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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
11章 花舞台
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第369話 観光の時間

一つの大きな節目。事前に設定したマイルストーン。それが無事終われば猶予が生まれるのかと言われれば、そうではない。実際に事に対応する、そう言った役回りの人々であればそれも事実だが、計画する側にとっては、むしろそこからが本番なのだ。


オユキ、アイリス、トモエの三人。それらについては当然だが、今回の件。生誕祭を大いに盛り上げた神々の奇跡、それを運んだものとして。改めて国王、王太子の連名による勅使を迎え、公爵監督の元感状、礼品を受け取り。公から離れた場では、改めて王太子からの謝罪文に対して、返事をどうするかと頭を抱える事ともなった。

そればかりではなく、勿論祭りの余韻、この後催される別の祭り。それに沸く街に供給するべき糧を求めて、日々の狩猟にも手が抜けない。

幸い、自薦枠、他薦枠が用意されたため。後者を目指す人々が、懸命に狩猟に出ているため、そちらは間もなく解消される見込みと相成ったのだが。

ただ、それにしても現状を鑑みて、城勤めの文官たちが意見を、時に拳で、戦わせた結果、どうにか生誕祭に間に合った、そのような物と聞いている。

そうして、事前に決められた、神々に押し切られたその日。神殿に向かう馬車は、なかなか愉快なありさまとなっている。


主賓。しかし事今回の件にしては主犯でもあるオユキとアイリスは、散々に作法を叩きこまれ、時間があれば意見を求められる。また、闘技大会の式次第、それについての協議もありと、一息ついている所を誰かに見つけられては連行される。そんな日々を過ごしていた。

そして、案内役として同行している王太子、公爵については、言うまでもない。四人そろって馬車の中、備え付けられた長椅子に体を投げ出しているが、公爵夫人も、王妃も。それを咎めもしないことがこれまでの日々の忙しさを物語っている。唯一元気なのは、護衛だからと、過度な疲労を避ける言い訳を持っていたアベル位のものだ。


「流石に、堪えるな。」

「こういう事が有るたびに、さっさと後を譲りたくなっていかんな。」


例えば一人からの報告を10分聞くとして。一日に聞ける人数は144人。内容を咀嚼し、対応を考え、指示を、関係者と協議したうえでとなると、その数は一気に減る。

そして決裁を待つ人間というのは、いくらでもいるのだ。公爵は王に報告する前段階。王太子にしても、王から割り振られたことをこなしているに過ぎないが。それは単純に王の処理できる仕事量、それに辛うじて抑えるための最終ラインであるという意味に過ぎない。無論この国で最も高位、あらゆる国事の決裁、それに認可を行う人物については、すっかりと椅子と仲良くなっているらしい。執務室に入っても、国王本人を見るためには、書類の山を一度どかさねば、そのようなありさまであるらしい。


「あと20年は頑張ってくれ。」

「もう60を超えているのだがな。」

「そこに80を超えたのがいるだろう。」

「異邦の者と同列に扱われても、流石にな。」


見た目で言えば倍半分。その程度の年齢差はあるだろうに、随分と気安い。


「全く。難しい日程とは思ったが、今は過去の己の英断を褒めたたえたいものだな。」

「うむ。」

「何と申し上げたものか、良い言い方も思い浮かびませんが、それほどですか。」


オユキにしても、乱獲、祭りに沸く街で消費されるそれらの確保の大部分をトモエに任せる事となっている。役目を得た相手が相手でもあるため、魔物との戦い、その場から離れることは無い。しかし、そこには新たに時間的な制約は加わっている。鍛錬にしても。

そして、公爵にについても、朝早く、それこそ朝食の席に現れず出仕している。


「それほどの事ではあるのだ。これまで神の奇跡、その御心の内に秘められていた事が明かされるというのは。」

「騎士団は陛下と王妃様の管轄だが、そちらはそちらで、まぁ阿鼻叫喚だな。」


トロフィー、神の認めたあかしとしての結果。ではそれが得られないのは、御心に叶わないからなのか。確かに、こちらの者たちにとっては。


「質が違うものですから。その理解はお持ちでしょう。」

「持っている者もいるが、そうでない物もいる。それに尽きるな。」

「うむ。民を守る、その誓いを持って日々を過ごす者たちだ。当然認められるべきはそれに沿う。しかし。」

「それでもと、そう考えはしますか。」


そして、それに対応するために先の両名が動くとなれば、残りは残った王族にとなる。


「ダンジョンについても、要望があるしな。」

「資源は十分と、以前そう伺いましたが。」

「新しい糧を得られる可能性がある、そうなるとな。他の異邦人からも、色々と情報が出た。」


トモエの疑問はすぐに答えが返ってくる。そして、その存在を知っているのはオユキとトモエだけではない。むしろそういった物が良く作られていた人里、そこに基盤を築いていた他の者は猶よく知っている物だろう。

そして、王都。武力は十分にあるとなれば、これまで不足して出来なかった事、それができるかもしれないと思えば。


「理解はできるのだが、流石にな。」


そして、優先順位は決まっている。王都が後になると。現状で問題なく、それこそ他で行った結果を得られる場でもある。ならば基盤も十分。


「しかし、それで騎士、己の能力の先を目指す方々が止まるとは思えませんが。」

「故にそちらも再編だな。傭兵ギルド、あちらを改める事になる。」

「成程。それで小回りを利かせ、各地に、ですか。」


今後は傭兵ギルドへの出向では無く、部隊として、そうなっていくようではあるが。


「しかし、対応できるかどうか、それについては。」


トモエの率直な疑問には、ただ重たいため息だけが返ってくる。

難易度、それが明確にわからない。派遣されている戦力をあてにした場合、自身で対応できる以上を求めた場合。待っているのは悪夢の類だ。被害は甚大なものになるだろう。勿論、どの拠点にしても魔物の氾濫、それがある以上相応の戦力を備えてはいるだろうが。

今度は、数に対応するための戦力と、強敵に対応するための戦力。その差が出ることとなる。


「後は、文官の方でも色々とな。」

「仕方あるまい、新たに授けられた知識、それに対応する制度を作るのが我らの職務でもある。」

「こう、こっちに回すまでに、もう少しそちらで取りまとめられないのか。流石に一つ二つの補修石の利用許可を求められても、他に不都合が出る。」

「仕方あるまい。数が少なすぎる。狩猟者ギルドでも取りまとめているはずだが、得られるものが限られすぎている。後は、功績を貯める器であるな。そちらについても御言葉は頂いたが、未だに得た物がおらぬ。」


補修石、そう呼ばれることに決まったらしい、武器に限らず鍛冶に関わる品。それに使われた素材が何であれ、欠けた物を補填することが可能なそれ。オユキ達の中では、数人しか得られていない。それが運によるものではない、それくらいには当然気が付くものだろう。オユキとトモエにアイリス、覚えがめでたいはずのものが、一切得られないのだから。

今の一党では、シグルドを筆頭にアナとアドリアーナ、後は子供たち以外に魔物を倒しても得られない。

武器を消耗品、道具と捉える者に、当然のことながらそのような物は与えられない。

また、望む物には、そう言われていた功績を貯める器、それにしても得られた物は未だいないのだ。


「調査と研究、情報の集積と予測。それが本分でしょうから、今こそ忙しいでしょうね。組織の改編であったり、新部署の創設というのは。」

「それを行うとなれば、必要な人員が膨らみすぎる。今も話は進めているのだが。」

「おい、流石に現状でよそから引っ張ると、恨まれるだけじゃ済まんぞ。」

「分かっている。分かっているのだがな。」


何処も忙しい。人手が足りない。そしてそれに対応するには、新しい仕組みが必要ではある。ただそれをするために各所から人を引き抜けば。


「まぁ、それをやれば皆さんが素敵な笑顔でこれ幸いと、色々と投げるでしょうね。」

「それが分かっているからこそ、2年後を目途にと、そうしている。さしあたって、補修石の価格だけでも決めねばならんが。」

「今は無理だ。それこそどんな武器にでもというのが、まずい。」


そう、今その石は完全に需要と供給が狂っている。価格の設定をすれば、それこそ数億もする武器の修繕にも使えるのだ。どんな値段がつくのか分かった物では無い。


「正直、あの子供たちの裏の無い善意だとはわかっているが。」


騎士のパレード。それを大いに楽しんだ少年と子供たち。そしてその手配を行った公爵家。勿論、あの子たちはきちんとお礼を渡す。珍しく、新しいものだからいいのではないかと。


「今だと、下手をすれば屋敷が立つからな。」

「うむ。狩猟者の中でも持て余している者もいる。ギルドとしては、値段の設定も無しに扱いたいものでもない。」

「一応、宝物庫にある物を使って割合を出す予定だが。」


そして、全てに対して同量、そのはずも無いのだ。ある程度の指標を作り、そこからとなるのだろうが。勿論個人でそれを叶えられる、魔物を狩れば、若しくは他の何かでも。それができる器の得かたが分かれば話も変わる。

今は、ただ。新しいものに誰も彼もが振り回される、そう言った時間なのだ。

そして、その渦中。この国でもほぼ最高位の裁量権を持つ二人は、これ幸いと神事として休憩を求めてここにいる。


「それにしても、良かったのですか、お二方だけで。」

「言ってくれるな、散々に恨み節は聞かされたが、我らも流石に休みが欲しい。」


そう、そう言った仕事は止められない。二人がここにいる。つまり今も残ったものが、対応をしているのだ。

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