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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第391話 それぞれの前日

開会を告げる行事が終われば、揃って借り受けている屋敷へと戻り、それぞれに過ごす。とはいっても、オユキとアイリスは疲労から既に就寝してしまっている。アイリスにしても、オユキに比べれば、といった程度の疲労でしかないのだ。

特にオユキが慣れていないこともあり、負荷が大きかったのだろうと、そんな事を言ってはいたが。訓練をしても身につかぬ、それ以上の疲労があるようで、早々に簡単な食事を平らげて眠りについている。


一方トモエの方では、それこそ少年たちにせがまれて、最後の調整、心構えなどを話す時間を持つこととなっている。それこそトモエにしても。随分と離れていた時間があり、大言壮語を放った身として、それもあるがやはり大事は面倒を見ると決めた相手だ。オユキが特に気にかけているのだから。過去、それを思い出す物でもあるのだから。


「ファルコは、まぁ。」

「ええ。どれほど油断が有ろうと、そういった事になります。改めて胸を借りる、そのつもりで今できる事を。」

「かつての騎士団、その長を任せられた方です。こちらの練習の為、それ以上の機会を頂ける、その名誉を汚す真似はしません。」

「お前らに限らず、新人にありがちだがな。試合なんて今後も機会はある。この闘技大会にしても次があるわけだからな。無駄に気張って、普段以下、それが一番まずいと、そう頭に入れておけ。」

「普段以上を示す、って事でもないんだな。」


普段よりも、殊更ゆっくりと。オユキとアイリスが演武としてそうしたように、型をなぞる中。そこにはいつもの顔とアベルが揃っている。それこそ古巣で調整をするかと思えば、そうでもないらしい。

彼にしても、己より、行き詰ってしまった己よりも、後進。そういった心の働きがあるらしい。


「普段以上、訓練以上。そんなことは出来ませんよ。」


シグルドが、不思議そうにつぶやいた言葉に、トモエはただそう告げる。


「それができるというのは、無理をしているか、指導者が見誤っていたかのどちらかです。」


そして、トモエは己の矜持に懸けて後者は無いように、そう務めている。出来得る最善を計り、それに届くようにと指導をしているのだから。


「無理、か。」

「ええ、無理です。」


それこそ、先のシグルドが、イマノルに対して行ったような。無理な動き、その結果は、少しの間彼の手首と、足首に巻かれた包帯がただ示していた。

それに、結局のところ、そこにあったのは甘えだ。彼がなにをしようとも、イマノルは加減を間違えぬと。

想定外の行動に焦り、それこそかつてのようにイマノルが振舞えば。シグルドの喉には風穴があいただろう。それが治らぬかどうか、そちらに関しては、別の話だが。


「トモエさんは、私たちが勝ってほしいとか。」

「勝てる相手に勝つ、それは当たり前としますし、その相手に負ければ苦言も呈しますが。」


ただ、トモエにそれ以上はない。


「前にも言いましたが、結局のところ鍛錬の延長です。負けたとてどうなるわけでもありません。我が流派の門徒こそ至高、並び立つものなし。そのような物ではありませんし、事実私もイマノルさんに負けていますから。」


そして、枠組み、用意されたその中。致命傷でさえ意味がない、次につなげる糧となる。そういった場であるなら、そこは学びの場でしかない。そして、その場では、別の枠組みだが、トモエとて、彼らに教える立場だとしても既に敗れている。

そして、勝者を称えろと、そう語っているのだ。


「勿論勝を、ただそれを望む方もいるでしょうし、一つの機会そう捉える方もいるでしょう。」


ただし、トモエがそうだからと、他も同じという訳でも無い。


「そういった相手と相対し、改めて私が向けない類の気迫、そういう物を感じるのが今回の最も大きな収穫でしょうね。」

「神様の奇跡が無かったら、どうにもならない状況でも、ですか。」

「奇跡がありますから。」


形式、それこそ手加減を誤れば万が一がある。それなら違った言葉もかけただろうが。トモエは結局形式を改めて聞いたうえで、練習の域を出る物では無い。そのように決めている。

だからこそ、改めて告げる言葉がある。


「明日、そうでない方もいるでしょうが、皆さんは。」

「ああ。神様の奇跡に甘える。そんな真似はしないさ。」

「ええ、その通り。良い覚悟です。」


トモエが伝えるべき言葉は、シグルドが確かな矜持をもって応える。


「しかし、どうした物かな。」

「パウ君は、そうですね。ファルコ君と同じです。どうぞ、これまでを存分に。」

「トモエさんは、何か示す物はないのか。」

「ありますよ。正式な名乗りの下に行います。演武の先、鍛錬の先。そういった物を、皆さんでしたら感じてもらうのも良いでしょうから。」


せっかくの便利な機会ではある。それを使わないという手も、指導を預かるトモエとしてやらない選択肢はない。


「明日は一回戦だけですし、皆さんであれば、他の方がどう戦うか、それを見るのも良い勉強でしょう。」


そして、トモエは今回参加の機会を得られなかった相手にも話を向ける。


「オユキさんとアイリスさんのおかげで、良い場所を得られています。楽しんで見る、それを止めはしませんがしっかりと見学をしましょう。」

「私たちは参加するから、あんまり他の人って見れないんですよね。」

「四面しかありませんから。長引く場所があれば、進行も読めません。空いた場所からとなる以上、待機してもらわなければと、そうなりますからね。」

「そう言われれば、そうですよね。」


そう。そして、加護がある。それを大前提にしていたもの達。それが、恐らく泥仕合をするだろう。だからこそ、どの程度かと長くとっている。翌年以降は、それこそ今回の結果を反映して考えなければならないと、そうアベルにしても随分と重々しく話していたが。

後は、参加者で数人、トモエとしても気になる相手がいた。それについては、ここに戻るまでの道で、オユキから聞いた話で理解はしたが。

だが、だからこそ、そう言ってもいい物だろう。

他の参加者の多くが、確かな覚悟をもってその場にいた。

トモエにしても、少年達にはまだ背負うべきものが無いからと、軽く話している。アベルにしてもそうだ。だがその言葉を放つもの達、その内心は当然違う。


我が流派こそ至高、それが無ければ技など継ぐはずが無い。まだまだ研鑽できる、先がある。己の流派が足を進める先、それと比べて、未だ高みに至らぬ、そう言っているだけだ。

皆伝、今は遥か彼方、そこから背負ってきたものが有る。ならばそれに恥じぬものをトモエはただ示す。アベルとて、元ではある物の明確に背負うものが有る。傭兵ギルド、その長としても。

人を、民を守る。その矜持に懸けて、侮られるわけにはいかない。アベルも示さねばならぬのだ。国を守る盾と剣、その輝きを。

そして、他の参加者にしても、家名であったりと、各々に背負うものが有る。そしてその中に数人、やけに軽薄な空気を持つものがいたのだ。余裕かと思えば、その動きはせいぜい初心者よりまし、その程度の手合いでしかない。少年達では難しいが、アイリスであれば、条件次第で百やって一度あるかどうか。その程度しかないというのに。長さと刃の向き、それを考えれば打ち刀。それを持っている相手は、明日アイリスと当たることになるのだが。


「私としても、観戦ができないのは残念で仕方ありません。」

「トモエさんも、ですか。」

「はい。やはり私の知らない道、その鍛錬、成果。それを見るのはとても楽しい事ですから。」

「今後、って訳にもいかなしな、お前らだと。」


そう、トモエは今回の結果次第、そうではあるがトモエとアイリスはよほどの理由が無ければ、決定だ。何やら、既にアイリスの生国、テトラポダに向けて特使が出ているとの話もある。周囲の国に対しても、喧伝してくのだろう。そうなれば今後は、より一層トモエとしても見学したいものではあるが。

その辺りは、オユキが何やら話を持っていく方向を考えている、そんな素振りであるためトモエにとっては任せるしかない物だが。

そして、そう言った諸々の負荷が、オユキから鍛錬の時間を奪う。分かっているのだが、他に手もない。今後、それこそ今後、そう言った雑事を頼める相手というのも出てくるだろう。だが、それはそうしなければままならぬ、それほどの仕事量という事でもある。結果として、オユキにかかる負荷が減るような物とはならないだろう。それこそ、数十年単位で。


「つっても、あれだな。一応今日参加する相手は見たけど。」

「うん。アベルさんが一番ぽかったよね。」

「そりゃな。魔物担当、そこの元トップだ。暫く離れたところで、どうにかなるようなもんでもない。それに、俺が出るからって、今の騎士団長は出てこないしな。」

「えっと、皆さん血気盛んな人たちを抑えるためにお忙しいって。」


そして、実のところ騎士団からの参加は非常に少ない。大いに選抜したこともあるのだろうが、何より警備の手が常よりも必要になっている。


「お手伝いに来てる、神殿の人たちも、なんだか大変そうでしたしね。」

「人数を絞った弊害、だがな。今回は他に方法もない。参加者が得られるものが分かってからは、猶の事だ。」

「望めば得られる。今日の御言葉でも、闘技場に置かれた神像に祈り、認められた物にはと、そう言った話でしたが。」

「それにしたって、流石にまだ先になるぞ。今のまま野ざらしって訳にもいかないからな。」


そして、アベルのため息が重く響く。置く場所は決まっており、どうにかといった体裁は今整えられているが、本格的に手を入れるのはこれからだろう。どうにも、方々で実に手がいる事が起きている物だ。

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