第260話 大収穫とは言えず
「俺も見たかったなー。」
騎士達の手伝い、正直得られたものの重量が冗談じみた物なので、いよいよ手伝いでしかないが、トモエとオユキも武器を納めて荷運びに従事している。
道中の護衛は行われているが、ミズキリの言うように、オユキも過去経験したように、一度魔物を狩ってしまえば再度出現することもないようで、実に安全な道だ。
「また機会はあると、そう思いたいのですが。」
「あまり危険と分っている場所に、連れて行きたくはないのですが。」
「まぁ、そっか。そりゃ危険から守るのに、危険な場所に連れて行くのはおかしいよな。」
トモエが残念そうにするシグルドに変わって、騎士に水を向ければ正論としか言いようのないものが返ってくる。
「ただ、そうですね。我らはこちらでも訓練を行いますので、その見学であれば喜んで。」
「え、いいの。」
「ええ。領都でも公開訓練は行っていましたから。」
「そうなんですか。」
どうやら領都にいたはずの子供たちも知らなかったようで、驚きながらも喜んでいる。
「あんちゃんは、俺らが見てもいいのか。」
「勿論ですよ。他の流派を見るのも良い勉強になりますからね。」
トモエが許可を出せば、少年たちが実に嬉しそうに声を上げる。
重たい荷物、それぞれが持てるだけ持って何度も往復しただろうに、実に元気な事だ。
そんな様子を見ながら、オユキは少々ラザロと話を詰める。
「目途は立つでしょうが、あまりに不足、そうなるのでしょう。」
「うむ。」
町を囲う城壁、その規模を考えれば、今回得られたものなど微々たるものでしかない。そのたびにメイの手を煩わせるとなれば、彼女は日に何度もその作業に手を取られる、その程度では済まない事になるだろう。
「強化を行って、魔物が増えるだけ、そうであれば良いのだがな。」
「そのあたりは今後も試すしかないかと。」
そう、問題は敵まで強化されてしまい石材が得られない、鉄が得られない、それでは困るのだ。
現状であれば、今のまま魔物の数が増えてくれるのが一番有難いだろう。
「一先ず運び出すとして、資材の集積場の準備はございますか。」
「そちらは計画中だがな。一先ず今回の物に関しては西に運ぶことになるが。」
言われてそう言えばこの町の畑や牧場は壁の外とそんな話があったのをオユキは思い出す。
「ただ、この量ではあと何度繰り返せばよいかも見当がつかぬ。」
「そのあたりは、内政を行われる方に任せるしかないと考えますが。」
「そちらも人出が十分にあるわけではないからな。」
「代官様がいると、そう伺っていますが。」
「うむ。しかし事は報告せねばならない事ばかり、そちらだけでもかなりの手がいる。加えて今後の魔石についての協議もある故な。」
どうやらオユキが想像していたよりも、忙しいことになっていそうだ。
メイについては、事実確認程度で王都に呼ばれると思っていたが、どうやら彼女が報告迄任される、そんな事になっているようだ。
その原因に思い至り、オユキは相変わらず以前の常識を基に考えていたなと、反省する。
「魔石の収集、こちらについては私も尽力させていただきます。」
「ああ。頼む。それにしても随分とこういった事にもなれているらしい。私が文官よりと、それにも気が付いているのだろう。」
そう、ラザロに言われればオユキも頷くしかない。
「力量を見る目は、養ってきたと自負しております。」
「それを存分に後進にも伝えてほしい。あの少年たちも、年の割によく鍛えられておるしな。」
その言葉に、オユキとしては少々疑問を覚える。
確か騎士を養成する、そんな課程があると聞いていたのに。
「考えていることはわかるが、在学中は魔物との戦いは最小限だ。」
「成程。事故防止を考えての事ですね。」
「うむ。それもあるが、教養も学ばせねばならぬ。」
「加えて魔術も、ですか。」
なかなか、こちらの学生たちは忙しそうだ。少年たちが学校に通うのは難しいと、真面目に学ぶのであれば、それなりにお金がかかると言っていたのもようやく腑に落ちる。
そこに通うまでに下地が無ければ、それこそ必死に食らいつくために、金銭を労働で賄う余裕などはないだろう。
「その方も、どうかね。」
「見た目で言えばそうなのでしょうが、何分異邦の身です。」
「通っているものもおるぞ。」
その言葉にオユキとしては驚いた。こちらに来るほどに熱を上げた者たちであれば、相応に歳をとっているだろう。
子供が遊んでいないと、そんな事はなかったが、それにしてもサービス終了からこちらに来る迄、その間にはそれなりの年月があるだろうに。
いや、不慮の事故や病などがあれば分からないが。
ただ、なんにせよ学院に通えばそちらであまりに時間が取られるであろうと、オユキは改めて断りを入れる。
「王都に行くまで、かなりの回数を試すことになるかと考えておりますが。」
「うむ。王に御報告するのだ。相応の物を用意せねばならぬ。」
「私どもは、一月と少しで立つと、そのような予定でしたが。」
「そこに変更はない。あまりお待たせするわけにもいかぬ故な。」
さて、そうなると今頃ミズキリはメイと一緒に試行回数について頭を悩ませている事だろう。
魔石の量、統計として傾向を語るのに十分な試行回数。
そこに折り合いは間違いなくつかないのだが、最低限それを求めるとなれば彼の経験が生きるだろう。
そうなるとミズキリも王都に来るかどうか、そこも争点になりそうではあるが、彼の口ぶりではこれまで何度か行った事も有るようではあったが。
そんな事をつらつらと考えながら、オユキは一先ず紙とペンの手配はいるなと今日の帰りに求めることとする。
「なんにせよ、我々狩猟者は魔石、それに尽きますね。」
「予算にも限りがあるのだがな。」
「他の方は分かりません、しかし私からはある程度でしたら寄贈と、そうさせて頂きます。」
「有難くはあるが、そのあたりはギルドとの調整もある、まずはそちらでよく話し合うといい。」
「ご高配有難く。」
そうしてどうにか荷物を持って出入り口を抜ければ、ようやく一息つける。
いくら明るいとは言っても、オユキとしてはやはりこの草原の様な景色の方が好ましい。必要であるなら否やはないが、そうでないならこうして開放感のある場所で活動をしたいものだ。
そうして周りを見れば、すでに手配出されているのか、荷馬車に少年たちも手伝いながら次々と収穫物が積み込まれており、それも既に何度か繰り返したことなのだろう、明らかにこれまで得た物よりも少ない量だけが残っている。
「さて、今後収集物の取り扱いも決めねばならんな。」
「領主が魔石を使いとなると、さて、こちらについては全く別の取り決め、その理屈も納得がいくものかと。」
「自発的に入る、その流れが止まらぬ場所を見極めねばならん。装備の損耗は避けられぬからな。」
恐らく今後は全体として新たな職業が増えるのだろう。それが増加する人口の受け皿になるのだろうが、残念ながらそれはまだ先の話なのだ。
今は、今でさえ足りていないだろう人で、どうにか回していかなければいけないのだ。
「今後も、その方らにはこうした雑事を頼むことだろう。」
「良き守護者からの要請とあれば、是非もなく。あの子たちにも訓練を見せて頂けるとそのような約束もいただきました。」
「うむ。ああもまっすぐな憧れの視線というのは、我らの活力にもつながる故な。」
既に外の日は傾き始めている。特に領都からついてきた子供たちははしゃぎすぎたためだろう、少々眠気を覚えた様子を見せているものもいる。
「食事の前に寝てしまいそうですね。」
「それはいかんな。」
ラザロもオユキの言葉でそれに気が付いたのだろう。
彼はトモエたちを集めて改めて今日の礼を告げると、解散を告げる。
その時には、今後も宜しくとそう言いながらも、きちんと食事をとる様に、そう言い含めることは忘れなかった。
彼もまた後進の育成、そのために色々と気を配る質なのだろう。
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