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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第295話 顔合わせ

「お初にお目にかかります。」


食事の席に着く前に、公爵から夫人と孫、それを紹介される。

子供、つまりこれから面倒を見る事になる両親がいないのは既に他を任されている、そういう事なのだろう。

領地は広く、拠点は増やさなければならない。ではそこを任せるのは誰かとなれば、まずは己の縁者、能力を知っており、事前に領主しか分からぬ機能、それを伝えやすい相手になるだろう。

そうであるからこそ、孫の一人がそこから離れる。それが何故許されるのか、その辺りにリース伯爵とミズキリ、が絡んでいるのだろう。

オユキとトモエから始まり、少年たちもそれぞれに挨拶を終えれば食事の席になる。

公爵夫人と公爵、それから孫、その4人と同じ席についているのは、流石に机のサイズもありオユキとトモエだけにはなっているのだが。

ならば分けても、そんな意見はあるかもしれないが、同じ場で同じ食事を、そして軽い食事が終わり歓談の場となればその限りではなくなるのだから、案外と理由があるものだ。


「それで、あの野趣あふれる飾りですか。」

「お恥ずかしい限りです。」

「いえ、心強いものではあります。それにデズモンドが受けたのでしょう。」

「我が受けたのは事実だがな。正直置き場がない、それもあるのだ。」


実際問題として、いくつかは、それこそ王太子へと贈られる予定の物は流石にそのままというわけにもいかない。

そういった物を置いておく場所は、領都では用意があるが、流石にこちらではその用意が不足していたため、広々とした部屋、その一角にはトロフィーがいくつか並んでいる。

これがオユキ達であれば、一先ずギルドで預かって欲しいとなるのだが。


「流石に、むげには扱えませんものね。それにしても、改めて近くで見ますが、私など一飲みといったところでしょう。」

「ええ、母上。本当に。」


剣に傾倒している、そう聞いていた孫と、公爵とその父、その後を追う事を決めた孫。二人並んで座るその姿は、実にわかりやすい。根本から体格が違うのだ。鍛えているとそう分かるものと、最低限と見て取れるもの。

ただ、前者はここについてから一度たりとも口を開いてはいない。何を求めているか、それはトモエに存分に伝わっているだろうが。


「こうして形が残るかどうか、それを語らないのであれば、公爵様の領を守る方々、そのどなたでも軽々と成し得る物でしょう。」

「オユキ殿の評価は高いようですが、しかし事実として神に認められるものと、そうでない物、その差がある事は事実。そして認められたオユキ殿からは、何か不足を感じられる物でしょうか。」


さて、どこまでを話しても良いのかと公爵に目線を贈れば、それについては彼からはっきりと回答が行われる。既に御言葉の小箱が開かれたのだと、その事実と共に。


「それについては神より直接御言葉があった。後日それに関連する御言葉、それはこの王都に届けられる。」

「それは。」

「戦と武の神ではない、彼の神の讃えるべき御名は戦と武技の神、それなのだ。」


公爵の言葉に、それまで口を閉ざしていたもう一人の孫が口を開く。


「武技とは、加護により与えられる奇跡、そうではありませんか。」

「結果と過程が逆転しておるな。我らもそうであったのだが。」


そう、その辺りは明確な歪がある。そしてそれはあまりにも長い事良しとされてきたのだ。だからこそ劇的な結果でもって改革をと、望まれたことでもある。


「加護の薄い、神の遠い世界、そこで生きたはずの異邦の者たちが、明らかに我らよりも神から好かれている。加護を得られている。さらなる事実として、事特定の分野について明らかに秀でているものが多い。その事実を改めて考えるべきだな。」

「それは、しかし。」

「ああ、我にしても己の職務に追われている、その余裕がない、それについては正直認めざるを得ない。我とて、その方が騎士を目指す、そういったときに道楽と、そういった事を言った身ではあるからな。

 しかし、今となってそれを後押しする、そこに思考が回らぬのは頂けぬ。」


伯爵夫人にしてもそうだが、これまで社会のかじを取る人間、それらが切り捨てたはずの物、それを改めて評価する下地が整った、その兆しが生まれた、つまりはそういう事なのだろうが。

さて、それを子供に、シグルドたちと同じ年ごろの子供に正しく理解しろというのはなかなか酷な事ではあろう。

後を継ぐ、そのために理解を示そうとしている少年はともかく、一度は否定されながらもそれを目指した少年であるならなおの事。


「公爵様、差し出口ではありますが。」


トモエがそう断ってから、言葉をかける。


「一度否定された、それは現状に合わぬと、そう告げられた身としてはあまりに突然の変更に、思うところもありましょう。特に御身は重しとして、これまでの事が有ります故。」

「そうだな。そうであったな。」


そこで公爵は大きく息を吐くと、孫二人に頭を下げる。


「リヒャルト、ファルコ。その方らには苦労を掛けたと思う。そして変革の時、その最中に生まれたその方らでは確かに何故変えるのか、何故今なのか、これまでは何だったのか、そう思うのは当然の事ではあるのだ。」

「御爺様。」

「しかし、こればかりは、我らだからこそ避けられぬ。確かに民を導く、その立場であればこそ。」


正直、これから公爵だけでなく、実に多くの者がこの基盤の変化に戸惑いながらも、盤石とするため多くの計画を立て、変更を模索し、そうして手探りで進んでいくことになるだろう。

オユキとしてはそれについては多少の経験が、ミズキリにしても世界の変わる時、そこまで規模が大きくないにしても、何かが変わらなければならない、そういった潮目に遭遇したこともある。助言できることもあれば、かじ取りについて失敗した方法、それを伝える事も出来る。しかし規模の差ばかりはどうにもならず、立場もあり、あくまで判断の一助、その域を出ることは出来ないのだろうが。


「変革期、という事なのでしょうね。」

「一言でいえばそうなる。しかし、今度ばかりはあまりにその規模が大きい。」


政治向き、そう育った孫はともかく、もう一方は理解が及んでいない風ではある。

そればかりは仕方のない事でもあるが。なんにせよ一定水準を超えるだけの知識や経験、それを得るにはただただ時間がかかる。それを短縮できる才覚がない限り。

そして、指導者はそれに頼らない。

そもそもそんな不確かな、後が続くかも分からない物は計算に、計画に組み込めないのだから。


「今後実例を示し、話すことも増えていく。」

「分かりました。」

「我らで出来る事は我らが行う。しかし実際に事が起こるのは今より20年先と、そういわれている。」

「つまり、父上が。」

「甘えるな、その方らの世代だ。」


公爵はそれを切り捨てるのににべもない。20年たてば、それが事実ではあるのだ。彼らにしても、今はまだ孫、10代ではあるが、その頃には40が見える年になる。

主役は彼らだ。

そして、今を生きる者達はそういった物たちに後を託すため、より良い何かを残そうと今から考え、巻き込み、生きていくのだろう。

次代の象徴、それとしての王太子の子供が生まれた以上、そればかりはどうにもならない。正しく次世代はその子供と同じ世代からとなるのだろうが、だからこそその道行を敷くために、一回り上の世代は過渡期を凌がなければいけないのだから。


「私たちなのですか。生まれる王太子様の子ではなく。」

「20年後に王位を継ぐ、その可能性はあるがそれこそ我々の行い次第となる。現国王陛下、王太子様、その齢を考えれば分かるであろう。」

「そうなりますか。」


さて、どうにも政治向きの話が主体となっているため、トモエは失言を避けて口をつぐみ、オユキにしても判然としない事柄が多いため、言葉をかけにくい。

そういった状況を察して、公爵夫人が、公爵とその孫を窘める。


「今の場に相応しい話題を選ぶのも、務めでしょうに。」

「そうであったな。許せ。」


そして、その言葉に直ぐに公爵は軌道修正を行う。

そもそも今回の目的は、話についてこれていないもう一人の孫、その人なのだから。


「改めて確認しておくが、ファルコ、その方は参加の意思はあるのだったか。」

「ええ。御爺様。」


さて、それがどちらにかかっているかは不明ではあるが。剣に傾倒していると言われている孫、そちらがようやく話に加われたか生き生きとし始める。

これまでの境遇については同情もあるが、公爵家の孫としては、苦々しい表情浮かべる公爵夫人、その表情通りという事なのであろう。


「さて、参加の意思というものがなにを示しているかは分かりませんが、少なくとも闘技大会、これについては私の教えを受けてという事であれば、その判断は私が行います。」


伺うでもなく、以前告げたように公爵へトモエが言い切る。


「少なくとも今の状態では、止めますが。」


そう、この少年は現状で少年達よりも数段劣る。

加護にしても、魔物の討伐を行っていないのだろうから、限定されていない状況であれば、なおの事差があるだろう。


「事前にも伝えたように、そこは任せる。」

「御爺様。」

「少なくとも、武力という面で、この者らはその方よりも我の信頼を得ておるのだ。たとえ指示せずとも、否定されれば参加は認めぬぞ。」


さて、公爵がそう言えば、いよいよもってこの後の流れも分かるというものだろう。

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