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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第370話 改めて、神殿を

神殿を一望できる、少し離れた位置。そこに止まった馬車から、連れ立ってぞろぞろと降りれば。それこそ権力者の同行もある。周囲を物々しく取り囲まれはしているが、整った場が用意されている。


「本日は、ようこそ足をお運びくださいました。」


そして、水と癒しの女神の神殿、そこの司祭に迎えられる。司教については、何やらほとんど城住まい、そんな状態であるとは聞いている。戦と武器の司祭にしても。

次に控えた闘技大会。どうあがいたところで怪我人の出るそれ、そして告示がなされれば、血気に逸るものも多い。

騎士は巡回に駆り出され、病院、診療所は満員御礼とそう言った様子である。戦と武技の神、その教会にしても助祭からやんわりと近寄ることを止められる、そんな状態になっているのだ。


「うむ。神々との約定を果たしに参った。手間はかけるが、此度多くの事を果たした者たちへ。」

「ええ、勿論ですとも。まずは、こちらで改めて。中に入れば、それぞれにお伝えさせて頂く事もありますから。」


神殿内にある絵画、美術品、それらの説明を求めているため、勿論中に入ってからはそれに時間を取られるだろう。ならば概論としては、確かに神殿の全景が望めるこの場が相応しいものだろう。

少年たちにしても、教会の子供たちだ。トモエ達よりはよく知っているだろうが、それでも助祭が側について色々と説明を行うようである。

流石に、席は分かれているのだから。


「改めて、この度は御役目を果たされた事お祝い申し上げます。王太子様も、お子様の今後のご多幸を。」

「有難く受け取ろう。今後祝祷はこれまでと異なるが、洗礼の折には改めて。」

「ええ。魔物と戦う。月と安息の女神様の恩恵、それに守られるだけでなく。そうなっていくのでしょう。そうであるなら、次代の御子は。」


どうにも祝祷と言うのは一度限りのものであるらしく、そう決まったものであるらしい。洗礼を受ける先と違っても問題ないのかと、そう言った確認も実に速やかに進められた。


「生憎と、未だ合格はいただけておりません。かかる不備については、真に申し訳なく。」

「一朝一夕という訳にもいかない物でしょうとも。新しく生を受けたこの前途を祈るのです。そこに不備があっては。」

「ああ。ことこれについては、まぁ制限もあるがその中であれば、存分に時間をかけてくれ。我が子の事だ。過日を思えば、それを確保する手間など何ほどでもない。」


所作だけならともかく、口上を述べながらとなればやはり、なかなか難しい。口上にしても、一部はオユキが、アイリスも協力してとなるが、考えてくれと言われれば猶更。

衣装についても、公爵夫人と教会が連携して、今まさに用意のために奔走している最中であり、まだまだ日がかかりそうである。無論領都に戻る前には、終わらせる必要のあるものなのだが。

そんな世間話も終われば、揃って席に着き、のんびりとお茶に口を付けながら改めて神殿、その話を司祭が切り出す。


「由来、ことこれについては、定かな事が残っていません。しかし、王都、これよりも古くからこの場所に、水と癒しを司る女神様、その力に満ちた場所は存在しました。」

「それについては、王家の歴史にも残っている。この地を見出した王祖、最初は手酷くあしらわれた、その話と共に。」

「彼の女神は、やはり闘争を好みませんから。」


ここに国を、人が住む場ではなかった、そこを切り開いた物ともなれば。それは確かに、魔物をねじ伏せて進んだ、その状態でたどり着いた事だろう。


「初めて訪れたその人は、少々問題がある身形でしたから。」

「水、その清浄に、魔物の血と脂、それにまみれた己は確かにそぐわぬ物であった。そう王祖も言葉を残している。それもあって、改めて準備を整え、臨み、彼の女神と言葉を交わした。」

「はい、二度目の来訪。彼の女神様にとって初めての来訪者。それはひどく喜ばしいものであったと。そして、不浄と嫌った、兄弟である他の神々にも窘められ、そこでまずは、始まりの奇跡を。」


建国神話、オユキも初めて聞くそれは、何とも興味深いものである。そして、人に初めて与えられた水と癒し、その奇跡が浄化。身につく不浄を払うその奇跡、それというのが何とも哀愁が漂うものではあるが。


「王祖にとっては、そこからさらなる苦難が重なることになる。無論我らの祖たる御方だ、敬意は持っているのだが、やはり始まりの方でもあってな。身一つ、それで訪れたのだ。そしてかつては魔物蔓延るこの周囲、そこに訪れる。当時を考えればやむを得ないものだが、彼の女神の好むものなど。」


そう、今となっては広大な王都。しかし当時は何もない場。そこに好んでくる手合いが、彼の女神の歓心を買える品等持ち合わせるはずも無い。


「彼の女神様にしても嫌と、そう断ることも難しく、もどかしい関係であったとか。しかし、確かに思いは通じ、彼の女神は、改めて当時はただの開拓者、その人物に祝福を。そしてこの地を拓く事をお認め下さり。」

「うむ。今日に至るわけだ。そして、その頃からこの神殿の威容は変わらずそこにあると、そう聞いている。無論装飾などは折に触れて変わっているが。」

「それが、千年を超える時、ですか。」


そう、そしてはじまりのその時から、それだけの歳月。ここには変わらず、潤沢に水を湛え、その恵みを周囲に与える神殿が。


「代々国王陛下の位が譲られる折に、庭園の趣が変わる、そう決まっております。」

「実際には、王妃の初仕事ではあるがな。」

「とすると、この光景は、王妃様の手によるものですか。」

「うむ。先代王妃様はもう少し華美な物を好んでいたからな。それもあって、今はこのように憩いの場、市民が彼の女神の神殿を気安く目にできる、それを心掛けてとのことだ。」


どうしても神殿そのものの大きさが変えられる物では無いのだろうから、庭の広さもそれに合わせてとはなる。しかし、それこそかつての寺社仏閣それに併設された物。その佇まいを思わせる長閑で、広々とした空間だ。

夏の空、鮮やかな緑に、煌めく水流。奥には荘厳な神殿に、それを彩る装飾。トモエがそう望んだように、市民、それこそ騎士が定期的に護衛をしている、参拝。それに参加した者たちにとって、この光景はまさに記憶に残るものだろう。


「ええ。実に素晴らしい、それ以上が無粋となるほどの場かと。」

「何よりのお言葉です。彼の女神様も、かつてに比べ、気軽に訪れる方が増えた事を、ことのほか喜んでおりましたとも。」


こちらの神々が、殊更そこに暮らす人を好む、それを改めて告げられる。そして、目の届く範囲、それに限りがあるのだとも。


「あちらは、河川に繋がっているのでしょうか。」

「どちらも、拠点までだな。右手にある物は王都に流れ、そこで消費され、他方は資源採取を行う拠点、そこで使われる。以前の御言葉もある、元々あったそちらの計画は白紙になった。」

「そう言えば、水が癒しの力を、と言う事でしたか。」

「はい。もたらされた彼の女神様のお言葉の通り、癒しの奇跡を改めて清流に。」

「無論、まだ確認すべきことも多い。直ぐに市井にとはならんが。」


トモエとしては王太子の言葉を意外に思う。神々に与えられた物だ。その効能を疑う、その価値観がこちらにはそぐわないように感じられる。


「ああ。効果がある、それを疑うのではなく、どの程度までなら、それが問題でな。」

「成程。それは確かに試し、確証を得る必要がありますね。」


そう。水で、そのように奇跡を含んだ水で治るからと、過信が生まれても困るのだ。それ単体ではどこまで。薬として、これまでのものと合わせたならどこまで。それが分からないままに処方をすれば、結果として助かるものも助かるまい。


「ただ、まぁ、効能を見たいから怪我をせよ、そうとも言えぬのが悩ましいところでな。」

「徒に作った傷、それに神の恩情は与えられませんよ。」

「まぁ、そういう事らしい。」


その辺りは、何ともらしい事ではある。


「そのあたりは、らしい厳しさ、そういう事なのでしょうね。それと、神殿を包む。」

「やはり彼の女神様のお力、それを示す物は。」


そして、話はさらに進んでいく。耳を澄ませば、子供たちに助祭が寓話を語り聞かせる音、遠くからは水のせせらぎ。流れるそれが草を揺らす音。時折魚が跳ねる物だろう、水面を叩くような音も聞こえてくる。

周囲に立つ騎士達、護衛のその人物達は、何ともすさまじい事に、身に着けた金属の音をたてもしない。だからこそ、こうして話を聞く場、それは実に静かに穏やかに。


「あちらの花については信徒に頂いた物、神殿の裏手で育てものなど、様々ですね。いくつかは流水の中でこそ咲くものもありますが。」


切欠こそオユキが話し、王太子が来歴を語ったりもしたが。今はトモエが熱心にあれこれと司祭に尋ねている。

ようやくと、そうなってしまいはしたが。想定よりも早く訪れる事が出来たのは、喜んでもいいのだろう。

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