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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第390話 抽選を眺めて

一通りのことが終われば、慣れない事に著しく疲労したオユキが退場となる。とはいえ、完全に姿が無くなってしまえば、無用の詮索を与えるため、国王の隣に用意された席に座っている。

そして、その眼下では、参加者が列をなして箱から木札を取り出していく。

形式に随分と見覚えがあるが、まぁ、他にやりようもない。

それこそシステムとして存在するのであれば、一挙にまとめて決め、表示する事も出来るのだろうが。


「オユキ様、どうぞこちらを。」

「助かります。」


側についてくれているエリーザ助祭が、そっと水を差しだしてくれるのにお礼を言って口を付ける。途中からは少々どころでは無い疲労感を感じ、それでもと動き続けたために、汗もひどいものになっている。

着替えの用意はないが、ここに戻る前には簡単に手直しがされもしたものだ。


「体を動かすだけ、そのようにも考えていましたが。」

「奉納舞ですから。奇跡を願うのにも、マナが使われますよ。」

「そういう理屈ですか。」


オユキがそうしてお色直しをしている間に、神像は機能を確かなものとして、戦と武技の神から改めて試合について話があったそうだ。

内容そのものは、かつてあった対人のそれと変わりはないが。試合中は当たり前のように負傷する。しかし対戦が終われば、大部分は治る、凡そ全治一週間、その程度のところまで。

そして、参加するにも、怪我の回復にも、貯めた功績が利用される。それが可視化できるもの、首から下げる結晶。それが、今回の参加者たちに授けられている。認められた功績、加護、それを色の濃淡で示すことができる、新しい道具。

とはいっても、諍いの種にならぬようにだろうが、かなり漠然としたものではあるらしい。それだけで全ては計れぬと、そう明言されたのだから。


「計れぬまでも、比べて云々、そういった事を言う方は現れるのでしょうね。」

「うむ。それは人の業であるからな。避けられまいよ。オユキも、良く勤めた。」

「御言葉、真に有難く。」

「そも、手に入れられる、それだけの功績を既に持っている、それに目を向けられるものがどれほどいるか、であるな。要は、余剰。それを別に使える、使いやすくするものなのであろう。」


国王の理解は早い。そして、口ぶりから想像もつく。管理者権限。それに触れ、拠点の機能を使うのだ。より可視化されたものが有る、もっと具体的に見る方法があるという事だろう。


「その方は最後に空いたところ、それでよかったのか。」

「はい。陛下。」

「ならばよい。今しばらく休むがよい。」

「ご厚情、真に有難く。」


国王からの労いに、非礼ではあるが座ったまま答えて新たに首から下げているそれを見る。神々の色が入るのだ。オユキの物はなかなか愉快な色味になっている。それが不思議と調和がとれている、そう見えるのはまさに神の奇跡であるのだろうが。

特別感謝をささげたわけでもない、その色が入っていることを考えれば。いよいよ神々の目というのは何処にでもある物らしい。眼下ではそれを誇らしげに掲げる者達もいれば、早速比べてというもの達もいる。

少年たちがそうしないのは、それこそこれまでの教育によるものだろう。どの神も等しく、誰にでも、手を伸ばせば。その教えを信じているからこそ、己のそれを見て、かけた色があれば落ち込むのだろうが、誰かと比べて計ることもないだろう。

そのまま視線を滑らせて言ったところで、今回の参加者、それを上から見ても、アベルを超える者がいない。若年層。少年たちと同じ年頃の相手は言うに及ばず。壮年を超え、老練の域に達しているべき相手にしても。


「おや、ファルコ君はなかなか難儀な事になりましたね。」


100を超える数。都市の規模に比べれば随分と少ない。次回以降はさらに増やすと聞いているが。その程度の数であるため、組み合わせが決まれば、それぞれに並んでいく。

そして、ファルコの隣にはアベルが立っている。

加護が無い、そんな状況を作ったところで。アベルとファルコでは格が違う。


「ほう。アベルをかなり高く評価しているのだな。」

「はい陛下。騎士団、その勇猛を示すに十分以上。それだけの物を確かにお持ちの御仁です。」


始まりの町でもそうだ。加護が制限されれば重装鎧を着て動けない者もいる反面、問題なく活動できるものもいたのだ。つまり、人によっては。加護がある中、どれほどの事をして鍛えたのかは分からないが、それを可能とする人物が確かにいる。アベルも、間違いなく。それも軽々と、それを行うだろう。

一目できたえあげられたと分かるその体躯は、決して伊達では無いのだ。


「評価は高いようだが。」

「恐れながら。」


それでも経験の差、人相手をするために磨いた技。その差が明確に存在する。彼らの知らぬそれを存分に使えば、崩せぬ相手ではない。当日は鎧を着こむのか、その差はあるが。


「初代の勝者は、やはり。」

「はい。」

「その方らの知らぬ異邦の者も、数人おるが。」


言われて、同じく武に身を捧げた物がいるのかと見回すが、そう言った手合いは見られない。姿形にしても、ゲーム時代に合わせた物に代わっているのだろうから、それが当然なのだが。トモエにしても、特定の誰かを警戒するそぶりを見せていない。仮にそういった、抜けた物がいるのであれば緊張する少年たちに声を掛けながらでも、意識を向けるはずではある。


「その様子では気が付かぬ、そういう事であるらしいな。」

「申し訳ございません。」

「良い。距離もあるしな。さて、その方らでも計れぬ相手、それがいると、そう考えられれば良いのだが。」


戦と武技の神、その覚えがめでたいのは別の理由によるものではあるが。

一応はと、アベルとアイリスの様子も観察するが、変わらず二人の警戒はトモエに向いている。もしそれらすべてを欺ける、そうできるだけの鍛錬を確かに積んだ相手がいる。そうであるなら。


「御言葉に返す事、誠に恐縮ではございますが。」

「よい。申せ。」

「そうであれば、どれだけ良かった事でしょう。」

「やはり、そうか。」


実際にどうか、その断定はできないが。そうして、国王その人と軽く言葉を交わしていれば、組み合わせが決まる。

あの四角い箱の中、細工がどのように行われたかも分からないが、実にわかりやすい結果となっている。

四人が最後まで残るのだ。ただ、その組み合わせにオユキは意外を感じる物だが。


「私とアイリスさん、そうなると思っていましたが。」


アイリスはトモエの前、そこにオユキを置いている。そうであれば配慮もあるかと思ったが。


「それを疑いもせぬか。」


問いかけにはただ微笑みでもって応えておく。その余地が無いのだ。少年たちは、一回勝ち抜けば、そういう物もいれば最初からと、そういう物もいる。

改めて、致命傷を与えても問題が無い、死合いの場で。それを追うというのなら、技を、業を見せよという事であるらしい。未だに見せてもいない。教えるのはかなり先になる物を。

そう言った場であれば、鍛錬、練習の枠を超えて、それにオユキとしても異論はないが。

一人、隣に立つものがいないアナが、オユキの座る場所に視線を向けている。この機会、それを話した時には、それからしばらくは悩んでいたが、どうやら吹っ切れたらしい。人と人が争う、その場に。

アイリスの隣は見知らぬ相手、トモエの隣にはパウが立っている。そして、それが終わり、次に勝ち上がるものがいれば、また見知った相手とやり合う事になるのだ。

少年たちについても、他の年少者たちと、そうなるかと考えていたのだが。どうにも、色々と、向こうは向こうで思惑がある物らしい。そう、オユキとしてはため息をつくしかない。

結局のところ、オユキとトモエは切欠なのだ。後の事を進めるのは、他の者達が主体だ。

切り離し、それにしても行う、その言葉の意味も明確ではない。そこで初めて、時間をかけるのか。その時にすべてが終わるのか。

そして、今。眼前ではこの場を纏める言葉を国王が語り始める。本番はあくまで明日。一日を使ってすべての予定が消化される。それが終われば、祝祷を行い、慌ただしく始まりの町へ。その前に領都で一度休みはするが。


「オユキ様。」

「ええ。私もでしたね。」


これが終われば、アイリスと共にこの場から国王に続いて退場する、その流れがある。

暫く座って休めたため、それくらいはできるだけの体力は回復している。オユキが公に、そう決めた事もあり、初期に話した王城迄では無く、公爵の別邸、いい加減に慣れた場であることは実に有難いものだ。

オユキとしても、やはり万全は求めるのだ。トモエに向かうときには。

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