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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
9章 忙しくも楽しい日々
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第325話 師からの講評

散々に振り回されたオユキは、やはり格好は付かないが、トモエの膝の上の住人となっている。そして、珍しい事ではあるのだが、これまで見えてこなかった力関係とでも言えばいいのだろうか。少年たちの中では財布のひもを握っている、それもあるのだろう。アドリアーナがアナに滾々と説教を行っている。


「あなたなら、抜けられるでしょうに。」

「無理ではありませんが、勢いがついた時には危ないですから。」


応えるのはぐったりしているオユキではなく、トモエではあるが。


「なら、そうなる前には、しないのね。」

「子供相手です。其処は鷹揚に構える物でしょう。」


その結果がそれね、そう言わんばかりのアイリスの視線は気になりはするが。トモエとしては伝えと置くべきこともある。


「そちらの流派では、一刀、それにこだわる物ですが。」

「まぁ、言いたいことはわかるわ。」


そう、それはあくまで入り口。理念として掲げるのも構わない、それに懸けるのも構わない。だからと言って、そういう話ではあるのだ。


「予備、次善策、それは持っておくべきよね。」

「はい。事実切り返し、その手ほどきもあるはずですから。」


今まで一度も見せてはいないが、見ていれば分かる。体の動きが、次は跳ね上げる、そう動く手が残っているとそう語っているのだから。


「まぁ、そうね。お互いに手は残っているんだもの。こっちだけが全部、それも当日に向けた練習では。」

「そういう物でしょうとも。」


そこで一度話を切った上で、トモエはアイリスに話す。


「後は、そうですね。経験不足、これが目立ちます。」

「私が、かしら。」

「はい。人相手、同じく考える頭を持った相手、術理を組み立てる相手、それに相対する経験が少なく感じられます。いえ、それについては、こちらの者にとって見れば、私たち異邦の者が異様とそうなるのでしょうね。」


そう、魔物がいなかった。動物を相手にする訳にもいかない。そもそも対人、同族で争うために磨き続けた技術だ。


「後の手、一つに対応して、その後。それが見られません。」

「場当たり的というのは認めるわ。」

「型を繋げる、その動きは見られますが、そもそもどう勝つのか。その着地点が見られない動きでした。

 格下相手であれば、問題はありませんが、同格以上であれば、その事実よりも苦戦するでしょう。」

「勝ち方、ね。それは。」


さて、流派の基礎理念。それはオユキが伝え、そこを目指しているアイリスとしては、着地点はそこになるだろう。

予備、二手目を持てと言っておきながら、おかしな話ではあるかもしれないが。


「つまるところ、それを決めてとするのなら、それが十全に発揮される。その状況にどう持ち込むか、というところですね。オユキさんのあの動きは、厄介だったでしょう。」


そして、特に自分から激しく動く、そういった理合いは簡単に通じる物では無い。


「トモエなら、どうするのかしら。」

「動きを止めます。」


そう、そして少し気分が回復したのか、上体をようやく起こしたオユキへも、トモエから見た事を伝える。


「動きがゆっくりと、そうであったからということもありますが、特に相手に無防備に体が開いている場面が多くありました。」

「ええ、二刀の位置、そればかりに気を取られました。」

「そうですね。加えて足運びですね。そちらも。軸足に頼りすぎている場面が多かったので、それも改善が必要でしょうね。早く動けば矢継ぎ早に体を入れ替えられるでしょうが、ただそれは十全に制御できている、そこから離れた物になります。」

「まだまだ、粗い物ですから。」


オユキとしても、ただただ反省点の多いものではある。


「いや、でもさ。」


その様子を見ていたシグルドから、トモエに対して声が上がる。


「オユキ、二刀だろ。こっちは武器一つだし、難しくね。対応すんの。」

「そうでもありませんよ。ええと、アナさんは、もう少しかかりそうですね。」

「ただ振ればいいだけなら、私が。」

「ええ、では、ファルコさんどうぞ。」


そして、改めて立ち上がり、トモエとファルコが正対する。


「以前にも話したかと思いますが、全体を把握して、自身の有利な位置を作る、それを行うのです。」


ファルコがオユキの動きを真似、と言うほどでもないが無造作に振ろうとする武器、速度もゆっくりではあるので、トモエもそれに合わせた上で。

振られる剣を追いかける形で、トモエも刀を合わせる。


「こうして、残りの武器、そちらへ向けて、流します。」

「あー。」


そうしてしまえば、結局同じ方向からしか攻撃は来ない。加えて直ぐに切り返すには先に振った腕が邪魔になるために、態勢の立て直しが必要になる。

だからこそ、オユキは、そういった動きを使う手合いは、常に体を動かし位置を捉えられないように虚をつくことを常としなければならない。現状オユキにはそれが全くもって不足している。


「成程。しかし早く動けば。」

「変わりませんよ。」


ファルコの言葉に、もう一度どうぞ。そう身振りで示せば、やはり加護の為せるもの。本来であれば間違いなく無理であろうというのに、十分な速度で剣が振られる。練習用の木製。鋭いからは程遠いが、それでも風切り音程度は鳴るそれに、先ほどと同じように後から折った剣を合わせ、今度はついでにと少し絞って、弾いて見せる。

そして結果として、バランスを崩し体が流れる。


「御覧の通りです。」

「動きが遅いからという訳でも無いのですか。」

「ああ。そちらですか。」


ファルコの言葉に、トモエは疑問に思っていることに思い至る。ただ、それは彼らにはまだ早すぎる。


「まだ実践には早すぎますが、そうですね。動き出しだけで言えば、私の方が早いですから。」

「動きにしても、無駄を省いて、だっけか。」

「そちらとはまた別ですね。目を鍛える。今も全体を見るようにと、そう言っていますが。」


そこで言葉を切って、少し言葉を纏めてトモエは続ける。


「そもそも攻撃を行う、武器が勝手に動くわけではありません。いえ、こちらならそういった事もあるかもしれませんが、そうでないときは、事前に何かが起こります。先のファルコさんで言えば、体が少し前に傾いた、それから武器を振るために右肩が前に。」


そうして、少し大げさにファルコの動きをなぞりながらトモエが続ける。


「勿論ここにも虚実はありますが、それを見極めることは出来ますので。」

「あー、もう、そこで動き出してんのか。」

「はい。そして未だ無駄の多い皆さんでは、私どもの流派の速さに及ぶものではありません。」


そして、結果としてはそういう物となる。


「最も、こればかりは経験のなせる技でもあります。それこそその前段階をどうにか行っている皆さんでは。」

「ま、そりゃそうだ。だから、俺らのおかしな動きもパッと見て直せるんだな。」

「ええ、そうですね。」

「となると、トモエ殿は、初見であれば流石に対応できないという事でしょうか。」


そう聞かれて、トモエは珍しく考え込む。

だから、そこについては、オユキが引き取る。


「初見の技というのは、凡そ存在しませんよ。」

「そう、なのですか。」


ファルコとしては、ひどく意外なのだろう。他の少年たちにしても、見知らぬ技の数々を見ている最中なのだから。加えて異邦からの物として、知識の不足も見せている。

だからこそ、初めて見る物が無いと、そう言い切るオユキがひどく不思議なのだろう。


「勿論魔術、武技もあります、知らない理合いも存在します。前者はいよいよどうにもなりませんが、しかし、武器というのは、相手にあてなければ意味が無いのです。」


そう、当たり前のこととして。


「では、如何にあてるか、それについては極論9通りしか存在しません。上中下、加えて中央、左右。それだけなのです。」


後はそれが何処から振られるのか、それを見極めるだけだ。


「おー、そういや、そうなるのか。」

「ええ、二刀や徒手、出来る事は多くありますが、それにしてもその枠を逸脱するものではありませんから。」


そうして話していれば、許されたアナが戻ってきて、オユキにまずは謝った上で質問を続ける。


「でも、こう、左右から挟み込むように振った場合は。」

「後ろに下がってもいいですし、下に逃げても構いません。ただ。」


オユキはそういって、アナに今いった事をやってみるように伝えた上で、それに対する対応を見せる。何も特別な事ではなく、魔物と同じ。順に対応するそれだけだ。そしてそれができるからこそ、オユキはトモエに体が開いていると注意を受けたのだから。片側に体を寄せて、そちらは武器で。そこでも一刀に対して作った距離と時間で空いての持ち手を足で止める。


「このように。勿論、此処で武器毎斬ることができる、そういった相手であれば話も変わりますが。」


そして、それができる相手なら、そもそもこんな雑な攻めはしませんよと。


「まぁ、つまるところ、以前にもお話ししましたが。油断をしない、それに尽きますね。」


アナの動きを止めた状態から、体を下げて脇を抜け、そう話を締め括る。

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