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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第288話 夢の世界は今日も

さて、食事の席は今日は教師役が足りないこともあり、気楽なものとなった。食事が終われば今後の話、そういう考えもあるにはあったが、流石に疲れも溜まっていたため各々が早々に部屋へと入り、床に就くこととなった。

トモエとオユキも少し話はするものの、オユキが眠気に勝てず、そして結果として既に回数を熟す事となってしまった、そんな場所で目を覚ますこととなる。


「なに、そう警戒してくれるな。」


そう言われたところで、戦と武技、この柱だけであればともかく、この場には夜闇が広がり、月が変わらず輝いているのだ。


「警戒されてしまったわね。ま、理由はわかるけれど。」


後に続くのは改める気が無い。そうなのだろう。

ただ悪戯気にクスクスと、礼を取る3人を楽しげに眺める月と安息の神もそこにはある。


「はいはい。立ち上がりなさいな。一応使命の達成だもの。ご褒美を上げるだけよ、心配しなくても。」

「いえ、一連の事、それについては既に。」

「きちんと届ける、それがまだでしょう。」


そうして笑いながら言われると、そこに嫌な予想が生まれてしまうのだが。王都は広いのだ。これまでの町に比べて遥かに。目の届かない場所はいくらでもあるだろう。


「さて、そうね、一つ答えをあげるなら、他の異邦人はそれぞれ忙しいから、それ以上の事では無いわ。」

「与えられる使命、その数には限りが、という事ですか。」

「ええ。一連としてならともかく、そうでなければ一つだけね。」


つまるところ、明言されていない使命、それを与えられている者たちはそもそも偶発的に、ある程度の作用はあるだろうが、それをどうにか気が付きやり遂げなければいけない。

そして、初めから長期的に行うべきものを与えられている者たちは、今もまだ手が空いていないのだろう。


「で、本題のご褒美だけれど、あの異邦人、汚物に連れてこられた、あの者にしておきましょうか。」

「やはり、ですか。」

「ええ、今頃ロザリアが聖別した道具を受け取っているでしょう。」

「ご配慮有難く。分かり易いヒントが多かったように思いますが。」

「まぁ、我の方で目をかける部分もあったからな。木々と狩猟の神も気に入っておる。

 あれに与えられたものとはいえ、よく魔物を狩ったのだから。」


そこでふとオユキとしては気になることもある。

思えば、さんざん魔物を蹴散らし、また奉納したものが最も多い相手、それと会ったことが無い。

会いたいかと言われれば、首をかしげるのだが。

目をかけられるとしたら、トロフィーのこともある、その神にもとそう考えてはしまうのだが。特に忙しい神、そこに数えられてはいなかったはずだ。


「まぁ、あの子はそこまで力がないもの、ここまでは来れないわ。」

「そう、なのですか。」


月と安息の神にトモエが不思議そうに返す。


「そも、魔物と戦う、それを行うものが少ない。職務として戦うものは我であったり、他を奉じておるからな。」

「木々も担当しているけれど、果樹となると秋や大地になるものね。」

「その、他の。」


そこまで言いかけて、シグルドたち、教会で育った子供たちを基本として考えていたと気が付いたのだろう。

言葉を止めてトモエは頭を振る。

つまりそういう事だ。信仰も捧げていない、そうであればあの有様も、早々にシグルドたちがまともになっていったのも理解ができる。

オユキは気を張っていた、それが主な原因と、話せば通じたため考えているのだが、彼にしてもそうなのだ。

何時だったか、アナが忘れっぽい、そうはいっていたが話し聞かせたことはよく覚えている。面倒を嫌う性質ではあるが、それでもきちんとそういった事が有った、それは認識できているのだから。

つまり、あったばかりの時、それ以前、そこでは覚えられない、あの狩猟者たちの様に制限が明確にあったのだろう。

特に戦と武技の神、それに声をかけてからは随分と気配もはっきりしたのだ。


「まぁ、そうね。そもそも異邦の者達でも少ないわよ、あなた達くらい私たちに気を遣うのは。」

「畏れ多い事ですが。」

「ま、母様から事情は聞いてるもの。全く、こちらに来る前にあったでしょうに。ちゃんとそっちにもいたのよ。」


そう言われてしまえばただ頭を下げるしかない。

確かにいたのだ、向こうにも。


「ええと、話が逸れたわね。それで、ご褒美だけれど。」

「以前にも申し上げましたが、今の所これといった物が特に。」


ただ、褒美と言われてもオユキもトモエも、直ぐには思いつかない。


「アイリスさんは。」

「既に過分な物を頂きました。」

「揃いも揃って無欲な事ね。」

「まぁ、想像は出来ておったのだがな。そこで我の方で一つ考えて置いた。」


さて、嫌な予感を覚えたのは、何故だろうか。

三人そろって背中を冷たい汗が流れる。


「水と癒しの神殿、そちらにおいておく故取りに来るがよい。なに急ぐものではない。」

「他にも、まぁ此処迄の色々ね。あなた達は本当によく頑張ってくれたもの。

 正直、今回の事でも色々と不安はあったのよ。」


どうやら簡単に渡せない、そんな物が用意されているらしい。

さて、物が大きいのか、取り扱いに何か知識がいる物なのか。


「神の厳しさ、見守る御身としてもさぞ落ち着かない事でしょう。」

「まぁね。あなたが思うよりも隅々まで見えているから、なおの事ね。」

「まさに天網恢恢疎にして漏らさず。という事でしょうか。」

「ええ。まぁ、信仰が薄いところには目が届かないのだけれど。」


そう言えば、始まりの町では目の届かぬところが無い、そういった話であったとトモエも頷く。

オユキは習い性として今後の事を考えているため、会話の方はトモエが引き取る。

どうにもなかなか大事になりそうだ。これまでの事はまだ分かっていたこと。突然に起こったのは闘技場。

さて、語りはしなかったが、オユキが事前に考えていた大事、その正体はなんだったのだろうか。


「あの子たちについては。」

「あなたの良い人が考えていることであたりよ。」

「成程。可能なら、そうではありましたが、やはり何かありますか。」

「ええ。」


さて、そうであれば、それこそ明日からもきっちりと訓練を、トモエとしてはその程度ではあるがオユキの方は肩を落としている。

トモエとしてもある程度の予想は立つものではあるが、こればかりは向き不向きだ。

オユキ程には気が回らない。それに起きれば説明もあるだろう。こうして肯定されて、肩を落としている以上、既に予想の一つではなく、起こりうることになったのだから。


「闘技大会は、我も楽しみにしておる。巫女たちよ、異邦の技にその身をとした者よ。

 今となってはもはや壁もない。存分に技を示し、その有用を謳いあげるがよい。

 我としても、逸脱する手前ではあるが、言葉を入れて置いた。今後はより求める物も増えるであろう。」

「ただ、そうなると程度の低い魔物、そちらの問題があるかと。」

「それは、起きた後に巫女から聞くがよい。」


さて、トモエとしては武器の問題、より加護を求める、その働きがどう解決を見ていくのか、どうにも判然としないが。

あるという武技にしても、あくまで前借を行いと、そのような物だと言っていたはずだが。

そんな事を考えているうちに、時間が来たらしい。

相変わらず機会があればと望んでしまうが、そこはオユキが口にしたように、神殿、そこを待つ気持ちもある。


「ではな。今しばらくはゆっくりとするがよい。」

「ええ、短い間だろうけれど。」


どうにもそんな不穏な言葉を聞きながら目を覚まし、以前と同じ距離、すぐ横にある顔が目に入る。

既にお互い起きているようで、起き上がり、日課としての柔軟などをこなしていると、オユキが深く息を吐きながら呟く。


「戻ったらゆっくりできるかと考えていたのですが。」

「ああ、戻ってからの事ですか。」

「いえ、こちらに居る間も少々。」

「好ましくない類の事ですか。」


どうにも気が重そうなオユキの様子にそんなことをトモエは考えるが、どうにもその限りでもなさそうではある。


「短杖、魔術と錬金、奇跡の複合、その武器。覚えていますか。」

「話にはありましたが。ああ、成程。しかしこれまでは無かったようですが。」

「新しい魔術文字と、そうなるのでしょうね。そして、どうにか身に付けよと。」


オユキはそしてため息をつく。

そう言われてしまえば、トモエにしても苦く笑うしかない。

お互いに、この度の道中なんの進展もなかったのだから。特にセシリアはマナの扱いに慣れ始め、アドリアーナも教会で学んだ成果か、水を出す、それについては今回の道中で奇跡でも魔術でも行えるようになっていた。


「つまるところ、明確に神々から現状を改善するための手を頂けるのですね。」

「ええ、どうあがいても戦いに流れが向く中で、直ぐには改善しない損耗、それを解消する手立てを褒美として頂けるのは良いのですが。」

「あの子たちにも、何か。」

「火と鍛冶、何ですよね。」


それが誰と言われなくとも、トモエにも分かった。今度はあの子たちもしっかりと巻き込まれるらしい。

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