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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
9章 忙しくも楽しい日々
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第334話 帰路

神殿の見学、それに後ろ髪を引かれながらも王妃についてその場を後にする。

この後は戦と武技、その教会に闘技大会、そこで尋常ならざる仕組みを現実とする奇跡のために、神像を預ける事となる。他にもいくつか見慣れぬ品もあったが、神が誂えた場なのだ。そこで結果を残したものに渡す、そんな用意もある物だろう。


「それにしても、随分な疲れようですね。」


神殿での用向きが片付けば、直ぐに来た道を戻ることになる。王妃の馬車の中、オユキとアイリスは今回は同乗している助祭の指示に従い、持ち帰った品を梱包を行う事となった。神から直接巫女が預かった品だからと、手を借りることは出来なかったため、相応にまごつきはしたが、それが終われば、既に町中に入った馬車の中。これまではその様子をはらはらと見守っていた王妃から声を掛けられる。


「お目汚しを。」

「舞、動くものではあるのでしょう。祭りの後巫女たちは誰も彼も疲れている様子です。それを行ったならと分る物ではありますが、狩猟者、魔物を戦うものと聞いていましたが。」

「まだ、この生業を得て日も浅く。汗顔の至りです。」


彼女の知る似たような仕事を行う者達、流石にそれと比較されてしまうとオユキもトモエも返す言葉がない。こちらに来たからという訳でも無く。そもそも全身鎧を着て、車よりも速く、半日以上。そんな事が出来る生き物では無いのだから。オユキとしては、改めてこちらの、ゲームであればと流していた加護、その重さに思考が向く。

それがある、恐らくその時点で、技だけでは届かない。それを改めて意識させられたものだ。


「それにしても、随分と。」

「そうですね。ここでご説明させていただいたほうが良いのでしょうか。」


そうオユキが返せば、王妃は少しの間目を閉じる。そして、それを開くことなく、首を左右に振る。


「後程マリーア公爵から聞きましょう。」


そう応えた上で、視線がそのままアイリスに滑る。


「そちらは。」


そして、ため息をつくと、そのまま口を噤む。他国の物だ。王妃だからこそ、掛けられない物もあるだろう。


「アイリスについては、アベル殿が。」

「そうですか。そちらはあの子に任せましょうか。」


王妃の返しは、随分と親し気な物である。王都の騎士団長、知己があるという、それ以上に。ただ気にしたところでろくでもない事に巻き込まれると、オユキは話を変える。


「神殿への再訪ですが。」

「流石に祭りの間は叶わないでしょう。やはり神殿がある以上、あちらに主導を頼むこともありますから。」


それについては、オユキも理解していると頷きで返す。問題は、ではいつかという事だ。それが終われば今度は戦と武技の神、その祭りが始まるのだから。


「詳細な日程は後程伝えますが、以降が行われる、その間にというのが良いでしょうね。」


用は生誕祭に合わせて闘技大会の告知も出す。先の祭りが終わり、次へと賑やかさが流れている間に叶えよと言う事であるらしい。ただ、気がかりはオユキにもあるが。

それについては、ただ重いため息が返ってくる。


「既に、我が騎士たちの中にも気の早いものがいます。」


そして、怪我人が出れば、癒しを司る物は忙しくなるという物だ。道理で神殿、こちらではまさしく神の膝元、それにしては人が少ないわけだ。

主な出場者は、やはりそちら側が多くなるらしいが、何とも味わい深い表情を王妃が浮かべている。剣を捧げられる側として、色々と苦悩が、主に物理的な被害に対するそれがすでにあるようだ。

ただ、そこまで乗り気だというのは、やはり意外に思えるものだが。加護ありきの世界で、これまでがそうだったのだ。今更、それを無くしてと、そこに情熱を燃やすのは少数派ばかりと考えていた。オユキも、トモエも。

二人で互いに視線を交わし、出場枠の確保が難しそうだなと、そんな意思の疎通を行う。

そして、それは王妃にも伝わったようだ。


「お二人からは、4名迄と。」

「多いですね。」

「5日、使うと決まりました。」


王妃のため息が馬車の中に重く響く。形式はどうなるか分からないが、随分と大きな催しになるらしい。血の気の多い催しだ、色々と不安も募る物だろう。そして、そんな話をしていれば目的地にたどり着く。

戦と武技、以前訪れた時には賑やかな物であったが、王妃が訪れるのだ。今度ばかりは実に静かな物であった。

流石に要人が訪うという予定があるというのに、武器を振り回す手合いが闊歩する、そのような事許されるものでもないだろう。そして、具体的に何がという訳でも無く、忙しない様子の神職。その様子も併せてこれからの事を匂わせていると、そういう段階なのだろう。

具体的な話は後で聞けばよいと、そういった事を様子を伺いながら考えつつも。必要な事をオユキとアイリスで行う。端的に言うのであれば、押し付けると、そういう事になるのだが。

改めて渡した衣装がその場で改められ、問題ないとそう考えてはいるのだろうが、サイズの確認などが行われるものではあったが。


「こちらは、私どもでお預かりさせて頂いても。」

「何度か練習の機会は頂きたいのですが。」


オユキにしてもアイリスにしても慣れた衣装であるため、特に問題はなかったのだが。いざ、着てみればやはり細かく気になるところはある物らしい。


「それは重々承知ではありますが。」


造りとしてはフリーサイズ。大まかに合わせるだけの物であるのが良くないのだろう。衣装の準備、それを行う者たちからしてみれば、晴れの場だからこそ認められないこともあるのだろう。


「こちらの上掛けは、流石に刺繍も足さなければいけませんし。」

「何と言いましょうか。」


ただ、オユキとしてはそれを意外とも思ってしまう。

神への奉仕者、その人々が下賜された品に手を加える、そう言い切るのはやはり意外と感じられる。


「戦と武技の神、彼のお方はやはり飾ることを好みませんが。」

「その場を整える物としては、確かにそれだけではと、そうなりますか。」


何処までも武骨な手合いなのだろう。恐らくはこの教会の端々に加えられた装飾にしても、それだけではと。奉仕する者たちが無聊を慰めるためにと、そうした結果なのだろう。そして、彼の神もそれを喜ぶだろう。己の不足、それを知り補うのは、彼の神の道に通じる事なのだから。

だからと言って、直ぐに諾と言えるものでもないのが、困るのだが。


「ご理解頂けたのは、喜ばしいのですが。」

「ええ、流石に現状では替えも無く、しかし私たちも事前に準備が。」


流石に、袴だけならまだしも千早まで。そうなれば何度か事前にと、オユキとしてもそう考えてしまう。何やら裾が長かったりと、恐らくそのあたりは預ければ解消はされそうだが、現時点で不都合もある。


「簡単な物を、別に用意するしかないわね。」

「それしかありませんか。」


そして解決策は、実に単純なものが有る。あくまで稽古のために、簡素な物を別に用意するのだ。今後使うかもわからぬものをと、オユキとしては気が引けるが。


「衣装については、こちらからも要望を伝える事が有るでしょう。特にオユキの物については。」

「公爵家の判断も確かに必要ですか。」

「ええ、こちらに一度預けて、後程と、そうするのが良いでしょう。」


頂いた衣装を試しにと、そう話が出ればやはり気になるようで、同席していた王妃からそう声がかかる。彼女の目から見れば、やはり簡素にすぎる物ではあるだろう。加えて所属として家が紋章を持っているのだ。仕える先と選んだのならそれを入れなくてはいけない、そのような場面でもある。

ただ、そうなると。


「よく覚えてないわね。」


集まった視線に、アイリスからそうあっさりと返ってくる。


「ええ。元々現れる特徴で十分な物ですから。」


ただ、それには、王妃も追うように返す。そこで、ふと思いつきをオユキが口にする。


「ハヤトさんの物は流石に覚えがありませんが、その伝えた剣術に連なる物を使いますか。」

「あら、異邦にもあるのね。」

「ええ、私どもの流派では、こういった物が。こちらに比べると非常に簡素ではありますが。」


そう話しながら、袂から小袋を取り出し、そこに縫い取られた紋を見せる。


「一色、ですか。」

「ええ、こればかりは。遡れば相応に長い物ですが、直接の開祖の物であれば、一応私も覚えていますから。」


そうは言うものの、雁金か鶴紋か、そのどちらとも判別がつくものではないのだが。調べようにもまさに後の祭りという物だ。どんなものかと言われて、そのどちらもを簡単に図で示すと、アイリスは見覚えがあると雁金、頭合わせの物を指さす。どうやらハヤトにしても、しっかりと持ち込んでいたらしい。


「何というか、愛嬌のある図柄だから覚えていたのよね。」

「雁金、確かカモの仲間だったかと思いますが。」


そう告げれば、アイリスが途端に渋い顔をする。理由はよくわかるのだが。


「流石に、狐をあしらった紋は記憶にありません。」

「そう。とはいっても、エサを部族の象徴と言うのは。」

「直ぐに調べるのも難しいというのであれば、改めて作るのも良いでしょう。元来、そういう物ですから。」

「荷物を探せば、何か印も残っているかもしれないし。」


その場では、どちらにせよ準備がいると、そう話しが纏まる。


「事は国としての行いです。負担はこちらで持ちましょう。」


そして、オユキの懸念、今から予備、練習用のそれの準備をどうしたものかと、そう考えていることも伝わっていたようである。


「それから。」

「流石に、武器はそのままとして頂けますか。」


そちらにも相応の飾りをと、そういった気持ちは分からないでもないが、そればかりは流石にと司教からすぐに制止がかかる。

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