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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
8章 王都
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第271話 過酷な移動再び

神々からの言葉を得てからの日々は、まさに目が回るそう評してもいいものとなった。

少年たちにしても、上手く吹っ切れたようで王都へ行くことを決め、だからこそと残りの日は祭りの準備、その手伝いと魔石の収集に駆け回っていた。

オユキにしてもメイにアイリスにミズキリにとあちらこちらに連れ回されては、そこかしこで必要な作業をただ行う、そんな状態となった。

こちらに来て、初めてではあるが日中はどうしてもトモエと別に行動することが多く、夜宿で二人その日にあったことを話すといった、過去に良く過ごした日々と同じ。どうしてもそんな状況に思うところは出てしまったのだが、状況を作ったオユキとしては不満を口に出すわけにもいかず、王都では、これが終わればのんびりしましょう、そんな約束をトモエとするだけになった。

与えられた事、予想されるところはひとまずそれで終わり。後は何かの始まりが無ければのんびりできるだろうと、そういった予測は立てられてはいるのだから。


「ついてこなきゃよかった。」

「言わないでよ。」


領都で二日休んだ後は、こうして王都までただひたすらに移動を続けている。

道中は伯爵家、公爵家、両家の騎士に加えて傭兵達の護衛があるため不安は全くないのだが、馬車旅の過酷さが変わる物では無い。


「流石に、息が詰まりますね。揺れは先の物に比べればましではありますが。」


オユキは今回は意識を失わず住んでいるが、それでも一日の大半を馬車の中でただ過ごすのは、疲れがたまる。

その辺りを配慮して、移動の馬車は慣れた顔、トモエとオユキ、少年たちに子供たちと、そんな顔ぶれにはなっているが。


「そりゃそうだけど。でも、今日でようやく終わりか。」

「やっとだよね。正直町に2回しかよらないなんて。」

「ええ。護衛の方には頭が下がる思いです。」


夜警など、馬車に揺られただけで疲れてしまう面々に行えるわけもなく。旅程が終われば用意された天幕に放り込まれその後はぐったりと過ごす事になる。

最初の頃は打ち合わせのためにオユキは駆り出されもしたが、今となっては話すべき相手にその余裕がない。

後は王都に到着してから、そこで最後の確認をすることとなっている。


「にしても、王都か。」

「まさか、こんなに早く来ることになるなんてね。」

「ああ。いつか行こう、そんな話をしていただけだったからな。」


少年達も旅の始まりはいくらかの未練もあったが、祭りの日が過ぎてしまえばすっかり切り替えて王都を楽しみにしている。


「王都に付いたら、えっと、まずは教会に行って。」

「あー。ばーさんから結構頼まれたもんな。っていうか、こんだけあるなら最初っからそう言ってくれりゃよかったのに。」

「私たちが決めるのが大事って言ってたじゃない。」

「あんちゃんが言ったから、まぁ何かあるとは思ってたけど。えっと、教会が3つと、ばーさんの知り合いと。」

「それぞれに持っていくものも、後でちゃんと確認しなきゃね。」

「ああ。」


どうにも少年たちもかなり忙しくなりそうではある。

オユキにしても、王都についてしまえば事前に告げられた品が届けられるだろうし、それを今度は生まれる王太子へと渡さなければならない。


「最初の一週間は忙しそうですね。」

「あー、そういや、王都にどれくらいいるんだっけ。」


オユキの呟きにシグルドから質問が返ってくるが、正直それは決まっていない。


「次のお祭りは、いつでしたか。」

「降臨祭は、えっと今からだと3ヶ月無いくらいかな。」

「ゆっくり戻ろうと思えばひと月かかりますし、一月半、それくらいで戻りましょうか。お手伝いを考えれば、ギリギリになりそうですけど。」

「私、もう急いでの旅は嫌かも。」


そのセシリアの呟きに否定をするものは誰も居ない。


「でも、あんちゃん達が戻るって言ったら、あのねーちゃんもついてくるって言うんじゃね。」

「恐らくは。ただそうなると、急いで移動、そうなりそうなんですよね。」


オユキも彼女を手伝うとは決めているものの、またしても強行軍に巻き込まれるのは勘弁願いたいのだ。

移動だけで疲れ果て、何もできぬというのはやはり虚しさが募る。


「そういえば、異邦では遠くに行くときはどうしてたんですか。」

「向こうでは、それこそ鉄道、こう、決められた道の上を行く馬車のような物であったり、空を飛ぶ乗り物を使ったりですね。」

「空を飛ぶ乗り物なんてあったんですね。」

「はい。今にして思えば、どちらも非常に便利な物でした。」


どちらにしても、こちらには魔物の脅威があり、向こうでは考えられない現象が存在するため実現できるような物では無いのだが。

そうして少年たちに乞われるままに少し向こうの話などをしていれば、馬車の速度が落ちて来る。

ようやく目的地が近づいたのだろう。


「おーやっと到着か。」

「降りて歩いても行ければいいのですが。」

「えー。それでオユキちゃん、前みたいなことになったりしないの。」

「今回は公爵様もいますし、そうはなりませんよ。」


アナが不安げにそんなことを言うが、今回は前と事情が違うのだ。

流石に望んで騒ぎを起こしはしないし、そうなる前に治める手段を持っているものが一緒に行動している。


「そっか。そういえば、えっと、私たち王都で止まるところは。」

「以前の約束がありますから。公爵様が手配してくださるでしょう。」

「わ、そっか。」

「ただ、皆さんも一度は呼ばれるでしょうから、そこで少し行儀作法ですね。」

「げ。」


少年たちは王の御前にまでは出ないだろうが、それでも伯爵や公爵に食事を一緒に、そう言われることは避けられない。そこで必要なことを一通り叩き込まれることになるだろう。


「後は闘技場もあったはずですし。トモエさんもそちら、一度覗いてみましょうか。」

「そういえば、そういう話でしたね。」

「おー、あんちゃん、参加すんの。」

「いえ、技を見世物にする趣味はありませんから。」


どこか期待を持ってシグルドがトモエを見るが、それに対する答えは端的な物だ。


「ただ、どのようなものかは気になりますし、勉強になることも有ると思います。皆さんも一緒に行きましょうか。」

「おー。ちょっと楽しみだな。」


そうしているうちにさらに馬車の速度が落ち、外からアイリスの声がかかる。

どうやら、此処からであれば歩いてついていってもいいという事で、全員で馬車から出て体を伸ばす。

そして馬車の進む先には、靄の中、影としか見えないがそれでも巨大と分る王都がある。壁の高さもさることながら、左右にもかなり長くその影は伸びているのだから。

彼らが足を下ろした場所は草原ではあるが、遠くには森があり、河沿いの町にある大河、その上流が王都であるという事から河川も近いのだろう。

また、領都から迂回した長大な山脈も振り返れば未だにその影を見せている。位置関係であれば、あの河は山脈を貫く形で流れていたことになるのだが。


「さて、少し体を動かせればいいのですが。」

「なんだかんだと、もう2週間は魔物の相手をしていませんからね。」

「グレイウルフくらいなら回すわよ。」

「俺ら戦ったことないけど。」

「グレイハウンドの上位ですね。シエルヴォより少し劣る、その程度でしょうか。」


過去の事を思い出しながらオユキがそう応える。

遠く、靄の中や周囲の景色ばかり見ていたが、周囲では騎士や傭兵が色々な魔物を蹴散らしている。

その中にはオユキは知っているが、トモエにしても見た事のない魔物が多くいる。

そういった手合いは流石に相手をするわけにもいかないが、グレイウルフ程度であれば、今は少年たちにもちょうどいいだろう。


「移動の疲れもありますから、軽く運動、それくらいにしておきましょうか。」

「おー。でも、あれだな。王都で公爵様のお世話になってると、気軽に魔物を仮にっていうのも難しそうだよな。」

「そうでもありませんよ。馬車なども手配していただけますから。」

「あ、そうなんだ。」

「数日は難しいでしょうが、少し落ち着いたら後は領都の時と同じように、午前中に用事を片付けて、昼から狩りと訓練、そうしましょうか。」


そんな予定をトモエが口にすれば、アイリスから胡乱な瞳が向けられる。


「全部同じにするつもりじゃないでしょうね。」


ただ、それにはトモエもオユキも応えない。

少なくともなまった分は取り戻さなければならない。そういった事はその後だ。

そういった意味も含めて、用事は午前中なのだから。

穏やかに笑う二人から、少年と子供たちが一歩後ずさった。

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