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第361話 ようやく本来

一先ずは、後から押し込まれた話題はこれで終わったらしい。

もっといろいろと厄介があるかと思ってはいたが、そもそも王族。迂闊な発言の許されない相手が、昨夜の今で十分な物が揃えられるはずも無い。

ただ、機会を見逃さず、そこにというのは流石としか言いようがない。

実際の交渉、切り取りとしてはこれまでと変わらず。むしろ将来の布石を打ったうえで王家、その抱える人員の力を、高々、王家からすれば、子爵家の同行も見逃しはしない。その能力を示した。目的としては十分に成果を上げたものだろう。公爵夫人、その同席が出来ない場を狙ってというのも、まぁ、褒めるところではある。される側としては厄介、それでしかないが。

今後のことについては、アベルの来歴が明確にされたこともあり、オユキも今後やりにくくなる場面が出て来る。釘も刺した。全く、これだからパワーゲームを生活としているものは。そんな感想が胸中を占めもするが。


「では、場を乱したこともあります。この場での事は、この場での事としますので。どうぞ後は。」


そうして実に優雅にカップを王妃が持ち直す。

元騎士、そう言った場の主役から離れたもの、それから異邦人。場を提供したとはいえ未だ少女。存分に情報を出すとよいですよ。目がそう語っているものだが。まぁ、楽な場であることは有難い。

王妃にとっては残念な事だが、クララ、こちらと別れたのは、色々と起こる前だ。どうやらアベルの方で、それ以前として報告が漏れたのか、なんだかんだと、こちらに配慮があるのか。

いや、王妃にしても、クララの様子でそれ以上は無いと諦めたのか。


「では、御言葉に甘えまして、改めてお久しぶりです。その後は如何お過ごしでしたでしょうか。

 折に触れて、挨拶などすべきであったとは、今になって我が身の至らなさを恥じるばかりではありますが。」


どうにもこちらでのやり合いに目を白黒させてはいる、そんなクララにオユキから言葉をかける。本来であれば待つべきではあるが、それでは流石に話も進まないだろうと。


「全く、相変わらずのようね、本当に。最初はまさかと思ったけれど。」


そうして、改めてカップに口を付けてクララが大きく息を付き、挨拶が返される。


「久しぶりというほどでは無いかもしれないけれど、改めてラスト子爵家の次女、クララ・リーズベル・ラストよ。色々と噂は耳にしていたけれど、あなたではない、そう考えていたのだけどね。」

「今後ともお引き立てのほどを、ラスト子爵令嬢。それから、改めておめでとうございます。イマノル様へアベル様から書状が、そしてクララ様にとそう聞いております。」

「ええ、なんというか、まさかと思う反面、成程と腑に落ちる様な。何とも言えない感覚を味わったわ。」


そして、続くため息は重い。アベルが一体イマノルにあてた手紙、それにどう書いたのかと興味が出てくるものではある。

そちらは、一先ず置いておくとして、この両者が再び家の名前が得たという事は、以前話していた関係が進展したとそういう事だろう。家同士の事なのだから。


「お二人とも家名を名乗るという事は、関係が進展したようで何よりです。」

「ただ、ね。これまでの事が有ったから、反対されているのよね。」

「生憎と事情に疎く。」

「イマノル様は、レジス侯爵家の第二子で、一応釣り合いとしてはどうにか、と言うところなのだけれど。」

「となると、武門としてのレジス候、そこでですか。」


見限って、家を出た。しかし改めてその有用、奥深さに触れた。その結果として、まぁ何か騒動が起こっているらしい。想像はたやすいものだが。


「伝える物、その最低限を納めなければ、そうなりましたか。」

「いえ、そちらはないわ。結局一子相伝。レジス侯爵第一令息が継ぐと決まっていますし、イマノル様が当家を、そうなりますから。」

「成程。そうであるなら、その折に直接お祝いをさせて頂けるかは分かりませんので、改めて今この場でお祝いを申し上げます。」

「まぁ、ありがとう。」


そして、家督の問題も解消している。ただ、まぁ、外に出すとなれば最低限。その辺りかと思えば続く言葉には、何とも言えない物を覚える。


「どうにも、武の道を行く先人に無礼を働いた、まずはその始末をと。レジス侯爵が仰っているのよ。」

「それは、何とも前時代的、いえ、こちらであればそういうこともありませんか。」

「つまるところ、それが、トモエに謝罪をしなければ、私たちの関係が進まないのよね。」


さて、クララの視線にははっきりと分る執念が乗っているが、それについてはオユキとしても応えようがない。


「生憎と、今は色々と事情があります。公爵様に諮らない事には。」

「それは、妹よりも私が遅れてもいいと、そういう事かしら。」

「いえ、そちらについては確かに不手際があったようですが。」


こればかりはオユキにしてもどうしようもない。そして他家の事であるためメイに助けも求められない。家を管理する王妃は、先ほど引き分けと落としどころを作ったため、施しを行うことは無い。

それを求めるなら対価を示さなければならない。

孫への祝祷については、流石に取引材料という訳にもいかないのだから。既に引き受けてしまったために。


「全く、それでこちらに来ているからと、ちょうどいい機会だと思えば、こんなことになっているんだもの。」

「私たちとしても、色々と想定外が重なりまして。」

「で、挙句先輩も、レジス侯爵も、今となっては私との話はすっかり忘れて、闘技大会に夢中ときたものよ。」


さて、徐々に御気も荒く、砕けたものになってきている。褒められることはその握られた拳を机に叩きつけていない、それだけだろうか。

それにしてもイマノル、そのような事をしてしまえば結婚後に、実に長きにわたって、それを引き合いに出されるだろうに。そしてこうなってしまえば、彼女の知らぬもう一人の巫女、その存在が望んだといったところで意味などあるまい。オユキもそれに乗ったのは事実なのだから。


「その、そちらが落ち着いてから、改めてというのは。」

「あなた達は、その頃には戻るでしょう。その子も連れて来てるんだもの。降臨祭までに戻らないわけがないでしょう。」


王妃がいなければ、王都で参加するかもなどとそんな事も言えるが。


「はい、そのような予定です。」

「で、そうなると、また厄介なのよ。親が違うから、当主が簡単にともいかない物。何やら近頃誰も彼もが活発に動いているし。火種になりかねないわ。」

「おや、そうなのですか。そうであるなら、マリーア伯爵子息が願うのも、難しそうですね。」

「あの子は第三だから縛りが緩いとはいえ、まぁ何かあるでしょうね。」


さて、今の話題の中でいくつか覚えておくべき事が有る。それについてはきちんと頭に留めるべきと、そう認識したうえで、如何にこの場を躱すか、それをオユキは考える。

最も、こうなった相手にはどうしようもないのが常ではあるのだが。

それにしても随分と久しぶりの経験だなと、昨夜、トモエに指導を受けたのも。こうして己の裁量権の無い決断を迫られるのも。

ゲームであれば、その時分にしても思い出すことはあったが、やはり現実というのは舞台が変わっても、問題は変わらないようである。

思えば、読書が好きな手合いなどは、古典作品、そこで描かれることの普遍性という者に着目していたが。成程とそう思わざるを得ない。


「なんにせよ、今の所対外的な制限は公爵様にお願いしていますから。」


どうやら、そのあたりを使って派閥の違いを切り崩す算段があるらしいのだが。


「その、トモエと少し、と言うのはそんなに難しいのかしら。こうして機会があった、それで叶うものなのでしょう。」


王妃がいる、それについては不可解、そのような様子でしかなかった。どうやら実態は聞いていないらしい。

ならば、今は語るべきではないと、オユキもそう判断せざるを得ない。レジス侯爵、そちらは知っている風ではあるのだ。闘技大会に拘ることにしても、出ればトモエもいる。それこそ最後まで残れば、相対することとなるだろう。その時に、簡単に言葉を交わせばいい。


「今回は、私どもについてではなく、ファルコ様の求めに対して都合よく。アベル様の言葉もありそうなった。それにすぎません。」

「団長では無く、王族としての、そういう事なのでしょうね。」

「ええ。私も今知りましたが。」


二人して、そっと王妃に視線を送るが、その程度で痛痒を感じる相手でもない。なんというか完全に添え物となっているメイに申し訳なくも思うが、日々の疲れだろう。実に安穏と庭園、時期もあり実にみずみずしい緑が目を楽しませ、覗く白が華やかなそれに心を馳せている。ゆっくり休むといいと思う反面、一応この場の主催であるならと、そんな事を思わないでもない。

ただ、彼女が動けば、またぞろ王妃が口を開きそうな、そんな予感はあるのだが。


「本当に、どうにかならないのかしら。」

「繰り返しになりますが、公爵様にお尋ねしない事には、私からは何も。その、流石にこういった事ばかりに時間が取られる、それは望みませんので。」

「まぁ、あなたとトモエならそうでしょう。一応、あなたからもマリーア公に、それはしてくれるのよね。」

「ええ。その程度は勿論です。」


短い間とはいえ、少年たちの面倒も見てくれた相手ではあるのだ。それくらいの事はオユキも行う。ただその結果がどうなるかと問われれば、なかなか難しい事ではある。

派閥が違う武家。それがあるなら、闘技大会。何かの覇を、優を競う。それはまさに絶好の舞台なのだ。

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