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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
9章 忙しくも楽しい日々
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第316話 明日の予定

オユキの評価については、作法としては申し分ない、しかしぎこちなさが目立つ。それにとどまることとなった。どうしても慣れぬものである以上仕方ない、そうとしか言えないのだが。


「ただ、基本は身についておられますので。」

「やはり細かいところが違うので、そちらの粗が目立ちますか。」


出された紅茶、相も変わらずこれがどのように入れられたものか分かっていないのだが。


「アイリス様も。」

「ええ、自覚はあるし、やはり慣れが出そうになるのを止めるのは。」


結局のところそうなる。馴染んでいない、だから慣れたものが。残りの少女たちについてはそれ以前、改めて流れをきちんと学びましょう、そう言われて終わっているし、最後のテーブル組は、すっかり憔悴している。

追加で用意された料理の意味も理解できていないようであるし、なかなかあの子たちは時間がかかりそうではある。


「その、オユキちゃん。」

「何でしょうか。」


気疲れしてはいるのだろうが、温かい飲み物で持ち直したアドリアーナに声をかけられる。


「えっと、そろそろお酒の準備しておきたいかなって。今日も戦と武技の神様の教会にお伺いしたのに。」

「公爵夫人にご用意いただけているようですので、どうしましょうか。あまり長く漬け込むと発酵が進むので、半日ほどが良いのですが。いえ、勿論そちらはそちらでお喜び頂ける神々もいるかとは思うのですが。」


そこで少し考えてオユキは続ける。どうにも急ぎの事が多いようであるし、準備についても情報の共有がやはり限られた場面。ならば先に動けることはと考え口にする。

問題は少し離れた席にあたる公爵夫人ではあるが、目線を送れば聞こえていると合図が返ってくるため、少し声量を上げたうえで話す。


「なるべく早く、水と癒しの神、その神殿に向かいたいと考えています。エリーザ助祭、その時に同行を願っても。」

「ええ、勿論です。しかし司祭様でなくとも良いのですか。」

「そのあたりは私では判断が難しく。」


やはりこちらの慣習については詳しくないため、そう言うしかない。

そしてオユキの言葉にアベルと公爵夫人が、露骨に警戒しているのは、まぁ当然ではある。そして本来であればその予定は王妃を伴って、そのはずではあるのだから。

つまり、こちらの予定に合わせよと、そう願い出る事になると、オユキがそう言っていることになる。


「恐らく祭祀、それにまつわる品の用意があるかと。」

「ここで話すのね。そうね、以前拝謁の栄誉を得たときに確かに神殿に私たち向きの品を、そう仰せであったわ。」


アベルに伝えてはいたが、公爵夫人にはまだ話していない。その事をこの場で放り投げれば、反応は人それぞれとなる。


「確かに、そうであるなら先にと、そう望まれるのも自然でしょう。」


エリーザがそう言う物の、しかしと続ける。


「そうであるなら、司祭様に同道を願ったほうが。」

「あまりに大仰になるのも、そう考えますが。」


その辺りは公爵夫人に任せるしかないと、オユキは視線でそちらに投げる。頷いて返されたため、そちらについては問題がないだろう。むしろ勝手をすればそれこそ迷惑になるのだから。


「ですから、そうですね、それに合わせてお供えも用意しましょうか。」

「分かりました。」

「ただ、戦と武技の神は、果実を含んだ甘いものはお好みでないと伺っていますから。」


オユキがそう続ければアドリアーナたちが落ち込んだそぶりを見せる。

では何を好むかと問われればオユキにも答えが無い為、そこはエリーザに預ける。


「伝わっているものであれば、肉、武器、防具、そういったものを好まれると。」

「それは魔物由来でも構わないのでしょうか。」

「ええ、勿論ですよ。」


そうであれば得やすいと少女たちが喜んでいるのをしり目に、オユキは明日の予定を確定させるために話を続ける。


「ただ、今日の明日とはなりませんから、そうですね、明日の午前中は今日と同じように。」


そもそも公爵夫人とて王妃へ連絡する、その手間もかかる。だから明日はこれまで通りと、そう口にはしたのだがそれについては夫人その人から、止められる。


「明日の予定については、改めて後程話しましょうか。」

「畏まりました。」


さて、そういうとなれば何やら突発的な事態が起きてはいるようだが、今の所は想像の域を出る物では無い。

食後に改めて内々に、そうなるのであろうから今はとりあえず言及せずに流して置く。


「午後については、いつも通り、そう考えていましたが。」


それには頷かれる当たり、半日で片が付く類の者であるらしい。

そういった反応を確認したうえでオユキは続ける。


「ただ、一度こちらで武器であったりを確認したのですよね。」

「旅の間で、やっぱり傷んでいますからね。」

「ええ、アドリアーナさんにしても、矢の補充はいるでしょうし。」


そう王都に来て数日たつのだが、当初の目的であるそれが放置されたままになっている。オユキとトモエにしても戦闘狂の謗りを避けるためにも市場に顔を出したりという事はしておきたい。

少年たちにしても、旅の間、昨日の成果、そういったものを合わせればそれに付き合ったとてさもしさを覚える事も無いはずだ。


「ええ、どうしても用意はいりますからね。後はこちらの特産であったり、そういった物にも興味はありますので。」


どうにも武器、戦いの為、そう取られていそうだからとさらに言葉を加える。流石にああいった言葉で呼ばれるのは、オユキとしても二度目は遠慮したい。


「えっと、司祭様は。」

「戦と武技の神に仕える身です。戦いに気後れするものではないのですが。」

「まだ、こちらに身を移して頂いたばかり、やはり何かと準備もあるでしょうから。」

「あ、そうですよね。」


司祭については、こちらに来たばかり、それも急な招きではある。色々すべきこともあるだろう。

大まかな予定の確認が終われば、徐々に使用人の数も減っていき、改めて置かれた料理も大皿だけとなっている。公爵夫人はこの場から折を見て退出するかと思えばそうでもないようだ。

どうやらこの時間は、そういった事に使う腹積もりではあるらしい。

そうであるなら、身内、そう考えてもいい相手だけになる迄はと、オユキも当たり障りのない話を続ける。


「皆さんの方で、何か希望はありますか。」

「えっと、私たちはこっちのお菓子を見て回りたいなって。オユキちゃんが話してくれたのも気になるから。」

「ああ。」


具体的に名前を出したのはファルコだったようにも思うが、まぁ甘いものが好きな少女達であれば、そうなるだろう。オユキとしては以前の感覚があるため、どうにも気が引けるものが有るが。


「そうですね、見た目も華やかな物ではありますし。」

「そういえば異邦だと、どんなお菓子があったんですか。」

「一括りでというのは難しいですね。私のいた場所というのであれば、色々ありましたが。」


そんな話をしながらそう言えばとオユキは話題を変える。


「こちらで料理などしてみたい、そのような話もありましたが。」


そういって公爵夫人に目線を投げれば、頷かれる。


「前日に料理長に相談を。」

「畏まりました。そうであれば、改めて市場を覗いたうえで私たちが普段口にしていたものなど、ご紹介できるかもしれませんね。」

「わ、そうなんですか。」

「はい。流石に異邦の全てをとはなりませんが。私たちの知る物はあくまで一部ですから。それにこちらで材料が揃うかも分からないんですよね。」

「そうですよね。呼び名も違うようですし。」


そうして、他愛もない話を続けていれば使用人たちが全員部屋から出たうえで、改めて席を立ったアベルが内外を分ける扉の前に立ち、アイリスも立てていた耳を常の状態に戻す。

どうやら外の耳は既に排除されたらしい。

そうであるならと、オユキも席を立ち、どうにも衆目の中ただ気を使ってものを食べる事に気を使っていた少年達、その席に移動して改めて声をかける。


「はい、皆さんお疲れ様でした。マナーの勉強は御終いですよ。改めて食事の時間です。」


そうして改めてクロッシュを取るが、やはり気疲れで少年たちはぐったりとしている。

開けられたその中には、手づかみで口に運びやすい、ケサディーヤのような物が並んでいる。元来はメキシコではあるがそもそもスペインゴ由来、植民地であることは間違いない。

その辺りについては開発者の遊び心か、ファストフード、ジャンクフードに対する愛がなせる業かは分からないのだが。


「わ、これって。」

「さて、作法の学習、それは終わりました、であるなら魔物を狩るものとしての糧、それも必要でしょう。」


まだ余裕のあるアドリアーナの言葉に、公爵夫人が苦笑いを浮かべながらそう声をかける。

趣向を凝らした料理よりも、こちらを喜ぶ、そうであるなら、そういった反応にもなるのだろうが。


「どうしても、学んでもらう必要はあります。だからこそ、分ける事が出来るのなら、それもよいでしょう。」

「ありがとうございます。」


対応できているのはアドリアーナだけで、他の子供たちは目を白黒させている。

片手で持って口に運べる料理、つまりここからは立食形式も兼ねる事になる。公爵夫人への飲み物はと思えば助祭が実に慣れた手際で行っているあたり、そういった事柄を事前に話していたのだろう。


「さ、皆さんも。体がやはり資本ですからね。」


そしてここからはオユキはオユキで話し合いがあるのだが。

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