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第366話 大人たちの時間

「何とも、味わい深いものであるな。それに、考えさせられる物でもある。」


夜、子供たちは明日の祭りのためにとトモエとオユキが物理的に寝かしつけた。昼間、短い時間とはいえ寝てしまったものもいるため、それで祭りの朝、眠気を覚えてというのも悲しいだろうと。

流石に、色々と準備や、覚えなければならないこともあるため、それの後。実に珍しく、日が沈み、月明かりの下でとなったが。少年たちにしても、どうやらこれまで散々見てきたことであるらしく、苦笑いをしながらも、実に果敢にトモエたちに加えて、アイリスとアベルも参加したそれに食い下がってきた。かつてであれば疲労が残る心配もあるが、こちらであれば問題ないだろう。


「まだまだ、色々足りない子たちですから。」

「まぁ、顔をろくに合わせてない相手に土産を買う、そこまで頭は回らんわな。」


本邸、そこで数日とはいえ寝泊まりするのだ。当然リヒャルトもいるし、準備のためにと動き回っている使用人もいる。そして、家主である夫妻も。そこにファルコにだけと、そうしてしまえば、どうなるか。


「少し出すのが早すぎましたか。」

「どうでしょうか。流石にファルコさんにしても、埒外の事でしょうし。」

「今回については、リヒャルトの方に問題があるな。贈り物、民からのものなど得てしてそうなるものだ。」


夕食の前、おすそ分けと並べたそこに兄弟そろってきたときには、なんというかはたから見る分には面白い、そう言った光景であった。


「にしても、こういう時間はずいぶん久しぶりな気がするな。」

「まぁ、忙しかったものね。私にしてもまだ傭兵、狩猟者、それぞれのギルドでやることが残っているし。」


そして、大人たちの席。公爵夫人は明日の祭り、そしてそれ以降。家中の者への采配が山となっているため、生憎と不参加ではあるが。

祭りで買ってきた、まず公爵家ではでないであろう品を並べ。それに合うとされたワインを片手に、のんびりと過ごしている。勿論、オユキ達から誘ったのだが。


「俺はこういった物だと、エールのほうが良いな。」

「香りが華やかにすぎる気もするが、味と油が強いものも多い。口を洗うという意味であれば、確かにな。」


さて、こうして色々と品評するのも楽しいものだが、こういった席だからこそ。まぁ話したい事が有るから、声をかけたわけではある。


「何と言いますか。少し、纏まりなく、考えている事だけになりますが。」

「また、何かあるのかしら。」

「あー、そういや、なんか考え込んでる様子だったよな。」


色々と、昨日からだけではなく。本当にあれこれと、こちらを改めて観察しながら考えている事が有るのだ。トモエがそれを疑問に感じている。それもよくわかるのだから。


「こうして、表層として会話は成立していますが。」

「ああ、それか。お前らの言葉はまぁ、大概わかる。」

「やはり、そうなりますよね。それについて確認をされたりは。」

「聞き返しても、まともな答えが返ってこなくてな。そういうもんだと、まぁ、そうなるよな。」


固有名詞だけではない。そもそも会話が成立しているようで成立しない。そんな状況は過去頻発したものであるらしい。


「そうでしょうとも。」

「今更、ではあるが。その方らについては、問題なく会話ができている、そう感じられるのだが。」

「いえ、1000年近い、そう聞いている割には。そう思う事がやはり多いものですから。」


そう、なんというか、発展が足りていない。既に過去そういった研鑽はあった。オユキが碌に知りもしない、他のプレイヤーのそれではあるが。それがあった上でと考えると、なんというか、不足が多すぎる。

魔道具、それについては魔国で十分に発展しているらしいが、1000年もかけて、高々ジェラートを。その程度で済むはずも無い。数千万は来ている、そんな話なのだから。


「以前も、物理法則、マナそれらの差異で叶わないことが多いと聞いていましたが。」

「あー、まぁ、どうにかしそうな連中ではあるよな。確かに。こっちの人間も巻き込めば猶更だ。」

「ええ。それもあって考えたわけです。今こちらに居る異邦人、それは随分と少ないのではないかと。」


そう、今は、こちらで暮らす。過去は、未来はそうではない。そして、必要な物。


「要は、初期に大量に、それから減らして。魔物との戦力、こちらの方々の居住区を拡張するそのために。恐らく初期は、それとして来たのでしょうね。」


ブルーノの言葉もあった。狩猟者ギルド、その仕組みとて、経過した歴史の半分、それからだったのだと。そんなものは過去、ゲームの時分にはあったというのに。

以前トモエとも話した歪、それの解消のために初期化に近い、維持できぬものは改めて一度全て切り捨てる。そして、そんな時代に流れてきた者たちは。それこそ新しいもの、そんな余裕も無く、ただ日々の糧、生存権の確保のために動き回ったのだろう。

そして、そこで、まぁ。悪意が溜まったのだろうとも。


「本当に、色々考えるもんだな。」

「うむ。外では口にせぬようにな。消した歴史も多い。」

「まぁ、そうでしょうとも。そして結果として国交が正常に機能したのは、数百年といったところですか。」

「もっと短いぞ。」


そして、当たり前のように。そんな状況であれば。他国とどうこうなど出来る訳もない。


「私たちにしても、随分と排他的、そう思われていたらしいものね。別にそんなことは無いのだけれど。」

「そっちはな。全体としてではなく、結局各部族の集合体だからな。」

「まぁ、代表者だけでは決められないことが多いわね。」

「そうなると結局、決められぬ、返答は出来ぬ。そういった結果を見る事が実に多くてな。」

「実態を知らなければ、断られた。そう見えるのでしょうね。」

「特にこの国にいる獣人連中は、異邦人に近い気風の者が多くてな。」


部族、群れから離れる事を選んだ獣。それは個人主義が極まっている、そう呼ばれる者たちと同じになるだろう。


「やはり違和が目に付けば、考えるものですからね。背景を。」

「で、その話を何処に着地させる気だ。トモエが黙ってるってことは、またぞろ何か企んでるんだろうが。」

「何というか、これまでの行いに対する物とはわかっていますが、信頼が痛いものですね。」


この日を選んだ理由もある。

流石に予定された祭りの前日。其処であれば、まぁ乱入するものもいないだろうと。

それがあれば、当然主役は変わる。そして話している余裕も無くなるのだ。そういった思惑も伝わっているようで、やはり視線は何処か厳しさが混じっている。

それこそ、こちらの人の手前、神に邪魔をされない時を選んだ。それには不敬以上の何かを感じる物だろうから。


「ただ、まぁ、そこまで大それたものはありませんよ。暫く忙しい、それは分かっていますから。」

「まぁ、お前らはな。」

「正直なところ、陛下、王太子様から公式に要望も出るであろうしな。」


公爵に言われれば、まぁ、揃って苦笑いをするしかない物ではある。


「何と言いますか、旅を楽なものにしたい。少なくとも、一日馬車で疲れ果てる。それを避けたいといったところですね。」

「ああ。屋外の調理器具をとか言っていたな。」

「ええ。主に不快と言いますか、疲労の要因は閉塞感、振動です。加えて食料。」

「ああ。氷菓を屋外で保存ができる魔道具。そこからか。」


話が早い事で何よりだ。


「成程。それで我もか。確かに、道中が楽になるのは助かるな。我にしてもな。」


そして公爵にしても行き来は増える。ならば、協力は得られるだろうと、そう踏んでのことではある。

思惑は正しく伝わったようで、公爵にしても、物珍しい食事に進んでいた手を止めて思案顔になる。


「で、そういうってことは、何か目論見はあるんだろ。前に重量軽減の魔術文字に反応していたが。」

「それもありますが、恐らく壁に使われているはずです。」

「魔物避けか。」

「ええ、過去にはありましたから。短杖に使う形で。」


そう、だからその前振りをした。失われているものが多いのではないかと。そして今なら。今からであれば。


「言われてみれば、と言うところではあるが。」

「恐らく、あれが魔道具としての最小単位になるのでしょうね。」

「しかし、魔術として存在しない、それについては。」

「ああ、それはアイリスさんの発言もありましたから。魔術、属性、人、精霊であれば影響を受ける。要は変性、壁のように、固定されているものであることが前提なのでしょう。」


そう、このあたりも、過去の異邦人が必ず話しているはずだ。そしてそれを研究していない、出来なかった。理由は先ほど確かめた。


「今の言葉、一連として伝わっている風ではありました。過去異邦人が現れた場所、時期、そう言った物を調べなければ断言はできませんが。」


そう、異邦人にとってはゲームの世界。そこにはそれを作った者の善意がある。未練が無ければ来ようと思わない。では、未練がある物とは、何に未練があるのか。決まっている。ゲームとしてのそれだ。

だからこそ、それを叶える形で用意される。新しい技術、明確な変化、発展。それらはあくまでクエストの達成報酬だ。


「足りなかったのでしょう、情報収集が。」

「馬車にしても、今のそれにしても、我らが理解できたのは。その方らがこちらで切欠を得たから、であるか。」

「ええ。皆さんが気が付く、それに制限はないでしょう、しかし。」

「ああ。俺らの方は余裕がないからな。」

「今後はそれもできるでしょう。何もせずそれを待つ。」


オユキはそこで一度言葉を切る。それでもいいと、そう考えてもいたのだ。領都程度までであれば。

しかし改めて王都まで来てみれば。今後片道を半年近くかける事を考えれば、そうも言っていられない。そして次の言葉を作る前に、公爵が笑いながら言葉を挟む。


「その方らの目的は分かりやすいな。トモエに不都合なく、神殿を。それであろう。」


ただ、まぁ、話しすぎたのだろう。踏み込みすぎればと、分かっていたことではあるが、やはりそれはあるのだ。


「ええ。流石はお姉さまも認めた二人です。互いを思いあう姿勢、本当に素晴らしいものです。」


予想はしていたのだ。初めから一つ空いた席。そこにとりあえず買い求めた甘味を並べ置く程度には。

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