案内。それについても彼が主導で行う事になった。王妃が案内をと、そんな話もあったが、オユキとアイリスが公に出るとなったため、彼女にしてもそんな暇はない。加えて、少年たちの心が別に傾いたため、こちらでもそれを優先したのだから。生憎と、役割のある子供たち以外は、明日の祝祷に参加は出来ないため、その空いた時間でと言う事もある。


「オユキちゃんもトモエさんも、ほんといつも通りだよね。」

「ええ。今回ほどはありませんでしたが、治るまで月単位で時間がかかるなど、ままある事でしたし。」

「えー。」


なんにせよ、今も馬車の中。神職として、明日の式典に参加するものとして分けられている。その中でそんな話をしていれば、アイリスから頷きは返ってくるが、それ以外からは今一つ良い反応が無い。


「巫女様として、あたら命を散らすような真似は。」

「はい、それは勿論ですとも。」


オユキとて、何もそうなりたいわけでもないのだから。そうして話していれば、以前とは違い正門から。そこにたどり着けば馬車が変わり、巫女二人と助祭、それを先頭に実に仰々しく両脇を騎士が固める道を進む。

その中には、当然のように覚えのある顔もある。つい先日手酷くあしらった相手。それが混ざっている物だ。そして、それを抜けた先では、鎧姿ではなく、礼装姿のアベルが立って待っている。事前に散々言い含められているため、子供たちから声が上がることは無いが、背後から、その分の熱量は感じる物だ。


「本日はお招きいただき、また身に余る歓待。まずはお礼申し上げます。」

「戦と武技の神より、正式にその身を認められた御方。本来であれば我らから足を運ぶのが筋という者。こちらこそ、快く受け入れて下さったお二方に感謝を。」

「彼の神の名に含まれぬことも多く、未だこのような場では至らぬことの多い身です。皆さまのご厚情に甘えるばかり。それを思えば何ほどのこともありません。また、神々は確かに人に寄り添う、その意思をお持ちと私は感じております。」


馬車から降りる際は、アベルがアイリスを。オユキは初めて見る初老の女性にエスコートされる。作法、そうせねばならない相手とわかっているが、利き手を触らされるのはかなりの不快感を覚えるが、どうにかそれを抑える。しかし、アベルから事前に共有されたのか、馬車から降りれば、聞いた位置とは逆に。


「実にらしい、そう言えば御身にとっては失礼な物でしょうか。」

「ご理解とそのご厚意に感謝を覚える。それ以上の物ではありませんとも。」


後がつっかえているため、そのままの流れでひとまず王城に入り、少し進んだところで改めて向かい合う。アベルによって、まずはアイリスとオユキの紹介があり、それから初老の女性について。


「こちらは近衛隊、王族警護部門、王太子妃警護統括ルーシアです。」

「どうぞ、お見知りおきを。巫女様方。」

「良しなに。統括の方が来られるという事は。」

「はい。王太子妃様も本日はご挨拶はと。」

「こちらの申し出を受け入れた事に、後程私から改めて感謝を。」


何処か悪戯気な色が、ルーシアの瞳に浮かんでいる。どうやら、オユキの思惑と言うのも、正しく理解している者であるらしい。


「食前に、少しお騒がせします。」

「どうか、存分に。」


となると、それ用の人員も配されている事だろう。恐らくは、あのやけに思い詰めていた人物も。

そもそも今回の件は、与えられた物だ。ならばそれを果たした、その成果はオユキとしても求める物だ。都合よく使っている、そう言われればそれまでだが、それこそお互い様。

内心でそうでしょうと、そう問いかければすっかり聞き覚えのある声で苦笑いが届く。ついでとばかりに、その場に現れる柱の数も。そして、アイリスにも正しくその声が届いたのだろう。急に耳を立て、髪と尻尾が逆立っている。


「席の用意は。」

「まさか。」

「5席、追加を。」


そのオユキの言葉に、アベルの反応は初めて見る物であった。ああ、これほどの人物でも、許容値と言うのは確かにあるのだなと。額に手を当てた上で、足元がふらついている。


「巫女様、席の追加とは。」

「ええ、同席を賜れるようです。」

「あなた、持つのかしら。私もこれまでを考えれば。」

「その時は、その時とするしかないでしょう。それにしても、アイリスさんは自覚があったのですか。」

「負担が過ぎると、そう言われていたでしょうに。」

「いえ、私はこないだの件で初めて自覚が。ああ、失礼しました。私も結果として中座する可能性がありますが、大事はこうして呼ばれ、応じた。その事実だと理解しておりますが。」

「それはそうだが、いや失礼。すまないがルーシア、先に巫女様方を控えの間にお通ししてくれ。」


アベルの常ならぬ様子に、周囲から近寄ってこようとする者達は、身振りだけで止めている。そして、ルーシアは今一つ、予想らしきものはあるのだろうが、要領を得ない、そのような様子だ。

王太子も巻き込まれたものだが、その辺りは情報が回っていないのだろう。一体何処までそれが流れているのか、それが気になる物でもあるが。


「それにしても、貴女はともかく、トモエは良かったのかしら。」

「ええ、問題ないでしょう。」


子を思う母の気持ち、それについてはオユキ等よりも遥かに理解がある。そして、やはりというか、そちらに同調している。王太子妃からの手紙、それを読みながら話をしてから、悩んでもいたのだ。どうにか出来ない物かと。

事後承諾にはなるが、そればかりは快く同意してくれる。そう一体相手であるからこそ、共に並んだこともある。そして、席が席だ。王都に来てから色々と忙しく、トモエとオユキに巻き込まれて働いた子供たち、そちらにとっても嬉しい驚きだろう。

ならば、猶の事それを褒美と、そうしても問題はない。オユキとトモエ、その二人には既に大きなものが与えられているのだから。

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