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第354話 この場だからこそ

「神々を前にして、身一つ、その不手際をまずはお詫び申し上げたく。」

「えっと、そんなにかしこまらないでくださいね。ちょっと、色々とお話をしようかなって、そう思って呼んだだけだから。」


さて、王族に公爵がいるのだ、視線は感じるが影に徹しようとオユキは気配を殺す。

勿論それで誤魔化されてくれるのは、此処には二人しかいないが。


「その、貴方の下に生まれた、初めての定数を超えた子、その子のお祝いにも係わりのある事ですから。」

「並々ならぬご配慮、真に有難く。」

「ああ、心配しないでくださいね。あの汚物の汚染は、月と安息の加護があれば問題ないですから。」

「は。今ここにはおられませんが、彼の神にも間違いなく感謝を。」

「その、そういった事では無くて。」


何やら言いにくそうにしているが、まぁ、そう濁されても、そうされたからこそ気が付く事もある。

つまり、今のままでは鳥籠と言うには立派すぎるが、あの神像と身に着けた聖印、それが無ければ避けられぬ。そういう事でもあるのだろう。

そして、それに正しく気が付いた王太子の顔に、疲労以上の影が差す。


「何と言いますか、流石はというところでしょうね。」

「御言葉、有難く。しかし私などでは、御身にそう評価いただける理由にまで考えが及ばず。」

「分かっているのでしょう。あなたは他の多くのプレイヤー、今となっては異邦の者と違うと。」


そう言われれば、確かに過去確かめようと、そう躍起になっていたことを思い出す。だが、それについては既に結果を得ている。間違いであったと。偶然であったと。


「偶然ではありませんよ。こちらでの経験と同じです。質問の仕方が悪かったのでしょう。」

「では。」

「ええ、後は、改めて探すとよいでしょう。頼まれたことも、用意したものもありますから。」


創造神が、そうして実に楽しそうに笑って言う言葉、それにオユキはなんと言えばいいのだろうか。まともな思考ができない、それほどに胸が詰まる。言葉はでない、そしてただ息が苦しい。

気が付けば、トモエに抱え込まれている、それほどに動揺を覚える。


「成程。そちらが本来ですか。そしてその道行を整えるために、こうした事が有ると。だからこの変革期、そこに御身が示すこうあれかし、それを告げる役をという事ですか。」

「その、御二人にもこちらを楽しんでいただきたい。それは本当なんですよ。ただ、目的がこう、都合がいいといいますか。」


創造神がどこか慌てたように言う言葉に、トモエも一度大きく息をついて、己の心を整える。確かに、この相手は悪辣な存在ではない。悪戯に、トモエの伴侶、比翼を痛めつける手合いではない。謀も隠し事もする手合いではあるのだが、悪意によるものではない。こちらに住む存在、一部例外を除いて、それが良く過ごせるようにと、確かに心を砕いているのだろう。


「だとすれば、他の異邦からの者達は。」

「やっぱり、続きだったりを求めますから。こちらに来ることを望む方というのは、やはりそうするだけの未練という物がありますから。」

「確かに、仰る通りですね。」


こちらであった異邦の者、トモエとしてはミズキリと、別でこちらに来たトラノスケ、この二人だけ。そして招かれている前者については、明らかに目的をもっているのが見て取れる。

団を興して、何をするのか。既に来ている他の知り合い、過去の一団、それほど繋がりがある相手が町から離れるにさいして、何を頼んでいるのか。それは未だに語られていないし、隠している。一部については、許されぬ相手に教える事が出来ないとも聞いてはいるが、恐らくそういった手合いなのだろう。

オユキに対して、王都に向かう親密な相手に、何も頼むことがない。それは流石に異様だと分かるのだから。

そして、反面トモエとオユキ、この二人の目的というのは非常に緩い。言ってしまえば、観光なのだ。加えて巫女、その扱いを受ける事が出来る存在だ。実に細々としたことを申し付けやすいのだろう。


「だとすれば、今後も色々あるのでしょうね。」

「あの、なるべくお休みであったり、目的そのものは配慮しますから。」

「その、神々の覚えめでたい二人を疑うわけではありませんが。」


そうして、未だに平静を取り戻せず、体に震えも出始めたオユキを抱えたまま話を続けていれば、王太子から疑問の声が上がる。

試しなどと言ってはいたが、一度で終わるはずも無い。公爵がこうして訪れたのがその証左でもある。


「その、こちらの二人は本当に観光、かつてのオユキさんが、トモエさんに語った異邦にない景色。私たちの力が色濃く表れる場所、それを巡り鑑賞する、それ以上の目的はありませんよ。

 こちらで暮らす、それに際して小さな欲はありますが。」


神々の明確な保証が頂けたからか、これまであった緊張のような物が薄れ、なんというか呆れを含んだものに変わる。どうにも詳しくないが、他のプレイヤーというのは、実にこちらを楽しんでいるらしい。


「その、なんと言いましょうか。それは、あまりに。」

「御言葉を返すことは申し訳なく思いますが、先の水と癒しの女神様、その力に満ちた場にしても素晴らしいものでした。時間を使う事が叶わぬ、それに落胆を覚えるほどに。」

「気に入ってくれたなら嬉しいわ。でもね、あの場はあそこにいる者たち、その努力もあってなのよ。」

「御身のお言葉、肝に銘じます。」


そう、そこで暮らす者たちがずさんな管理をすれば、維持などとても。あそこに流れる水中花、水棲生物、それらは確かにあの場にいた神職たちによるものなのだろうから。

それを軽視する、言及しないというのは確かに不作法であっただろう。


「こうしてゆっくりと話していたい、その思いは我にもあるのだがな。生憎と時間もそう取れぬ。」

「あ、そうでした。」


戦と武技の神が、そう話題を修正すれば、思い出したと手を打ち合わせた創造神から、王太子に向け話がある。


「その、話を戻しますが、新たに生まれたあの子の事です。授けた加護は、強化のための物では無く、守るためのもの。それを伝えるとともに、ではいかに強化するのか、その話を。」

「御言葉を疑うわけではありませんが。」

「ええ。勿論今しばらくは無理ですよ。その、流石に自分で何もできぬ相手に、その行いを認めてというのは。」

「少なくとも、数年は、と言う事ですか。」


生まれたばかりの赤子。それが閉じ込められなければならない。それは確かに親として。トモエにも気持ちはよくわかる。


「ええ。それからはよく日々を生きていれば、あの子、今日は来れなかったけれど、月と安息の聖印、その月が満ちれば大丈夫ですから。」

「真に、有難く。」

「だから、えっと、それまではあの子の力が届く範囲から、出さないようにね。」


さて、こうして神の言葉を聞いてみれば、不安も募る。

そう考えながらアベルを見れば、実に苦々し気な顔をするばかり。悪意を煮詰めたからこそ悪辣とは、本当に良く言った物だ。そして、完全に滅ぼすべき相手以外は、恐らく戦と武技の神による印も働いていないのだろう。

その境を緩くすれば、過剰になる。加減が聞かない存在だというのは、これまでに何度も聞いたのだから。

後は、王族である以上、民に顔を見せる必要がある以上仕方ないとも思うが、よもや生まれたばかりの子を町中に、とも考えてしまう。

トモエとオユキは、こちらに来てから風邪という物は無縁ではあるが、毒はあるのだ。つまり人体に作用し、不調をきたす。そういった仕組みはこちらにも存在する。それでもしなければならないと、そう言った経緯も分からないではないが。

そんな事をトモエがつらつらと考えこんでいるうちに、抱え込んでいたオユキも落ち着きを取り戻したらしい。

数度腕を叩かれたので、そのまま隣に改めて座らせる。何があったと、そう言った視線が寄こされるが、それを話す話さないはオユキの選択なので、トモエがなにを語るでもない。


「成程。王城の中であれば、ですか。」

「勿論、神像の状態次第ですけど。詳しくはあの子の司祭が分かるから。」

「それ故の神職という事なのだと分かりますが、しかしそこまで煩わせるのは。」

「どのみち、管理で人の手がいるでしょう。」

「それもあって、今彼の神はという事ですか。改めて感謝を。」


さて、そちらの用件は分かった。では残りの二柱はと、トモエが視線を向ければ、馴染みの相手から声がかかる。


「何、我は改めて褒美を与えにな。」

「今の所、望むものは。」

「いや、有るであろう。技の伝授、その際に。」


そう言われれば、確かにそれは求めていたが、先でも構わないと、トモエとしてはそう考えている。


「先ほど口にもしておったしな。故にまぁ、此度の一連の手間、それが終われば我からも用意しよう。」

「真に有難く。」


それが一体どういった理屈で叶えられるかは分からないのだが、まぁ、出来るというからには出来るのだろう。

そうであれば、色々と、今はオユキにしか伝えられぬことも存分にできるという物だ。

加えて、外に出すつもりがない類のものについても、伝える事が出来る。少年達に教えている者、見てわかる以外の者、それとて流派には相応にある。


「後は、私から、ですね。神殿から話は行っていますが、どうにも後回しにしているようだったから、此処ではっきりと取り付けておきたいと思ったの。

 ねぇ、私を良く祀ってくれるあなた方。健気にも私たちからの頼みごとをこなし、私の神殿、それを心から美しいと称えるこの子たち。」


いつ、私の神殿をゆっくり見せてあげるのかしら。


そう水と癒しの女神が微笑みながら話す。どうにもその日程が話題に上らないと思えば、忙しさの中、置いておかれていたらしい。気持ちは分かるものではあるが。

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