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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第384話 許されぬ事

一つの奇跡が訪れた場、中座をする非礼を詫びながらも若い二人が去ったのだ。後はただその結果を喜んでオユキも席を離れたいものではあるが、そうもいかない。

少々、それが表情に出たとして、誰が責められる物でもないのだろう。


「気持ちは私とて分かります。」


王妃もそういうのだから。だが、現実、それを進める身として許されない事が有るだけなのだ。


「これまでのお供え、その甲斐あっての事なのでしょう。」

「以前、見ましたね。確かにああもすぐに召し上げられるのは珍しいものです。ただ。」

「ええ、完成品、それに手を加えるのです。難色を示す方も多いでしょう。」

「仕方ないとはいえ、矜持を持つものが多い仕事でもあります。そしてそれを守る立場でも。いえ、話がそれましたね。」


そこで王妃が一度大きくため息をつく。


「まったく。色々とあのレジス候子息に言いたいこともありますが、先に話すべき事が有ります。」


確かに、オユキが押したとはいえ。用意が無かったとはいえ。隣に並ぶ相手を望む言葉、その枕に相手よりも優先する事が有るのだぞ。そう置くのは色々と。それを不器用の一言で済ませるかどうかは、大いに別れそうなものである。


「ええ。改めてこの度の一連、それに対するものとして公にそう名乗りましょう。ですが。」

「作法、所作、そればかりは一朝一夕でという訳にはいかない。その理解はしていますとも。私とて、必要な教育、それを年単位で受けた身ですから。しかし。」

「先にするか、後にするか、ですね。」


王妃、その教育。それを受けた相手であり。成し遂げた相手だ。その理解が得られるのは正直ありがたい。


「あなたの教育の進捗を見て、その予定でしたが。」

「はい。一応ではありますが、祝祷については。公の祭祀となるのであれば、御身から別の人員とお時間を頂く事にはなりますが。」


城の行事、祭祀。それを取り仕切り、形を保つのは神職の仕事では無いのだ。エリーザ助祭にそれは望めない。


「改めて城に招く、そうであるなら流石に。」

「衣装の手配などは、公爵夫人を頼んでおります。」

「今頃は、城でその確認が行われているでしょう。そちらは結果を待つとして、貴女の言葉にもある、それです。息子夫婦からは、彼の神の名の下の祝祷であるなら、祭祀が終わった後にと。しかし。」


機運があり、先駆けがあった。そうしたいという意見もあるらしい。国として、そう考えた場合には口にしなかったそれが正しいのだろう。だがオユキとしては、かつて人の親であったものとしては。


「滞在の日程を少し伸ばすことになっても、後としましょう。巫女本人がそれを選んだ。そのように。」


これまで、王太子夫妻は、あまりに辛い状況であったのだ。ならばそちらを優先しても良い。望まれた子なのだと。そう謳いあげればいいのだ。


「それに、箔もつくでしょう。その方が。」


トーナメント形式となる。そのように聞いている。抽選、誰がその枠に入るかは、大会の前日にオユキとアイリスが巫女として勤めるその中で決めると聞いている。そして、上から二番目に立つ相手からの祝祷、そうであればなお戦と武技、その名が際立つだろう。生憎と、最後まで残ることは叶わないのだが。


「では、そのように。それから、改めて公爵には伝えますが。」

「その、巫女と言うのは、それほどなのでしょうか。いえ、勿論その位を侮るわけではありませんが。」


これまで訪れた場所。時間を取った場所には居たのだ。始まりの町は、別で過ごしているらしいが。


「神殿、それが領内にあれば。」

「確かに、月と安息、水と癒し、その二柱以外の巫女は聞きませんでしたか。」

「ええ。それにしても数が多いわけではありません。合わせても両手の指で足りるほど。そこに。」

「魔物が増える、そのお言葉があった上でとなれば、ですか。」


全く。つくづく難儀な時期にこちらに来てしまったらしい。事が終われば移動が出来なくなる、恐らくは。そうである以上選択肢を与えるには、ここしかないとは分かるものだが。それにしても当初の予定の半分以下となった。最も忙しい最中に、そう思いはするが。仕方ない。その決断は、十分にできる時間ではある。


「此度の一件、それに係る公爵家はともかく、他は纏めてと、流石にそうなりますが。」


王太子よりも前に、それは出来ない。そして、その後は結局始まりの町に間を置かずに戻ることは決まっている。オユキの本音としても、いくつあるかもわからぬ、何人いるかもわからぬ相手に個別に。それは流石に良しとは出来ない。始まりの町に戻った時に、領都にいる間に。空いた時間に望まれれば、簡単な物であれば受けるだろうが。

今回のように毎度口上までを個別に考えるとなれば、多くを断りはするだろうが。


「そのつもりがあるならば、結構。勿論簡易的な物に。」

「場所は、流石にご用意いただくと思いますが。」


さて、それが決まるのは良しとして、問題としては一度手伝いを頼んだ相手となるのだが。


「あの子たちは、どうしましょうか。」

「説明をして、それでもと望むのであれば。」

「それでもと、恐らく望む物とは思いますが。間に合うかどうか、それは難しそうですね。」


ただ、まぁ。やらないよりはやった結果として。その方が健全ではあるだろう。あの子たちにしても忙しさが増すが、そろそろあの五人組、その中で異なる作業、その経験もいい物だろう。そうしてしばらく、王家の祭祀としての衣装の話を始め、事務的な話を続けていれば、中座した相手も戻って来る。泣きはらした後、そうは見えないあたり、流石は公爵家の使用人たちというところではあろうが。


「失礼を。」

「その言葉にしても、先にレジス侯爵子息から聞きたいものでしたが。」


王妃の棘に反応できない、やけに顔色が悪いイマノル。まぁ、理由は分かりやすい。シグルドは無理でも、クララであれば十分な威力がある。顔では無く胴を狙ったのは理性か訓練か。


「それと、オユキ、改めて感謝を。」

「私よりも、この度労を担って頂いた2柱に。」

「2柱、ああ、そうね。貴女はあくまで。」

「戦と武技の神はワインを、華と恋の神は甘い果実酒、そう言った物をお好みとか。」

「ラスト子爵家次女、その名に誓って、必ずや。」


そこで片膝を付き、胸の前に手を当ててとなると、どうしてもその所作が騎士としての物に見えてしまうものだが。要は咄嗟にそれが出るほどに、長い時間ではあったのだろう。その年月はこれからの関係で、存分に返済を求められる物だろう。


「イマノルさんも。どうか信頼に甘える事の無いように。これで終わりではなく、新しい始まりである、それをお忘れなきように。」

「金言、確かに。」

「ではその誓いを改めて、巫女として、創造神様から預かった、この功績に懸けて。」


これが贈られたのは、実のところ別の由来ではあるが、形としてはそうなる。


「死後もこうして並び合う、それは流石に行き過ぎと、私もそう思いはしますが。」

「改めてイマノル・ルブラン・レジス。その誓いをここに。幼き日に槍を取り、武を求めたのは、美しいと、守りたいと、そう願った相手がいたからこそ。ならば我が槍は折れようとも、誓いを捧げた相手、それよりも後にこの身が凶刃に倒れることは無いでしょう。それはこの魂を神々がお求めになるまで変わることは無いと。」

「クララ・リーズベル・ラスト、幼い日の思い出、それだけを縁に今日まで。だからこそ、この思いを永遠に。」


後者の言葉が少ないのは、この場であまりに言葉を重ねればまた、それもあるのだろう。王妃を一度見やればオユキの思惑とて理解はしているらしい。少し眉間にしわが寄っていはするが、確かに頷いた。

そうであれば、遠慮をすることは無い。


「正式な物は今後となるでしょう。そして、こうして聞き届けた私が、その祝福の場に居合わすことができるかもわからぬ、その非礼を詫びましょう。しかし、それでも確かに聞き届けました。巫女として、功績を預かる身として。私が役目を戴く神、彼の神の願いにお応えくださった華と恋の神、その功績こそが証。」


互いに忘れなかった、幼い日の約束。その成就がここになされたようだ。何とも紆余曲折はあったのだろうが。それでも忘れず、互いに温めた。与えられた功績が華を模した。幼い日の種がそうなる程に、大事に育てたと認められたのだ。


「ならば、ただ。今は祝福を。今後変わる風向き、その中でも華が散らぬように。」


かつての文化圏であれば、確かに花びらや米を撒く、その風習があったのは事実。ただそれにしても花びらが空中から現れ、地に落ちては雪のように溶けて消える。その光景は美しさを確かに感じる物ではある。少女たちに話して聞かせれば実に喜んでもらえるだろう。その場にいなかったことを残念がるだろう。

ただ、そうして若い二人の前途を言祝ぎながらも、オユキとしては今後の不安もあるのだ。

それができるなら、では婚姻の祭にも巫女として、そう言われるのではないかと。

良かれと思って、若い二人。特にイマノルには並々ならぬ恩があるからと。その理屈が通る相手ばかりでは無いのだが。一応それを知らぬだろう相手もいるからと、言葉を添えて置く。


「異邦よりこちらに来て、それでもか弱いこの身と苦難にある者を守る。その確かな誇りを見た私から。」


さて、こうして今後は膝を着かれることが増えるのだろう。頭を下げられることには慣れはしたが、これもそのうち慣れはするだろう。

華と恋の神、その認めた関係は、貴族だからこそ崩せない。その話があるのだ。ならばこの二人の関係は、今後は確かなものとなったのだ。今後も色々と手間をかけるだろう。それも込みではあるのだが。

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