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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
9章 忙しくも楽しい日々
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第313話 晩餐を略式で

さて、持ち帰った鹿肉については執事にまず引き渡してしまえば、馬車での会話で機会が少ないと分かってはいたが思った以上の物であるらしい。

改めて物価を思えば、確かに、卸値、狩猟者がギルドに販売する価格を考えればまぎれもない高級品ではあるのだ。


「シチューがあればばと、そのような話になっていましたが。」

「厨房の者と相談させていただきたく。確か煮込みは相応に時間がかかったはずですから。」

「せっかくですし、明日以降となるようでしたら。ソテーやローストであれば、こちらのソース、サルサでしたか、それと合わせて頂ければ。」

「承りました。」


どうやら好むものは実に多いようで、庭先で鍛錬を行っていると頃に侍女からわざわざお礼の言葉が届くほどであった。


「御婆様も好まれていたのですね。」

「こちらでは、やはりあまり。」

「私の覚えている範囲でという事でしたら、年に数度というところでしょうか。狩猟者の方は食べる事を好む、それも仕事のうちでしょうが、方が多いとか。」

「確かに、体を動かせば空腹を覚えますし、そこで収穫があればそれが自然な帰結ですか。」


今は鍛錬を夜の勉強のために早めに切り上げてクールダウンを行いながら、揃って地面で柔軟を行っている。


「そういや、あんちゃん達は魚位だっけ、自分らで持って帰ったのは。」

「ええ、宿で頂けるもので満足していましたから。」

「領都は特に、良い物だったしな。」

「それに、自分で食材を持ちかえればやはり料理をと、そのように考えてもしまいますからね。皆さんは持ち帰って、教会でですか。」


少年たちは往々にして半分程度の肉は持ち帰っていたし、そういった用途だろうとはオユキ達も考えていた。


「はい。でも、どうしても人数が多いし、簡単にまとめて煮込んだり、干したりが多いです。」

「さて、そろそろ良いでしょうか。食事には少し早いですが、準備もありますからね。」


そう、既にオユキ達を見る使用人の目も増えてきている。つまり今日に関しては余力も時間もありそうだから本格的にという事なのだろう。流石にまだ本番用の衣装はないだろうが、似たようなものはサイズの調整だけ行ってということもあろうと、各々が覚悟を決めて望めば、そこからは彼らの手際の良さが光るものであった。

それこそ流れ作業としか言いようがないが、次々と軽く体を洗われ、汗を流したらでは盛装をと着せられそして椅子に座らされたかと思えば髪を整え化粧をする、何とも手際のいい事ではある。

そして、慣れない事に身体を固くしていた少女たちと共に、流石にあそこまで大きな机に纏めてというわけにもいかないのか、いくつか分けられた机に案内される。

そして、オユキが付いた席はトモエと分けられている以上、何を持ってというのはあまりに明確だ。要は点数順とそうなる。


「あ、オユキちゃんこっちなの。」

「ええ、なかなか差がある物ですから。」


同じ席にいるのはアドリアーナとティファニア、ヴィクトリア、シャロン、加えてアイリスの合計六名となっている。元が領都の協会、始まりの町よりも色々と道具が揃いやすいこともあって、きちんと習っていたのだろう。

その中でも差はあるが、得手不得手の範囲でしかない。


「私にしても、流石にこちらの作法まではきちんと習ってはいない者ね。でも、良かったのかしら。」


そしてオユキとアイリスの教育係として、エリーザ、戦と武技の神の教会から招いた助祭も同じ席についている。流石にこの場では鎧は来ておらず、馴染みのある長衣姿ではあるが装飾なども身に着けている。


「いえ、巫女として招きに応じる、それはありますが食事についてはやはり違いのある物ではありませんから。」

「それはそうでしょうけど。その、功績は。」

「そのように、隠すことなく身に着けて頂ければ。」


アイリスにしても今は鎖に通して首から下げるという形をとっている。


「ただ、本来の衣装だと。鎧、なのでしょう。流石に鎖も新しく用意しなければいけないわね。」

「私どもでご用意いたしましょう。」

「何か様式があるのですか。」

「私どもの装飾にしてもそうですが、やはり祀る神々の紋章をあしらうのが慣例となっていますので。鎖は何かと使う事も多いですから、ちょうど良い物もあるでしょう。」

「なら、申し訳ないけれど、任せるわ。」


別の机では、今度はファルコがある程度舵を取っている、それを視界の端で確認しながら、オユキは改めて助祭に話を向ける。


「この度は、承諾していただき有難うございました。何分全く経験のない事ですから。」

「そうね、なんだかんだと、こう、渡す練習はしてきたけれど。」

「そちらについてはお任せください。」


実に心強い返事だと、そう感じているところに料理が運び込まれる、どうやら頃合いであるらしい。さてそうであるならこれまでは異邦の流儀と言えばいいのだろうか、アイリスにしてもハヤト経由で伝わった所作で食事を始めていたが、そうでない場合はやはり行うべきこともある。


「確か、秋と豊饒と大地と農耕の神へとなるのでしたか。」

「はい、それについては主として祀る神に関わりなく。」

「木々と狩猟の神は、どうなのでしょうか。特に今日のように己の狩猟の成果が並ぶと分かっている時ですが。」

「それでしたら、是非合わせて感謝を。」


そう、流石に普段の食事において、家畜もいる世界なのだ、全てを判別するのは難しい、しかし事教に関しては鹿肉は形は分からないが間違いなく饗される。

そして、エリーザに言われるままに3柱の神の聖印を切って、それぞれに感謝を捧げる。まず並んだものについては少々見覚えのない物もあるがタパスが並ぶ。

どれもこれも流石は公爵家の用意した人物によるもの、そう唸るほどに趣向が凝らされている。昨日まではやはりこちらに配慮があったのだろうが、今日はいよいよ華やかな見た目がまずは目を喜ばせてくれる。


「わ、かわいい。」

「すごいね。」


並んだ小皿に少女たちが華やいだ声を上げる。そしてそれが少し落ち着いた時に説明が始まる。


「お褒めの言葉を頂き誠に有難うございます。本日のタパスは、メインがジビエですので、季節の野菜のグリルにアイオリを添えた物と、パタータス・ブラーバスの二種をご用意させていただきました。」

「どちらも、見た目が実に鮮やかで美しいものですね。ああ、皆さん、サルサ・ブラバはそれなりに辛いので、少し試してからとしたほうが良いでしょう。」

「そのあたりは抜かりなく。」

「失礼、いらぬ心配でしたか。」


ここまで露骨に唐辛子の類は目にしなかったが、ジャガイモの角切り、実に鮮やかな色合いで上がったそれに添えられているソースは、慣れない者にとっては苦手な物にとってはつらい程度の辛さはあったはずと、オユキが声をかければ、至極あっさりと返ってくる。


「こちらでは、そう言えば目にしませんでしたが。」

「あ、チレが入ってるんですか。始まりの町だと、乾燥して粉にしたのを使う人もいるくらいかな。」

「領都では育てていますけど、私はちょっと。」


やはり食事というのは良い物だ、こうして気心の知れた相手と取るのは、オユキはそんな事を考えながらもアドリアーナが以前トモエの説明した、そこからどう話を広げるのか、それをどうにか実践しているのを微笑ましく思う。


「アイオリにしても辛味を感じる方はいますからね。では、早速ですが頂きましょう。」


改めてそう声をかければ、少女たちもぎこちなくはあるが、どうにか習うべき手本であるエリーザを真似て食器を手に取る。彼女たちにしてみれば、慣れた物ではあるだろう。特に助祭相手、これまで教会で似たようなことは何度もあったのであろうし。

オユキとアイリスもそれぞれと横目に確認しながらとなるが、やはりただフランス式という訳でも無く、こちらである程度独自の発展を遂げた様なそぶりが見られる。特にナイフの扱いは全く違う。

どうやらこちらでは切り分けながらというわけではなく、最初に全て切り、ナイフは早々に手放すものであるらしい。金属資源が無く、いよいよ高級品、そうなる土地にも配慮したのだろう。今は皆がそれぞれに持っているが、回して使う事を考えればと、そのような作法ではある。


「オユキさん。」


そう助祭に声をかけられた理由はわかる。わざとそうしているのだろうが、どうにもオユキの背後についている相手に少々意識を取られるのだ。


「申し訳ありません、習い性ですから。」

「あなたもトモエも、気を抜く場面では抜かないと、今後の旅がきついわよ。」

「いえ、流石にここまで露骨ということは無いでしょうし、アイリスさんはご存知かと思いますが。」

「流石に、体力も少しは付いていくでしょう。」


そうして、少々砕けた話をしながら色鮮やかな野菜、それをソースに付けるときに見られる光沢の変化、そういった物も併せて楽しみながら食事を勧める。

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