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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第296話 手合わせ

「流石に明日になるかと思っていたのですが。」


少年達と並んで、公爵から借り受けている屋敷、その庭にでたオユキはそのように呟く。

少し広いどころではなく、それこそ前の世界であれば4つ程は一軒家が立ちそうな広場で、魔道具だろう明りが照らす中向かい合うトモエと公爵の孫ファルコが向かい合っているのを眺める。


「えっと、こういう時は、まずオユキちゃんからとかじゃないの。」

「私が指導を許されていればそうなりますが。」


セシリアにかけられた声にオユキはそう応える。

確かに位の低いものから出るのがよくある事ではあるが、そもそも指導の資格がないオユキでは見極めも何もあった物ではない。


「んー、正直、微妙だな。ホセのおっちゃんよりはまし、えっとカレンだっけあのねーちゃんより弱いくらいか。」

「どうだろうか。カレンよりは強く見えるが。」


そうして構える相手を見て少年たちが寸評をしているが、つまるところ彼らの中の誰にも及ばない、その評価は変わっていない。そしてそれが正鵠を得ている。

改めてこちらの教育というのが不安になってくる。

始まりの町で勧められた時にも、何か新しい風や刺激を、そういった裏を感じる物ではあったが、それこそ貴族家であれば家庭教師、個人に対して教育を行うものは用意できるのだろうと思うが。

特に武家、そういった技を磨き、伝える家はあるようなのだから。


「お、始まるか。でもそっか、あれくらいで出場しようと思えんのか。」

「加護がない状態ですから、皆さんもだいぶ勝手が変わりますよ。」

「あー、そういや、そうだよな。その辺りの練習とか。いや、皆ぶっつけ本番なら俺達だけってのも、あれか。」

「私とトモエさん、アイリスさんは指輪がありますからね。」


その辺りは流石に何某かの配慮があるとは思いたいが。

それこそ大会参加者限定でと、そういった融通くらいはと。しかし功績としてそれを与えられた以上は難しいのではないかという思いもある。

恐らく、その辺りの解決策は闘技大会にまつわる御言葉の小箱の中に込められているのだろうが。ただ、それを開くには準備が、恐らく今大急ぎで行われているだろうが、それが終わったところで、巫女二人が練習を終えてとそうなるのだろう。

特に解説の必要もないかとは思うが、トモエが一手授けるとそう言っていたこともあり、こうして立っているがそうでなければ庭に備えられた一席から、のんびりと眺めている公爵たちに交じっていたことであろう。

一つの大事が片付いた以上、話さなければならないことは多いのだから。


「メイ様は大丈夫かな。」

「今日はゆっくり休めていると思いますよ。」


メイにしても流石に今日は休めているはずだ、明日以降、今回の神託を告げられた相手がそれを消化して行動に起こす、その時間はある程度必要であるのだから。

初回、二回目程度はこちらである程度の用意はしてあるし、それをもとに、加えて公爵と伯爵からの助言をもとに捌くことで多少楽は出来るだろう。そこから先に付いてはまた情報が共有されてから対策を練ることにはなるが、その頃には闘技大会の準備が本格するだろうし、生まれた子供も落ち着きそのお披露目もある。今度はその忙しさにつけ込む形で、余裕をもぎ取っていくことになるだろう。


「それに山場は超えていますから。」


そういった裏側は語らず、結果としてオユキはそう纏めて伝える。


「おや、始まりますね。」


さて、そうした話をしているうちにファルコが見覚えのある構えから、剣をトモエに向かって振り下ろす。

ただ、なんと言えばいいのか。


「あー。」


少年たちのその呟きも分かる。彼ら自身、一度に習い始めたのだから、当然鏡など無くとも分たちの成長というのは見てきたのだから。

ただ、問題としては、始めてからどの程度なのかという事ではあるが。


「私たちも、ちょっと前まではあんなのだったよね。」

「そうだな。トモエさんがどれだけ細かく直してくれたかよくわかる。」

「ちょっと触られたくらいだけど、変わるんだよなぁ。」


そして視線の先では、どうやら数度振り方を見る事にしたトモエが、踏み込みに合わせて間合いを外している。それに合わせて間合いの調整も、修正も行えていない。型としての練度にしても、人相手の経験にしても不足がよくわかる。


「騎士になる訓練は受けてるんだっけか。」

「それについてはアベルさんが言っていたように、事務仕事周りが優先という事なのでしょうね。

 貴族としてとなれば、歴史に政治、それこそ行軍で他国へ行くことも考えれば、学ばねばならないことは多いですから。」

「俺はちょっと遠慮したいな。」

「さて、トモエさんが動きますよ。」


数度振らせ、そのたびに体が流れているため、どうとでも料理は出来そうではあるが、恐らくこれまで道場でやっていたのと同じことをするのだろう。

そう考えてみていれば、早速とばかりにファルコが剣を落とす。


「あれなー。」

「未だに何をされているか分からん。」


急かされて拾い、そこで突っ込むではなく、改めて構えを取り直す所は少年達や過去に見た、それこそオユキもそうではあるが、そういった物と違う育ちの良さは見て取れるのだが。

それで結果が変わるような物では無い。


「さて、一手授ける、その前にそのあたりの理合いは説明することになると思いますよ。」


用は武器を殺す、そのための手管ではあるが。


「分かったからって出来るとは思えないんですけど。」

「簡単な物なら、間に合わせるでしょうね。」


そう、トモエは間に合わせるだろう。それくらいは出来る。

特に少年達、トモエについては、実際の所オユキ程に忙しくはならないのだから。

アイリスについてはどうするのかという問題があるが、闘技大会周りではむしろオユキよりも前に立つことにはなりそうである。本人も何やらそのような予感はあるようなのだ。

今は何処か遠くを見ながら考え事にふけっている。


「でも、体力はあるな。」

「むしろそちらを優先しているのかもしれません。」


さて、見ている先では遂にどうにか突破口をと、体ごと突っ込んでは転がされ、はね起きて武器を振ると、そういった事を繰り返している。

そういった状態で息が上がっていないあたり、少年たちの言うように、基礎体力はかなりの物なのだろう。

それが出来なければ、見習いとして鎧を着こみ走ることもままならない、そういった目算のもと本当に最低限、そこから仕上げていくのかもしれない。

そうして10分ほどもそれを続ければ、息が上がるよりも先に心が折れたようである。

立ち上がれず、ただ己の手から落とされた模造刀を見て茫然としている様子である。


「ここまででしょうね。」

「まぁ、ああなるよな。」

「こう、もっと分かりやすい結果だと、まだ立ち向かえる気もするのだが。」

「いや、そっちはそっちでな。」


そうシグルドがいってオユキに視線を向けて来る。剛剣で立ち会ったのは都合二度ほど、手ひどくあしらった後に、もう一度と言われてその時くらいだが、あれはあれで心が折れるだろう。

目の前でただ己の武器が砕かれていくのだから。


「ああ、あれか。」


それをはたから見ていたパウも思い出したのか渋い顔をしている。

彼とも数度手合わせは行っているが、未だに己よりもだいぶ体格が劣るオユキに弾き飛ばされる、それに頭がついていかない事が多いらしい。


「でも、トモエさんはあんまりやらないよね。」

「どちらかと言えば、流派の本筋ではありませんから。それに武器の持ち方もできない相手だと、手首を痛めます。」

「まじかよ。」

「ええ。本来であれば、力が逃がせない体勢を作って、壊すための物ですからね。」


はっきりと上下関係はついたようで、トモエとファルコが連れ立って戻って来るのを迎える。

何処か落ち込んだように歩く彼を、少年たちが気の毒そうに見ているが、このあたりは、まぁ、通過儀礼としか言えない。


「えっと。」

「いや、いいさ。これから同じ師の下で学ぶのだから、楽に話してくれ。」

「おー。そっか。決めたか。」

「流石に、ここまで子ども扱いをされればな。よもや一度たりとも剣を合わせられないとは思わなかった。」


そして、彼には残念なお知らせがある。オユキとトモエは伝える気はないが、目ざとく気が付いてしまった子がいる。


「あ、トモエさん、指輪やっぱりしてたんですね。」

「指輪。それがどうかしたのか。」

「えっと、オユキちゃんもトモエさんも、戦と武技の神様から、加護を抑えるというか無くせる指輪を頂いてて。」


アドリアーナの言葉に、信じられない物を見る様な視線がファルコから飛ぶが、そもそも彼にしても魔物をろくに狩ってもいないのだから、たいして差があるものでもない。


「ええ。アイリスさんもですよ。日常では外すことはあまりないでしょうね。」

「そっか、そうだよね。」

「えっと、ファルコだったか、これからよろしくな。俺はシグルド。」


そう言って少年たちが順に自己紹介をしていく。

さて、問題に、彼らに告げていたはずのことに気が付いたアナがこっそりとオユキに聞いてくる。


「ファルコさんは、弟子入りになるの。」

「意思確認をしてからですね。」

「そっかー。」


そして、何とも言えない優しさを声ににじませて、アナがファルコを見る。さて、この少年と公爵はどう判断するのか。

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ツギクルバナー アルファポリス
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