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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第382話 変わる情勢

「良い工夫でしたよ。」

「でも槍相手なら、いつものが正解って気もするんだよな。」


負けたとはいえ実に晴れ晴れと戻って来るシグルド、それと苦笑いをしているイマノル。何とも対照的ではあるのだが。どちらも充実した時間であったことは確かなようだ。


「私から見れば、むしろ突きを放つ場所が分かりやすい、だからこそ誘われている、そう警戒を持つものでしたよ。」

「ええ。どの武器、どの構えもそれぞれ奥深いものですから、ですがまずは。本当に良く考えて動いていました。先の間合い、その話もありますが、槍が不利となる場所、そこに飛び込む。武器をまず当てる、その状況を作る。それを良く行っていました。」

「なんか、もっとうまいやり方はある気がするけどな。」

「はい。それはそうですね。では次に。」


そうして、トモエがもう一度最初の構えをシグルドに取らせながら、姿勢を正す。槍相手に、少々体を開きすぎていたのだから。後は体重の分配であったりと。


「かなり窮屈じゃね。」

「そうですね。しかしそこでためを作る、そう言った構えですから。こちらも繰り返せば馴染みますよ。」

「成程、以前オユキさんが短剣で近い物を取りましたが、そこまでになると、狙える部分がかなり限られますね。」

「直槍の攻撃は基本的に点ですから、そういった意味でも、向いた構えではあるんですよ。はい、ではそのまま振ってみましょうか。」


そうしてトモエがためしにと振らせれば、盛大に体が流れる。

勿論シグルドがとなれば、剛の剣、そう評した物なのだ。パウも隣に並び、アイリスも。そうなれば、後はいつもの時間となる。

オユキとしては、残念ながら、そうもいかないのだが。


「アベル殿、巫女様になんという無体を。」

「ちょっと雑なくらいでちょうどいいからな、特にこっちは。」

「こっちとは、トモエ殿も。」

「いや、向こうにいる獣人だな。あっちが本筋、らしいが。まぁ、今は置いておこう。」


そう、次代、それを見た上で、少なくとも一つの決着はついたのだ。話の流れとして預かったもの、その決着もある。これで受け取りはしないと、それは分かっているのだが。


「一先ずの決着は見ましたが。」

「名乗りも上げられぬ、それが相手では。それに。」


そう、シグルドはまだトモエの次を名乗れない。その許可がないから。


「あの少年、シグルドでしたか。我らがこれまで諦めた物、それをすべて拾った姿が、あれなのでしょう。」

「良き民だ。我もあの少年を我が領の民、それを憚ることなく言えるほどにな。」

「愚息の振る舞いを咎めたのも、あの少年でしたか。そうであれば、確かにあの少年が納得を得たのなら、愚息、その始末は一先ずついたのでしょう。であれば、やはり我が家の位は、正当な決着、その時に。」

「闘技大会、その場でも構いませんが。」

「届きませぬよ。後継とて、未だ拙い。マリーア公。我が家の枠は、そちらに。我が家名の正当、名誉を得る枠。その二つでこの度のかかる不始末。それを。」

「相分かった。後は任せよ。リース伯の領となる予定地、そこにはまだ空白もある。」

「お手数を。」


では、一先ずこれで決着であるらしい。人材の引き抜き、その一助までできたようで何よりではある。無論調停についてはこれから実に派手なやり取りがあるのだろうが。

事、それについては、オユキの手が及ぶものではない。ただ、求められる事は分かっている。


「私どもも彼の神の名のもとに開かれる祭祀に。どうかご安心を。レジス侯爵、その家名に一切の傷はつけません。」

「心強い言葉、真に有難く。」


そう。過程はどうあれ、決着の一つとしてレジス侯爵の親、何某かの公爵は闘技大会、そこを使う。神の名のもと、公の場で。

そうであるなら、預かった側、それとして。確かに正当な決着、それを見るまで守り抜き、傷一つもつけぬ。

一先ずこれで良しと、オユキが頷けば、一度離れたアベルの手が頭に。まだ何か、そう思って見上げれば、いつの間にやらイマノルの首も反対の手に収まっている。


「お前ら、クララはどうする。」

「ラスト子爵家にも、話を通さねばなるまいよ。家格そのものは変わらぬが、派閥は変わる。」

「そちらについては、両家でよく話し合って頂くしか。」

「お前が預かってる、その家名が結婚に必要なんだよ。」


さて。それは確かに、難問ではある。いよいよ地面から足が浮いているイマノルにしても、流石に顔色が悪い。


「ラスト子爵家もと、そうなりますか。」

「流石にそれは王家がどういうか。それぞれに隣接している領、その寄親の変更くらいは求めるぞ。」

「流石にそれは、公爵様にとって不名誉にすぎますね。」


新しく取り込む家がある。だからそちらは別に。あまりに露骨な取引と、そう見える行いだ。これまでを反故にする。そしてそう言われれば、他も考えるだろう。次はこちらかと。

そうであれば、そのままに。そうしたいのも山々ではあるが、もうそうはならない事情もある。

ではどうするのかと言えば。


「已むを得ん。集めた武器、それを渡し素材もさらに出す。王家には、今回得た物、その情報、最初の完成品をとするしかあるまい。」

「お手数を。」

「何、結果として利は大きくはある。利は大きくあるのだがな。」


今回、王都で集めた物。それはリース伯爵家、そこに頼んだ大仕事、その補填に使うべきものであったのだ。それが無くなるとなれば、今度はそちらとも色々と話がいる。

今から、悲嘆にくれるメイの顔が浮かぶようだ。しかし今回の件、その不満と補填は是非アベルと慣れた部下の二人で行ってほしいものだと、オユキが顔を動かす。


「ミズキリも言ってたが、最終的に利が有るから、咎める事も出来ないってのがなぁ。」

「いえ、流石に今度ばかりは、こちらでも可能な補填は考えますよ。」


そう。あまりにも大事ではあるし、手を出せない事が、手を貸せないことが多すぎる。これだけの事が起きた中で、何もせぬ。それはオユキとしても気が引ける。では何かわかりやすい物を、そう考えはするのだが。いくつかすぐに思いつくものは碌な物ではない。恐らく、別から、もっと具体的な咎めがある。

なので、別をと、そう考える。

幸いと言ってもいいものか、現状この国、この世界は不足している物があまりに多い。ならばそれを。巫女として、狩猟者として。幸い、移動、その制限も恐らく減るのだ。ならば公爵にどうしても現状かかっている手間、その一つを取り除くのが良い物だろう。


「巫女として、公に動きましょうか。流石に合格点を頂いてからになりますが。」

「良いのか。」

「はい。移動、その問題を解決する見込みもありますから。」

「しかし、手間は増えるぞ。」

「そこは、鍛錬の妨げを行う、その許しは無いとするしかない物でしょうが。」


現状、どの程度がいるか分からないが、珍しい存在であることに違いはないのだろう。周りに多い、それには目をつぶる必要があるが。

ならば、王太子の子、その祝祷があるように、望む者もいるだろう。武門であれば、間違いなく。そして面倒を避けたいからと、そのこにしても内々に、そうせざるを得なかったのだろう。

ただ、それを改めて公で行えるとなれば、王家に対しても十分な譲歩ではある。


「勿論、連日は望みませんし、変わらず選んで頂く事にはなりますが。」

「まぁ、異邦から来たばかりじゃ、流石にこっちの家の事情は分からんだろうしな。」

「うむ。それは安心せよ。しかし王都にいる、残りの期間を考えれば。」

「そこは王家に。私が表に出る事を良しとすれば、祝祷があります。」

「ふむ。其処と相殺するか。練習があるとそうすればよいものであるしな。」


公爵は何やら楽し気に笑う。どうにも権限がかさましされている様子ではあったが、想像以上に仕事を振られているらしい。


「しかし、そうなると王妃様が嬉々としてオユキを飾りに来るぞ。」

「仕方あるまい。妻はオユキが好まぬからと控えているが、公式のともなれば口実にするだろうからな。」

「そちらは、程々にしていただきたいのですが。それこそ動きの妨げになるものは。」

「それ以外の時間に使う物だ、そう押し込まれるな。」

「なんにせよ、そちらは助祭様にもお願いしなければいけませんね。」


巫女、その範囲を出ない物として、そちらにも相談しなければならない。また面倒を頼むことになるのは心苦しいが。加えて、学ぶべきことがさらに増える。祝祷、その行事の影でとならず、オユキが一人王城で所作を習っている間にトモエが王城を観光できるのが、唯一の救いだろうか。

着せ替え人形役は、まぁ、晩年、寝ている時間が多かった時期を思えば、何ほどでもないが。最期、それを自覚する前日まで己の足で歩いてはいたが。


「さて、一先ずこれで決着と、そうしましょう。レジス侯爵、その家名についても私が公に立てば、過剰な文句も勘繰りも無いでしょう。先ほど話した流れと変わる、それも出るでしょうが。」

「此度の事、家名についてはすでにお預けしました。私から何を言うこともありません。」


さて、それでは。そうオユキが思ったところで、アベルに一度頭を振られる。


「それでひとまずどうにかなるだろうが、クララにはお前らできちんと説明しろよ。」

「いえ、そこは当事者のお二人で。」

「お前も当事者だ。」

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