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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第285話 王太子

「さて、王太子殿下、お答えは頂けますか。」


オユキはただ微笑みを浮かべて尋ねる。

さて、この部屋にいる人物、そこにいた者達、国王の姿を知る者たちは一度でもこの人物を国王と呼んだだろうか、あるいは陛下と。

それを求められていたので、そう振舞いはしたが。


「全く、実に聡い事だな。そうだ我が畏れ多くも国王陛下より次期国王とそう宣言されたものである。」


司祭を見ても合図は無い。つまり推測は当たっていたという事らしい。


「デズモンドが名を呼んだから、そこからか。」

「御身の庭に間借りする身として。」

「ああ、だから飾らなくともよい。分かった、分かった。我の名は知らなんだか。」

「ああ、我も伝えておらんからな。」

「成程、そうであれば理由を聞いても。」


そう求められれば答えるしかない。そもそも国王本人であれば、少なくとも神より渡せと言われた品がある、それを放置することはあり得ないし、誰も彼を、精々室内に来る時に事情を知っているであろう物が詐称した程度。

そして、人として見極め、手ごまとして欲するのは誰かを考えれば自ずと答えは見えて来る。


「まったく、つくづく見た目では分からぬ手合いだな。」

「恐れ入ります。」

「皮肉もきかん。」


そういって、少しの間笑った後に、改めて王太子がオユキ達に頭を下げる。


「今回の事、一人の親として礼を言わせてもらう。」

「受け取りましょう。お気持ちは分かるつもりです。」


神の定めた数、それを超えた命、神々が実在しそれに従う事それが善性とされる世界でその存在がどう見られてきたのか、それを守るために彼がどれほどの苦難を背負ったのか。

想像するしかない物だが、背筋が凍る、それ以上の物であることはオユキにも理解できる。


「本当に。デズモンドから御言葉、それを伝え聞いた時には幼子の様に妻と涙を流したのだ。そして、今ここに我が子の、その道行を祝福する証が並べられている。」


そうして顔を伏せる彼は、正しく人の親であるのだろう。

思えばアマリーアも、護衛が付けられているではなく厳戒態勢、失敗は許されない、そういった言い方を知っていた。

つまり彼女も事情を知る一人だったのだろう。だからこそオユキ達の聞いていない御言葉、それに対して過剰とも思える反応があり、王の一声があったのだろう。


「何と言えばいいのか分からぬ。この恩にどう報いればいいのか分からぬ。故にただ感謝を。我らの子は正しく我らが望んだものであった。」

「予定では、今夜と。それを超えたときに、お伝えすることが叶うかは分かりませんが。」

「ああ、覚え置くとも。」


ここでも神の厳しさ、ともすれば残酷ともとれるそれが顔をのぞかせるが、だからこその明確な利益なのだろう。

これまで妻と子を守ったものたちに、苦難を超えた物にこそ祝福を。そういう事なのだろう。

そうであるならと、トモエから声がかけられる。


「どうぞその思いは祝福へと。」

「分かっている。他の者の心配も理解できる。統治者として、その立場でな。」


そういう王太子の表情には隠せないものが有る。それは仕方のないものではあるのだが。

さて、そうとなれば心を砕くべきは、それこそ今苦しみの最中にいる相手であろうが。


「奥方の側へ、そう私から言うのはご迷惑ですか。」

「我よりもよほど強く気高い相手だ。こうして蹴りだされてこちらに来るほどにな。」


トモエの言葉にそう王太子からは返ってくる。とかく母が土壇場で強いのはこちらでも変わらぬ傾向であるらしい。

なんにせよ王太子の怒りが、彼を責めた、彼の子を疑った、それに表面的にも向かぬのであれば良いことではある。

無論、しっかりと評価は下げただろうが。


「リース伯爵令嬢にも語った言葉ではありますが。」

「ああ聞いている。実に小気味良い言葉であった。正直我も習いたくはあるが、まぁ今回に関してはそうも出来ぬ。業腹だが、あの者らの言わんとすること、不安にも利がある。」


そうして王太子はただ深くため息をつく。

少なくともこの品が渡されて以降そういった声はもう出ることは無い。最も欲しい時期にそれもあるだろうが。


「遅くなり申し訳ございません、そう、謝るべきでしょうか。」

「こちらに渡って来たばかりのその方らに、そこまで求めるのはおかしな話であろう。

 既に気が付いている、そう聞いているが、先にも言ったようにデズモンドから聞いた、その時の我の喜び、父上の歓喜、表には出さぬだろうが我が妻の思い、それだけは余さず酌んでほしい。」

「私も、かつては人の親でしたので。」

「そうか。そうか。」


つまり本題は、そちらであるらしい。

そしてこうしてオユキとトモエを求めるその理由も理解はした。

つまりは彼の子供、その教育係の一員として。


「流石に、ある程度成長してから出ないと当流派は身体を壊すこととなりますので。」

「あー、そういや、あのガキどもと後から入ったのと、きちんと分けてるな。」

「それほどのものか。」

「騎士団の新人教育よりは軽い、それくらいか。」

「その方らの世界で魔物はいなかったと聞いているが。」


王太子の心から不思議そうな表情とともに告げられた疑問は、ただトモエがにこやかにほほ笑んで躱す。

道を求めるその精神性、それは説明の難しいものなのだ。


「なんにせよこれでひと段落、でしょうね。」


そう、誕生を望まれなかったこの国の後継は、正しく望まれていた。

だからこそ、次世代への期待が、そこに力をかける機運が生まれた。

国を割りそうなこともあるが、まぁ、こちらは上手く運んで結果として団結を高めてもらうしかないだろう。


「その方らは違うが。」


直ぐに否定されてオユキは首をかしげてしまう。

確かに残務はあるが、後は手癖というほどではないが、惰性に近いものでこなせるものが残るだけ、そのはずだ。


「いえ。後は大きなものは闘技大会、開催されるとしたらそれだけかと。

 それ以外の者は、公爵者まと伯爵さまが前に立っていただけるようですし。」

「ミズキリから、何も聞いていないのか。」


何故ここでその名前が出る。一瞬そう考えるも彼ならばやる、その思いもある。

一団を起こす、その働きかけは断っていたが、それ以外について言及していない。

そして、過去と変わらぬ。憧れの世界、そこに着てはしゃいでいるオユキにも気が付いている。

そこまで考えて、ただ額を抑えて天を仰ぐ。神からかと思えば人からであるらしい。


「ほう、あの者の言うとおりだな。」

「何故直接、とも思いますが、それこそ次代ですか。」

「聡いな。では、その方の考えを聞かせて貰おうか。」


さて、なにやら王太子も楽しそうにしているのは、ここまで一年近く貯めた苛立ちの当てぐれであろうか。

見た目は少女に対して大人げない、そう思うところもあるが、まぁ理解が及ばぬ範囲ではないのだ。


「こちらで私たちが望まれる仕事は、精々お世話になる方、そちらの縁者で年頃の者へと訓練をするだけと考えていましたが。」

「トロフィーそれを得るための切欠、気が付いているのだろう。」

「御言葉の小箱に入っていると思いますよ。」


そういって、司祭を見ればただ楽しげに笑うばかり。


「トモエさんと立ち会うときは、勝算がある時、そうであってほしかったのですが。」

「何、存分に示すがよい。1000年来変わらなかった意識、それを変えるきっかけだ、派手であれば派手であるほど良いに決まっておるだろう。」

「その、地味ですよ、私達の技は。」

「その方らの年頃に、国でも最も強い、そう謳われるものたちがあしらわれれば嫌でも分かるであろう。」

「観光に支障が。私たちの数少ない楽しみなのですが。」

「何、どうとでもなる。姿を隠す、気付かれにくくする、見目を変える、方法はいくらでもある。」


成程成程。問答を事前に予測する、その重要性をオユキに教えたミズキリらしい手口であろう。

ただ天を仰いでいた顔をトモエに向ければ、トモエはただ楽しげに笑っている。


「トモエさんは、それで。」

「ええ、あの子たちにもいい目標ができるでしょうから。」

「トモエさんに比べれば低いでしょうが。」

「どちらかは任せますよ。」

「少なくとも、形になる迄は流派を名乗るでしょうね。」


目録はある、その程度は流石に許される立場ではあるのだ。


「それにしても、毎年となると、移動の都合が。」

「そこは我らに任せよ。」


どうにもミズキリによって退路はふさがれているらしい。

始まりの町を起点にとなれば、勿論往復で難しいこともあるし、王都からとなってもそうではあるが、力技で解決するというのは学んだのだ。嬉しくないことに。


「となると、移動の日程は。」

「そもそも国外だからな。」

「それはそうでしょうが、狩猟者の身分では。」

「無理だな。それを想定していない。国ごとに制度も違う。」


どうにも楽しげに語る目の前の王太子、その影にあの強かな友人の影が見える。

思えば、そうだ、彼は口にしなかったがルーリエラ、彼女が言ったはずだ、彼は王都でパエリアを食べるのが好きだと。そして、こちらに来て二年。

公爵にしても訓練さえ、こちらの仕組みに慣れさえすれば、領を与えてもよい、そう思っている相手。

成程。計画を前出ししなくてはならないとは、事前の者が前倒しになるとはこのことか。


「戻ったら、少し話しあいましょうか。」

「またですか。今回は配慮を頂けているようでしたが。」


そう、トモエが苦笑いと共に告げるほどにいつもの事ではあるのだが。

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