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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第290話 移動の問題

「シグルド君。」

「なんだ、あんちゃん。」


ギルドで移動の報告を終えて魔物の情報を調べ、傭兵ギルドに一度寄って、そんな事を終えれば、相応に時間もかかったがどうにかそれらを終えて、外に出てこれた。

周囲にいる魔物は正直どの方向も大差なく、それこそ森が近い、その一角だけは少し経路が違うが、他はほとんど変わらない、そんな状態であったために、今いる場所から近い、それを基準に王都の外へ出ることとなった。

そうして、少し体を動かしてみれば、やはり少年達には不都合が現れている。


「肩に力が入りすぎています。」

「あー、なんか、体が堅くて。」

「ずっと馬車でしたからね。一昨日もそういった気配はありましたが。」

「ま、自覚はあるし。」


グレイウルフを一体処理した後にトモエが声をかければ、そのまま下がって素振りを繰り返す。

そしてそれを見ながら、トモエが姿勢を直す。


「そんなに、変わってたかー。」

「これもあるから、皆さん一人で練習をと、そう言わないのですよね。」

「成程な。でも、自覚あっても、自分じゃ直せそうにないな。」

「まだ無理でしょうね。それができるなら、そもそも型として十分に馴染んでいますから。」

「そっか。」


そうしている間にも次はアナがグレイウルフを切り捨てる。


「アナさんも、トモエさんのところへ。」

「えっと、私もダメだった。」

「動きの質が違うので、硬さとして出てはいませんが。」

「難しいね。」

「そうなんですよ。」


アナの感想については、オユキもただそう頷くしかない。

そうして、アナをトモエのもとに送り出し、次はパウがオユキの隣に並ぶ。

結界も利用し、安全な位置で素振りも行いながら、一人ずつと、今はそういった状態ではあるが、これまでの二人を見てパウは苦笑いを浮かべている。


「戻れば、またか。」

「そうですね、今回ほどひどくは無いでしょうが。」

「手間をかけるな。」

「織り込み済みですよ。それに戻るときはゆっくりと、そうであれば、もう少し合間に出来ることもありますから。」


そう、今回は急ぎだった、それも大きいのだ。

最もゆっくり戻れるか、それについては今の所何とも言えないのだが。


「難しいな。」


パウはそう呟いて、寄ってくるグレイウルフに向けて数歩進んで、危なげなく討伐する。

討伐だけであれば確かに問題ないのだが、彼については、よりはっきりと自覚があるようで何も言わずそのままトモエの下へと向かう事になった。

力がある、それが悪い方向に働いた結果としか言えない。


「うーん。」

「セシリアさんも悪くは無いのですが。」

「毎日練習しないとって、言われた意味がよくわかるかも。」

「そうでしょうね。今回ほどは稀でしょうが。」

「私は、どちらかというと柔軟をしっかりしたほうがよさそうかな。」

「ええ、その認識は正しいでしょうね。」


ただ、そうはいってもトモエのもとに送り出すのだが。

続くアドリアーナにしても、弓は狙いをそれ、近づいた敵のために刀に持ち替えと、落ち込むこととなってしまった。


「移動中、弓練習できないかなあ。」

「私からは何とも。アベルさんからは。」

「移動中は矢の消耗がな、補給の利くもんでもないし、むしろやめろと言われるな。」

「そっか。」

「一応真っ先に痛むのは軸だからな、それを自前で作れれば、少しは話も変わるが。」

「今は、難しいですね。」

「いると便利なのは間違いないんだが、その辺りの難しさはあるな。魔術で良いんじゃないか、そんな議論も起きるからな。」


アベルの率直な意見にアドリアーナは肩を落とす。しかし、そればかりはオユキからも否定はできない。


「一応、そういった不利を超える利点もありますからね。後は今後も皆さんで一緒に活動するなら、その折り合いをどこでつけるか、でしょうね。今は私たちでいくらでも補助が効きますから、むしろこの間に試す、それが良いでしょう。」

「はい。そうですね。色々やってみます。」


さてこれで一回りと、アドリアーナと一緒にオユキも結界の中へと戻る。

子供たちはアイリスが側について、グレイハウンドを狩らせてはいたが、そちらもなかなかの様子ではあった。

そこで一先ず、全員を並べて、少しの間素振りを繰り返す。

オユキにしても、無論トモエにしても、そうしているとこわばった体がほぐれていくのを感じる。

彼らよりも常の生活でどう身体を動かすか、常に意識を向けているトモエとオユキにしても、それ以外にすることが無かったから馴染む為の時間を多く使えたのだが、それでも実際の動きとしては身体、腱が強張っている。

それほどに3週間の移動、そしてそれに疲れてというのが、どれほどのものかを改めて実感する。


「でも、これって対策のしようないよな。」


そうしてしっかりと素振りをしていれば、ようやく体の動きも戻って来る。


「はい。私たちの様に、より柔軟を、そういった事を行っても限度はありますから。」

「馬車、狭いですしね。」

「移動の時間を、そうですね、河沿いの町までと同じ程度として、きちんと時間を取る、それ以外にないでしょうね。もしくは、馬車の外、護衛の必要なく移動を行えるようになるか。」

「そうですよね。」

「傭兵の方は、目安としては。」

「ま、目的地にもよるが、最低でも1年はいるな。」


そう言われてしまえば、どうしようもない。

まだまだ、4カ月をようやく超えるほど。移動も挟んでいるから実際の期間は2ヶ月ほどだろうか。


「まだまだ、これからってことだな。」

「そうですよね。」

「いや、お前ら勘違い過ぎるが、傭兵として、正式に登録が終わって、そっから一年だからな。」


闘志を燃やす少年たちに、アベルが声をかけ、少年たちはただ首を捻る。


「狩猟者と違って、こっちは試験も訓練もあるからな。お前ら野営もできない奴に、町から町の移動、その護衛をされたいのか。」

「おー。」


言われてみれば確かにと、そう納得できるものではある。

だが、流石に登録もしていないギルドの仕組みなどは少年たちには難しいものだろう。


「となると、訓練期間も居れれば実質二年ですか。」

「そんなもんだ。」


さて、そんな話を聞かされても少年たちにしてみればどうやらそうらしい、そういった程度にしか受け取っていないようだ。

そもそもまだまだ周り、その言葉が狭い彼らなのだから。

最も近い目標は、さて、トモエとオユキか、それにあしらわれるアイリスか。

ただそのどちらにしても、方や加護のない状態において、他方は加護も含めれば、それこそなかなかの存在ではあるのだが。


「さて、それでは体も温まって来たようですし、しっかり動きましょうか。」

「そうだな。なんか、武器を買えた時を思い出すな。」

「あれは武器に合わせるだけで、今回は身体の動きそのもの、かなりの差がありますよ。」

「いや、流石にわかんねー。」


シグルドがそう迂闊にも漏らせば、トモエが実に爽やかな笑顔を浮かべる。

そして、少年たちが後ずされば、ただいつも通りの言葉が告げられるだけだ。


「よっと。」

「はい、良くなってきましたね。」

「ま、流石にな。」


もう一度一体づつ回した後は、こうして数体同時と、今はそうなっている。


「にしても、混じると余計に厄介だな。」

「後でそのあたりの話もしましょうか。」

「ああ。」


これまでの様に、同じ種類だけというわけではなく、グレイウルフがグレイハウンドをを率いる様な形となっているため、どちらを先に狙うか、シグルドにはその迷いが見られた。

弱いものから狙う、強いものを先に。そのどちらにも利点はあり、正直個人として振舞うなら、好み以上の違いはない。

実際、極論すればすべて斬るのだから、斬りやすいものから、それが正解となるのだから。


「よいしょ。」

「アナさんも、良くなってきましたね。」

「はい。こうしてみると、さっきまでダメだったのがよくわかります。」

「ダメ、というほどではないのですが、仕方ない事でもありますし。」


さてさて、今後は日程に追われることは無くしていきたいのだが。

まぁ、仕事を抱えてしまえば、そればかりはどうしようもない。

オユキが今回は子供たちを見ながら、トモエが少年たちを見る。いつもと逆になっているのは、まぁ、一度細かく見れば大丈夫な相手と、そうではない者達の差だ。

まだまだ領都からの子供たちは、体を動かすほうが大事、そんなところではあるのだから。


「皆さんが一通り終われば、私たちも運動としましょうか。」


オユキがそう呟けば、アイリスから何ともいえない視線が寄せられる。

視線を少し遠くに向ければ、シエルヴォが群れていたり、プラドティグレが数頭で動いていたりと、実に楽しそうではある。ソポルトも所々にいるし、それこそシエルヴォの群れを率いているような、グレートムース、用はヘラジカではあるが、倍ほどの大きさはあるそれが牧歌的というには無理がある、そういった様相で動き回っている。

こちらに来たばかりの時は、傭兵によって早々に駆除されたため見ることは無かったが、トモエはすわ変異種かと、そう思う程度には巨大な生物だ。


「アイリスさんも、一緒に動きますか。」

「まぁ、そうね。私も調整はいるもの。」

「さて、トモエさんはあの角を切り落とす、そのつもりでしょうし。」

「簡単に言うわね。」

「簡単ではないと、分かってはいますが。」


トモエはやるだろう。


「公爵様、苦労を掛ける方への手土産、その程度は得て戻りましょうか。」

「晩餐に並べるには、少々野性味が強すぎないかしら。」

「それも狩猟者らしい流儀かと。」

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