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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第294話 権力という名の暴力

「何とも、見事なものだな。」


ほとんど貸し切りとなっている倉庫、その中を公爵を先頭にして歩く。


「お褒め頂き、有難く存じます。」


応えるトモエとオユキは、少年達や子供たち、先達として上位者への振る舞い、それを見せなければいけない立場でもあるので、許された楽な物ではなく相応の礼を取っている。


「武器にと、そう望んではいたが。我は生憎詳しくない。既にこの者達は溢れのソポルト、それで得たトロフィーからなる武器を得ているが。」


交渉事、それについては公爵が全面的に引き受けてくれるらしい。

実際、オユキ達が得たところで、王太子の子、それが生まれたばかりである以上、公爵がこうして突然持ち込まれた雑事に対応できることから出産は無事行われたのだろう、領都の時と同じく諍いの種になる。

公爵にしてもそれを理解しているからこそ、こうして面倒を引き取ってくれているのだろうが。


「成程。そうとなれば、どれも一段落ちるでしょうね。」

「難しいものだな。」

「溢れの時に得られるものが別格ですから。」


職員の言葉に公爵がオユキとトモエを見るが、そもそもが消耗品。予備は必須で、質も良ければよいほどいいのだ。


「利用しない物と比べて、良質となるのでしたら。」

「狩猟者の方はそうでしょうね。となると、特性が変わるのでグレートムースの角、プラドレオンの爪と牙、その辺りが武器に向いていますね。」

「ソポルトは腕の骨を利用しましたが。」


職員の言葉に、トモエが疑問で返す。


「腕ごとであるなら、基本は爪を使っているはずですよ。」

「成程、確かに爪は全部となっていましたか。」

「魔物にしても攻撃に使う部位、やはりそこが色々と都合がよいらしいですからね。

 ソポルト、溢れの物だとしても腕の骨を補助に使う必要があったのでしょうが。」


プラドレオンはともかく、トモエの手により根元から切り離され丸ごと残っているグレートムースの角については、子供が二人並ぶ、その程度の大きさがある。

どの程度が必要になるかは分からないが、武器にするそうであったとしても確かに過剰な量ではあるだろう。


「そちらの少年達は。」

「いや、あんちゃん達のを使うのは、違うから。」

「もう、言葉遣い。その、お気遣いは有難いのですけれど、私たちは、私たちの得たもので。」

「良い装備を求める、それは恥ずべきではないと思うが。」


少年たちの言葉に、公爵は不思議そうにする。

そもそも騎士団、その用意をし、それに対しての予算を組む側でもあるのだ。そしてそれを使い、領民を守る。ならば装備、金銭で解決できるものであるなら、真っ先に解決するべきものであるのだろうから。


「もう沢山の物を貰っています。これ以上は。」

「より良い装備、それで叶うこともあると思うのだが。」


さて、アナはどうにも上手く説明が出来そうにない。彼女にしても、それはなんとなく違う。その程度の何処かぼんやりした意識なのだろう。

その辺りを感覚的に理解しているシグルドは、言葉遣いを咎められたために発言できずにいる。

トモエとオユキが彼らの心情を代弁するのも、この場では良くないだろうと考えているとアドリアーナが口を開く。


「公爵様。御身の領で暮らす人々が、勤めを果たさずただ糧を得る、そうなったら如何でしょうか。」

「成程。理由があればともかく、それが常となるのは。」

「私たちは未だに多くを与えられています。それが分かっているからこそ。」

「良い。その矜持を我は誇りに思う。そうであるなら、我はただこう告げよう、その方ら自身で得て見せるがよいと。」

「ご理解頂き、有難うございます。」


彼女の例えで、幼いながらも確かに持っている矜持、それに公爵はただ頷く。


「しかし、そうだな。他から見て、その方らが何か目覚ましい活躍をした、その時に褒美を与える事もあるだろう。それについては遠慮など必要ない、そう覚えて置くがよい。」

「畏まりました。」

「何、流石に此度の事ではない。」


そうして、公爵に視線で促されたトモエが続ける。


「以前お約束しましたね。一つの形として、武器をお渡ししましょうと。」


そう、トモエは既に少年たちにそう告げている。

流派として、その入り口に足をかけられた時、トモエがそう判断したなら、太刀を、トモエとオユキの学んだそれが至上とする武器を渡すと。


「あー、そういや、型が十分できるようになったらって。」

「ええ。やはり今ではありませんが、その時にはやはり私としてもきちんとした拵えの物を渡したいと、そう思いますから。」


トモエは、トモエだからこそ、そういったときに渡すものを粗製乱造の品としたくはない。

使って駄目になる、それは構わないのだが、一つの証と、互いにそれがそうと分る物、そんな物を用意したくはある。それこそこちらで初めて手にした、非常に手に馴染む得物、今使っているそれと同等かそれ以上、そんな品とはしたいのだ。


「そっか。それは嬉しく貰うと思うけど。でもなぁ。」

「えっと、そういうのって、家宝とか。」

「シグルド君も言っていたでしょう、武器は使ってこそです。」


トモエの言葉に公爵が渋い顔をするのは、実用を求めるか象徴を求めるか、その差が出た結果であろう。


「流石にまだ先の話ですし、私としても今後を考えるとどうしたものかとも思いますから。」

「でも、なんかそういう物なら、こう、使ってどうこうなるものよりも。」

「目録もありますが、それは遠いですからね。元々異邦でも入門を超えれば模造刀は渡していましたから。」


そう、明確に形が残ろうものとしては目録もある。そもそもそれは書簡であるため、保管にさえ気を付ければ消耗するようなものでもない。

最も、それをこちらで改めて用意する必要がある、その手間はあるのだが。


「おー、そっか。」

「公爵様の下につく、そうなるわけでもありますから御留流として、公爵様から何か勲章をご用意いただくのも良いかもしれませんね。」


オユキとしては、そういった腹案もある。

今後は誰に教えるのか、それについて公爵の判断もあるのだろうから、政治向きの話として公爵に水を向ける。


「ほう。」


こちらではそういった習慣がなかったのだろう。オユキの言葉に公爵が興味を示す。

恐らく後程改めて詳細を決める事となる。ただそれについてはシグルド達から疑問の声が上がる。


「えっと、俺らねーちゃんから声かけられてて、あんちゃん達とは、なんか別になるかも見たいな話しされたけど。」

「そのあたりは、そうですね、改めて説明しましょうか。」

「えっと、なんかややこしいんだね。」

「政治の話もありますので。」


オユキがそう告げれば少年たちは、何とも表現に困る顔をする。気持ちは分からないでもないのだが、今後の彼らにとっては重要な話でもあるのだ。

そして、この場、他の耳のある場所では話すべきことでもない。そして、公爵としてはこちらの理解を試したい場でもある。


「そうですね、今日の夜にでも、食事をしながら簡単に話しましょうか。」

「その、公爵様の。」

「はい。本日ご令孫をご紹介いただけることになっています。」


その場で話すには相応しい内容でもあるだろう。

本来であればそうではないのだが、闘技大会、それもある。トモエはそこで少年たちにどう名乗らせるか、それを決めた事もあるので、そこで話す事にもなるだろう。

どうにも、落ち着いて事を為す時間はひとまずあるのだが、それはあくまで今後の準備のための物、そういった忙しなさは残るものとなってしまっている。

オユキとしても、御言葉、神々の言葉、その内容は気になるのだが。


「今日の晩餐は私的なものとする。」

「それほどですか。」


公爵からそう告げられて、マナー、その確認を行う立場から言われたことにオユキは驚く。

つまるところそんな事、今後王太子に招かれる、その前提を考えればそういう事は出来ないのだが、それに気を回すほどの余裕がないという事であるらしい。

想定していた御言葉、既に全部開けられたのか一部なのか、ただ王に渡しただけの身では分からないが、何か想像できないものが有ったのか。


「畏まりました、公爵様。」

「さて、今後は分からぬが、少なくとも今示したものについてはこちらで扱う。」


話しながらも歩みは止めず、公爵はあれこれとトロフィーを示してはいたが、もう少し少ないかと思えば実に半数近くを公爵は自身の物と、最も騎士団の武双であったり、トモエとオユキの物であったり、それを考慮しての事だろうが持ち帰ることに決めたらしい。

今後の事も考えれば、さて、領都、公爵の膝元に戻る時には文字通り馬車の列が出来そうなものではあるが。王太子への贈り物を差し引いたとしても。


「後の物はそちらに任せよう。」


オユキ達が交渉を行えば譲歩を求められることもありそうなものだが、そこは流石に圧倒的な地位を持っている者。

決定事項として告げれば、職員はただそれに頷くのみだった。

さて、オユキとしては一先ずこれで自身の有用性、それは一つ明確に改めて示したことになる。王都での滞在については事前の御言葉、神々の使命、それに対しての物ではあるだろうが。

だからこそ、今回の事で滞在中の願い事もしやすくなるというものだ。

そういった打算にしても、伝わっているだろうから、なおのこと。

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