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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第303話 夜話

「オユキさん。」


公爵の孫二人、未だに少年の域を出る事も無い経験不足、情報の制限を受けていたそんな子供には刺激の強い話し合いを終えて、いつものように、いつもとしたい時間をトモエと過ごしていると、少し語気の強いトモエにオユキが名前を呼ばれる。

入浴中などは、何か少し考えている様子はあったのだが、結局のところ答え合わせを望んでいるらしいと、オユキとしても理解できる。


「ダンジョン、それに対して釣り合っていないように感じますか。」

「はい。」


神々、創造神の言葉では過去の異邦人、その先送りにした功績が残っている、そうともとれる言葉はあったがその程度の、あの神にしても精神性は幼く、まだまだ経験不足が見て取れるため、トモエとてそれに誘導されることは無いのだろう。

オユキは何処か諦めにも似た、先延ばしにしていたことを端的に告げる。


「私たちには、機会が残されています。」

「やはりそうですか。」

「トモエさんは、良くお気づきになりましたね。」


何をとは言わずに、ただ話を続ける。オユキにしてもそれについて口に出したいものでもないのだ。少なくとも今は。


「創造神様、その神殿を最後にと言っていましたから。」

「ああ。それは私の失態ですね。」


地理だけを考えれば、この国での観光、それを終えれば次はそこに向かっても構わないのだ。

どのみち他国。この大陸を支える世界樹、そう呼ばれる巨大な樹木の側にあるのだが、正直他国に赴きそこの神域に訪う手間を考えれば、どこの国の所属でもない神殿の方が難易度は低い。距離そのものもそこまで変わるわけではないのだから猶更ではある。


「つまり、それまでに決めろと、そういう事ですか。」

「はい。私も正直決めかねています。」


ミズキリは決めたのだろう。其処までに掛った期間、本人の言によれば僅か2年、それをオユキは早いと感じてしまうがそれは人それぞれなのだろう。しかし、彼は既に決めている。

他の異邦人、その話をあまり聞かない、その辺りは他の要因もあるが、それも一因なのだろう。


「最初は別の事を考えていたのですが。」


そうしてトモエが苦く笑う言葉にオユキとしても思い至ることはある。そしてそれについてはトラノスケの存在がある以上、一部はそうなのであろうが。


「そちらについては、魂の譲渡、そう明言されている以上恐らくありませんよ。役割を果たす、そう仰っていた以上、あの方々は嘘は口にできません。」

「そう、なのですか。」

「はい。それもあって、トラノスケさんは別とそう考えたこともありますので。」


つまるところ、創造神、世界そのものを作れる相手なのだ、人の魂程度作れない、そう考える事が難しい相手となる。そうであるなら複製を作り、若しくは何もないところから生み出したそれに、薄い人格、それだけを張り付けてしまえば、トモエとオユキ、そう自己認識を行う何かは成立するのだ。


「そちらの方が。所謂。」

「ゲーム的、でしょうが、最初の言葉もあります。」


そう、それについての否定は予測としての事柄と、もう一つ。


「このゲーム、その製作者。彼らが技術的な制限であきらめざるを得なかった事。」

「その全ての実現があるのでしたか。」

「いくつかは想像がつきます。しかし。」

「流石に、それ全てがわかるのは、当事者だけでしょう。」


そうしていつものように同じベッド、肩が触れ合うような距離ではないが、息遣いだけは耳に届く。そんな十分に近い距離から聞こえる声にオユキはただ頷く。


「ミズキリにしても、私が訪ねてそれを語ることは無いでしょうね。」

「ええ。あの人も知らない振りが上手いですから。」

「振りとは、気が付けている以上、トモエさんの方が良く見ていますね。」


オユキの知るミズキリ、その人物像。勿論会社、そこでの役職に見合う振る舞いもあるし、友人として彼がそう振舞ってくれた記憶はオユキにもある。そしてその像と照らし合わせても今の彼はおかしい。

つまり、彼にもあるのだろう、その選択を行うに至った経緯が。彼だけかは分からないが、彼の知っていてオユキも気が付けない、トモエには知るよしのない何かが。

今トモエに言われるまでその素振りに気が付かなかったオユキは、反省するしかないのだが。


「隠そうとしている事ですから。」

「そうですね。」


いつかトモエに言われた言葉が、姿が違ったその時の言葉だったかもしれないが、それが繰り返される。

トモエが気が付けたのは、ミズキリとオユキ、その二人よりも間にある物が薄かったからなのだろう。

互いによく知っている、だからこそ、何に気が付けて何に気が付けないのか、それも知っているという事ではある。最もそういった事柄では、オユキがミズキリを超えられることは無いのだが。


「どう、しましょうか。」

「また、その時が近づけば話しましょう。」


そう、今の所はオユキとしてもトモエにはそれ以上に言える言葉はない。


「決断の時、それが近づいた時、向き合わねばならない時、そこで話し合う事はあるでしょうが、今はまだ。」

「そうですね。オユキさんは。」

「決めかねています。ただ、意見が分かれたときは、次はトモエさんの番ですか。」


二人の間の決まり事、こちらに来るにあたって順番を飛ばすことにはなったのだが、それでも次はトモエの番だ。


「次は、二度オユキさんでは。」

「こちらに来る、その我儘もありますから。」


さて、それを踏まえてみれば、それこそ順番などと言えるものではなくなっているのかもしれないが、決断が割れるのかもわからない、それまでの間に、また別の何かがあるかもしれない。

結局のところは杞憂でしかなく、今話すべきことでもないのだが。

互いに、ここまでの状況に疲労を感じてしまい、殊更こうして言葉遊びをしているだけなのだから、これは、意味のない会話でも構わないのだ。二人にとっては。ただこうして過ごす時間がある、それだけが重要なのだから。

話題そのものは既に確認が終わり、今の物では無い、覚悟がいる、そう分かった以上出来る事が有るわけでもない。


「我儘、ですか。」

「ええ、事こういった物については、これまで甘えて来ましたから。」

「そう言えば、娘や孫娘が、何度か不満をこぼしていましたよ。」

「分かってはいるのですが、どうにも。では一緒に人形で遊べるかと言われても難しく。」


区別は確かにあったかが、分け隔てなく、そう心掛けてもいたオユキではあるが。

室内に敷かれたシート、その上に置かれたミニチュアを手に取って、では即興で演劇をと言われても、そもそも遊んでいたゲームのジャンルが違いすぎる。


「そう居たゲームもあるとか。」

「ありましたが、私はそちらの熱心なプレイヤーではありませんでしたから。」

「そういう物ですか。」

「ええ。いえ、語源だけを辿ればそういう物なのでしょうが、私が遊んでいたころにはすっかり意味が変わっていましたから。」


会社でも、新人教育の一環として、その言葉が用いられることはあった。しかし、それと遊戯のそれとでは、いつからかは分からないが全く異なる意味合いとなっていた。


「読み聞かせなどは、喜んでもらえたように思いますが。」

「それにしても、もう少し選んだほうが。」

「その、持ってきてくれれば。」


そう、元々オユキは本を読む性質ではなかったし、それこそゲームで遊んでいる時間の方が多かったのだ。

あまり種類に詳しい事も無く、当然、自分で選ぶのではなく、子供や孫が持ってきたものを読み聞かせることとなった。ただ、やんちゃで元気、そういった子たちが先に渡すものをどうしても手に取ってしまいがち、そういった傾向にはオユキ自身気が付いていたが。


「その、あまり楽しそうではないと、子供も気が付くものですから。」


そしてそうではない場合、抱えた本と、もの言いたげな視線に気が付いた場合の多くは、オユキの趣味から外れた物が多いとそうなってしまうのだ。


「難しいものですね。その辺りはトモエさんに任せきりだった、その自覚はあるのですが。」


そんな事を、お互いに眠りにつくまで話し合う。

どれだけ忙しない日々が有ろうと、これまでと違う何かが積み上げられようとも。

こうして大切な時間だけは守るのだと、そんな事を考えながら、ただ取り留めも無く話す。この時間も失われていた期間は長い。それこそ習慣になるほどに、半世紀以上繰り返した時間、それがこうして取り戻せたのだ。次は合わせて一世紀、そこを目指すのも楽しいかもしれない、そんな事をどちらともなく考えながら。

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