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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第386話 変わる日々

過日の一件。その日から実に多くの事が変わった。実際の、それこそ背景における変化、そこであった交渉、その一部は想像できるものではあるが、目に見える変化だけでも劇的なのだ。全てを想像するのは異邦の身では、まず無理であろう。

どの様な反応の連鎖があったかなど、事ここに至っては恐らく誰にも想像も出来ない。

王妃が昼前から押しかけてきた、それからたった二日、随分と見知った顔が護衛に加えられ、そして夜。トモエとの時間、その一部を削って、改めて話し合いの場が持たれる。もう滞在の予定も大部分を消化している。戻る算段も付けなければいけないのだから。


「オユキ、改めてお礼を。我が名に懸けて、必ずやそれに報いる、その誓いを。」

「そこまで思いつめていただかなくとも構いませんよ。それこそ過日受けた恩義、それを思えばこそです。」


少年たちは、新たに増えた慣れた顔に喜んだものだが。事情を知る身としては、ただそうするわけにもいかない。要は寄り親が変わる、こちらの地理関係はわからぬが、それが確定したという事なのだから。


「その、大丈夫なのですか。転封ともなれば。」

「法衣の親族は多いもの。そちらに渡す形で穏便に。両親、当主はまぁ、今回の背景を聞いて、ただ泡を食っていただけよ。私にしても、ここまで大事になっているとは思わなかったけれど。」

「子爵家迄は、流石に伝えられていませんでしたからね。」

「一応、領地持ちに話は回しちゃいるがな。」


夜、大人たちの時間。そこにはいつもの顔に加えて、イマノルとクララの姿もある。

二人の物理的な距離はこれまでと変わりはしないが、そこには確かな変化がある。クララに明確な余裕がある。


「ああ、それとオユキ、王太子妃様から。女性という事で、昼に私が王妃様から預かったのよ。」

「おや、随分と早い。」

「神の紋章付きの封書、その返事を放って置ける人などいるわけないでしょう。それとあの時の功績も中に入ってるそうよ。」

「では、後程改めましょうか。」


権力構造、それを考えれば放置してもいい物では無いが、今回の集まりには無関係でもある。

今回はアベルが連れてきたのだ。今後彼が使える便利な人員として。ならばこの場はあくまで現状と、今後の確認そのための場となっている。


「ファルコ様には、少々申し訳ない流れが生まれましたが。」


王妃が口にしてはいたが、まだ決定という訳でも無いとはなっている。


「どのみち、外からはそうみられるもの。あの子も既成事実を作るつもりだし、お母さまも言い含めているわよ。」


その辺りは、しっかりと外堀を埋めるつもりであるらしい。であるなら、まぁ、そこはそれこそ若い二人に任せるしかないだろう。少なくとも、これからを思えば何某かの感情は芽生えるだろうし。

いや、まず最初に誘ったとなれば、何かはあったのかもしれないのだが。


「そうであるなら、良しとしておきましょう。改めて、ですが。成果は確かにある。そうですね。」

「ああ。手を借りてる修道士からも、力がついたという話も聞いた。後は食事だな、俺らが見てる時は、まぁお前も見たろうが。普段はさほど変わらないとな。」

「やはり基礎が低い、それが結果を見るのには効率的ですね。ただ、そうなると。」

「これまでは手が足りない、後はそれこそ生存圏だな。魔物相手に簡単に対処したうえで採取ができる、そんな場所も少なくてな。」

「ああ、となると、改めて領としての差が発生しますか。」


そうであるなら、猶の事取り扱いは慎重にしなければいけないものになりそうではある。オユキはそう考えるが、アベルはあまり不安を感じている風でもない。

それこそ、その統括が主だというのに。そこまで考えて、思い当たることもある。


「ダンジョン側で、進展がありましたか。」

「ああ。これまで狩猟者か傭兵だけだったからな。採取者なら、種族問わず、それが分かった。」

「となると、いよいよですか。」

「ああ。正直慣れた部下が二人増えて俺としては、本当に嬉しいよ。是非、これまでの恩を返して欲しいもんだ。」


アベルが実に楽しげに笑って二人を見れば、揃って椅子ごと距離を取る。


「まぁ、始まりの町、あそこからゆっくり広げていきましょうか。調整役でアベルさんも大変そうですが。」

「とはいっても流石に、報告が主体だがな。メイの嬢ちゃんには申し訳ないが、まぁ、良いように使わせてもらう事になる。」

「理解はあるでしょうから。今は休暇中ですか。」

「数日は大丈夫だったんだがな。改めて神殿で報告を終えてな。その後少し体調を崩しているらしい。」

「負荷の大きい物でしたからね。」


大仕事が片付き、今は疲労と心因性、それでと言う事だろう。後で見舞いの手紙を少年たちに頼んでおこうと、オユキは頭に入れて置く。


「さて、話はそれましたが、やはり外での活動、これが早いという事です。そして最低限、それが底上げできれば。」

「だがな、個人で動ける狩猟者でも死亡は多いんだ。」

「それについては、トラノスケさんに聞き取りを行いましょう。あの町の急な氾濫、その原因も恐らく心当たりはあるでしょうから。記憶に正確に残っているかは分かりませんが。」

「一応、ロザリア司教とミズキリが共同で行ってる。死体を放置したらしいぞ。後はお前らの聞いた数と、納めた数があっていなかった。それも関係があるんだろうな。」


少々剣呑な空気が流れるが、そればかりはどうにもならない物として諦めて欲しい。人が抗えるようなものであるはずがないのだから。そもそもそれにつれてこられた以上。

その中でも、他と違ってあの場で問題なく生活を行い、救いの手が伸びたのだ。それだけ他と違ったのだと、そう思ってもらうしかない。

実際にどの程度の事をしたのか、それによってはと思いもしたが、こうして積極的に関わろうとする、それができるだけの精神状態が維持できる、そこで止まっていたのは、本当に幸いだ。


「後の足取りは。」

「流石に、全部を探すのは。お前ら見てないだけで、何度か移動中に襲撃はあったからな。」

「音も聞こえませんでしたが。いえ、そもそも簡単に聞こえるようでは、真っ先に馬の。」


そこまで話したところで、一先ずの確認は終わりと、新しく加わった二人に目を向ける。


「さて、現状はお判りいただけましたか。」

「あの時から、随分と話が進んでいるようで。しかし、新人の教育を大々的に行うとなると、既存の学院は。」

「どのみち容量が足りないからな。これまでは一か所に集められたが、今後はそうもいかん。」

「ああ、その話もありましたか。いよいよどこもかしこも人手が足りなくなりそうですね。」

「だから、そうなる前にとにかく備蓄だ。」

「うむ。とはいっても何カ所か、そこで得た物を領と国である程度平らに。そうなるがな。」


それについては、流石にそうであろう。


「人員も、でしょうか。」

「役割を得た者達は、ある程度となる。」

「他の町はあまり寄っていませんが、森から離れた場所では、採取も難しいですからね。」

「それについては、別から意見もあってな。粘土の採取等も考え、少し大地を掘ってみてはどうかとな。」

「そちらは、私はいよいよ範囲外ですね。」


ただ掘っただけではどうにもならぬだろうし、何か発見があったところで、流石にオユキにわかる物では無い。泥人形、そこから得た物に対しても、判別がつかなかったのだから。

ただ、外にある大地、それとて植物と同じく、むしろより広範に元に戻ると分かっているのだ。むしろそういった資源がない場所であればこそ、そう言った物が豊富であるかもしれない。

ただ、そちらはそちらで任せるとして。


「だとすれば、いよいよ一刻も早く、そう言われそうですね。」

「それだな。居住性と言っていたが。」

「はい。空間の拡張、それも含まれているでしょう。」


どうしたところで、それは必須なのだから。数を増やせば解決は出来るが、そうなれば規模が大きくなり、移動も遅くなる。それこそ全体として急げば、ということもあるのだがでは今度はそれに耐えうる人材、今となっては貴重なそれを、大量に拘束という事になる。勿論それが動くとなれば、国交が開かれてさして時も立っていないということもあるのだ、相応の理由は付けられるだろう。しかしいよいよ観光という主目的が後になる。

それはそれで望むところではない。


「私たちのほうでも、少し急ぐ理由がありますし。あと4年程で、回り切ってしまいたいですね。」

「おい。」

「まぁ、色々ありまして。」


トモエに目を向ければ、トモエにしても苦笑いが返ってくる。正直、その短い期間では、あの神にまともに刃が届くかは実に怪しい。

ただ、それでも諦めはしないのだが。


「それもあっての手助けですから、何か解決策があるとは思うのですが。イマノルさんも魔術は使われたかと。」

「流石に、見て分かるほどでは。あくまで騎士団で最低限、その程度です。それを言えば、アイリスさんのほうが。」

「私も触ったけれど、何もなかったわ。知らない文字がほとんどだもの。」

「オユキ、貴女。随分と隠し事が上手じゃない。あの頃はそんな様子はなかったというのに、本当に。」

「それも含めて、打つべき手を打った、そういう事です。」

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