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第356話 そして朝が来る

どうにも、まだまだ聞きたいとそういった風情ではあるが時間切れとなったため、その場はお開きとなった。

動揺もありついついグラスに手が伸びたオユキ、事情を説明できる人間が使い物にならなくなったからというのが、理由だが。ことこれに関しては、トモエにしても不安がある。加護の定着に、食事から得られる何かが必要との言葉があったのだ。それもあって、こちらの人はたくさん食べろとそういうのだろう。

同じく食の細いセシリアは、それ以外を周囲、土地や草から賄っている。


「ええ。かといって空腹を覚えず、加護も問題が無いと、そう感じるのですよね。」


そんな話をトモエからされても、オユキからはそのようにしか返せない。一度、満腹を超える程度に食べてみた事はあるが、結果は芳しくない物であったのだから。


「そうですね、すでに半年、それで問題が起きていない以上。」

「もしくはルーリエラさんやセシリアさん同様、何か他で賄っているかもしれません。」

「お互い、純粋な人という訳では無いようですからね。」

「全くです。」


そんな会話を庭先でしていると、いつもより遅い時間、子供たちが揃って起きて来る。旅の物とは違い、それこそ加護の定着、成長に必要な物だったのだろう。疲労等微塵も残っていない、そのようではある。


「おはようございます。」


そうして元気に挨拶を受ければ、揃って柔軟に加わる。ただ、それについては日の浅いファルコは疑問があるそぶりを見せるが、先に話さねばならぬこともある。


「オユキ殿、本日の予定ですが。」

「ええ、決まっているのは、昨日と同じこと、その後にラスト子爵家と席を設ける事ですね。」

「午後から改めて茶会の席を設ける事となります。私的な場ではありますが。」

「とすると、他にも。」

「はい。私も今朝知らされたのですが、何やら昨夜のうちに王太子様から急使が。王妃様が同席を望まれたという事です。」


公爵は朝からと、そう言っていたが、王太子はまだ業務時間内であったらしい。


「それは。」

「流石に私の事とは、席が別れるようですが。」

「急な事ですから、まだ決まらぬことも多いでしょう。そうであれば、早めに出て準備に時間を使うほうがよさそうですね。」

「準備というのは。」

「王妃様が同席されるのです。私たちもそれなりに。」


身形にしてもそうであるし、席にしてもそうだ。加えて、先方への説明など、実に多岐にわたる。

学んだことを直ぐに、その姿勢は素晴らしいが、だからこそ急に降ってわいたことに振り回されてしまっているファルコには、やはり単純化した構図しか伝えられない。流石に、全てに巻き込むには、学ばねばならない事の方が多い身では過剰になる。

今朝にしても、この場に監視として、護衛として。アベルがいない事に気が付く余裕がない、それを考える事が出来ない。まだそこまでなのだから。


「確かに、お迎えするとなれば、狩猟の後にそのままという訳にも行きませんか。」

「いえ、そうでなくとも女性を、他家の方を招いているのですから。」

「確かに、紳士として、求められる事はありますね。ただ。」

「ええ、ですから、早めに出ましょう。後は、席に合わせた用意は。」

「分かりました、改めて伝えましょう。」


さて、最低限はそれでよし。加えてあるとすれば。


「後はそうですね、戻るときに何か茶菓を買って帰るのも良いでしょう。」

「ああ、確かに女性を招くのですから。そういう用意もいりますか。」

「ええ。労を願っているのはこちらです。気づかいはあってしかるべきでしょう。わざわざ名を上げるという事は、それを汲んでいただける方なのでしょう。」

「はい。なんというか、細かい事に気が付いてくれる、そんな人物です。ジェラートでしたか、御婆様も喜んでいましたし、皆も美味しいと言っていた、それが用意出来ればとも思いますが。」


確かに、他国の品。まだ珍しいそれは喜ばれるだろうが。


「そこは、相談されたほうが良いでしょうね。氷菓ですから。」


最も顕著な問題として、あれは溶けるのだ。必要な設備が無ければ。


「成程。確かに、こうして事前にというのが、それですか。相談しておけば、合わせて使用人を使って、それもかなえられるという事ですか。」

「ええ。その通りです。」

「何と言いますか。特に御爺様についてはそういった席でしか見ませんでしたが。」

「その席を用意する、そのためになさねばならぬことが、意外と多いのですよ。花とて咲くそれは一部でしかありません。」


さて、迂遠な例えだろうか、そうは思うものの、興味深げに聞いている者も多い為、オユキはそのまま続ける。


「花を支える茎、必要な物を作る葉、滋養を得るための根。それらその全てがあって、初めて咲くものですから。実際にはもっと細かく役割を分ける事も出来ますが。」

「成程。人目を引く、しかし確かにそこにあらねばならず、色どりも添えるそれがあると。」

「ですから、それぞれに役割に見合った事を学ぶ必要がある、そういう事なのでしょう。」


極論してしまえば、まぁ、そういう事なのだろう。無論そこから繋がる、生き物としての事もあるが。進化論、それに則れば目を引く、その理由まで踏み込めば、少々生臭い話にもなる。それから抜けた生き物も居はするのだが、今の例えでは花を使ったこともあるし、そちらはそちらで、無性生殖でのみ雄が発生する蜂であったりというのは、あまりに話がそれる。


「花、目を引くもの、それを作るために、実に多くの機能がある、そして欠ければ。」

「ええ、ただ枯れるでしょう。咲かない物でしょう。」

「成程。では、私は今は一先ずこれで。」


そう言って、柔軟自体は十分であるため、場を離れていくファルコを見送る。慣れてくれば、それこそここに来る前に必要な事もすべて終える事も出来るが、今はまだ。


「ま、大変だよな。」

「ええ、やはり色々な、先も言ったように色々な方が整えた場に出る、その役割を持った方ですから。」

「やっぱり、それを駄目にするのはって、思いますからね。」

「だよな。そういや、おっさんが今日いないけど。またなんかあったのか。」


なんというか、シグルドからの信頼に、オユキとしては心抉られるものが有るのだが。


「もう、わざわざ王妃様が来るって話だったじゃない。」

「あー、そういやそうだな。だったら、まぁ、またってことだよな。今、忙しいんじゃなかったのか。」

「ええ、今が忙しいから追加がない、そうは行かないのが現実ですから。」

「あー、俺らみたいなのが、まぁ、お祭りもあるし、色々やるしなぁ。」

「その自由を許される、そのために色々納めているのです。ならそこは謳歌しましょう。」


そう、普段は支えている者たちとして、それが許された場でなら。そうでないとしても、それぞれに花となる場はあるのだから。そこで遠慮をするのは、強いられるのはまた話が違う。オユキとトモエが心を砕いている、負担をしている。それはその為にある。


「あー。うん。なんとなく分かるな。お祭りだ。静かなのもあるけど、そうでないときは、俺らも盛り上がらなきゃだしな。」

「ええ、ただ、多くの人が楽しめるように。」

「うん、お祭り、料理が無かったり、お腹いっぱい食べられないと悲しいですもんね。」


そう。だから彼らも頼まれ、十分では当然ない、微々たるものでしかないが。花を添えるために、花が咲くためにと滋養を作るのだ。


「ええ、なので今日も。」

「ああ。昨日の反省もある。試したいことも。」

「一応、事前に教えてくださいね。それによっては、助けに入る機会を選びますから。」

「分かった。」


さて、今日はいつもより、後が詰まっているからこそ早く動き出さなければいけない。

気を付けなければというのはわかるが、まぁ、結局行うのは乱獲だ。昨日と同じような事は起こるだろう。


「にしても、あれだな。肉があまり出回らない理由も、分かったしな。」

「ええ、まぁ、昨日の事を思えばそうでしょうとも。」

「ですが皆さん、気にせずしっかり食べるんですよ。それができるだけ、それは与えているはずですから。」

「ああ、おかげさまで。」


トモエの言葉にはシグルドを始め、揃って頷く。


「でも、俺じゃファルコみたいなのは無理だから、今日はまぁ、昨日とそんな変わんないか。」

「一応皆で話したんですけど。」

「指揮、ある程度の人数の管理というのは知識と経験、どちらもが非常に重要ですから。」


一応は、五人のリーダーとしてそういった意識もあるのだろうが。


「どうでしょうか。ティファニアさん達は騎士を目指す以上必要になりますが、皆さんではまた役割分担の形も変わりますからね。」

「えっと、それって。」

「騎士として、騎士団に所属するものとして、共通の振る舞いが求められるのと、狩猟者、あくまで自分たちとして、それは同じものではありません。」


そう、求める形が違うのだ。何も同じである必要はない。


「何度かお話しさせて頂いていますが、皆さんでの役割分担、それは皆さんで探すことになるでしょうから。」

「いや、でも、それって難しくね。」

「ええ、難しいですよ。ですが、それを止めますか。」


そう、そうでない道を探すなら、それも構わない。彼らで考えて決める、それが大切なのだから。

それこそ、これまでのように、彼らの時間を持っているのだからその中で、そうするしかない。

悩んでいる彼らに掛けられる言葉というのは、少ない。


「皆さんでよく話し合い、試していくといいでしょう。」

「その時間をあんちゃん達がくれるからな。その、面倒をかけるけどさ。」

「構いませよ。こちらに来て初めて教えようと思ったのが皆さんですから。」

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