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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第289話 朝の一幕

さて、目を覚ませばとりあえず今を楽しもうと、軽く体を伸ばした後は入浴を楽しみ、食事をとるためにと一同揃って顔を合わせる。

昨日の今日、揃って屋敷にいた物からは何もあるわけはないが、オユキとしてはそう思いながら執事に視線を向ける。


「本日は休みたいと。」

「そうでしょうとも。」


どうやらメイは一先ずやり遂げたらしい。

彼女にも何かストレスを解消する方法があればいいのだが。今後も、基本的にリース伯爵が貴族として対応を行うだろうが、彼女とて避けられぬ物は多いだろう。

実務レベルについては、どうやら慣れた者が行うようであるし。


「あー、今日は好きにしていいんだっけ。」

「好きに、とはなりませんが、まずはギルドへ、ですね。アベルさんは、傭兵ギルドへは。」

「俺はもう行ってるからな。いや、アイリスの事が有るか。」

「てことは、なんだかんだと、ありそうだな、今日も。」


どこか疲れたようにシグルドがそうぼやく。


「仕方のない事ですから。やらなければ面倒が増える、そういった物ですよ。

 それに今日の夕食は公爵様も来られるでしょうから。」


さて、少年たちは、どうしたものか。


「そうなんですか。その、晩餐はまだ先って。」


そうアナが切り出すあたり、合格はまだという事であるらしい。


「今日は公爵様のご令孫の紹介と、私たちへマナーを教えてくださる方の紹介がありますから。」

「そっか。ってことは、俺らはまた別かな。」

「そのあたりは公爵様にお任せですね。」


そういってオユキは執事に視線を送る。

公爵の孫が、彼らと年頃が同じとは聞いているため、ともすれば同席を求められるかもしれない。

教師役、それにしても公爵の身内からと、そうせざるを得ないだろうから、気楽な席とするかもしれないし、現状を伝えるために同席を求める事も考えられる。


「そっか。えっと、じゃあ今日は。」

「いえ、少し体を動かすくらいはしましょうか。ギルドで移動の報告をして、ついでに魔物の情報を確認したうえで、少し体を動かしに行きましょう。」


そうオユキが告げれば、少年たちは実に嬉しそうにする。

アベルにしても特に異存は無いようではあるし、では予定は決まりと、そう動き出す。


「傭兵ギルドには、出がけによりますか。」

「そうだな。ダビとマルタを拾って、それからにするか。ついでにアイリス、ギルドの登録抹消の報告だけはしておいてくれ。正式には俺が始まりの町に戻ってからになるが。」

「まぁ、今はあそこに籍を置いてるものね。」

「そういうこった。だから、これからは町の出入りは狩猟者の登録証だな。」


そう告げられたアイリスは、少々複雑そうでもある。


「今更初級、ね。」

「まぁ、規則だからな。」


どうにもそのあたりは融通が利かなかったらしい。


「えー。傭兵としての実績は、無いんですか。」

「個人としての明確な実績というのは残らないからな。」

「でも、俺らよりかなり強いぞ。」

「とはいってもなぁ。」


少年たちが不思議そうにするが、そればかりは難しいのだろう。

そもそも質が違いすぎる。

護衛のために、安全場所を行くものと、狩猟のために危険地帯に踏み込むもの。

ある程度重なる部分もあるが、それをいちいち斟酌してとなると面倒だろう。

そもそもそれが嫌なら、初めから複数のギルドに登録しておけと、そう言われるのだろうから。

揃いも揃って、少年達へは特別昨夜の事は継げずに、久しぶりにゆっくりと朝を過ごす。

時折アイリスから言わなくてもいいのか、そんな視線は送られるが、告げてしまえば、少年達では神殿に急がなければとそうなってしまうだろう。

流石にそれでは休む事も出来なくなる。

自分達で苦労を背負い込んで、その上であまり忙しいのはと、それを流石に通そうとは思わない。

アベルには、それこそ狩りの合間に、少年たちの耳には届かぬように伝えればいいのだから。


「では、今日はひとまずそのように。」

「でもそっか、公爵様の孫か。」

「あなた達と年は近いと聞いていますし、いい刺激になるでしょう。」

「へー。でも、どんなもんなのかな。」

「流石に、私たちで試してから、ですね。」


そちらについても、既に教育を受けている、そんな相手を見るのはトモエにしても初めてであるし、それこそ本当に会って、試して、それからとしか言いようがない。

本人の気性についても、剣を好んでいる、その程度しか聞いていないのだから。


「こっちにいるってことは、王都の学院行ってたんだろ、どんなもんなんだろう。」

「あー、あまり期待はするなよ。」


どこか楽し気に話すシグルドに、アベルがそっと水を差す。


「騎士用の訓練は受けていたんだろうが、あれはどっちかと言えば、事務仕事が主体だからな。」

「え。」

「流石にな。騎士の正式装備迄、ころころ体格変わる相手には用意できないから、それが無くても出来る事が先だ。」

「そういえば、前にトモエさんも言ってましたっけ。」

「そうですね、資材はあっても人手が必要となると、重装鎧などは確かに、身長も季節ごとに変わる相手には用意できませんか。」

「それどころか、鎧下だってあるからな。正直そんな予算は流石に無い。」


アベルがそう言えば、子供たち、騎士になることを目指している者たちはあからさまに落ち込む。


「まぁ、書類仕事は大事ですよ。皆さんは今の所狩猟者ギルドの方々がほとんど引き取ってくださっていますが、騎士、そうなればそれもすべて自分で行わなければいけません。

 今は口頭で済む報告も、きちんと書面に起こすのですよ。」

「あー、まぁ、そうなんのか。」

「そうだぞ。むしろそっちの方が多いくらいだ。お前らなら自分の分で済むが、騎士団になれば担当が振られたら、全員分だからな。」


持ち回りだが、まぁ嫌われてるな、そうアベルが言えば、気持ちはよくわかるとばかりに頷くものが多い。

さて、そうであれば文官仕事を好まぬ、そう言われている少年にすれば渡りに船だろうか。


「さて、そろそろ出ましょうか。あまり時間をかけると後の予定もありますから。」


そうオユキが声をかければそれぞれに動き出し、必要な物を持って改めて用意された馬車に乗り込む。

道中、馬車から見える外の景色は相変わらず愉快な速度で流れていき、どのような物があるかを把握するのは流石に難しい。

全体の景色として把握は出来るが、ではそこに何があるのか、それまでは把握できない。

町中、大通りではあるが、なかなか愉快な速度で移動しているらしい。むしろそうせねば間に合わないほどである、そういう事なのだろうが。


「確かに、馬車、少ないな。」

「そうですね。」


そして、驚くほどにすれ違う馬車が少ない。

現在間借りしている公爵の屋敷、それの位置関係までは分からないが、距離だけはかなり移動しているだろうに、未だに2台程度としかすれ違っていない。


「もうしばらくすれば、かなり増えるでしょうね。」

「そりゃそうか。でも、なんかこんだけ少ないと、魔物も多そうだよな。いや、嬉しいけどさ。」

「いや、騎士団が毎日討伐に出るからな。そこまででもないと思うが。」


さて、それについては以前の御言葉もある。

それによってどの程度の変化があるのかは分からない。


「確か、王都はグレイハウンドが最も下位でしたか。」

「ま、そうだな。それにしてもグレイウルフも交じるし、少し離れりゃシエルヴォもいる。」

「おー。」

「あなた達、しっかり染まってるわね。」


それに対して嬉しそうに歓声を上げる少年たちを、アイリスが窘める。


「でも、そうなると、いよいよ始まりの町の周りだとなぁ。

 ダンジョンって、俺らがすぐに入れるようになんのかな。」

「それは、難しいだろうな。複数作れるならよかったんだが。」


それについても試され、一つだけしか作れない、その結論が出ている。

だからこそ運用に頭を悩ませることになっているのだが。


「まぁ、それはおいおいと、そうするしかないでしょうね。まだまだ慣れは必要でしょうが、始まりの町でも森に入れば一気に難易度は上がりますから。」

「そういや、森の魔物はあんまギルドに情報無かったな。」

「そっちは狩猟者なら中級からだ。とにかく魔物が強いというよりも、森に適応してるのが多いからな。」


そう言われれば、思い当たることもあったのか、渋い顔をしている。

気が付けなかった魔物も多く、そして虫の類にも悩まされたのだから。


「魔物以外にも気を付けなきゃいけないんですもんね。」

「日帰りしかしてないなら、まだましだぞ。」

「そうか、泊りがあるのか。」

「ああ。」


それには一様にみな渋い顔をする。

昼ですら気が付けない物が、夜の闇に紛れて、さらに強化されてともなれば。


「ま、まだまだ先だ。それこそこれまでだと森に入って夜を過ごすなんてのは、数年かけてようやくだったからな。」

「そっか。」

「それに、トモエがもう言ってそうではあるが、得意不得意、これを把握して、そもそも森に入らないってのもそいつの選択だ。」

「えっと、騎士様は。」

「そもそも団体行動が本分だ。森で出来ると思うか。」

「無理、ですよね。」


さて、そうしてあれこれ話しているうちに、馬車の速度も落ちて来る。どうやら目的地に着いたらしい。

明日からの事はまだ流動的ではあるが、今日くらいは慣れた日に。

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