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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第280話 会食の続き

「さて、先の事については、また今後詰めるとしよう。

 その方らの目的もある。めぐる順番に希望は。」

「創造神様を最後に、その前に戦と武技の神、その神殿に向かおうと。」

「巫女であるなら、そちらが先とも思ったが。」


理由については言わぬが花と、オユキは微笑むだけに留める。

それまでに可能な限り鍛え、磨き、刀を向けに行く。こういった世界でそれを喜々として語るわけにもいくまい。

もっともアイリスは気が付いているようで、すっかり慣れた視線を感じるが。

まぁ、彼女もいる場でそれについて言及はされたのだし。


「まぁ、理由があるとそれは分かった。語らぬのであれば、構わぬ。あの者たちは、連れ歩くのか。」


それについては公爵のご子息、それも範囲になりかねないため、確かに気になるものであろう。


「一先ず勝手な癖がつかなくなるまでは。そうですね、個人差もあるので難しくはありますが、一先ずあと半年は必要になるかと。」

「その間に、一度月と安息の神、その神殿には向かう事になるでしょうね。」


トモエは嫌がっているが、それまでの間にどうにか馬車を誂えて、それこそ馬車の中でほぼ生活が出来る様にしなければならないだろう。

そして、その時にはアナだけは否応なく連れて行くことになるだろうが。


「ふむ。国内だけか。ならば簡単だな。国外へとなると、我らが手を貸すとなれば相応に手間がかかる。

 無論、それ故道中は保証されるのだが。」

「いえ、お手数をおかけいたします。さて、教えを広める、それだけで御身のご厚情に報いる事が出来ればよいのですが。」

「下心もある故な。分かっておっていっているようだが、さて、書面に起こしたほうがよいか。」

「今の所は。今後変化も多いでしょうから。」


そうして、公爵とオユキが主体となって会話を続けていると、メイからも声が上がる。


「今後は、暫くはあの町を拠点にする予定とそう考えても。」

「はい。一先ずは。流石に今直ぐにとなると、話の切欠を作った身としても、あまりにも不義理でしょうから。」


そのオユキの言葉にメイが露骨に安心するが、オユキとしては続けなければいけない言葉もある。


「ただ、得た物のいくらか、それを定期的に領都へとお持ちさせて頂く事になるでしょう。」

「そう、なのですか。」

「政治向きの話は、そうだな、メイ、後で説明しよう。許せこれは我の怠慢だな。」


そちらはそちらで進めて貰う事として、オユキは公爵向けの話を進める。


「後は、そうですね。今後、私も、今後を思い考えていることもあります。」


世界の謎を解き明かす、そういえば随分とよく聞こえるのだろうが、つまりは郷愁、懐古主義でしかない。


「ほう。」

「失われた、しかし力の残る神、一先ずはそれを探してみようかと。」


そう、まずはそこから。おそらくそれを進めなければ、あの数値は増えない。いや、増やせないように設計されているのだろう。

少々うがった見方ではあるのだが、この世界はあくまで人の無力、それが根底にある。たとえそれが純粋な、前の世界で霊長と呼ばれた種以外の特徴を持った、より利便性の高い種がいるのだとしても。神々に比べれば、あまりにか弱い。

用意された仕組み、それを超える何かは出来ていないのだから。


「ふむ。そういう以上は何か心当たりがあるようであるな。」

「ええ、魔術文字、それがその存在を示していますから。古い友人も痕跡を過去に見た、そう言っていたこともあります。」


さて、それに加えてだ。アナはオユキの得た属性の得意、それを示す神を妹と呼んだ。神像もない神であるというのに。そして、いま身動きがとれぬ、加護を与えられぬはずの水と癒しの神、それが人の求めに応えるべき奇跡、それはどうなっているのか。

誰も新しい奇跡が得られぬというならわかるが、アドリアーナは水を生み出す、その奇跡を得たのだ。

つまり、それを代替する名も知られておらぬかもしれぬ、そんな神が存在するのだろう。

まずは神殿、そこに訪ったときに改めて伝承を求めるもよし、その場で改めて伺うもよし。

それはそれで、どうにも既存の神職の者たちへの影響が出そうなものではあるが、そればかりは堪えてもらうしかない。


「それだけではなさそうであるが、成程。その方以外の異邦の物は。」

「何分、まとまりのない者たちでありますから。」


オユキがあまり輪の中に入らなかったと、そうは言わない。

そもそもゲームのプレイヤーとしてのオユキ、それについていこうと思うものが際物でしかないのだ。


「さて、伝え聞く話であれば、まさにそのような様子ではあったが。そちらについても改めて話を求めても。」

「ええ、どうにも聞き手が複数であったこともあるのでしょう、少々伝達に問題があるようには感じられますので。そうですね、私自身異邦の全てを知っている、そう言えるものではありませんが、概要、一般的に修めよとされていた知識、その辺りの概論でしたらお時間は頂きますが、書き起こしましょう。」

「それは良いな。」


そうして、あれこれと伝え聞いた話ではこういこともあったがと、それに対してオユキ、ときにはトモエが応えてと、そうしているうちに食事は進み、飲み物が運ばれる段となる。

つまりは、此処が本番なのだ。


「さて、今後もおおよそ想定できていることは分かった。であるなら我もあれこれというまい。

 我が家に仕える、その意思はある。そうだな。」

「はい、公爵様。少年の真心を喜んで受ける、そのような御方であるのなら。」


オユキとて今後を大きく左右する決断、それについてはそうするに足るだけの判断基準を求める。

直感も多分に含まれてはいるが、嘘が通用せぬ、そのような場でこの公爵は正しく取るに足らない、そんな少年を誉め、そのまごころに心打たれたとそう言い、純粋な信仰で涙を流す少女、その姿に心打たれたと、そういったのだ。

ならば、この人物は人と人、その付き合いを大事にする人物なのだろう。

で、あれば良い。オユキはそう判断し、少し横目で確認すればトモエも頷いている。


「あの少年だけでなく、我が領、愛すべき民、そうであるならだれでも同じことだ。

 王族からの声、それについては既に取り決めがある故安心せよ。」

「どのように、とは聞かずに置きましょう。」

「国の歴史は長い。色々あるのだ。特に今回は我が領から生まれた功績であるからな、少々無茶は言える。」

「成程。」


それで納得しろと、そういう事らしい。


「後は、そうだな。闘技場の件だが、アイリスは参加するとして、オユキ、その方は。」

「トモエの許可があれば。もっともトモエが出るのであれば、私は辞退しますが。」

「そう、なのですか。」


トモエから意外そうな声が上がるが、そもそもトモエと向かい合うのであれば、少なくとも今磨いている物、それが技になったと、そう言える段でなければ意味がない。


「はい。今は、まだ。」


思いを乗せて、改めて隣に座るトモエと視線を合わせて告げれば、楽しそうに笑う姿が見える。


「では、私が出ましょう。」

「良いのですか。見世物は。」

「演武と同じです。技の有用性、一つの型、それの果て、そういった物を改めて人に示すだけです。」


それにと、トモエが続ける。


「あの子たちも出るでしょう。ならば、師として壁として、私が立つのも筋でしょうから。」


どうにもトモエはあの少年たちも出場させるつもりでいたらしい。

楽しい事、そう言っていたのはこれかとオユキはここで思い当たる。

まだ早いと、そう考えてしまうが、実践の場が豊富であればこそ、そういう事でもあるだろう。


「技を競う、そういった場になるのではなかったのか。」

「さて、競える相手がいるのであれば、そうなるでしょうとも。」


トモエの返しに気負いはない。

王都の騎士団、その長を務めた相手にも会った。武門、それを途中で投げ出したとはいえ、その技の程度も見た。そして加護を持って技を成立させる、その結果として道を見失った相手も見た。確かにアーサーなどは卓越した技量が見て取れはしたが、それでも。

時間があり、それこそ未だ出会った事もない相手が出てくれば話は違うかもしれないが、尋常の能力、それだけであれば。


「私も、歯牙にかける気は無いのね。見せた事のない技があるのだけれど。」

「足蹴、飛び交い、掴み技。その辺りでしょうが、それでどうにかなる、そう思われるのは心外ですね。」


トモエはアイリスの異議を切り捨てる。

そして、それに対して驚いているが、そもそもそこで驚く時点で、こちらを侮りすぎている。

先に既にトモエは語ったのだ、刀一本であらゆる武器に相対する。そのために技の体系も多い。そうであるのに他の流派を研究していないわけがないだろう。


「ハヤト、薩摩隼人からでしょう。ならば薬丸自顕意外となればタイ捨でしょう。只人よりも優れた身体能力、そうであるなら彼の流派の理も十全に使える物でしょうが。」


そう、そもそもの前提がそこにはある。


「当流派の開祖、その高弟が超えるためにと編んだ技なのでしょうが、さて、後から追って来るもの、それに只抜かれるだけの祖がいると、そうお思いで。」

「トモエさん。食事の席ですから。」


どうにも、技を十全に競う場、それに対してはオユキの思う以上にトモエも熱を上げているらしい。

文官を自称する相手が少々あてられていることもあって窘める。


「失礼しました。」

「いや、何。我は頼もしさを感じる物であるが。」

「そうね、そうなのね。」


公爵からは許しが出たが、さてアイリスの中でも改めてつく火があったようだ。

これまでは、まずはオユキを、そういった物だが、確かに彼女の知るいくつかは、懸待を崩す、そのための動きとそうなっているのだ。

彼女の修めたもの、その開祖、それに連なるものの願い、そこにはトモエの技の打倒がある。

ただ、彼女の願いは、少なくとも直ぐに叶うことは無い。

最も基礎たる袈裟、それがオユキに届かぬうちに、他の工夫がトモエに届くことは無いのだから。


「成程。何とも頼もしい事ではある。」


公爵がそう纏め、場が少々乱れたこともあって、一先ず今回はこれで終わりとそうなった。

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