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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第274話 新しい朝

「今度は私のせいではありませんからね。」

「あなたが切り出さなければ私も黙っていたわ。」


そんな見苦しいやり取りを朝からオユキとアイリスが行っていると、まだ疲れが抜けきっていないのだろう。眠そうに目をこすりながらも少年たちが、広々としたリビング、カーテンを開ければそこから庭が一望できる、そんな場所へとパラパラと出て来る。

トモエとオユキは朝から早速お風呂を頂いたりもしているが、やはり疲労は感じてしまう。


「おはようございます。」

「はい。おはようございます。皆さん、体調は如何ですか。」

「あー、何だろ、正直昨日より悪いな。」

「ね。ゆっくり休んだのに。」

「気を張っていたのが緩んだのでしょう。疲労とはそういう物ですよ。」


彼らにしても、ここまで精神をすり減らす期間の長さ、それは初めての事だろう。

アイリスはそんな少年たちの話を聞いて、苦笑い、まだまだ経験不足といった様子だが。それに机の上に広げられた荷物に気が付いている様子もない。

まぁ、気の抜ける場、そう感じているあたりは頼もしい。公爵という途方もない位の人物に借りた家でくつろげるというのは才能であろう。


「そんなもんか。」

「ええ。これも慣れるしかない物でしょうね。さて、朝食はまだ少し先ですから、簡単に予定の確認をしましょうか。」

「はい。」


そういって置かれたソファーや机、その空いたところに銘々が腰を下ろせば、そこでようやく気が付く。


「その、オユキちゃんまたなの。」

「半分はアイリスさんです。」

「月と安息の女神様は、私の管轄外よ。」


机には月と安息の神を象った聖印が石の中に浮かぶ、如何なる力によるものかは分からないが、そんなペンダントトップが一つ、彼の神を象った小さな、手のひらに乗るような神像が二つ。それから御言葉の小箱が三つ。それから戦と武技の神、その印が記された短剣が二つ。

なかなかの大荷物がちょうど個数として半々、そうなる様にオユキとアイリスの部屋に置かれていた。


「え、お姿を見たの。」

「はい。有難いことに。」

「素敵。」


そういってアナが盛り上がっているが、あなたもそのうちこうなるのですよ。そんな言葉が喉元迄上がってくるもそれはどうにか飲み込む。

そして、今、その扉にノックの音が響く。

少し前からアイリスの耳はそちらを向いていたことも有る。彼女とトモエは気が付いていたのだろう。

どうにもトモエにしても以前よりも気配というものに敏感になっているようであるし。

オユキが声をかければ、昨日も見た初老の家令が扉を開けて入ってくる。そしてその後ろからは3名ほどの侍女らしき人物。

どうやらこちらで予定を確認するよりも先に、先方の予定が決まったらしい。

道中はこちらよりも酷い有様ではあったが、そういった行為そのものではなくとも、疲労、それに対しての慣れがあるのだろう。それはそれで嫌な現実ではあるが。

いや、折に触れて王都に移動、そういった事が有るのであれば、この類の疲労にもなれているのかもしれないが。


「マリーア公爵様より、遣いが参っております。」


家令が机の上に無造作に並べられた品に、少々表情が崩れるが、後ろの侍女たちの様に明らかに取り乱したりせずに話を始める。


「畏まりました。部屋はどちらを使うのがよいのでしょうか。」

「どうぞ私共へは気楽に接していただけますよう、お願い申し上げます。」

「成程。分かりました。客人、そのつもりで。」

「お願いいたします。そちらの荷物もあります。皆さまが構わないのであれば、こちらにお通ししましょう。」

「話の内容によっては、お持ちさせて頂く事になるでしょう。何分慣れぬ身の上です。これらを運ぶにふさわしいものはご用意いただけますか。」


流石に前回メイにしたようにと、もうそういう訳にはいかない。特に二回も運んだものが有る以上。


「ご期待に沿えず申し訳ありませんが、当屋敷には備えがなく。」

「では、使いの方へ相談させていただきましょう。このままでも。」

「少し整えましょう。」


そうして家令が指示をすれば、侍女の手によって場が改めて整えられる。これまで座っていたところから、使者を迎える形に家具の位置が変えられ、合わせて危険物たちも、侍女が震える手で扉の正面、そこに来る机の上に丁寧に並べられる。

どうにもアナとセシリアの反応から、さほどでもないと、そう踏んでいたが特に神像がまずいらしい。

机に置くときに台座が当たる小さな音がしたときに、侍女がひきつるような小さい悲鳴を上げ、それに対し家令からも厳しい視線が向けられた。

公爵家の別邸、恐らく縁者が王都を楽しむ、必要な期間を過ごす、そのための屋敷で働くものですらそうなる何かという事らしい。

内々に話したいとは思うのだが、部屋では使者を迎えるために侍女が一人残っているためそれもできず、トモエと僅かに視線だけでやり取りをするが、二人よりも慣れたはずのものですら分からぬことなのだ、何か思いつく事が有るわけでもない。偶像崇拝、それが禁止されているのであれば分かるのだが、そこまで考えたときに、オユキはわずかに思い当たることが生まれたが。

それについて考える前に、部屋には使者が訪れる。


「皆さま、どうぞ気楽に。」


久しぶりに、移動の間は顔を合わせることくらいはあったが話す時間は無かったゲラルド、彼が使者であるらしい。

先代公爵家から別れたリース伯爵家、その先代リース伯爵、公爵の縁者に仕える彼は確かに適任であるだろう。慣れもあって選ばれたのだろうが。

二度目の促しがゲラルドから行われると、オユキがまずは立ち上がり、他の者もそれに合わせて立ち上がる。

そして、誘われるままに彼と同じ机には大人たち三人が、残りの少年たちは少し離れた場所に座り、飲み物が用意されれば、早速とばかりに彼が口を開く。


「さて。今度は何事ですかな。」

「この場での発言は。」

「聞かれても構いません。あの者たちはここを任される。そういった者たちです。」

「では、こちらは王家へと。そのような物です。元々私は使命を得ていましたので。」


オユキとしては、色々と他に言いたいことも有るが、さて相も変わらずどの程度話していいのかも分からない。

それにゲラルドの言葉にしても、暗に示しているものもあるのだ。つまるところ紐付き、その可能性がある以上は、あまり迂闊なことも口にできない。


「恐らく、本日はこの後メイ様と話す機会があるでしょう。その際に運ぼうと考えていたのですが。」

「こちらでご用意いたしましょう。皆さまが朝食を終えられる頃には、またお迎えに上がります。」

「なかなか、慌ただしいですね。」

「さて、どなたが原因かと、此処で追及しても良いのですかな。」

「おや、ゲラルド様は神々より与えられた使命を健気にも果たした、そんな私にまさか。」


どうにもこのゲラルドという人物はシニカルな一面があるらしく、折に触れてはこうして棘をのぞかせる。

嫌みにならない程度ではあるが、つまりはそういったやり取りを好む手合いでもあるのだろう。ならばと少し乗って見せれば、実に楽し気にするのだから。


「さて、本来であれば告げるべき用件もあったのですが。」

「その、畏れながらこちらの神像については、私どもに知識がなく。」

「ふむ。」

「先ほどの侍女の方の仕草から、扱いに慎重を期する、それは分かるのですが。」

「予想はある、そのような表情ですね。そも神の姿を象った物は、我々の手で作ることを許されておりません。」


予想は当たっていたようだ。ここまで現世利益が明確な世界。教会以外にないのはそういった理屈であるらしい。


「ああ、やはりそうですか。それで意匠は聖印なのですね。」

「ええ。王家、届け先は間違いないのですな。」

「使命として得ているのは、王家への届け物と。しかしながら。」


そうしてオユキが目線を動かし3つの小箱に向ければ、ゲラルドもただ難しい表情を浮かべるだけだ。


「生憎、司祭以上の者でなければ。」

「であるなら、引き受けた私としても。」

「そうせざるを得ないでしょう。明日には登城です。さて、間に合うか。」


そう呟き、ゲラルドはこの場を辞す。

最後の最後に、少々気になる言葉があったが。つまり急いだ理由についても正しかったという事だ。

予定よりも早いと言われたため、まだ猶予はあるだろうが。

オユキとしては、どうにもあれこれと考えることが多い。


「えっと、流石に俺らは。」

「いえ、皆さんもですよ。」


流石に少年たちには可哀そうだとも思うが、そうは出来ない。

オユキとトモエが無理であれば、メイは彼らに声をかけるのだから。つまり、彼らが今後どのような判断をするのか、それについては強制するつもりはないが。選択肢を広げるための手はオユキとしても打つこととなる。


「え、でも。私達、準備が。」

「今回ばかりは、色々と特例となるでしょうね。かなり配慮した場も用意されるでしょうから。」


ゲラルドが城にと言わなければ、オユキは教会で話すと考えていたのだが。さて、まだ知らないことがあるのか、それとも想像以上に評価が高いのか。後者にしても知らない、それが原因ではあるかと、オユキは自嘲する。


「やっぱり、大事になったね。」

「あー。そっか、そんな気はしてたけど、俺らもか。」

「一緒にいるんだから。」

「まぁ、そうだよな。ここで知らんぷりって言うのも、良くないしな。」

「今回はアイリスさん由来の大事もありますよ。皆さんも楽しみにしていてくださいね。」


トモエがそう彼らに笑顔で告げれば、さて。考え事に集中していたことも有ってオユキにその様子は分からなかった。

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