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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第300話 新人の様子

「うん。昨日よりはまし、かな。」

「そうですね。鈍ったり、錆びついたり、そういった物は案外早く戻りますから。」

「えっと、アイリスさんは一日休むと三日遅れるって。」


セシリアの言葉にオユキはああ、と頷く。


「それは本来その日進める、その予定も鑑みての事ですから。」

「あ、そうなんですね。」

「はい。実際に身につけた物、それが無くなるという事でもないんですよ。周囲は私たちが休んでいる間にも進む、昨日も行っていれば今日は。そういう意味合いを込めた言葉です。」


どうにも言葉の意味として、そういった事まで目が行かない手合いは多いのだが。


「ですが。」

「はい、トモエさんに見て貰いますね。」


トモエの方はどうにも教える相手が増えたため、かかりっきりとなってしまっているのだが、それをオユキは申し訳なく思いながらも、どうにもできない。

指導資格、それは特に流派としての重さがある物なのだから。

少年達を一通り、まずは一体一を終えれば5匹の群れ、それの相手をさせればトモエのもとに順次送り出す。

やはり以前まで、そこまで戻りつつはあるがその先を考えたときに、トモエの言葉は必要になるのだから。

代わりとばかりに送り出された来た子供たちとファルコをオユキは迎え、こちらはまだまだ一体づつ、そう判断して順番にと、いつものように始めようとするが。


「その。」

「ああ。気を遣わないでくれ。私の方が後進なのだ。無論それを求めなければならない場はあるのだが。」


どうにも公爵家、そのゆかりの人物よりも先にという事に、子供たちは気後れしてしまっているらしい。

年齢、これまでの基礎訓練の差というのが見えたこともあるのだろうが。


「魔物を狩る、事それに関しては皆さんが先輩です。勿論これまでの積み重ね、そこで今後変わっていくでしょうが、今はまだ皆さんが上ですから。」

「そう、なんですか。」

「ええ、遠目に見ていましたが、やはり身体能力、この点についてはファルコ君が既に皆さんを超えています。」


こういった心構えについては、オユキでも語れる。どうやらそのあたりの説明も任されているようだしと、結界の境目、少し離れた場所で無心からは程遠いが、両手剣を丁寧に魔物に叩き込み続けるアイリスを見ながらも子供たちに向けて話す。


「こればかりは年齢もあります、皆さんよりも先に訓練を受けていた、その差もあります。しかし魔物との戦い、それについては別です。はっきり言っておきますが、今のファルコさんでは。」


そう言葉を切ってファルコを見れば、彼にも自覚があるらしい。

己でトモエに言われながら剣を振っている間、シグルドたちの様子を見ていたのだろう。


「オユキ殿、自覚はある。」

「ならば結構。」


耳をすませば、近くから小さな音が聞こえるのだ。つまり、ファルコは緊張に震えている。彼にとっては初陣であり、魔物の脅威、それをここまで間近に見たのは初めてなのだろう。顔色にもそれは出ている。


「皆さんは既に経験があります、しかし彼にはそれがありません。初めて魔物と戦った、その時皆さんはどうでしたか。」


そこまで昔の事ではない。それを思い出したのか、子供たちが今はまだ背の高いファルコを少し見上げる。


「情けない事だがな。君たちは楽しみにしているようだが、今ここに来て私は、ああ、君たちに言葉は飾るまい、怖がっている。自分よりも強い、そんな相手が警戒する相手がこれほど周囲にいる。その事が今、改めて実感できた。そしてそれがただ恐ろしい。」

「初陣とはそういう物でしょう。自分よりも弱く見える、少なくとも体格の上で、それを自分よりも上と、そう見る事が出来るあなたです。直ぐに伸びる事でしょう。やはりその差も明確にありますから。」


そういった事をてらいなく、口にできる彼は確かに政治向きではない気質なのだろう。

ミズキリ、オユキの知る中で最もそれが得意な物であれば、それを口にするのはどういった効果が得られるのか、それを踏まえた上でのパフォーマンス、そうなるのだがファルコにその気配はない。

ただ、彼は彼の不安や、思うところをそのまま吐露し、それに、彼が恐怖を感じるそれに対して慣れを感じている相手を年少であれ敬意を払う。

向き不向き、これまでは許されなかったそれが、ここに来て生きるのだろう。


「ですが、今は。まず皆さんが手本を示す番です。」

「私たちが。」

「はい。今はまだ皆さんが魔物の相手、それに関しては。」


オユキとしては、このあたりは少し公爵と相談せねばならないだろうと、そう判断する事柄だ。

今後も正直身分でトモエが分けることは無い。あくまで進捗、能力、本人が伸びたいと望むその方向、それだけを斟酌した上で割り振るだろう。その時に使える言い訳、それについては公爵に用意してもらわねばならないだろう。


「では、まずはティファニアさんから。」

「はい。」


さて先輩として、そう発破を掛けた事もあって少々動きに硬さが出ているが、これも経験だろう。

そうして、まずは一人に一体、そうしていつものように回していく。少年たちと比べると、どうしても始まりが荷物運びであったためか、進捗という言う意味で遅れがみられるが、ティファニアにしても、それ以外の5人にしても、それこそ前の世界の同年代、同じ体格で考えれば比べ物にならない。


「やった。」

「いつも言っていますが。」


そうして魔物の討伐に成功するのを窘めるのは、既に習慣と言ってもいいものになりつつはある。


「はい。」


さて返事はいいが、どうしても実感がを伴う、見た目にわかりやすい成果がそこにあり、それをしないのは難しいだろう。トモエにしても、案外と上手くいったときには喜んでいたりもするのだから。

用はそこで周囲への警戒を怠るのか、その差でしかない。


「さて、これで一巡ですね、では。」

「はい。」

「無理だと、そう判断すれば私やアベルさんが割って入ります。」


アイリスが含まれないのは、既に彼女は傭兵ではないからだ。


「分かっています。」

「ですから、存分に。トモエさんが構えを見ていない以上、まずはあなたの出来る事、それを確認する意図でしょう。」


トモエの方で簡単に手は入れたようではあるが、ファルコはイマノルやアベルで見慣れた構えを取っている。最初にトモエと相対している時に見たそれよりも、安定感は増しているが、流石にオユキが一目で断ずるには基礎が違いすぎるため、判断が難しい。


「政治向きの話、それもあるのでしたね。」

「そうですね。そちらは今公爵夫人の連れている使用人、その耳がないところでしましょうか。」

「あの者達に聞かせられないのですか。」

「公爵夫人は、そう判断していましたよ。」

「中には私が物心ついたころから、そういった相手もいるのですが。」


オユキとしてもそのあたりに思うところはある。しかし、そういう物だ、そうとしか言えない。

やる相手はいるのだから、その程度の事は。それこそ元の世界でも。


「今後、そういった話も聞くことになるでしょう。」

「どうにも、好きになれません。」

「あなたは公爵家の一員、その甘えは許されません。」


さて、オユキとしてもあまりそのあたりに口出ししたくは無いのだが。

正直、その辺りも期待されているようであるため、やむを得ない。そもそもそうでなければ保護者が別に付けられるのだろうから。そういった立場に関しても、オユキ、トモエそういった物からの言葉として聞かせる、そんな思惑も見て取れはするのだから。


「自分で望んでいない、それこそが甘えなのでしょうね。」

「いいえ。名を捨て、誰にもそうと言わぬ、そうであるなら。」

「それをせずに、ただ責務から逃げる。それこそが甘えですか。」

「役割、それを望んで得る人は、少ないのですよ。」

「巫女、ですか。」


そう、オユキとて、実際のところはトモエにしても。


「その中で、己をどうと押すのか。譲れぬ物、譲ってもいいものは何なのか。」


さて、こうして話すオユキとしても、それが明確になったのはいつだったか。


「今後、大枠としてそれは決まっています。それまでの間に。」

「大枠、枠、ですか。」

「ええ、広げる事も、形を変える事も出来る物です。」

「それをするには、枠について知らねばならぬ、さもなくば無様に壊す、そういう事ですか。」

「ええ、今後、先達として相談には乗りますが、今は。」


そうして話していれば見られた緊張、恐怖以外の気負い、それもファルコから抜けてきた。


「はい。」

「今は、今できる事を。」


明日できる事は今日の内になどと、暇人が生前語っていたこともあるが。

そもそも今日しかできないことを、今しかできないことを、それを追いかけていれば明日の事などやっている暇はないものだ。

そうして送り出したファルコはさて、騎士としての理合い、己が動くではなく近づいた相手を打ち返す、そんな剣でもって時間はかかるが倒し切って見せる。

危なげない、とは言えないし、それでは武器の消耗もかなり速いだろうと、そんな事は思うが今はひとまず。

剣を手放し両手を掲げる少年を窘めるのが、オユキの役割なのであろう。


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