第262話 会議
「この場では、忌憚なく言葉を交わしましょう。」
前日のダンジョン、そこにいた変異種は騎士によってきっちりと討伐され、その戦いぶりに少年たちが大いに歓声を上げると、そんな微笑ましい光景があった。
トモエやオユキとは根本的に質の異なる武のあり方に、違う形の強さを少年たちは目の当たりにして、それを実に喜び、騎士達を称え、騎士もまたその力を守るために使うのだと、誇りを持って応えてくれた。
トモエとしてもそんなお伽噺のような光景は胸を打つ物であったようで、実に機嫌よくその光景を見守っていた。
ただ、現実はそればかりではなく、こうして面倒もある。
メイの宣言と共に、ダンジョン、それに関して各ギルドの長、そしてダンジョンに入ったものたちの代表者が一堂に集められ、こうして本日はまず会議となった。
オユキはこれも勉強と、シグルドとアナにも声をかけ参加させている。
「では、まずは私から改めて皆様に報告を。」
そうしてラザロがこれまでまとめた情報を説明し始める。オユキにとっては実に慣れたその空気は懐かしさを覚えるものだが、シグルドとアナにしてみれば緊張で体がこわばるのも仕方がない、そんな場となっている。
彼らにしても、今後この調子で成長していけば、トロフィーであったり、収集物であったり、どうにもならずにこのような場に顔を出すことも有るだろうから、慣れてもらうしかないのだが。
「未だ調査中ではあるのだが、ダンジョン内から持ち帰られた薬草類、これで薬の製造が出来る事は確かです。」
まずミズキリによってもたらされた情報との差異、そこに焦点が当たり薬剤師でもあるマルコがラザロに尋ねられてそう告げる。
昨日の今日、夕方から朝までの短い時間に薬効迄確かめた彼の努力には頭が下がるが、ミズキリは唸り声をあげる。
「しかし、我らではどれが採取可能か気が付けない。セシリアといったか。」
そうして視線を向けられたシグルドが、固まってしまったのでトモエが代わりに口を開く。
「はい。木精の血を引く少女です。」
「種族由来、その可能性もあるのか。ラザロ殿、採取自体は。」
「教えられたのであれば可能でした。しかし、判別がつかぬとなると、全てを試す、そうなりますが。」
「他の種族では。」
「今後花精の方にもご助力願う予定です。」
さてそうなると次はと、シグルドにも話が向かう。
「それとそちらの少年によって、鉱石も得られたとか。」
「ああ。その。なんか気になって。」
「ふむ。原因は分かりそうかね。」
昨日もそれを尋ねられたが、シグルドにしてみれば思い当たる事などないだろう。
そもそも、借りに彼の血が人の者だけでないとして、教会の子供である彼にそれは分かりようもないのだから。
「以前、魔術の敵性を調べた折に、鍛冶と火の神と相性が良いと分かっています。今分かる可能性はその程度かと。」
「成程。セシリアだったか、その少女の適性は。」
「ああ、セリー、じゃなくてセシリアは緑、狩猟と木々の神、だったはずです。その、持祭でもあります。」
片言ではあるが、任せてばかりでも、そう思ったのかシグルドも問いかけに応える。
「ありがとう。そちらに関しては今後も継続して調べる必要がありそうだな。」
場違い、とまではいわないが慣れの見えない子供、それでも報告は求めねばならないとその理解があるのか、簡単にお礼を言ったうえで、ラザロは一先ずそう結論付ける。
「ミズキリ殿は、これに関して。」
「申し訳ありませんが、私の知識はあくまで異邦で得た物です。事前に申し上げていたように概要以上の物では無いでしょう。」
「つまりその時には。」
「はい。魔物の素材を得られる、それ以上の物ではありませんでした。また時間があるときに力技を用いて全てをと、そうしたことも有りますが。」
そうしてミズキリが話しをすれば、誰も彼もが一様に唸り終えを上げる。
ただ、そればかりに時間を使うわけにもいかないと、続いては狩猟者ギルドからブルーノが口を開く。
「一部ではあるが、鑑定を行わせていただいた。得られたものの品質、それ自体は魔物の収集品と同質である。」
「トロフィーとは違うと。」
「それについては断言できる。しかしこれまでの様に加工しやすい形状ではないので、色々難儀ではあるだろう。」
しかし、それについてはアベル、傭兵ギルドの長から言葉が挟まれる。
「魔物の強さが、本来の物より一段落ちると報告されている。品質についても同様ではないのか。」
普段であれば、気安い口調の彼にしても、流石は元騎士団というべきなのだろう。この場では実に様になる振る舞いを見せている。
「すまぬが、比較対象が少ない。このあたりには比較すべき魔物が居らぬ故な。
しかし私の経験、それと鑑定に当たったものの経験から言わせてもらうのであれば、同程度の品質とそう言える。
ここではないが、他で見たことも、使ったことも有る。」
「それでは理屈が通らないようにも思うが。」
「加護の上限、そことのバランスはどうか。」
「そもそも魔物の討伐で加護が得られるのか、そこについても今後の調査が必要になってくる。」
「で、あるなら、今のところは我らの鑑定を信じていただく他ない。」
「そこは信頼している。ただ、な。」
アベルがそこで口ごもれば、メイから促しがある。
「この場では忌憚なく、そう言ったはずです。今この場では、思い付きでもよいのです。
ただ、それぞれが思うところそれをすべてこの場に出し、それを叩き台として、この後につなげる、此処はそのような場です。」
「承りました。そうであれば、私の懸念として。加工した後にどうなるのか、そこがまだ保証されていない。その事については。」
「ああ。成程。そのまま使うのでなく、他の技を用いたときに、と。その事か。
すまぬがそれについては、試さぬうちに何とも言えぬ。加工する手立てもこの町には足りぬのだ。」
「そこですか。」
それに関しては、メイを始め、この場に集まった上位者たちは揃って頭を抱えるしかないようだ。
今後招へいすると、そう言った話は聞いているのだが、今はまだ。
「確かに、集めたとはいえ加工に堪えぬと、そうであるなら徒労とそうなりますか。」
「はい。ですが、やらないとそういう訳にもいかないでしょう。特に今は。」
「ええ、この場にいるものには伝えておきますが、これは公爵様より下された命でもあります。
やらないと、その選択は行えません。加工についてはその結果も併せて報告を求められる物でしょう。
ブルーノ、その方の経験を頼むことになりますが、予測で構いません。」
「私個人としては、問題なく加工ができるものと。ただ、難度がが上がるか、出来上がりが減るか、そう言った事は起きるものかと。」
「そこに神々の厳しさが現れる、そう見ているわけですか。」
それに特別言葉を返すことなく、ただブルーノは頷きを持って返す。
「そうであるなら、買取の額、こちらも考えねばなりませんね。」
「魔物の強さも違う以上、そうなるでしょう。」
「全てを買い取る、そのつもりではいましたので、むしろ予算の目途が付きやすくはなりますか。」
ただ、メイがそう言ったときに、珍しく。
特にこういった場では、話を振られない限り黙っていることの多いシグルドが声を上げる。
「全部、売らなきゃダメなのか。」
「ええ。ダンジョンの作成、それ自体は領主の権限として行っていますから。
言葉は悪いのですが、場を用意したこちらとしては、使用した魔石等の分は回収せねばなりません。」
「そっか。うん、理屈は分かるんだけどな。」
「何か、ありますか。この場では自由に発言して構いませんよ。」
メイが殊更優しい声音で、委縮したようになるシグルドに話しかければ、彼も覚悟を決めたのだろう。
おまった事を口にする。
「その、言葉遣いは苦手だから、まずはその謝罪を。」
「お気になさらず。」
「いや。俺狩猟者だからさ。自分で手に入れた物は、少しくらい木々と狩猟の神様に納めたいなって。
オユキとか、あんちゃんも、定期的にそうしてくれてるし。」
それは実に彼らしい発言ではあるのだろう。それを聞いたアナも頷いているあたり、彼女にしても同意見であるらしい。
「その。シグルド君。」
「あー、やっぱ、難しいか。」
オユキが彼に声をかければ、オユキがなにを言おうとしているのかを想像したシグルドが、そういって少し悲しげな顔をする。
最もオユキ自身がその趣旨で発言をするつもりはないので、早とちりではあるが。
これも保護者としての務めかとオユキが口を開くその前に、メイがシグルドに話しかける。
「私が責任を持って、一部を納める。そのような形で納得は出来そうですか。」
「んー。」
ただその提案に関しては、恐らく納得は出来ないのだろう。彼にしてみればそれは何かが違うのだから。
実際のところは、彼が木々と狩猟の神に感謝を示す、その形が重要なのだから。
「そうですね。シグルド君。個別にと、今そうするのは難しいのです。」
だからオユキは提案をする。ミズキリがオユキの話し方に過去の経験から、苦い顔を浮かべているが。
「ああ。なんだ。前にも言ったけど、俺より出来る人が無理だって言うんだ、なら納得するさ。」
「納得と我慢は違いますよ。今あなたがしようとしていることは我慢です。」
「でもさ。思いつかないんだ。こう、もやっとするけど、それしかないなら。」
「ええ、ですから私が他の道を示しましょう。祭りを行えばいいのです。」
そう。彼がきちんと感謝を示せる、その機会を用意すればいいのだ。それで折り合いはつけられる。
過剰な我慢ではなく、互いの譲歩として。何のことかよくわからない、そんな顔をするシグルドにオユキは語る。
「収穫祭があるのでしょう。」
「ああ。えっと、畑とか家畜とか、そう言った大地の恵みを神様に感謝するんだ。」
「そうであるならダンジョンから得られる恵みを、神様に感謝しましょう。その祭りを行えばいいのです。
そして、その時に私達狩猟者から木々と狩猟の神、このダンジョン、新たに糧を得る場を与えてくださった神々に、感謝を示す。それで納得は出来ますか。」
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