第258話 再突入、初ダンジョン
「おー。スゲーな。」
騎士達に囲まれながらもオユキ達がダンジョンに、その入り口はこれまで見たこともない門が草原に鎮座している、そんな異様なものであり回り込んでも何もなく、ただ片側からしか開けることができない門、そのような物が唐突に現れていた。
そして中に足を踏み入れれば、外から白くぼやけたもしくは僅かの先も見えない霧、そうとしか表現のできない物を超えると、その中はミズキリに言われたように石造りの通路と呼ぶには広すぎる、そんな場所になっていた。
「協力、有難く。さて、早速で悪いが加護の確認と報告をしてほしい。」
言われて、トモエとオユキそれから少年たちが軽く体を動かして確かめる。だが、結果はすぐに出る。
「違和はありませんね。」
「俺たちも特にないな。」
まだこちらに来て2ケ月と半分、確かに散々魔物を討伐しまわっているが、それでもここで上限に引っかかる物では無いらしい。
「成程。狩猟者としての活動は。」
「詳細をお求めでしたら、狩猟者ギルドに問い合わせていただくしか。
覚えている範囲でも宜しければと、そういう事でしたら。」
「ふむ。その方が手間はないか。後々確かめることも考えれば、一度そちらを通すほうが間違いもないだろう。」
「お手間をかけ、申し訳ありません。」
「なに、心強い言葉だ。つまるところ、覚えられぬほどに魔物を狩った、そうなのであろう。」
そうして褒められると、少年たちもそうだが、子供たちが殊更嬉しそうにしている。
一方でトモエは何度か足元を確かめるようにしながら、頷いている。
石造りとはいえ、以前の様に平らに加工された物では無く、相応に凹凸もあるし隙間もある。子供たちにとっては、良い訓練となるだろう、そんな事を考えていると、オユキは横目に見て判断しながら、聞かれたことに答えていく。
「これまで討伐した中で、最も強力な物は。」
「鉄人形やプラドティグレとなります。」
「ああ、あの毛皮や、鉄はその方らか。ふむ、しかしまだ余裕はある、そう言った口ぶりでもあるな。」
「否定はしませんが、こちらでは武器の入手も難しく。」
「そうか。それも此度の目的であったな。貸与したとして、扱えそうか。」
「流石に、馴染ませるのには時間が要りますが。」
そうして、オユキはトモエに呼ばれて足元を確かめながら武器を振っている子供たちに視線を向ける。
それを追って確認したラザロも、一つ頷いて話を終える。
「では、早速向かうか。」
「我々は。」
「まずは内部の確認、そこで安全だとそう分かったなら頼むことも有るだろう。
後はミズキリも言っていたが、罠か、その気配を感じたなら伝えてほしい。」
「そこまで得意とそういう訳でもありませんが。目が多いことに意味がある、そうであるなら力を尽くさせていただきます。」
それに対して、意を得たとラザロが頷き、まずは騎士が5人を一組として整然と進んでいく。それなりに間隔を取って並んでいるというのに、それでも余裕のある通路は、本当にあの門からは想像ができないとそう改めて思わされる。
「こう、なんか、河の側とも違う動きにくさがあるな。」
「うん。でも、こっちの方がやりやすいかな。鉱山は土だったし、なんか踏み固められてたからここよりも動きやすかったね。」
「あー。そうだな。おっと。」
そういってシグルドが少しくぼんだ所に足を取られてバランスを崩す。
「にしても、やっぱスゲーな。」
自分の反省もあるだろうが、それよりもそんな状況をものともせず、重たい装備に身を包んだ騎士に憧れが募るようだ。
「ええ。このような場所でも普段と変わらぬ、それができるだけの訓練がまさに見て取れます。」
「あんちゃんから見てもか。」
「あなた達より、より理解していると思いますよ。」
「あー、ってことは、俺が思うよりも強いんだ。でも、アーサーのおっさんとか、アベルのおっさんほどじゃないだろ。」
「あの二人は、抜けていますからね。比べられるのはアマリーアさんくらいでしょうか。」
「え、あのおばさん、そこまでかよ。」
「身体能力もそうですが、あの方は加えて種族由来の魔術も使いますよ。」
トモエがそう言い置けば、批評される側の騎士達も、アマリーアはよく知っているのだろう、肩を震わせているものもいる。そして直近で顔を合わせたアーサーを思い出したのか、士気が上がっているものも。
「そっか。まだまだだなぁ。」
「訓練を始めてまだ二ヵ月、その程度ですよ。」
「そっか、そうだよな。」
そうして話している間に、戦闘の騎士の雰囲気が変わる。どうやら初めての相手が現れたらしい。
「思いのほか、魔物が少ないのでしょうか。」
「入ったばかりですから、奥がどれほどかもわかりませんし。」
現れた影は、廃鉱山でもよく見た石人形であったが、それらが十分に近づけば騎士たちに盾で殴り飛ばされ、砕け散り、動きを止める。
そして一部が確かにその姿を外であったのと同じように薄れて消えさせるが、大部分はそのまま残ることとなった。
「成程。確かに。」
少年たちがその騎士の派手な戦闘に喝采を上げる反面、他の騎士達はすぐに次の五人組が先頭を変わり、他にも数人がすぐに残ったものを集めて、後方に運びそれの見分を始める。
「おー、このあたりは騎士様も変わらないんだな。」
「今回の様に資材を集めることを目的としない場では、分かりませんが。」
そういってシグルドたちが見る先では、叩きつけた盾を細かく確認し、またそれを持っていた手も握ったり開いたりと、余念のない騎士たちを見ながら、そう感心する。
「戦闘に身を置くものであれば、当然の心得だ。」
そうして、一人の騎士、後方からついてきた以上護衛役なのだろうが、そんな相手から声をかけられる。
イマノルにしても、それをやらない少年たちを叱責するトモエを懐かしいと、そう言っていたのだから、彼らも散々に叩き込まれているのだろう。
「そっか。でも、あれ、なんで手をああやってるんだ。」
「そうか、盾は使わんか。シールドバッシュ、そう言った技ではあるが、武器で叩くのと違って衝撃が強く返ってくるからな。痺れがないか、確認するのだ。」
「へー。騎士様でもそんなになるんだ。」
「普段であれば、この程度そう流すことも有るが、普段通りではないからな。」
「そっか。騎士様も慎重なんだな。」
「ああ。少年、臆病は良くない。だが慎重さを忘れてはならないのだ。」
騎士の言葉に、シグルドだけでなく、子供たちもそろって騎士の前に並んで首をかしげる。
その姿が非常に微笑ましく、トモエとオユキは思わず戦場であることを忘れそうになる。
それは騎士も同じであるらしく、手の空いているものは、その様子を微笑ましく見守っている。
「よいか。我らが戦える、それだけで安心できる民がいるのだ。我らが戦える、それだけで退けられる危険があるのだ。ならば可能な限り我らは怪我をすることが許されない。」
「えっと、でも、騎士様は守ってくださるのでしょう。」
「そのためであれば怪我を厭わぬ。そこで逃げるのが臆病さなのだ。」
「でも、怪我は避けるって。」
「可能な限り、だ。今ここで我らが守るべき民は、まぁその方らがいるが、襲って来る敵もおらぬだろう。
ならば今ここで怪我の可能性を放置するのは、勇敢ではなく、蛮勇なのだよ。」
さて、少年たちは今の言葉を上手く飲み込めればいいが、そう思いながらもオユキは手を叩いて彼らの注意を引く。
「守ってもらうだけ、あなた方はそうですか。」
そう言えば、此処に来た目的を思い出したのだろう、少年たちが早速とばかりに集められている石人形の残骸にとりつく。既に見分を終えたそれを、これから運び出そうとしていたのだろう騎士たちに揃って元気に手伝いを申し出ている。
「元気でよろしい。」
そんな姿を見守りながら、オユキがそう呟けば少年たちに薫陶を与えていた騎士から笑いが漏れる。
「お言葉を頂きありがとうございました。」
「なに、民の憧れを守るのも我らの大切な仕事なのでな。」
「では、その誇りに感謝を。」
「良き民を良く導く、その心根に、こちらからも敬意を。」
そう答えた騎士が、数人がかりで運び出そうとする少年たちの護衛に戻り、そちらについて出入り口へと向かっていく。
さて戻るのを待つのかどうかと思えば、流石にそれはしないようで、既に先頭が進み始めている。
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