表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
352/1233

第351話 盤上遊戯

報告会も終わり、それぞれファルコは難しかっただろうが、公爵と伯爵が仕事へ戻る時間となれば、その場も解散となる。そうなれば、間食を楽しんだ子供たちと鍛錬を、そんな思考もよぎるが。


「流石に、こうなりますか。」

「ええ、では、お手数かけますが。」


すっかり夢の住人となった子供たち、少女達を使用人と少年たちが運んでいくのをただ見送る。


「ま、らしくて実に結構。」

「体力ですか、こちらに加護は働かないのでしょうか。」


少女たちを運ぶパウとシグルドにしても、受け答えに怪しいところはあったのだ。恐らく戻ってはこれまい。夕食までに起きてこれるかどうか、問題はそれだが。


「あー、何だったか。色々と説があるが、確かめようがない。」

「まぁ、今はファルコさんの優位と、そう喜んでおくのがいいでしょう。」

「それもそうですね。」


さて、では残った面々で何かをするのも構いはしないが、そう考えたトモエが席を立とうとするのをアベルに止められ、改めて5人程で席についている。

そして、その上には当たり前のように用意されたものが置かれている。


「ところで、これは。」

「ま、盤上演習を現状に合わせるためにってところだな。」


そうして、アベルが手早く灰色と緑の石、どちらも白い線が乱雑に入っているものを並べる。大きさが揃ってはいないが、色が別れているため、今の用途には十分だ。


「これが、まぁ、最後の局面だな。」

「ああ、成程。こうしてみると。先に下げるのは。」

「じゃ、どうするのが正解だったかは。」

「まず、両側の二人、こちらを一度前に出し、間隔を詰めたうえで。」


そう言いながら、ファルコが石を動かす。


「ああ、教本通りならそれが正解だ。だが今回は、前に出れるほどの余力があったかどうか。」

「そうですね。加えて足を取られて立て直し、武器も折れ。ですか。」


さて、そこの教育はひとまず任せてと、オユキはそちらから意識を外し、改めて別枠で話す。勿論子供たちだけでなく、こちらも反省すべき事柄があるのだ。特に明確な師弟関係が存在する二人でもある。


「一先ず、お疲れ様でした。」

「ええ、オユキさんとアイリスさんも。面倒を押し付ける形となってしまいましたが。」

「私の方は、まぁいつもの事ですから。アイリスさんも何か。」

「子供の面倒を見ていただけよ。別になんという事も無いわ。」


イリアが前に言っていたこともあるが、なんというか種族的に面倒見の良い形質でもあるのだろう。狐はどちらかと言えば、単独で動き回る印象がオユキにはあるが。まぁ、必ずしも全てそのままという訳でも無いであろうし、もとより動物の行動学迄正しく知識を得ているわけでもない。


「いえ、本来であれば、私たちが抱え込んだ相手ですからね。」


それはそれとしての前提で返せば、ただ肩を竦めるだけで返答とされる。トモエが楽しそうにしているあたり、何か愉快な事が有ったのかもしれないが。


「さて、それでは私たちの方でも。」

「ええ、そうですね。」


それでは、と。トモエが姿勢を変える。


「理由があるにしても、オユキさんは動きの雑さが目立ちましたね。」

「ええ、自覚はあります。武器の消耗の速さが、それを物語っているでしょう。間合いの部分ですね。慣れた位置、感覚で動くことが増えた結果とも思いますが。」


そう、オユキとしてはそれが一つの難問でもある。流石に余裕が減れば、手癖として動くことが出て来る。他、全体の把握のためにと、動けば、作ったはずの余裕が、それが原因で足を引っ張る。

つまるところ、流派としての制御、それを手放す時間が実に多くなる。


「それもあります。加えて慢心ですね。今の己であればどうとでもなる。その驕りが雑な剣を産んでいます。」

「成程。言われてみれば、乱獲、そうですね、それをあの子たちを連れて。当たり前のようにそれを提案する程度に。」

「必要は理解しています。こちらへの感謝もあるのでしょう。しかし戦場に立つ、その前提が薄くなるのは認められません。」

「はい。」


トモエの言葉は実にもっともだと、オユキはただ反省する。

確かにこれまでであれば、そもそも少し前、始まりの町では森に入るのにも、傭兵の手配を行ってからとそうしたというのに。それがすでに十分な護衛がいるからなどと。


「加えて、壊れてもいい、無くなってもいい武器、そう言った甘えもありました。そのような武器が存在するはずも無いというのに。」


こうしてトモエに師として説かれるのは、さていつ以来だろうか。その言葉はとにかくもっともであるため、ただ何を言うでもなく、先の己の行動、それと照らし合わせて具体的にどこであったのか。何故それが生まれていたのか。話を聞き、それを飲み込み。次、明日にもまた行われるその場で戒めるために、己を律する。


「大枠としては、その程度でしょうか。アイリスさんも含めての連携となると、私たちにしても手探りですから。」

「そうですね。そちらは、それこそ先々もあるでしょうから、何度も試す他ないかと。」

「とはいっても、状況によっては私はこれも使う物。」


そうしてアイリスが周囲に狐火を浮かべる。


「そちらは、私たちに触れれば勿論。」

「燃えるわね。それこそ、中型でももっと大型化しなければ、使わなくてもどうにかなるとは思うけれど。」

「いえ、今は目的がある以上難しいですが、何処かで習熟はいるものでしょう。それからアイリスさんも。」

「さっきのオユキへの言葉、それは確かに私も当てはまるわね。」


そう、彼女にしても、凡そ問題はオユキと変わらない。むしろ顕著となってしまう部分がある。触れられたとて、怪我をすることは無い。いざとなれば、魔術が。


「それもあって、時折狩猟の時にも指輪をされるのでしょうが。」

「ええ、神の奇跡に頼っては本末転倒。その理解はもちろん。」

「ならば宜しい。私にしてもその戒めは殊更気を付けなければなりませんし。」


そうして、トモエがまとめれば三人そろってため息をつくしかない。成程。彼の神が何故己に問題がと嘆くのか、それが実によくわかるという物だ。


「かといって、私たちでは常にという訳にも行きませんからね。」

「ええ。正直鹿までですね。それ以上は技でと言うにはまだまだ足りません。」

「加護も無しに、相手ができる様な物では無いでしょうに。」


そうアイリスに呆れたように言われるが、逸話は残っているのだ。


「いえ、異邦では虎、プラドティグレでしたか。あれを打倒したという話もありますし、獅子の魔物にしても、同様です。」


そう、特に後者については部族の戦士が勇を示す為、成人の儀式、そのような事で行うと、そんな話もある。要は生涯をかけて技を修めたというのに、未だ慣れぬ身体だという事を差し引いても。


「本気で言ってるのよね。まったく、頭が痛いわ。」

「勿論頂いた奇跡、それも合わせた上で目指す道もありますが、そうでない物もあります。二度目の機会です。欲張れるのであれば。」

「まぁ、気持ちはわかるわ。あら。」


そうして話していれば、公爵についているはずの執事がやってきて、一同が呼ばれる。報告は終わり、その処理を頼んでいる間。明日の確認にしても食後で問題はないだろうに、何事だろうかと、改めて揃って意識をそちらに向ける。同じ席で別に話をしていたこともあり、特別立ち上がったりはしないのだが。


「皆さま、そのままで。ファルコ様がお誘いする予定の方なのですが。」

「ああ。御爺様に伝えていたな。それが、何か。」

「そのうちのラスト子爵家ですが、面会の要望が。トモエ様、オユキ様とも知己を得ているからと。」


さて、そう言われたところでそんな心当たりはない。そもそも王都に来てからあった貴族など、今も世話になっている二家だけだ。


「領都での事でしょうか。」

「いえ、あちらはモラリス伯だったはずです。」


さていよいよ心当たりがない、そう考えていると執事が虚言であったとして報告に戻る前に、アベルがそれを止める。


「面会の要望は、ラスト子爵子女か。」

「はい、第2ではありますが。」

「すぐに思い出せなかったが、クララの所だな。」


言われて、ようやく思い当たる。二人ともそれとわかる立ち居振る舞いではあったが、家名を聞いていなかった。


「ああ、そうなのですか。」

「となると、騎士号は返上したのか。騎士である間は家名を名乗らないはずだからな。そのせいで思い出すのに手間取ったが。」

「剣を捧げる以上は、家からもという事ですか。何とも。」

「どうやら心あたりがあるご様子。如何いたしましょうか。今回はファルコ様が望まれていることもありますので。」

「そういえば、騎士の姉がいると言っていたか。確かに後見としては十分だろう。」


成程、色々と都合はよさそうであるし、会えるなら聞きたいことも多く有るだろう。オユキとトモエだけでなく、少年たちにしても。ただ、そうなるとまた場の設定が難しい。


「ファルコと、お目当ての相手、そっちに公爵ともう一人先方の後見。それがつく前提ってことはご息女だろう。」

「ああ。そうか、そうだな。流石に一人招いたとなれば、そうも勘繰られるか。」

「まぁ、な。それで構わないってならそれでもいいが。後はクララとこっちで、って感じにするのがいいだろうな。」

「では、そのように。ああ、明日にはいらっしゃいますので、トモエ様とオユキ様もそのおつもりで。」


さて、そうなってしまえば、流石に疲れて眠る、そこまでは出来ない。これからやり取りを行って、具体的な時間はそれこそ食後にでも知らされるだろうが。


「それにしても、クララさん。どこで私たちに気が付いたのでしょうか。」

「イマノル経由だろうな。坊主のこともあって、手紙を出した。」

「ああ、成程。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー アルファポリス
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ