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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
9章 忙しくも楽しい日々
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第310話 日々是鍛錬

「そうか、これが加護か。」


闘技場の見学を終え、その後はいつも通りにまずは魔物を狩りにとこうして王都の外へと出てきている。

どうにも他の多くの人が戦っている姿を目の当たりにしたからか、過剰に熱の入っている少年たちをトモエが掣肘し、今は結界の中で並んで座って説教をされている最中。

まだまだ己の未熟、大会への参加も危うい面々である子供たちと、ファルコを連れて狩りをしている最中、そんな事を呟くのを聞き咎める。


「ファルコ様、くれぐれも。」

「いや、分かってはいるのだが、だが、何故と、そうは考えてしまいます。」


そう、加護。

あまりにもゲームじみた、こちらでは一応納得できるだけの背景が存在するそれではあるのだが、その存在を改めて実感しているのだろう。しかし、それは非常に危ういのだ。


「アベルさんからも伺いましたが、用意が難しいのでしょうね。」

「装備、ですか。」

「そして、それ以上に慢心による暴走の備えです。」


そうして話しながらも、オユキは側によってきたグレイウルフを切り捨てる。そして、それに全く気が付いていなかったファルコが、オユキの行動とその結果で生じる音に気が付いて、ただ顔を青くする。

この少年にしても、正しく戦いの心構えは聞かされているようで、こういった事柄で反発を見せないため、実に手のかからない事だ。


「さて、加護があるからと、監督も無しに外に出る、その責任はだれが取らなければならないのでしょうか。」

「そうですね、学び舎に通う多くの者、それも騎士学舎となれば。」

「加護、それに対する感謝は否定しません。その、私たちはやはり異邦にて価値観を培っていますから。」

「オユキ殿、仰りたいことは分かります。確かに、今、私は守らてここにいる、だからこそ得られたものでしかない。」


そうして、魔物から得られたものを拾い上げたファルコが、結界の方へと歩みを進めながら言葉を続ける。


「しかし、過たぬのであれば、そうも考えてしまうのです。」


そう話す彼の視線の先には、トモエの前に並んで座る少年たちの姿がある。

まだ二日、その程度の付き合いでしかないが、訓練の最中年の頃が近く、立場も似通っているからか、良く話している姿を見る。そしてその話の内容は、同じ場所で鍛錬をするオユキにも勿論ところどころ耳に入る。


「難しいのでしょうね。流石に手が足りません。」

「そう、なのですか。」


彼らは確かに真っ直ぐ育っている、領都からの子供たちにしても、既に王都の魔物ですら問題ないというのに雑用に甘んじてくれている。

それは、彼らが育った背景として約束、契約と言ってもいいのだが、それがいかに大事なのか、それを知った上で、技術を与えるトモエとオユキに対して敬意を持ってくれているからに過ぎない。

また、二人にしても、それに応えようと努めているからに過ぎない。

出会いは最悪であった少年達、さて、シグルドがトモエをあのように呼ぶに至った経緯、それを考えればどれほどの偶然が、そうオユキとしても考えてしまうのだから。


「トモエさん一人で見る事が出来る人数、これはどうしても20を超えることは無いでしょう。」

「トモエ殿ですら、ですか。」

「それだけ技術を伝える、それは難しいのです。」

「異邦では、なんと言いましたか、それを代替する道具が。」

「ええ、研究されていました。」


そう告げればファルコはそれを理解する程度の教育を受けてはいるらしい。そう、研究。開祖は500年以上も前、それが未だに道具として実用化に至っていない。加えてその間にも研鑽は積まれるのだ。


「難しいものなのですね。」

「とても簡単な事ではありません。だからこそ、人を、力を束ねる、そういった存在を望むのです。」


どうにも、アベルにしてもオユキとファルコが時間をとる事を望んでいるらしい。

未だにオユキにも分からない背景、ミズキリの差し金かもしれないが、管理職の教育を望まれているようなのでこうしてオユキはファルコにそれとなく伝えていく。未だに子供。知らぬことが多く型にはめるにも、こちらの型をオユキは知らない。

だから簡単な心構えを、その前提を。


「本当に、望まれているのでしょうか。」

「少なくとも私は、マリーア公爵の存在に感謝していますとも。」

「望まれる、そういった者であれと。」

「帰りの馬車の中で、仕組み、それを人がどう作るのか、その話をしましょう。」


ファルコという少年、この少年は政治の道は己似合わぬと剣を選んだのだ。恐らくそのあたりも聞いてはいるがといったところではあるのだろう。このあたりは同じことにしても、誰が話すか、どのように話すか、内容は同じであってもそれが受け取り手によって、あまりに大きく変わるのだ。

彼の兄はその教育があったとして、他の者はそうではない。だからこそ、オユキでは伝えきれぬところはトモエが、その逆もまた然りと、少年たちに対してそうしているし、過去にはトラノスケ、他の傭兵、先達の力も借りているのだから。


「一人で出来る事、それは本当にこの両手、それだけでしかないのです。」


そういった背景はひとまず置いて起き、結論としてオユキはそう話す。


「こんな、二人を抱えれば塞がるような。剣を持てばそれで塞がるような。」


そう呟きながら、改めて己の手を眺めるファルコを伴って結界の内側に戻れば、どうやら説教も終わったらしく、立ち上がり体を伸ばしている少年たちが目に入る。

彼らにしても、正直まだ海の物とも山の物とも知れぬ相手。上手く、とそう考えはするが、どうにか年長者として、そうオユキは考えてしまう。


「あー、うん。言ってることは分かったんだけどさ。」

「でも、トモエさん、それってすごく難しくないですか。」


少年たちが立ち上がり体を伸ばして口々にトモエに尋ねる。


「そうですね。私としても、それを完全に修めたとは言えません。」

「言いたいことはわかる。心掛ける、それが大事だという事だな。」

「修道の人も、そんな事言ってたかも。ときどき思うけど、トモエさんもオユキちゃんも、良くそういうこと話すよね。」

「同列に語ってもいい物かは分かりませんが、やはり主義信条、纏めれば思想ではありますから。」


流石にそのあたりはトモエにして、説明が難しい。己が流派の体現者、そう言えるだけの皆伝ではあるのだが、だからこそそこから先、まだここで終わりではない、道の先を求める、そういった事もあるのだから。


「んー、まぁ、その辺は良くわかんねーけど。」

「なんでよ。」


シグルドとアナが何やらいつものようにやり合い始めてはいるが、一方でセシリアはただ手に持った長刀、形だけを真似たそれを眺めている。パウとアドリアーナが仲裁に入り、トモエに至っても改めて己に問うべき事が有ったのか腕を組んでいる所へ、オユキと子供たち、ファルコも戻って来る。


「良い集まりだと、それは本心でそう思います。」

「貴族様から見てもですか。」

「ああ、誰も彼も分からぬことはわからぬ、己のまま、有るがままに互いにぶつかっている。」


つまり、それが彼の年相応の葛藤なのだろう。


「マリーア公爵の孫、マリーア伯爵の子供、それ以上にどうしようもなく、私はファルコだからな。」


ただ、それに対しては、子供たちの率直な疑問がかけられる。彼らにしても教会の子供なのだ。同じく、実際のところは差異はあろうが、階級というものに親しい生活を送ってきておるのだから。


「えっと、でも、それをやる人がいなかったら、他に誰がやるんですか。」


領都からついて来ていた子供たちの一人、シャロンのその疑問にファルコは答える事が出来ない。

そしてそれを見るアベルはただ、それを眺めているだけ。


「でも、そうだよな、あの中に立つんだよな、俺も。」

「私も、いつも通りは難しいかも。」

「それについては、慣れというものが要ります。いつまでも慣れない物もいますが。魔物と初めて戦うとき、二回目の時、それぞれ異なったでしょう。」

「あー、そんなもんか。練習するって訳にもいかないんだよな。」


流石に一団としての人数が増えたため、纏まる単位も変わってき始めている。少年達、今は闘技大会に意識が向いている一団は、トモエとその周りに。

ファルコは、同じく新人扱いの子供たちと共に。

なんだかんだと全体に気を配る必要がある護衛組は、また別にと、どうしてもそういった形になってくる。その中で、一人未だに長刀を日の光にかざしてみているセシリアにオユキは声をかける。


「セシリアさんは、どうかしましたか。」


恐らく、子供たちが声をかけないほどには分かりやすく集中していたのだろう。それを断ち切ったことについては申し訳なく思うが、その必要があると感じての事でもあるため、オユキは肩を震わせたセシリアの言葉を待つ。

暫くの逡巡の後、彼女が絞り出した言葉は、なんというか単純な物だ。


「えっと、これを魔物じゃなくて、人に向けるんだなって。」


そして、それ故に根が深い。

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