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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第284話 面会

「さて、まぁ五月蠅いのもいるが、許せよ。」

「お言葉が崩れていますよ。」

「今回の主役、それに合わせてるだけだろ。もてなしのつもりだ。」


席につくと、流石に姿勢までは崩していないが、大いに口調は崩して話しかけて来る。

さて、これに対する対応を見られているのかと、どうしてもオユキは警戒してしまうのだが。

特に仕草で司祭の同席を求めたこともある。助祭の二人は、主として祀る神が違うというのに、その司祭から頼まれた神像へ何やら手を入れているというのに。


「結果として警戒されているが、バンサンゾ。」

「どうやら、話し通りらしいな。なに試すつもりではないさ。少し腹の底を見ないことにはな。

 俺は俺で、既に異邦人を囲ってはいる。無論お前らもと、そう思っているんだが。」

「それについては、既に決着を見たはずだが。」

「今更どうこう言う気はないが、本人が望めば、そうも言ったな。デズモンド。」


どうにも互いに名を良い会う仲であるらしいが、それ以上に本人たちの目の前で取り合いをしない欲しいものではある。


「それにしても、話し以上だな。」


そう言いながら国王が視線を机に置かれているものに向ける。


「他にもトロフィーがゴロゴロあるとか。」

「その方に贈るのは、選んだものだがな。で、先に抜け出した用件はそれだけか。

 なかなか一筋縄ではいかん、そういった手合いというのは十分分かっただろう。」

「まぁな。話を向けても割って入らない。自分が観察されてると分かって振る舞い、そのうえでこちらも観察する。成程いい人材だ。本気で惜しいな。ああ、構わんぞお前たちも自由に話すといい。

 気が付いているだろうが、少々そちらの腹の底を確認しておきたいからこうして足を運んだのだ。

 知って入るようだが、嘘は分かる。」


これに関しては領都でアマリーアとの経験があって助かったと、オユキはただ微笑む。


「全く。見た目に騙される程度の物だと、好きにされそうだな。そっちの二人は、ああ、片方は方向性は違うのか。どちらも構わん、思うところを話せ。言葉についても、正しく伝わらない、そうなるくらいなら飾る必要もない。」


さて、こうも繰り返されては、オユキとしても口を開かざるを得ない。

年齢で言えば、前世も足せば分からないがアイリスに譲るべきかとも思うが。


「いい、そっちは分かり易いからな。」

「では、恐れ多い事ではございますが、私からお答えさせていただきます。まずは御身の威光満ちる。」

「世辞はいい。社交の場であればともかく、今は確認の場だ。」

「では尋問の場とそう捉えましょう。」


オユキの返しに公爵は眉を顰め国王は楽しげに笑う。


「正しいが、あくまで確認だ。神の使命を達成した者を無実の罪で尋問などしてみろ。」

「ええ、私が許しませんよ。」

「だ、そうだ。そもそもお前ら異邦人は個人差が大きすぎる、挙句個人主義が極まっている。」

「その、同胞がご迷惑を。」

「いや、話は聞いて理解はしている、100を超える国があり、そこからまばらに来たという話だ。存在しない国の風土を考慮など、正直やってられん。ああ、お前らの培った文化を軽んじるつもりではないのだが。」

「ええ、理解できます。私達、私とトモエの目的、それについてですね。」


それについては、話すことにためらいはない。そもそも簡単な話なのだ。


「私はただ、生前自分が愛したこの世界を、私のためにと我慢したトモエに楽しんでもらう。それだけです。

 その一環として景観が向こうでは望むこともできなかった奇跡に満ちている、その分かり易い象徴である10の神殿に観光へ。」

「私は、そうですね。オユキからよく聞いた、素晴らしいとそう謳われたこの世界を楽しむことが目的でしょうか。後は、まぁ異邦でも武に傾倒していた身でしたから、こちらでさらに、同時にこちらだからこそ、そういった道を探そうかと。」

「それはまた、漠然としているな。」


さて、このあたり、こちらの人物にはっきりと告げるのは、神殿巡り以外の部分は初めてであろうか。


「にしても、主体はこっちのオユキじゃなかったのか。」

「判断や交渉は担当していた。」

「だが、根底の意思決定はトモエの方だぞ。」

「どうにも、上手く躱されていた、そういう事だろうよ。」

「私の方が慣れていますから。ただの役割分担です。」


そういって、オユキは微笑む。しかしそれには司祭から合図が送られる。

さて、流石に長年連れ添った相手であっても気恥ずかしい事はあるのだが。


「言いなおしましょうか。楽しませる相手に面倒が飛ぶ、私はそれを簡単に許すつもりはありませんよ。」

「全く、実に聡い事だ。」

「公爵様の威光に満ちた庭で、経験を積ませて頂きましたから。」

「よい。最も偉いものがこのありさまだ、我にも特別飾った言葉を使う事もない。」

「では、子供たちや、公の場以外では。」

「うむ。これからも何かと話す機会もあるだろうからな。」


そんなやり取りをしていると、国王が実に楽し気にしている。


「仲のいい事だな。」

「隠していますが、創造神様より生前の関係を認めていただき、功績を頂いております。」

「ほう。側室を進めようかとも考えていたが。」


国王が実に軽い調子でそういう。そしてそれに対して司祭から合図は無い。


「トモエさん。」

「失礼しました。」


それが確認できたときに、少々派手な気配が起こり、アベルがトモエの首に手を添えている。


「やらないと分かっちゃいるが、これが仕事でな。」

「心得ていますよ。ですがお戯れもほどほどに。」


文官の公爵はもとより、多少は鍛えている国王も相応に肝を冷やしたようで、汗が浮いている。

さて、殺気や威圧、過去はここまで劇的な物では無かったが、まぁそのあたりも何かあるのだろう。


「それにしても、まだまだ子供扱いされそうですね。」

「おう。これでも元騎士団長だ。」

「分かってはいますが、遠いものですね。指輪、付けておきましょうか。」

「お前ら試されると思って外してたんだろうが、嘘は分かる、俺が保証する、それで十分だからな。」


言われてみれば、それもそうだと3人そろって外して持っていた指輪をはめる。

それが目に付けばやはり司祭にはそれがなにか分かるものであるらしい。


「それにしても、久しぶりに肝が冷えたな。」

「うむ。老骨には答える。ああ、我の所ではそのような無粋はせぬ故、安心せよ。」

「一応、今後の国を考えれば、人口の増加、それを求めるというのは理解はしますが。」


そう、理解はする、尊重はする。ただ己がそうするかはまた違う。

そもそも異邦人、特にトモエとオユキは存分に魂を鍛え、輪廻の輪に戻す、それを望まれているのだから。

そういう事は、こちらの生では、恐らくあるとしてもそれこそ神殿巡りが終わってから、そうなるだろう。

その時までには確かめられることもあるだろうし、それまでに決めておかなければいけないこともあるのだから。


「ま、他で貢献してくれればいい。それにしても、これでまともに活動したのが一月半か、なぁアベル、どんな冗談だ。」

「正直、加護無しだと俺も勝てんぞ。」

「そこまでか。」


それに対してただトモエは微笑むだけ。


「どうにも手に入らぬと聞いてそれを目にするとなおの事惜しくなるな。

 ま、それは置いていこう。目的が漠然としすぎている、楽しいと思う事は、今の所なんだ。」


まぁ、楽しいことをします。それが目的です。それだけではただの無軌道であろう。


「そうですね。私はやはりトモエさんと魔物を狩ったり、武器を眺めたり。街歩きも楽しいですし、向こうでは見られなかったものを紹介して、驚き、楽しんでいただける時間が好きですね。」


正直、新しい、こちらにある物、それを見る以外では別段向こうで暮らしていたころと変わらない。

共に何かをする、お互い、若しくはどちらかが楽しいと思う事を共に。両者が楽しめるのはなおよいが、そうでなければ楽しむ相手を見る、それを楽しみにできるのだから。


「私もほとんど変わらないでしょうか。加えるなら料理、食材、そういった物を楽しんでいますね。」

「何とも、こう、凡庸な望みだな。後進を育てていると聞いたが。」

「流石に悪人でもない物が、悪戯に命を落とそうとしているのなら、良識ある大人として導きますよ。」

「そっちにしても、その程度か。」

「そもそも弟子としていませんし、流派の名のり、その許可を今後あの子たちが求めるかもわかりませんから。

 あちらはあちらで、色々聞いているでしょうから、後で確認するといいでしょう。」


さて、流派の名乗りを上げる、それについてはセシリアくらいであろうか、今の所そういった意識を持ってくれているのは。


「その、良いのか。武門の連中はそれこそ嫌いそうなもんだが。」

「以前から、流派を名乗る許可とは別に、鍛錬だけというのはありましたから。

 ただ、教えたことを勝手に当流派の物と名乗る、それを行った場合には始末を付けますが。」

「そのあたりはらしいな。それにしても、なんというかお前らは欲が無いな。」

「他の方が、他の異邦の者達がどの様であったかは本当に分かりませんので。」


オユキはそれについては色々考えなければ、確認しなければならないことはあるのだが、どうにも機会と方法に恵まれていない。


「まぁ、何となくわかった。振る舞いは知識を感じる、それは過去の経験と見た目の釣り合いが取れないから際立つ。武に傾倒しているから、思考の芯がそちらで作られている、故に敵味方の区分とそれに対する容赦がない。しかして中身は少しの贅沢を喜ぶ、良き民と、そう言ったところか。」

「正鵠を得ているかと。」


分かってはいたことだが、なかなか早く、つまり他に任せるよりも正確に早く判断できると出てきた人物が見極めを終えたらしい。

そもそも司祭の嘘を見抜く奇跡、それらしきものはあくまで質問に答える、宣誓をする、その形を取らなければ効果のないものであるらしい。つまりまだそこの確認は取れていない事が有る。

オユキの考えが伝わったのだろう。


「どうした、何か質問があれば応えるぞ。」

「では、あなたが今代の国王陛下御本人、それに間違いはありませんか。」

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